この記事で分かること
- 日本近海の海水温上昇幅が大きい理由:地球温暖化に加え、黒潮など暖流の変化が影響していると考えられています。また、大陸に近いことや、元々自然変動が大きい海域であることも、世界平均を上回る海水温上昇の要因とされています。
- 黒潮にはどのような変化が起きているのか:紀伊半島沖で大きく南に蛇行する「大蛇行」が長期間続いたり、房総半島から東へ向かう「続流」が通常より北上したりしています。これにより、日本近海の海水温が上昇し、漁業や気象に影響を与えています。
- 海水温上昇の影響:サンゴ礁の白化や漁場の変化、磯焼けなど海洋生態系を脅かします。また、海水の熱膨張による海面水位の上昇や、台風の大型化、豪雨災害の増加など、気象や災害リスクも高めます。
日本の近海の海水温上昇は世界平均の2倍
日本の近海の海水温上昇は世界平均の2倍を超える割合で進んでいるという指摘が、気象庁をはじめとする複数の機関によってなされています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG152QG0V10C25A7000000/
日本の海水温上昇が世界平均を上回るペースで進んでいることは、漁業や沿岸地域の生活、そして海洋生態系にとって深刻な問題です。
なぜ日本近海の上昇幅が大きいのか
日本の近海の海水温上昇幅が世界平均よりも大きい理由には、主に以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられています。
1. 黒潮などの海流の変動
- 日本の周辺には、暖かい海流である黒潮が流れています。この黒潮の流れが、気候変動の影響を受けて変化していることが、海水温上昇の大きな要因の一つとされています。
- 特に、近年見られる黒潮の「大蛇行」や、黒潮続流の北上が、日本近海、特に東日本や北日本の海域に暖かい海水を運び込み、水温を上昇させていると考えられています。
- 海流の変化は、自然変動による部分も大きいですが、地球温暖化によって引き起こされた気象条件の変化(偏西風や貿易風の変化など)が影響している可能性も指摘されています。
2. 大陸に近いことによる影響
- 気温の上昇は、一般的に陸上の方が海上よりも大きくなる傾向があります。
- 日本は大陸に近いことから、陸域で上昇した気温が海域にも影響を及ぼし、海水温の上昇を加速させている可能性が考えられています。
3. 自然変動の大きさと不確実性
- 日本近海は、もともと海流や気象条件の変動が大きい海域です。そのため、温暖化による影響に加えて、自然変動の要素も大きく関わってきます。
- このため、特定の海域における海水温の上昇が、すべて温暖化の影響とは断定できない側面もあります。モデルによる予測も、不確実な要素が多いとされています。
これらの要因が複雑に絡み合い、日本近海を「気候系ホットスポット」として、世界平均よりも早いペースで海水温が上昇する一因となっていると考えられます。

日本の近海では、地球温暖化に加え、黒潮など暖流の変化が影響していると考えられています。また、大陸に近いことや、元々自然変動が大きい海域であることも、世界平均を上回る海水温上昇の要因とされています。
黒潮はどのように変化しているのか
黒潮は、地球温暖化や自然変動の影響を受けて、その流路や勢いに変化が見られます。特に注目されているのが、「黒潮大蛇行」と「黒潮続流の北上」です。
1. 黒潮大蛇行
- 現象: 黒潮は通常、日本の南岸を比較的沿岸近くに沿って流れますが、紀伊半島沖で大きく南に離れて、U字型に蛇行する現象が「黒潮大蛇行」です。
- 近年の状況: 2017年8月から発生した黒潮大蛇行は、観測史上最長の7年9か月間にわたって継続しました。2025年5月現在、終息の兆しがあるとされていますが、今後の動向は引き続き注視が必要です。
- 影響:
- 海水温: 大蛇行によって、本州の南岸(紀伊半島沖、東海・関東沖)の海水温は通常よりも低くなる傾向がありますが、最新の研究では、蛇行によって蒸発が増え、逆に水温が上昇している海域もあることが指摘されています。
- 気象: 大蛇行によって、大量の水蒸気が放出され、それが降水量の増加(豪雨)や猛暑の一因となっていると考えられています。
- 生態系・漁業: 漁場の変化や、回遊魚の漁獲量に影響を与えています。
2. 黒潮続流の北上
- 現象: 房総半島から東に流れる黒潮の流れを「黒潮続流」といいます。近年、この流れが通常よりも北上し、三陸沖や北海道沖にまで達する事例が増えています。
- 影響:
- 海水温: 北上した暖かい黒潮続流が、冷たい親潮とぶつかることで、三陸沖や北海道沖の海水温が上昇しています。これにより、海洋熱波が発生することもあります。
- 漁業: 暖かい海水を好む南方系の魚(ブリなど)が北上し、北海道でも漁獲されるようになる一方で、冷たい海水を好む北方系の魚(サンマやサケなど)が不漁になるなど、漁獲される魚種が変化しています。
3. 流量の変化
- 黒潮の流量は、数年から10年程度の周期で変動しています。
- 温暖化に伴う将来予測では、黒潮の流量が有意に変化するという予測がある一方で、大きな変化はないという予測もあり、研究者間でも見解は分かれています。
これらの変化は、地球温暖化によって引き起こされる偏西風や貿易風の変化が影響していると考えられていますが、その詳細なメカニズムは完全には解明されておらず、引き続き研究が進められています。

黒潮は、紀伊半島沖で大きく南に蛇行する「大蛇行」が長期間続いたり、房総半島から東へ向かう「続流」が通常より北上したりしています。これにより、日本近海の海水温が上昇し、漁業や気象に影響を与えています。
海水温上昇はどのような影響があるか
海水温の上昇は、私たちの生活や地球環境に広範囲かつ深刻な影響を及ぼします。主な影響は以下の通りです。
1. 生態系への影響
- 海洋生物の生息域の変化: 暖かい海水を好む南方系の魚種が北上し、今まで獲れなかった地域で漁獲されるようになる一方、冷たい海水を好む魚種は生息域を北へと移動するため、不漁になるなど漁場が変化します。
- サンゴ礁の白化: 海水温が一定以上上昇すると、サンゴは共生している藻類を失い、白化して死滅してしまいます。サンゴ礁は多様な生物の生息地であるため、生態系全体に大きな影響を与えます。
- 藻場の減少(磯焼け): 藻類が繁茂する藻場は、稚魚の隠れ家や食料となる重要な場所ですが、海水温上昇に弱い海藻類は減少し、藻食性の魚が増えることで、さらに藻場の減少が加速する「磯焼け」が深刻化しています。
- 食物連鎖への影響: 海面付近と深層の水が混ざりにくくなることで、深海の栄養分が循環しにくくなります。これによりプランクトンが減少し、それを食べる魚も減るといった食物連鎖の崩壊につながる可能性があります。
- 性別の偏り: ウミガメなど、砂の温度によって性別が決まる生物は、海水温の上昇に伴って生まれるメスの割合が極端に増え、種の存続が危ぶまれる事態も起こっています。
2. 気象・災害への影響
- 海面水位の上昇: 海水温が上がると、海水が熱膨張して体積が増え、海面水位が上昇します。これにより、高潮や海岸の侵食、沿岸地域の浸水リスクが高まります。
- 台風の大型化: 海水温の上昇は、台風のエネルギー源となる水蒸気を大量に供給するため、台風が大型化し、勢力が強まる傾向にあります。
- 線状降水帯の発生: 大量の水蒸気が陸地に流れ込むことで、線状降水帯が発生しやすくなり、記録的な豪雨災害を引き起こす可能性があります。
3. 経済・社会への影響
- 漁業への打撃: 漁獲される魚種の変化や、特定魚種の不漁により、漁業に大きな経済的損失をもたらします。
- 観光産業への影響: サンゴ礁の白化や景観の変化は、観光資源にも影響を与えます。
- 水産物の価格上昇: 漁獲量の減少は、水産物の価格上昇につながり、私たちの食卓にも影響を及ぼします。
このように、海水温の上昇は私たちの生活の様々な側面に影響を及ぼすため、その対策が急務となっています。

海水温上昇は、サンゴ礁の白化や漁場の変化、磯焼けなど海洋生態系を脅かします。また、海水の熱膨張による海面水位の上昇や、台風の大型化、豪雨災害の増加など、気象や災害リスクも高めます。
コメント