この記事で分かること
- 三つ折りの利点:広い画面で3つ以上のアプリを同時に使い、PCに近い効率的なマルチタスクや、高い没入感でコンテンツを楽しめます。
- 実現に必要な技術:2つの折り目に耐える超薄型ガラス(UTG)と、シワを抑える柔軟なフレキシブルディスプレイが必要です。さらに、3枚のパネルを薄く正確に動かすマルチヒンジ構造と、それを制御するOS/UIの最適化技術が不可欠です。
- 超薄型ガラスの製造法:髪の毛より薄い数十µmまで極限に薄くし(UTG)、表面を大きなカリウムイオンで処理する化学強化を施します。これにより表面に圧縮応力が生じ、割れにくく高い柔軟性を持ちます。
サムスン三つ折り構造のスマートフォンの発表
サムスンは2025年12月2日に、同社としては初となる三つ折り構造のスマートフォン「Galaxy Z TriFold」を正式に発表しました。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-12-02/T6MBANT9NJLT00
このモデルは、折りたたみスマホの分野で培ってきた知見を結集させた、革新的なデバイスとして注目を集めています。
三つ折りスマホの利点は何か
三つ折りスマートフォンは、従来のスマートフォンや二つ折りの折りたたみスマホの利点をさらに拡大し、特に大画面での利用と携帯性の両立という点で大きなメリットがあります。
サムスンの「Galaxy Z TriFold」のような三つ折り構造がもたらす主な利点は以下の通りです。
1. 究極の「携帯できる大画面」の実現
- 1台3役のスタイル:
- 折りたたんだ状態:一般的なスマートフォンに近いサイズ(例:6.5インチのカバーディスプレイ)で、ポケットや小さなバッグにも収まりやすく、片手で操作できます。
- 半分開いた状態:二つ折りスマホと同じように、7~8インチ程度の中型タブレットのようなサイズで利用できます。
- 完全に開いた状態:最大で10インチ相当の大型タブレットサイズが出現します。これは、外出先で動画視聴、電子書籍、資料の閲覧・編集などを極めて快適に行えるサイズです。
- 「スマホ + タブレット」の統合:
- スマホとタブレットの機能を1台でカバーできるため、複数のデバイスを持ち歩く必要がなく、ミニマルな持ち運びが可能になります。
2. 画期的なマルチタスク性能
- トリプル・マルチウィンドウ:
- 広大な画面を活かして、3つ以上のアプリを同時に並列表示し、操作することが可能になります。
- 例:「資料を開きながら(画面1)、ビデオ会議に参加し(画面2)、メモを取る(画面3)」といった、PCに近い効率的な作業が可能です。
- PCのような作業環境(DeX機能の強化):
- 大画面を簡易的なノートPCのディスプレイのように活用できます。特に「Galaxy Z TriFold」は、外部モニターなしで複数の仮想ワークスペースを構築できるなど、生産性を高めるための機能が充実しています。
3. 高度な利便性と没入感
- ヒンジによる自由な角度調整:
- 画面をL字型やテント型など、様々な角度に固定できるため、スマホスタンドが不要になります。ハンズフリーでの動画視聴や、集合写真の自撮り(置き撮り)などが容易になります。
- 没入感の高いメディア体験:
- 大画面であるため、映画やゲーム、電子書籍などのコンテンツを、より高い没入感で楽しむことができます。
- 耐久性の向上:
- 折りたたんだ状態ではメインディスプレイが内側に格納されるため、画面に傷が入りにくい設計になっています(構造によります)。
三つ折りスマホは、大画面の作業領域をポケットに収めたい、あるいは1台でスマホとタブレットの役割をこなしたい、というユーザーにとって非常に魅力的な選択肢となります。

三つ折りスマホの利点は、コンパクトな携帯性と約10インチのタブレット級大画面を両立できる点です。広い画面で3つ以上のアプリを同時に使い、PCに近い効率的なマルチタスクや、高い没入感でコンテンツを楽しめます。
三つ折りスマホ実現に必要な技術は何か
三つ折りスマートフォン(スマホ)の実現には、以下に示すように、従来の二つ折りスマホで培われた技術をさらに進化させた、特に「ディスプレイ」「ヒンジ(蝶番)」「設計・素材」に関する高度な技術が必要です。三つ折りはヒンジが2つになるため、耐久性や薄型化の難易度が格段に上がります。
1. ディスプレイ技術の進化(柔軟性と耐久性)
最も重要となるのが、2ヶ所で曲げても長期的な耐久性と表示品質を維持できるフレキシブルディスプレイです。
- 超薄型ガラス(UTG: Ultra Thin Glass)の改良
- ディスプレイ表面を保護するガラスが、2つの折り目でも破損せず、繰り返しの開閉に耐える柔軟性を持つ必要があります。
- 折りたたみ時の折り目(シワ)を目立たなくするための構造的な改良が不可欠です。
- 多層構造の最適化
- ディスプレイを構成する多数の層(有機EL層、保護層、タッチセンサー層など)それぞれが、2つの異なる湾曲率に追従し、剥離や劣化を起こさないように設計されます。
- 衝撃吸収層と新コーティング
- 展開時の薄型化(例:最薄部3.9mm)を実現しつつ、ディスプレイを保護するために、新しいコーティング技術や衝撃吸収層が開発・採用されています。
2. 革新的なヒンジ(蝶番)構造
三つ折りスマホは2つのヒンジを搭載するため、連動性と耐久性、そして薄型化が最大の課題となります。
- マルチヒンジシステムの開発
- 2つのヒンジがスムーズかつ正確に連動し、3つのパネルを一体的に開閉させる高度な機構が必要です。
- サムスンの「Galaxy Z TriFold」では、大小2つのヒンジを同期させる「デュアルレール構造」などが採用され、安定した折りたたみが実現されています。
- チタン・高強度素材の採用
- ヒンジ部分の耐久性を確保しつつ、全体の重量と厚みを抑えるため、チタン製のヒンジハウジングや、高強度のアルミニウム合金フレームが用いられます。
- 防塵・防水技術
- 2つに増えたヒンジの隙間から、水や埃が内部に侵入するのを防ぐ高い防塵・防水技術(例:IP48等級)が求められます。
3. ハードウェア設計とソフトウェア最適化
三つ折り構造を実用的な製品にするための周辺技術です。
- 超薄型設計と放熱対策
- 展開時に3.9mmといった極薄を実現しつつ、高性能プロセッサの熱を効果的に逃がす高度な放熱設計が求められます。
- バッテリー配置と大容量化
- 3つのパネルにまたがる構造の中で、大画面を駆動するための大容量バッテリー(例:5,600mAh)を効率的に配置し、薄型化と両立させる技術が必要です。
- OS/UIの最適化
- 展開時の約10インチ大画面で、3つのアプリを並列起動できるマルチウィンドウ機能や、PCのような作業環境(DeX機能など)をスムーズに提供するためのOS(例:One UI)の深いレベルでの最適化が必要です。

三つ折りスマホには、2つの折り目に耐える超薄型ガラス(UTG)と、シワを抑える柔軟なフレキシブルディスプレイが必要です。さらに、3枚のパネルを薄く正確に動かすマルチヒンジ構造と、それを制御するOS/UIの最適化技術が不可欠です。
どうやってガラスに柔軟性をもたせたのか
ガラスに柔軟性を持たせる主な技術は、極限までの薄型化と化学強化処理(イオン交換)の組み合わせです。
1. 極限までの薄型化(UTG:Ultra Thin Glass)
まず、ガラスを人の髪の毛(約0.08mm)よりも薄い、数十マイクロメートル(μm)の厚さにします。
- 薄いものの性質:基本的に、物質は薄ければ薄いほど、破壊することなく大きく曲げることができます。
- 製法:ガラス原料を溶かし、空気と触れさせずに垂直に引き下ろす製法(例えば、フュージョン法)などにより、極めて均一で平坦な薄板ガラスを成形します。
2. 化学強化処理(イオン交換)
単に薄くするだけでは強度が不足するため、特殊な化学処理を施します。
- 仕組み:ガラスの表面を、ナトリウムイオン(Na+)よりも直径が約30%大きいカリウムイオン(K+)を含む溶融塩に浸します。
- 効果:大きなK+がガラス表面近くのNa+と入れ替わることで、ガラス表面に強い圧縮応力層が形成されます。
- 柔軟性と耐久性の向上:外部からの引っ張る力(引っ張り応力)がガラスにかかっても、この圧縮応力が打ち消すように働き、微細なひび割れ(クラック)の進展を防ぐため、割れにくく、柔軟性が飛躍的に向上します。
これらの技術によって、繰り返し折り曲げても耐久性を維持できる超薄型強化ガラス(UTG)が実現しています。

ガラスは、髪の毛より薄い数十µmまで極限に薄くし(UTG)、表面を大きなカリウムイオンで処理する化学強化を施します。これにより表面に圧縮応力が生じ、割れにくく高い柔軟性を持ちます。
K+イオンとNa+イオンの交換で柔軟性、耐久性が向上する理由は
K+イオンとNa+イオンの交換による柔軟性と耐久性の向上は、化学強化(イオン交換)によってガラス表面に圧縮応力層が形成されるためです。
このメカニズムは、以下の手順で進みます。
1. イオン交換と体積効果
- ガラスの構成: 多くのガラスには、ネットワーク内に小さなNa+イオンが含まれています。
- 交換プロセス: このガラスを、溶融した塩(主に硝酸カリウム)に浸します。溶融塩にはNa+イオンより大きなK+イオンが大量に含まれています。
- 交換の発生: 高温下で、ガラス表面近くのNa+イオンが、溶融塩中の大きなK+イオンと置き換わります。
- 圧縮応力の発生: 大きなKイオンが、元々小さなNa+イオンが占めていたスペースに無理やり押し込まれる形になります。この体積のミスマッチにより、ガラスの表面層全体が内側から押し戻されるような強い圧縮力にさらされます。
2. 圧縮応力による耐久性・柔軟性の向上
この表面に残留した圧縮応力が、外部からの力に対する防御壁として機能します。
- 耐久性(割れ防止):
- ガラスは表面の目に見えない微細な傷(マイクロクラック)に引張応力(引っ張る力)がかかることで割れます。
- 圧縮応力層は、外部から引張応力がかかっても、まずこの圧縮力によって打ち消されます。これにより、亀裂が広がるのを強力に防ぎ、傷や衝撃に強い高い耐久性が実現します。
- 柔軟性(曲げ耐性):
- ガラスを曲げた際、外側には引張応力が発生します。
- この内蔵された圧縮応力があるため、通常のガラスよりもはるかに強い力で曲げ、大きな引張応力を発生させなければ破壊に至りません。これにより、より大きく曲げられる柔軟性が生まれます。
大きなK+イオンが小さなNa+イオンと置き換わることで、ガラス表面に人工的に「締め付ける力」を作り出し、それが外からの衝撃からガラスを守っているのです。

大きなK+が、小さなNa+と置き換わることで、ガラス表面に強い圧縮応力が生まれます。この圧縮力が外部からの引張応力(割れの原因)を打ち消し、柔軟性と耐久性を高めます。

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