サムスンの横浜のみなとみらい研究開発拠点新設 どのような試作、研究を行うのか?ヘテロジニアス・インテグレーションとはなにか?

この記事で分かること

  • 試作、研究内容:主にヘテロジニアス・インテグレーションや三次元実装などの次世代半導体パッケージング技術の研究と試作が行われます。
  • ヘテロジニアス・インテグレーションとは:異なる半導体チップを一つのパッケージに集積する技術です。微細化の限界を克服し、高性能なCPUやメモリなどを組み合わせることで、システム全体の性能向上、小型化、コスト削減などを実現します。
  • みなとみらいに拠点を作る理由:日本の素材や製造装置メーカーとの連携強化が最大の目的です。横浜周辺に集積する協力企業との密接な共同開発を通じて、次世代半導体技術の確立と人材確保を図ることが大きな理由です。

サムスンの横浜のみなとみらい研究開発拠点新設

 サムスンが横浜のみなとみらいに研究開発拠点を新設し、半導体の試作ラインを整備していることがニュースになっています。

 https://www.kanaloco.jp/news/economy/article-1163542.html

 この新拠点は、サムスンにとって海外最大規模の研究開発拠点となり、日本の半導体産業の活性化にも貢献することが期待されています。

どんな試作、研究を行うのか

 サムスンが横浜・みなとみらいに新設する「アドバンスド・パッケージ・ラボ(APL)」では、主に次世代半導体パッケージング技術の研究と試作が行われます。

研究の主な内容

  • ヘテロジニアス・インテグレーション(異種集積化): 複数の異なる半導体チップを一つのパッケージにまとめて集積する技術です。これにより、半導体の小型化、高性能化、低消費電力化を目指します。
  • 3次元実装技術: チップを横方向だけでなく、縦方向に積層して接続する技術です。これにより、配線距離を短縮し、データ処理速度の向上と低電力化を実現します。
  • 素材・装置メーカーとの連携: 日本の優れた半導体関連企業や大学と協力し、パッケージング技術に使う新しい素材や製造装置の開発を行います。

 この拠点は、半導体の「後工程」と呼ばれる、チップをパッケージングして製品化する段階の技術革新に焦点を当てています。試作ラインを整備することで、研究開発から実用化までのプロセスを加速させる狙いがあります。

ヘテロジニアス・インテグレーションとはなにか

 ヘテロジニアス・インテグレーション(Heterogeneous Integration)とは、日本語で「異種集積化」と訳され、製造プロセスや機能が異なる複数の半導体チップを、一つのパッケージにまとめて高密度に集積する技術の総称です。

従来の半導体との違い

 これまでの半導体は、CPUやGPU、メモリなど、特定の機能を持つ回路を1枚の大きなシリコン基板(モノリシックチップ)に集積するのが主流でした。この方法では、より高性能にするために回路の微細化を進める「ムーアの法則」が半導体進化の原動力となっていました。

しかし、微細化の技術的な限界や開発コストの増大により、この方法だけでは性能向上が難しくなってきています。

ヘテロジニアス・インテグレーションの狙い

 この技術は、微細化の限界を乗り越えるための新しいアプローチとして注目されています。主な狙いは以下の通りです。

  • 性能の向上: CPU、GPU、メモリ、AIアクセラレータなど、それぞれの機能に最適な製造プロセスで作られたチップを組み合わせることで、システム全体の性能を効率的に高めることができます。
  • コスト削減: 最先端のプロセスが必要な部分だけを微細化し、それ以外の部分は低コストなプロセスで製造することで、全体のコストを抑えることができます。
  • 開発期間の短縮: 各チップを独立して開発・製造できるため、開発期間を短縮し、市場のニーズに合わせた製品を迅速に提供できます。
  • 小型化・省電力化: チップを横に並べるだけでなく、縦に積み重ねる「3次元実装」も可能になり、配線距離を大幅に短縮することで、小型化と低消費電力化を実現します。

チップレットとの関係

 ヘテロジニアス・インテグレーションは、小さな機能単位に分割されたチップである「チップレット(Chiplet)」と密接に関係しています。チップレットを組み合わせて一つのパッケージにまとめることで、柔軟で高性能な半導体システムを構築できるのです。

 サムスンが横浜のラボで研究するのは、このヘテロジニアス・インテグレーションであり、特にチップを効率的につなげるための「パッケージング技術」に焦点を当てています。これにより、日本の素材・装置メーカーとの連携を通じて、次世代半導体の開発を加速させることを目指しています。

異なる半導体チップを一つのパッケージに集積する技術です。微細化の限界を克服し、高性能なCPUやメモリなどを組み合わせることで、システム全体の性能向上、小型化、コスト削減などを実現します。

なぜみなとみらいにラインを作るのか

 サムスンが横浜のみなとみらいに研究開発拠点と試作ラインを設ける理由は、主に以下の点が挙げられます。

1. 協力会社との近接性

  • 日本の半導体関連企業との連携: 半導体製造には、素材、製造装置、検査機器など多岐にわたるサプライヤーの技術が必要です。日本は、これらの分野で世界トップクラスの技術力を持つ企業が数多く存在します。
  • 横浜に集積する関連企業: 横浜周辺には、半導体パッケージングや関連技術を持つ企業が複数拠点を構えています。サムスンは、これらの企業と密に連携して共同開発や技術交流を行うことを重視しており、その拠点として横浜が最適と判断しました。

2. 優秀な人材の確保

  • 大学や研究機関との連携: 横浜には、半導体や電子工学分野で優れた研究を行っている大学や研究機関があります。サムスンは、これらの機関と協力することで、新しい技術を生み出すための研究開発を加速させるとともに、優秀な人材の確保も視野に入れています。
  • 都市部の立地: みなとみらいは、交通の便が良く、生活環境も整った国際的な都市です。国内外から優秀な技術者や研究者を呼び込む上で、魅力的な立地条件を備えています。

3. 日本政府の支援

  • 「ポスト5G」事業: 日本政府は、半導体産業の強化を国家戦略として掲げており、海外企業の国内誘致を積極的に進めています。サムスンのプロジェクトは、経済産業省の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」に採択されており、政府からの助成金が投入されることも大きな要因です。

 このように、サムスンは、日本の半導体サプライチェーンや研究機関との連携を強化し、次世代技術開発のスピードアップを図るために、戦略的に横浜・みなとみらいを選んだと考えられます。

日本の素材や製造装置メーカーとの連携強化が最大の目的です。横浜周辺に集積する協力企業との密接な共同開発を通じて、次世代半導体技術の確立と人材確保を図るため、最適な立地と判断しました。

ヘテロジニアス・インテグレーションの難易度の高いところは何か

 ヘテロジニアス・インテグレーション(異種集積化)の難易度が高い点は、主に以下の3つです。

1. 異なるチップ間の接続

 異なる製造プロセスで作られた複数のチップを、高密度かつ正確に接続することが最も難しい課題です。チップ同士を電気的に接続するための微細な配線や、チップを支える基板の設計には高度な技術が求められます。

 特に、チップ間の配線が長くなると信号の遅延や電力消費が増えるため、いかに短く効率的に接続するかが重要です。


2. 熱管理

 複数のチップを集積すると、一つにまとまっていたときよりも発熱が集中しやすくなります。各チップの動作温度を適切に保つための冷却システムや、パッケージ全体の放熱設計が極めて重要です。

 十分な熱管理ができていないと、性能の低下や故障の原因となります。


3. 設計と製造プロセスの複雑性

 チップレットごとに異なる設計ツールや製造プロセスを使うため、全体のシステムとして統合するための設計が非常に複雑になります。

 また、複数のサプライヤーから提供されるチップレットの互換性を確保し、製造工程全体を管理することも大きな課題です。さらに、製造後のテストや不良品の特定も、単一のチップに比べて難しくなります。

異なるチップを高密度に接続する技術、複数のチップが発する熱を効率的に管理する設計、そして複雑な製造プロセス全体を統合し、不良品を検出するテストが難しい点です。

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