この記事で分かること
・エネルギー基本計画とは何か:日本のエネルギー政策の基本方針を定めた国の計画
・どんな内容なのか:再生可能エネルギーと原子力を「脱炭素電源」と位置づけ、最大限活用する方針が示されています。
第7次エネルギー基本計画を閣議決定
政府は2025年2月18日、第7次エネルギー基本計画を閣議決定しました。この計画では、2040年度までに再生可能エネルギーと原子力を「脱炭素電源」と位置づけ、最大限活用する方針が示されています。
具体的な電源構成目標として、再生可能エネルギーを全体の40~50%、原子力を20%程度、火力発電を30~40%程度と設定しています。
エネルギー基本計画とは何か
エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の基本方針を定めた国の計画です。エネルギー政策基本法(2002年制定)に基づき、経済産業省が策定し、政府(閣議)で決定されます。おおむね3~4年ごとに見直されます。
エネルギー基本計画の目的
- エネルギーの安定供給(エネルギー安全保障)
- 日本はエネルギー資源の多くを海外に依存しているため、安定的に確保することが重要。
- 経済効率性の向上(安価なエネルギーの供給)
- 産業競争力を維持しつつ、家計や企業の負担を抑える。
- 環境への配慮(脱炭素・気候変動対策)
- 温室効果ガスの排出を抑え、持続可能な社会を実現。
- 安全性の確保
- 福島第一原発事故の教訓を踏まえ、原発の安全性を最優先する。
エネルギー基本計画の主な内容
・将来の電源構成の目標(エネルギーミックス):何%を再生可能エネルギー、原子力、火力発電でまかなうかを決定。
省エネルギー施策や技術開発の方針:省エネ技術や新エネルギーの導入促進。
エネルギーインフラ整備(送電網、蓄電池、水素・アンモニアなど):次世代のエネルギー供給システムの構築。

エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の基本方針を定めた国の計画であり、日本の経済や産業の発展に大きく関わる重要な政策です。
原子力発電の目途は立っているのか
日本政府は、2040年までに原子力発電の電源構成比率を20%程度に維持する方針を示しています。
しかし、具体的な新規原子力発電所の建設計画や既存炉の再稼働スケジュールについては、明確な目処が立っていない状況です。
既存の建設中プロジェクトの状況
現在、日本では以下の3基の原子力発電所が建設中ですが、いずれも運転開始の目処は立っていません。
- 大間原子力発電所(青森県):2008年5月に着工されたものの、運転開始時期は未定です。
- 東通原子力発電所1号機(青森県):2011年1月に着工されましたが、運転開始時期は未定です。
- 島根原子力発電所3号機(島根県):2005年12月に着工され、2018年8月に新規制基準への審査申請が行われましたが、運転開始時期は未定です。
次世代革新炉の開発計画
政府は、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設を進める方針を掲げています。これは、廃炉が決定した原発の敷地内での建て替えを対象としていますが、具体的なスケジュールや建設計画の詳細は未定です。
再稼働の進捗状況
福島第一原発事故以降、原子力規制委員会による新規制基準に適合した原発の再稼働が進められていますが、地元自治体の同意や安全審査の厳格化により、再稼働の進捗は限定的です。これにより、原子力発電の増加には時間がかかると予想されます。

2040年までに原子力発電の比率を20%程度に維持する目標を掲げていますが、新規建設や再稼働の具体的な計画が進んでいないことが現状です。
この計画で2050のカーボンニュートラルは達成できるのか
第7次エネルギー基本計画(2025年版)では、再生可能エネルギーと原子力を最大限活用し、2040年までのエネルギーミックスを示しました。しかし、これだけで2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出ゼロ)を達成できるとは言い切れません。
達成の可能性を左右する要素
- 再生可能エネルギーの拡大と課題
- 2040年時点で40~50%の電源比率を目指すが、2050年に100%にするにはさらなる拡大が必要。
- 太陽光や風力の不安定性(天候に左右される)に対する蓄電技術の向上が不可欠。
- 送電網の強化(分散型電源との調整)も大きな課題。
- 原子力の再評価
- 現在の計画では、原子力を20%程度維持する方針。
- しかし、既存の原発の老朽化や新設・リプレース(建て替え)の社会的合意が必要。
- 安全性を確保しながら原発を活用できるかがカギ。
- 火力発電とCCUS(炭素回収・貯留技術)の実用化
- 火力発電を完全にゼロにするのは難しいため、CCUS(Carbon Capture, Utilization, and Storage)技術が必要。
- 現時点ではコストが高く、大規模な導入にはさらなる技術開発が必要。
- 水素・アンモニアなどの新エネルギーの拡大
- 火力発電の代替として、水素・アンモニア燃料の導入が進められている。
- ただし、製造コストの削減や輸送インフラの整備が課題。
- 産業・輸送・住宅部門の脱炭素化
- 電力以外にも、製造業のプロセス、EV(電気自動車)普及、建築物のエネルギー効率向上が求められる。
- 企業や家庭の意識改革と、政府のさらなる規制・補助が重要。

現時点の計画では2040年の脱炭素電源拡大までの道筋はあるが、2050年に完全なカーボンニュートラルを達成するにはさらなる技術革新が不可欠。特に、CCUS・水素エネルギー・蓄電池技術の実用化とコスト削減が達成のカギとされています。
CCUSとは何か
CCUSは、炭素回収・利用・貯留技術のことで、CO₂を大気中に放出せずに回収し、有効活用したり地下に貯留する技術の総称です。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出ゼロ)を目指す上で、重要な技術の1つとされています。
CCUSの主なプロセス
CCUSは、3つのステップに分けられます。
1. CO₂の回収(Carbon Capture)
- 工場や発電所から排出されるCO₂を回収する。
- 代表的な方法:
- 燃焼後回収:排ガスからCO₂を分離する(火力発電・工場向け)。
- 燃焼前回収:燃料をガス化し、CO₂を取り除く。
- 酸素燃焼:酸素のみで燃焼させ、高濃度のCO₂を回収。
2. CO₂の利用(Utilization)
- 回収したCO₂を産業用途で活用。
- 例:
- 炭酸飲料やドライアイスの製造。
- 化学品(プラスチックや燃料)の原料にする。
- コンクリート製造(CO₂を固定化)。
- 藻類の育成(バイオ燃料の原料)。
3. CO₂の貯留(Storage)
CO₂を地中深くに圧入して貯留し、大気への排出を防ぐ。
代表的な貯留先:枯渇した油田・ガス田。深い地層

CCUSは、炭素回収・利用・貯留技術のことで、CO₂を大気中に放出せずに回収し、有効活用したり地下に貯留する技術の総称です。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出ゼロ)を目指す上で、重要な技術の1つとされていますが、コスト削減と大規模実装が課題となっています。
水素エネルギーとは何か、その状況は?
水素エネルギーは、水素(H₂)を燃料として利用するエネルギー源です。燃焼しても水しか排出しないため、環境に優しい次世代エネルギーとして注目されています。
燃焼時にCO₂を排出せず、多用途での利用が可能、大量貯蔵や長距離輸送ができるといった利点の一方で、コスト高とインフラ整備が課題になっています。
水素の製造方法と種類
水素は製造方法によって「色」で分類」されることが多い。
種類 | 製造方法 | 特徴 |
---|---|---|
グレー水素 | 化石燃料(天然ガス・石炭)から製造 | CO₂を排出する |
ブルー水素 | グレー水素+CCUSでCO₂を回収 | カーボンニュートラル |
グリーン水素 | 再生可能エネルギー(太陽光・風力)で水を電気分解 | 完全にクリーン |
現在、主流はグレー水素だが、CO₂排出を抑えたブルー水素・グリーン水素の開発が進んでいます。

水素エネルギーはそのクリーンさと汎用性から、技術革新によりコスト削減が進めば、再エネと並ぶ主力エネルギーになる可能性があります。
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