銀価格の上昇 価格上昇の理由は何か?太陽光パネルや電子部品での銀の用途は何か?

この記事で分かること

  • 価格高騰の理由:産業需要の急増と、地政学リスク・インフレによる安全資産としての投資需要の高まり、そして供給不足が重なり、価格を押し上げています。
  • 太陽光パネルでの用途:銀ペーストとして、フィンガー電極を作るために使用されます。これは、太陽光で発電した電気を効率よく集め、外部に取り出すための最も重要な電気の通り道となります。
  • 電子部品での用途:銀は最高の導電性と低い接触抵抗を活かし、コネクタやスイッチなどの電気接点にメッキとして使われます。また、銀ペーストとして配線や部品の接着(ダイボンディング)にも使用されます。

銀価格の上昇

 地政学的な不安定さや経済の不透明さや旺盛な産業需要などから貴金属の価格は上昇傾向にあります。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB15AIZ0V11C25A0000000/

 銀価格も、2025年10月上旬に一時51ドル台まで急騰し、これは1980年以来の高値(または当時の史上最高値に並ぶ水準)となりました。

銀高騰の理由は何か

 銀価格が高騰している主な理由は、複数の要因が絡み合っているためです。特に近年では、以下の3つの要素が重要視されています。

1. 旺盛な産業(工業)需要の拡大

 銀は、その優れた電気伝導性や熱伝導性から、工業製品に不可欠な素材です。

  • 再生可能エネルギー分野(特に太陽光発電):ソーラーパネルの製造に大量の銀ペーストが使用されます。世界的な脱炭素化の流れと、太陽光発電の普及拡大が、銀の産業需要を強く押し上げています。
  • 電子機器・ハイテク分野:スマートフォン、EV(電気自動車)、半導体、データセンターなどの電子部品にも銀が使われており、技術の進化と普及に伴って需要が増加しています。

2. 安全資産としての投資需要の高まり

 銀は、金と同じく「実物資産」として、経済や情勢の不安が高まると買われる傾向があります。

  • インフレ懸念:世界的なインフレが続く中で、法定通貨(紙幣など)の価値が目減りすることへの懸念から、インフレに強いとされる金や銀への資金流入が起きています。
  • 地政学的な不安:世界情勢の不安定化(紛争、国際的な対立など)を背景に、「有事の資産」として金とともに銀が買われています。
  • 金価格との連動:金が史上最高値を更新する中で、銀は金よりも安価な代替投資先として注目され、「連れ高」する傾向があります。

3. 供給不足(需給の逼迫)

 需要が増加している一方で、供給が追い付いていない状況が続いています。

  • 鉱山生産の限界:銀は、銅や鉛、亜鉛などの採掘の「副産物」として得られることが多いため、銀の需要が増えてもすぐに生産を増やすことが難しいという構造的な問題があります。
  • 在庫の減少:旺盛な需要に対し供給が追いつかず、市場の在庫(備蓄)が減少傾向にあると指摘されています。

 「産業用金属」としての側面と、「安全資産」としての側面、そして「構造的な供給の制約」が重なることで、銀価格は歴史的な高騰を見せています。

太陽光発電などの産業需要の急増と、地政学リスク・インフレによる安全資産としての投資需要の高まり、そして供給不足が重なり、価格を押し上げています。

ソーラーパネルの製造で銀ペーストは何に使われるのか

 ソーラーパネル(太陽電池セル)の製造において、銀ペーストは主に電極(電気の通り道)を作るために使われます。銀ペーストの役割は、太陽電池で発電された電気を効率よく集め、外部に取り出すことです。

1. 集電(電気を集める)

  • フィンガー電極(表面電極)の形成:太陽電池セルの受光面(表面)には、光を遮らないように非常に細い線状の電極が縞模様に構成されています。これが「フィンガー電極」です。銀ペーストをスクリーン印刷などでシリコン基板に塗布・焼成することで、このフィンガー電極が形成されます。
  • 高効率な電気伝導:銀は金属の中で最も高い電気伝導性を持っています。銀ペーストを使うことで、発電した電子をシリコン層から効率的かつ抵抗を少なく集めることができます。

2. 裏面電極(裏面バスバー)

  • セルの裏面にも、集めた電気をモジュール全体に送るための電極(バスバーなど)として銀ペーストが使われることがあります(最近は技術進歩により、一部をより安価なアルミニウムなどで代替する動きも進んでいます)。

背景

 銀ペーストは、シリコンウェーハに次いで太陽電池セルのコストの約10%を占める重要な材料であり、その使用量はセルの光電変換効率に直結します。そのため、銀のコスト高騰を受け、メーカーは電極の線を細くしたり(細線化)、使用量を減らすための技術開発を積極的に進めています。

ソーラーパネル(太陽電池セル)において、銀ペーストはフィンガー電極を作るために使用されます。これは、太陽光で発電した電気を効率よく集め、外部に取り出すための最も重要な電気の通り道となります。

銀ペーストはどのように製造されるのか

 銀ペーストの製造は、主に3つの主要な構成要素を均一に混合し、特定の用途(ソーラーパネル、電子部品など)に適した粘度と特性に調整するプロセスで行われます。

銀ペーストの製造プロセス

銀ペーストは、主に以下のステップで製造されます。

  1. 原料の準備(銀粉末の製造)
    • 主成分となる銀粉末(フィラー)を準備します。この銀粉末は、高い導電性を確保するために、非常に微細な球状やフレーク状(薄片状)に作られます。
    • 製造方法には、硝酸銀などの銀塩水溶液から還元剤を用いて銀粒子を析出させる化学的な方法などが用いられます。
  2. 原料の配合(混合)
    • 以下の主要な構成要素を配合します。
      • 銀粉末(フィラー): 導電性の役割を担う主成分。
      • バインダー(結着剤/樹脂): 部材を接着・固定し、ペースト状にする役割を担います。用途に応じてエポキシ樹脂などが使われます。
      • 溶媒(有機キャリア): 銀粉末とバインダーを均一に分散させ、印刷に適した粘度(流動性)を調整する役割を担います。
      • 添加剤: ガラス酸化物(焼成時の密着性向上)やその他の化学薬品を少量加え、ペーストの特性(焼成特性、密着性、耐酸化性など)を微調整します。
  3. 分散・均一化
    • 配合された原料をミキシングマシンロールミルなどの装置でしっかりと混ぜ合わせます。この工程で、銀粉末がバインダーや溶媒の中にムラなく均一に分散することが、ペーストの性能(導電性や印刷性)に直結するため非常に重要です。
  4. 仕上げ(ろ過・脱気)
    • 最後に、得られたペーストから不純物を取り除くためのろ過や、ペースト内の気泡を取り除くための脱気(真空処理)を行い、製品として完成させます。

 完成した銀ペーストは、使用時に基板などに塗布された後、加熱硬化(焼成)されることで、銀粒子同士が接触し、電気を通す「電極」となります。

銀ペーストの製造は、主に銀の微粉末(フィラー)、バインダー(樹脂)溶媒、そして添加剤を精密に計量し、均一になるまでミキシング(混合・分散)することで行われます。この工程で粘度を調整します。

電子部品では銀はどのように使用されるのか

 電子部品において、銀は主にその非常に優れた電気伝導性低い接触抵抗、そしてボンディング(接合)性の良さを活かして以下のように使用されます。銀は、すべての金属の中で最も電気をよく通します。


1. 接点・端子(コネクタ、スイッチ)

  • 用途: コネクタ、リレー、スイッチ、ブレーカーなどの電気接点部品。
  • 役割: 銀メッキとして使用されることが最も多いです。接触抵抗が低いため、スイッチのオン/オフ時やコネクタ接続時の電力損失を最小限に抑え、電流を効率よく伝えるために不可欠です。自動車の電装部品や産業機器の制御回路などで信頼性が求められます。

2. 導電性ペースト(銀ペースト)

  • 用途: 太陽電池の電極、IC・半導体のダイボンディング(素子接合)、プリント基板(PCB)の配線、電子部品の接着。
  • 役割:
    • 電極・配線: 太陽電池のフィンガー電極や、回路基板上の電気経路として機能します。
    • 接着: はんだ付けができない耐熱性の低い部品や、より低温での接合が求められる箇所で、電気を通す接着剤(導電性接着剤)として使用されます。

3. 電子機器の配線・リードフレーム

  • 用途: IC(集積回路)のリードフレーム(外部端子と内部素子をつなぐ部分)や、高周波を扱う通信機器の部品。
  • 役割: 優れた導電性により、信号伝送時の損失(ノイズ)を低減させます。高周波信号は導体の表面に集中する性質(表皮効果)があるため、表面抵抗が低い銀メッキが有効です。

銀の最大の欠点

銀は空気中の硫黄成分(排気ガスやゴム、ダンボールなどにも微量含まれる)と反応して硫化しやすく、表面が黒く変色(硫化銀の形成)する欠点があります。この変色は電気抵抗を増大させ、性能を低下させるため、電子部品に使用する際は、変色防止処理が必須となります。

電子部品では、銀は最高の導電性低い接触抵抗を活かし、コネクタスイッチなどの電気接点にメッキとして使われます。また、銀ペーストとして配線や部品の接着(ダイボンディング)にも使用されます。

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