三洋化成工業のEV向け潤滑油添加剤 EV向け潤滑油添加剤とは何か?どのような物質が使用されるのか?

この記事で分かること

  • EV向け潤滑油添加剤とは:モーターや減速機が一体のE-Axle用潤滑油の性能を高める化合物です。低粘度での優れた潤滑性、高い電気絶縁性、銅腐食防止、熱安定性などを付与し、EV駆動ユニットの耐久性向上と高効率化に貢献します。
  • 使用される物質:耐摩耗剤(硫黄系、リン系、モリブデン系化合物、ポリマー)、腐食防止剤(含窒素化合物)、酸化防止剤(アミン系、フェノール系)、消泡剤(シリコーン系)、分散剤などが使われます。

三洋化成工業のEV向け潤滑油添加剤

 三洋化成工業は、電気自動車(EV)の駆動ユニットである「E-Axle(eアクスル)」向けの耐摩耗・耐焼き付きポリマー添加剤「アクルーブNS-100」を新たに開発し、2025年7月2日に発表しました。

https://www.zaikei.co.jp/article/20250702/816862.html

 これが同社初のEV向け潤滑油添加剤となります。

EV向け潤滑油添加剤とは何か

 EV(電気自動車)向け潤滑油添加剤とは、EVの駆動システムである「E-Axle(イーアクスル)」などの電動駆動部品に使用される潤滑油(E-フルードとも呼ばれます)の性能を向上させるために配合される特殊な化合物のことです。

従 来のガソリン車とは異なり、EVにはエンジンが存在しないため、潤滑油に求められる特性が大きく異なります。特に、EVの心臓部であるE-Axleは、モーター、減速機、インバーターなどが一体化されており、その内部を潤滑するオイルには以下のような厳しい要件が求められます。

EV向け潤滑油(E-フルード)の主な課題と添加剤の役割

  1. 低粘度化と潤滑性の維持:
    • 課題: EVは電力効率を最大化するため、潤滑油の攪拌抵抗を減らす目的で、より低粘度の潤滑油が使用されます。しかし、低粘度であると油膜が薄くなり、金属部品同士の接触や摩耗、焼き付きのリスクが高まります。
    • 添加剤の役割: 「耐摩耗剤」や「極圧剤」といった添加剤は、部品表面に保護膜を形成したり、高負荷がかかる部分での潤滑性を確保したりすることで、摩耗や焼き付きを防ぎます。
  2. 電気絶縁性の確保:
    • 課題: E-Axle内部にはモーターなど高電圧の電気部品が存在するため、潤滑油が導電性を持つとショートや絶縁破壊の原因になります。
    • 添加剤の役割: 潤滑油の電気絶縁性を保つ必要があります。添加剤自体が電気を通さないように、また添加剤が分解してイオン化しないように工夫が凝らされます。
  3. 銅腐食の防止:
    • 課題: EVのモーターには銅製のコイルが使用されており、潤滑油が銅を腐食させる可能性があります。
    • 添加剤の役割: 「腐食防止剤」などが配合され、銅などの金属部品の腐食を防ぎ、駆動ユニットの信頼性を高めます。
  4. 熱安定性と酸化安定性:
    • 課題: EVの駆動ユニットは高温になりやすいため、潤滑油が高温下で劣化したり酸化したりするのを防ぐ必要があります。
    • 添加剤の役割: 「酸化防止剤」が配合され、潤滑油の寿命を延ばし、スラッジ(不純物)の発生を抑制します。
  5. 泡立ちの抑制:
    • 課題: 潤滑油が攪拌されることで泡が発生しやすくなります。泡は潤滑不良や熱伝導性の低下を引き起こす可能性があります。
    • 添加剤の役割: 「消泡剤」が配合され、泡の発生を抑えます。

 このように、EV向け潤滑油添加剤は、EV特有の厳しい使用環境に対応し、駆動ユニットの性能維持、耐久性向上、そしてEV全体の高効率化、ひいては航続距離の延伸や電費の向上に不可欠な役割を担っています。

EV向け潤滑油添加剤は、モーターや減速機が一体のE-Axle用潤滑油の性能を高める化合物です。低粘度での優れた潤滑性、高い電気絶縁性、銅腐食防止、熱安定性などを付与し、EV駆動ユニットの耐久性向上と高効率化に貢献します。

どんな物質が使われるのか

 EV向け潤滑油添加剤に使われる物質は、潤滑油に求められる様々な機能(耐摩耗性、電気絶縁性、熱安定性、腐食防止など)に応じて多岐にわたります。

  1. 耐摩耗剤・極圧剤:
    • 硫黄系化合物: 硫化オレフィン、チアジアゾール、硫化油脂など。高温・高圧下で金属表面と反応し、強固な硫化鉄被膜を形成して摩耗や焼き付きを防ぎます。
    • リン系化合物: ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)など。優れた摩耗防止性能を発揮しますが、EVでは銅部品への影響や電気絶縁性への配慮から、成分が調整されることがあります。リン化合物自体も使われます。
    • モリブデン系化合物: 有機モリブデン、二硫化モリブデンなど。摩擦を低減し、省エネ効果も期待されます。
    • ポリマー系: 三洋化成の「アクルーブNS-100」のように、特定のポリマーが耐摩耗・耐焼き付き性能を付与する目的で開発されています。
  2. 粘度指数向上剤:
    • ポリマー: ポリアルキルメタクリレート (PAMA)、ポリイソブチレン (PIB) など。低温から高温までの粘度変化を抑制し、幅広い温度域で安定した潤滑性能を保ちます。
  3. 酸化防止剤:
    • アミン系化合物: アミン系フェノールなど。
    • フェノール系化合物: 酸化を抑制し、潤滑油の劣化を防ぎます。
  4. 腐食防止剤(金属不活性化剤):
    • 含窒素化合物: ベンゾトリアゾール、2,5-ジアルキルメルカプト-1,3,4-チアジアゾールなど。銅などの金属表面に吸着し、金属の腐食を防ぎます。EVでは銅コイルへの影響が特に重要です。
  5. 消泡剤:
    • シリコーン系化合物: シリコーンオイルなど。潤滑油中の泡の発生を抑制し、潤滑不良を防ぎます。
  6. 分散剤:
    • ポリイソブテニルスクシンイミド系分散剤(ホウ素含有など): スラッジやデポジットの発生を抑制し、潤滑油を清浄に保ちます。

 これらの添加剤は単独で使われるだけでなく、複数の種類を組み合わせて配合され、EVのE-Axleが持つ特定の要件(電気絶縁性、銅腐食性、低粘度対応など)を最適に満たすように設計されます。特にEV向けでは、従来のエンジンオイル添加剤にはあまり求められなかった「電気絶縁性」が非常に重要な要素となります。

EV向け潤滑油添加剤には、主に耐摩耗剤(硫黄系、リン系、モリブデン系化合物、ポリマー)、腐食防止剤(含窒素化合物)、酸化防止剤(アミン系、フェノール系)、消泡剤(シリコーン系)、分散剤などが使われます。特に電気絶縁性や銅腐食防止に配慮した設計が特徴です。

なぜ潤滑性を高くできるのか

  EV向け潤滑油添加剤が潤滑性を高くできる主なメカニズムは、以下の点が挙げられます。

  1. 保護膜の形成:
    • 耐摩耗剤や極圧剤: 潤滑油中の添加剤が、ギアやベアリングなどの金属表面と化学的に反応したり、物理的に吸着したりして、非常に薄い保護膜を形成します。この膜が金属同士の直接的な接触を防ぎ、摩耗や焼き付きを抑制します。例えば、硫黄系添加剤は高温・高圧下で金属表面に硫化鉄の膜を、リン系添加剤はリン酸鉄の膜を形成することが知られています。
    • 油性向上剤: 分子内に極性基を持つ添加剤が金属表面に吸着し、強固な吸着膜を形成することで、油膜が薄くなりがちな低荷重下や起動時でも潤滑性を保ちます。
  2. 摩擦低減:
    • 摩擦調整剤 (Friction Modifier): 特定の有機モリブデン化合物などが、金属表面の摩擦を直接的に低減します。これらは、部品間の滑りを良くすることで、エネルギー損失を減らし、EVの効率向上にも貢献します。
  3. 粘度特性の調整:
    • 粘度指数向上剤: 低温では潤滑油の粘度が高くなりすぎず、高温では粘度が低くなりすぎないように調整します。これにより、様々な温度条件下で適切な油膜厚さを維持し、安定した潤滑性能を発揮できるようにします。EVでは低粘度化が求められるため、この技術が特に重要になります。
  4. 微粒子の分散:
    • 分散剤: 摩耗によって発生する微細な金属粉や、油の劣化によって生じるスラッジなどの不純物を油中に均一に分散させ、これらが摩擦面に挟まることで生じる摩耗を防ぎます。潤滑油が清浄に保たれることで、潤滑性能が維持されます。

 このように、EV向け潤滑油添加剤は、単に油の滑りを良くするだけでなく、部品表面に保護層を作ったり、油の物理的性質をコントロールしたり、不純物による悪影響を防いだりと、多角的なアプローチで潤滑性を高めています。特にEVでは、低粘度油でも十分な潤滑性を確保しつつ、モーターやインバーターとの共存が求められるため、電気絶縁性や銅腐食防止といった特殊な機能も同時に実現しています。

EV向け潤滑油添加剤は、金属表面に保護膜を形成したり、摩擦を直接低減したり、油の粘度特性を最適化したりすることで、潤滑性を高めます。これにより、低粘度油でも摩耗を防ぎ、駆動ユニットの効率と耐久性を向上させます。

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