この記事で分かること
- 微粒子計測器とは:流体中の微細な塵の数と大きさを測定する装置です。半導体の微細化が進む中、洗浄液や空気の清浄度管理は歩留まりに直結するため、極微小な不純物を監視する製造プロセスの生命線となっています。
- なぜ光の散乱で粒子径を測れるのか:粒子に光を当てると四方に散乱し、その強さは粒子のサイズに相関して変化します。大きな粒子ほど強い光を散乱させるため、センサーで受けた光のエネルギー量を解析し、粒子径をナノ単位で特定することが可能です。
リオンの微粒子計測器
補聴器最大手のリオンは現在、補聴器よりも、半導体製造に不可欠な「微粒子計測器」が利益の柱となっています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF096IJ0Z00C26A2000000/
回路の微細化に伴い、薬液中の不純物を監視する同社製品の重要性が増しており、製造装置市場の成長が業績を牽引しています。
微粒子計測器とは何か
微粒子計測器(パーティクルカウンタ)とは、空気中や液体中に含まれる目に見えないほど微細な塵(粒子)の数と大きさをリアルタイムで測定する装置です。
特に半導体製造においては、歩留まり(良品率)を左右する極めて重要な役割を担っています。
主な仕組みと種類
計測器の多くは「光散乱法」という技術を利用しています。粒子にレーザー光を照射し、その際に発生する散乱光の強さをセンサーで捉えることで、粒子の大きさを特定します。
- 液中微粒子計測器: 半導体の洗浄に使用する超純水や化学薬品(レジスト液など)の中に、どれだけ微細なゴミが混じっているかを監視します。
- 気中微粒子計測器: クリーンルーム内の空気の清浄度を測定します。
なぜ重要なのか
- 究極の清浄度管理: 現代の先端半導体(2nm世代など)では、ナノメートル単位の小さな塵ひとつで回路がショートし、製品が不良品になってしまいます。
- プロセスの最適化: 製造工程で異常が発生した際、即座に粒子の増加を検知してラインを止めることで、被害を最小限に抑えます。
- 薬液の品質保証: 薬品メーカーが「この液体には粒子が含まれていない」ことを証明するためにも、リオンのような高精度な計測器が不可欠です。

光散乱などを利用し、気体・液体中の微細な塵の数とサイズを測る装置です。半導体製造ではナノ単位の混入が致命的な欠陥を招くため、超純水や薬液の清浄度を監視し、歩留まりを維持する不可欠な「守護神」と言えます。
なぜ光の散乱で粒子径を測れるのか
光の散乱で粒子径(サイズ)がわかるのは、「粒子が大きければ大きいほど、散乱する光も強くなる」という物理現象を利用しているからです。
原理のポイント
- 光の散乱: レーザー光を粒子に当てると、光は四方八方に散乱します。
- 散乱強度とサイズの相関: 粒子の大きさが変わると、散乱光の強さ(エネルギー量)や広がり方が変化します。
- 大きな粒子: 強い光を散乱させる。
- 小さな粒子: 弱い光しか散乱させない。
- 受光素子での検知: 散乱した光をセンサー(受光素子)で捉え、その電気信号の強さを測定します。
理論的な使い分け
粒子の大きさと光の波長のバランスによって、主に2つの理論が使い分けられています。
- ミー散乱 (Mie scattering): 粒子のサイズが光の波長と同等かそれ以上に大きい場合。前方への散乱が強くなる特性があります。
- レイリー散乱 (Rayleigh scattering): 粒子のサイズが波長よりもはるかに小さい場合。散乱強度は「粒子径の6乗」に比例するため、サイズが少し小さくなるだけで光が急激に弱くなります。
リオンなどの微粒子計測器は、この微弱な光の変化を精密なレンズとノイズの少ないセンサーで捉えることで、ナノ単位のサイズを特定しています。

粒子に光が当たると周囲に散乱し、その強さは粒子径が大きくなるほど強まります。この「散乱光の強さとサイズの相関関係」を利用し、センサーで受けた光のエネルギーを解析することで、目に見えない粒子径を算出します。
センサーはどのような仕組みなのか
微粒子計測器の心臓部であるセンサー(光学系)は、光を電気信号に変換して粒子の情報を読み取ります。
構成要素と仕組み
- 光源(レーザーダイオード): 非常に細く絞った高出力のレーザー光を照射します。
- フローセル: 測定したいサンプル(空気や薬液)が通過する細い管です。ここでレーザー光と粒子が交差します。
- 集光レンズ: 粒子が跳ね返した微弱な散乱光を取りこぼさないよう、広い角度から光を集めます。
- 受光素子(フォトダイオード): 集めた光を電気の強さに変換します。
- 信号処理回路: 電気信号の「高さ」で粒子の大きさを、「回数」で粒子の数をカウントします。
高感度化の鍵
ナノメートル(nm)単位の極微小な粒子を測る場合、散乱光は極めて弱くなります。リオンなどのメーカーは、迷光(ノイズとなる余計な光)を極限まで排除する鏡面設計や、微弱信号を増幅する独自の低ノイズ回路技術によって、高い検出精度を実現しています。

レーザー光を流体中の粒子に照射し、発生した微弱な散乱光をレンズで集め、フォトダイオードで電気信号に変換します。この信号の強さを解析することで、粒子の大きさや個数をリアルタイムに数値化する仕組みです。
なぜ補聴器メーカーが微粒子計測器を製造しているのか
補聴器メーカーとして知られるリオンが、全く異分野に見える「微粒子計測器」で世界トップシェアを誇っているのには、同社の成り立ちと、物理学的な共通点という明確な理由があります。
1. 物理学の民間研究所がルーツ
リオンは1944年、音響学や物理学の民間研究所である「小林理学研究所」の研究成果を製品化するために設立されました。
当初から単なるメーカーではなく、「物理現象を精密に測定・応用する技術集団」というアイデンティティを持っていました。
2. 「音」から「光」へ:波を操る共通技術
一見別物に見える補聴器と微粒子計測器ですが、リオンはこれらを「波(波動)」を扱う技術という共通項で捉えています。
- 補聴器・騒音計: 「音波」を捉えて電気信号に変え、精密に増幅・分析する技術。
- 微粒子計測器: 「光波(レーザー)」が粒子に当たって散乱する様子を捉え、電気信号に変えて分析する技術。
空気や液体の微かな変化をセンサーで捉え、ノイズを排除して微弱な信号を解析する「信号処理技術」の基盤が、両方の製品に共通して活かされています。
3. 社会課題への対応と半導体産業への進出
リオンの多角化は、常に時代の要請に応える形で進んできました。
- 1940年代〜: 戦後の難聴者支援のため、日本初の量産型補聴器を開発。
- 1970年代: 大気汚染や病院内の清浄度管理が課題となる中、アメリカ製装置の輸入を経て、1977年に日本初の気中微粒子計を自社開発。
- 1980年代以降: 半導体産業の急成長に伴い、洗浄液や薬品の管理に不可欠な「液中微粒子計」をいち早く製品化し、現在の地位を築きました。

物理学の研究所を母体とするリオンは、補聴器で培った「音(波)」を精密に捉える信号処理技術を、同じ「波」の性質を持つ「光(レーザー)」の応用へと広げました。その高度なセンサー技術が、現在の半導体計測の基盤となっています。

コメント