サーバー用DRAMの価格上昇 サーバー用DRAMの特徴は何か?価格上昇の理由は何か

この記事で分かること

  • データセンター向けのサーバー用DRAMの特徴:データの信頼性を高めるECC機能を搭載し、RDIMM/LRDIMM構造で大容量メモリの安定稼働を実現しており、24時間365日稼働するサーバーに不可欠な高い堅牢性を持っている点がPCなどのDRAMとの違いです。
  • 価格上昇の理由:AI需要によるHBM(高性能メモリ)への生産シフトです。その結果、従来のDRAM供給が逼迫し、特にDDR4などの汎用サーバー用メモリが品薄となり価格が高騰しています。
  • 今後の見通し:AI需要とHBM生産優先により、価格上昇トレンドは少なくとも2026年末まで続くとの見方が大勢です。供給能力の急な増加は難しく、サーバーメモリは高止まりが続く見通しです。

サーバー用DRAMの価格上昇

 人工知能(AI)の需要急増に伴い、データセンター向けのサーバー用DRAM(記憶用半導体)の価格が大幅に上昇しており、報道によれば平均価格が2年間で2.3倍になるなど、約2倍の水準に達していることがわかります。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB12CIK0S5A910C2000000/

 AI産業の拡大とサーバー市場の更新サイクルが重なり、供給が追いつかない状況が価格高騰の主な要因となっています。

データセンター向けのサーバー用DRAMの特徴は

 データセンター向けのサーバー用DRAMは、以下のように、一般的なPC用メモリと比較して、高い信頼性、安定性、そして大容量を実現するための特別な機能と構造を持っています。

1. ECC(Error-Correcting Code)機能による信頼性

 データセンターのサーバーは24時間365日稼働し、ミッションクリティカルなデータを扱います。そのため、メモリ内のデータ破損(ビット反転エラー)は致命的になります。

  • エラーの検出と訂正: ECCメモリは、データに付加された符号(ECCコード)により、メモリ内で発生した1ビットのエラーを自動的に検出して修正できます。これにより、システムの安定性とデータの整合性が大幅に向上し、サーバーのクラッシュやデータ損失を防ぎます。
  • 構造: 一般的な非ECCメモリが8つのメモリチップを搭載しているのに対し、ECCメモリはエラーチェックと訂正専用のチップが追加された9個のチップを搭載しているのが特徴です。

2. Registered DIMM(RDIMM)/ Load-Reduced DIMM(LRDIMM)

 サーバー用メモリには、大容量・多枚数のモジュールを安定して動作させるための仕組みが組み込まれています。

  • Registered DIMM (RDIMM):
    • メモリチップとCPUの間でやり取りされるコマンド信号やアドレス信号を、DIMM上に搭載されたレジスタチップで一度受けてから各DRAMチップに伝達します。
    • これにより、CPU側の負荷(電気的な負荷)が軽減され、より多くのメモリをサーバーに搭載できるようになり、大容量化に対応できます。
  • Load-Reduced DIMM (LRDIMM):
    • 特に超大容量のメモリ構成を実現するために用いられ、レジスタに加え、データ信号もバッファリングすることで、さらなる電気的負荷の軽減と高速化を図っています。

3. 高速インターフェース技術

 AIやHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)システムでは、より高いメモリ帯域幅が求められています。

  • MRDIMM(Multi-Rank Registered DIMM): 次世代の技術として、2つのランクのメモリが同時にデータを受け取れるようにすることで、ホストインターフェースのデータ転送速度を2倍にし、メモリ帯域幅を拡大する仕組みなどが開発されています。
  • PMIC(Power Management IC): 最新のDDR5世代では、電圧調整用の回路がマザーボード上からDIMM上に直接配置(PMICを使用)され、より効率的で分散型の電源供給が可能となり、安定動作と高速化に貢献しています。

データの信頼性を高めるECC機能を搭載し、RDIMM/LRDIMM構造で大容量メモリの安定稼働を実現しており、24時間365日稼働するサーバーに不可欠な高い堅牢性を持ちます。

エラーを自動的に検出する方法は

 サーバー用DRAMにおけるエラーの自動検出と訂正は、主にECC(Error-Correcting Code:エラー訂正符号)と呼ばれる技術によって行われます。

この仕組みは、データを送る際に冗長な情報を付加し、受け取る側でその情報を基にデータの整合性を検証することで成立しています。


ECCメモリの動作原理(ハミング符号)

 ECCメモリの基本的なエラー訂正機能は、ハミング符号(Hamming Code)と呼ばれる数学的な符号化技術に基づいて動作しています。

1. データ書き込み時(符号化)

  • 冗長ビットの付加: CPUから送られてきた実際のデータ(例:64ビット)に対して、特定の計算を行い、冗長ビット(またはパリティビット、検査ビット。通常は8ビット)と呼ばれる追加のビットを生成します。
  • データと符号の格納: この冗長ビットを元のデータと合わせてメモリ(DRAM)に格納します(例:合計72ビット)。この冗長ビットは、後でエラーが発生したときに「どの位置のビットが間違っているか」を特定するための位置情報を含んでいます。

2. データ読み出し時(検証と訂正)

  • パリティの再生成: メモリからデータを読み出す際、読み出したデータ(72ビット)に対して、書き込み時と同じ計算を再度行い、新しい冗長ビットを生成します。
  • 比較とエラー検出: 読み出し時に生成した新しい冗長ビットと、メモリに格納されていた元の冗長ビットを比較します。
    • 一致した場合: データにエラーはないと判断し、そのまま正常データとして処理します。
    • 不一致の場合: データにエラーが発生したと判断します。
  • エラーの特定と訂正: 不一致のパターンを分析することで、エラーが発生した正確なビット位置を特定します(この特定能力がハミング符号の強みです)。
    • 1ビットエラーの場合: 特定されたビットの値を反転(0なら1に、1なら0に)させることで、元の正しいデータに自動的に修正(訂正)します。
    • 2ビットエラーの場合: エラーが発生したことは検出できますが、どの位置で発生したかを正確に特定できないため、訂正はできません(システム管理者への警告が出されます)。

データを書き込む際に冗長ビット(ECC符号)を付加し、読み出し時にこの符号を再計算・比較します。不一致の場合、ハミング符号の原理でエラー位置を特定し、1ビットエラーを自動的に訂正します。

価格急上昇の理由は何か

 サーバー用メモリーの価格が急上昇している主な理由は、AI(人工知能)技術の爆発的な発展によるサーバー需要の構造的な変化と、それに対応するための供給側の制約という複合的な要因にあります。


1. AIサーバーによる需要の爆発的な増加

  • 高性能メモリ(HBM)への集中: ChatGPTなどの生成AIの拡大により、大量のデータ処理を行うAIサーバーの需要が急増しています。これらのサーバーには、従来のDRAMよりもはるかに高速・高性能なHBM (High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)が不可欠です。
  • HBMが汎用DRAMを圧迫: メモリメーカーは、利益率が高く需要の強いHBMの生産を優先・拡大するため、従来の汎用DRAM (DDR4/DDR5など)の生産ラインやリソースをHBM向けに転換しています。
    • HBMは通常のDRAMチップよりも製造プロセスが複雑で、必要なダイサイズが大きく、歩留まりが低い(製造が難しい)ため、DRAM全体の生産能力が逼迫します。

2. 汎用DRAMの供給不足と構造変化

  • 旧世代の価格逆転現象: 大手メモリメーカーが、利益率の低いDDR4などの旧世代製品の生産を戦略的に縮小・終了する方針を発表したことで、市場に強い供給不安が生じました。
  • 駆け込み需要と品薄: 供給停止への懸念から、産業用機器や組み込みシステムを運用する企業などがDDR4の買い占め(パニックバイ)に走り、市場での品薄状態が加速しました。
  • レガシー製品全体への影響: この結果、DDR4の価格が最新規格のDDR5の価格を上回る「価格逆転現象」という異常事態が発生し、さらに古いDDR3のようなレガシー製品の価格まで上昇する事態となっています。

 AIという新しい巨大な需要に生産リソースが集中した結果、従来の汎用サーバー用メモリの供給が「意図的に」絞られ、その結果、価格が急騰している状態です。

価格急上昇の主な理由は、AI需要によるHBM(高性能メモリ)への生産シフトです。その結果、従来のDRAM供給が逼迫し、特にDDR4などの汎用サーバー用メモリが品薄となり価格が高騰しています。

データセンター向けのサーバー用DRAMの有力メーカーは

 データセンター向けのサーバー用DRAM市場は、主に以下の3社による寡占状態が続いています。

 特にAI需要の急増に伴い、高性能なHBM(高帯域幅メモリ)の分野で各社の競争が激化しており、シェアや製品動向が注目されています。

サーバー用DRAMの主要メーカー(DRAM市場全体のシェア順)

  1. Samsung Electronics(サムスン電子):
    • 長年にわたりDRAM市場でトップシェアを維持しています。
    • 最先端のDDR5や、AIサーバーに不可欠なHBM製品の開発・量産を積極的に行っています。
  2. SK hynix(SKハイニックス):
    • DRAM市場で2位のシェアを持ちます。
    • 特にAI用メモリであるHBMの分野で非常に強力な存在です。HBM3E製品の大量出荷など、HBM市場では断トツのシェア(70%強の時期も)を占めることがあり、NVIDIAなどの主要なAI企業への供給で先行しています。
  3. Micron Technology(マイクロン・テクノロジー):
    • DRAM市場で3位のシェアを持つアメリカの企業です。
    • 同社もDDR5やHBM製品の量産拡大と開発ロードマップを推進しており、AI需要への対応を強化しています。

モジュールメーカーについて

 上記の3社はDRAMチップ(半導体メモリ素子)を製造するメーカーですが、実際にサーバーに搭載されるメモリモジュール(DIMM)としては、これらのチップに加えて、Corsair(コルセア)、Crucial(クルーシャル)、CFDといったモジュールを組み立て・販売するメーカーの製品も広く利用されています。ただし、チップ自体は上記3社のいずれかの製品が使われています。

今後の見通しはどうか

 サーバー用メモリー価格の今後の見通しについては、短期的な価格上昇の継続と、AI向け高性能メモリ(HBM)による市場の構造的な変化がポイントとなります。調査会社などの予測に基づくと、現在の価格高騰はしばらく続く見込みです。

1. 短期的な見通し(2025年後半~2026年初頭)

  • 価格上昇の継続: DRAM市場全体として、AIサーバー向けの需要が引き続き強く、価格は上昇基調が続くと予測されています。
    • 一部の予測では、DRAM価格は2025年にさらに35%程度上昇するとされています。(これは2024年の大幅上昇に続くものです)
  • HBM需要が牽引: AIの進化と普及に伴い、高性能なHBMに対する需要は非常に旺盛であり、メモリメーカーの生産リソースがHBMに集中するため、汎用DRAMの供給逼迫も継続する可能性が高いです。

2. 中長期的な見通し(2026年以降)

  • AI需要が市場を牽引: AIサーバー、AI対応のPCやスマートフォンといった新しい用途の拡大が、DRAM市場の成長を長期間にわたり牽引すると見られています。価格は調整されつつも、以前のような大幅な下落局面には戻りにくい可能性があります。
  • 供給能力の増強: 各メモリメーカーはHBMを含むサーバー用DRAMの増産投資を加速していますが、製造プロセスが複雑なHBMの生産能力が市場の需要を満たすには時間がかかります。供給不足が解消に向かう時期が、価格安定の鍵となります。
  • 構造的な価格維持: サーバー向けメモリは、ECC機能やRDIMM/LRDIMM構造といった高い信頼性が求められるため、一般的なPC用メモリよりも構造的に価格が高く維持される傾向があります。特にAI特化型のメモリは、高い付加価値から高価格帯が定着する可能性が高いです。

 価格が急落する可能性は低く、AI需要が続く限り、サーバー用メモリは高止まりするか、緩やかながら上昇を続けるというのが現在の有力な見通しです。

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