積水化学工業、可燃ごみのエタノールへの変換事業撤退 変換の方法は?撤退の理由は何か?

この記事で分かること

  • エタノールへの変換方法:可燃ごみをガス化して一酸化炭素(CO)などに分解後、これを精製します。その後、微生物の力でガスを発酵させ、最終的にエタノールを生産する技術です。
  • 撤退の理由:生産コストの高さが主因です。ごみの成分不安定さから、微生物が利用可能なレベルにまで高度なガス精製が必要となり、その費用と初期投資の回収が困難と判断されました。

積水化学工業、可燃ごみのエタノールへの変換事業撤退

 積水化学工業が可燃ごみをエタノールに変換する技術の実用化に向けて稼働させていた実証プラントを撤収し、この事業から撤退することになったと報道されています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1175K0R11C25A2000000/

 目標としていた実用化技術自体は確立できたものの、採算性の観点から事業継続が困難と判断され、実証プラントの撤収と事業の中止に至ったようです。

可燃ごみをエタノールに変換する方法とは

 積水化学工業が実証を進めていた、可燃ごみをエタノールに変換する主な方法は、ガス化と微生物触媒(バイオ技術)を組み合わせた革新的なプロセスです。

 これは、従来の生化学的なエタノール生産方法とは異なり、ごみを一旦、分子レベルのガスに分解してから、特定の微生物の力でエタノールに作り替えるのが特徴です。そのプロセスは、大きく分けて以下の3つのステップで構成されています。

1. ごみの「ガス化」(熱化学的変換)

 まず、生ゴミや紙、プラスチックなどが混ざった可燃ごみを、既存の技術であるガス化技術を用いて処理します。

  • 方法: 低酸素の状態でごみを熱分解します。
  • 結果: ごみは、一酸化炭素(CO)水素(H2)といった、化学組成が単一のガス分子レベルにまで分解されます。
    • これにより、雑多なごみが、微生物が利用できる均質な「原料」に変換されます。

2. ガスの「精製」(ブレークスルー技術) 

 ステップ1で生成されたガス(ごみ由来合成ガス)には、微生物の働きを阻害する夾雑物質(きょうざつぶっしつ)や不純物が大量に含まれています。

  • 課題: これらの不純物をそのまま微生物に与えると、エタノール生産が妨げられてしまいます。
  • 積水化学/LanzaTechの工夫: 約400種類に及ぶ夾雑物質を特定し、それらを取り除くための高度なガス精製技術と、ごみの成分変動に合わせてリアルタイムでプロセスを制御する技術を開発しました。

3. エタノールの「生産」(微生物触媒・発酵)

 精製されたクリーンなガスに、特定の微生物(ランザテック社が保有)を投入します。

  • 微生物の役割: 微生物が、精製されたガス(COやH2)を代謝物として取り込み、発酵の力でエタノール(C2H5OH)を生産します。
  • 特徴: この微生物は、従来の微生物よりも高い反応速度を持ち、熱や圧力を必要としないため、省エネルギーでエタノールを生産できる点が大きな特長です。

 この技術は、地球温暖化の原因となる化石燃料の使用を減らし、ごみ問題を同時に解決する資源循環型社会の実現に向けて非常に期待されていましたが、前述の通り、コスト面で課題が残ったため、残念ながら事業撤退という判断に至りました。

可燃ごみをガス化して一酸化炭素(CO)などに分解後、これを精製します。その後、微生物の力でガスを発酵させ、最終的にエタノールを生産する技術です。

なぜ生産コストが高いのか

 積水化学工業がごみエタノール事業から撤退した最大の理由は、「生産コストが高く、商業化の採算が取れない」と判断されたためです。

 この技術が抱えるコスト高の主な要因は、特に可燃ごみを「原料」として利用する際のプロセスの複雑さにあります。

1. ごみ特有の「前処理・精製コスト」が高い

 通常のバイオエタノールは、サトウキビやトウモロコシなど、成分が均一で利用しやすい原料(バイオマス)を使います。しかし、ごみエタノールの場合、原料は非常に複雑で不安定です。

  • 不安定な原料への対応: 可燃ごみは、紙、プラスチック、生ゴミなど、日によって、地域によって成分が大きく変動します。
  • 高度なガス精製技術: 微生物に与える前に、ごみをガス化した際に発生する約400種類もの不純物(夾雑物)を徹底的に除去・精製しなければなりません。微生物は非常にデリケートなため、この精製プロセスに高度な技術多大な費用がかかり、コストを押し上げていたと考えられます。

2. プロセス全体の「安定制御」に費用がかかる

 成分が変動するごみに対し、微生物の活性を常に一定に保ち、安定してエタノールを生産し続けるためには、リアルタイムでの精密な培養コントロール技術が必要です。

  • 制御技術の費用: この複雑なプロセスを安定稼働させるためのセンサーや制御システム、オペレーション費用などが、従来の化石燃料由来のエタノールや、単純なバイオマス由来のエタノール製造に比べて高くなりがちです。

3. 規模の経済が働きにくい(初期投資の回収)

 新しく革新的な技術であるため、実証プラントの建設や研究開発に巨額の初期投資がかかっています。

  • 投資回収の遅れ: 生産コストが高いために、市場で競争力のある価格でエタノールを販売できず、投資した費用を回収するための時間がかかる、または回収が難しいと判断された可能性があります。

 「原料が複雑な可燃ごみ」を「微生物が利用できるクリーンな原料」に変換するための高度な精製・制御プロセスに、想像以上のコストがかかったことが、撤退の最大の理由です。

可燃ごみの成分が不安定で、微生物が利用できるレベルまで高度なガス精製・処理が必要なためです。この複雑なプロセス制御と初期投資の費用が、コスト高の主因とされています。

エタノールは何に利用されるのか

 エタノール(エチルアルコール)は、その殺菌性、揮発性、油との溶解性といった特性から、非常に幅広い分野で利用される重要な有機化合物です。主な用途は、大きく分けて以下の3つに分類されます。

1. 消毒・除菌(医療・衛生分野)

 エタノールの最も身近な用途であり、細菌やウイルスに対する殺菌効果を利用しています。

  • 手指消毒剤: 病院、施設、一般家庭で使われる消毒用アルコールの主成分。
  • 医療器具の洗浄・消毒: 手術部位や医療機器の殺菌に使用されます。
  • 清掃・除菌: キッチン周り、トイレ、窓ガラスなどの除菌・清掃用スプレーにも使われます。

2. 燃料・エネルギー(工業分野)

 クリーンエネルギー源として、またガソリンの添加剤として利用されます。

  • バイオ燃料(バイオエタノール): ガソリンに混合して使われ、化石燃料の使用削減に貢献します(例:E3、E10など)。
  • 液体燃料: ランプやキャンプ用品などの燃料用アルコールとしても利用されます。

3. 原料・溶剤(化学工業・食品分野)

 様々な製品を作る際の原料や、物質を溶かすための溶剤として欠かせません。

  • 飲料(酒類): ビール、ワイン、日本酒、ウイスキーなど、アルコール飲料の主成分です。
  • 食品添加物: 食品の日持ち向上剤や、香料の抽出・溶解のための溶剤として使われます。
  • 化粧品・医薬品: 化粧水、香水、ヘアトニック、シャンプー、外用薬などの原料や溶剤。
  • 工業原料: 塗料、インク、接着剤、洗剤などを製造する際の溶剤や化学反応の原料として大量に使われます。

 ごみからエタノールを製造する技術は、この「燃料」や「工業原料」として利用することで、石油に頼らない持続可能な社会を目指していました。

消毒・除菌剤として医療や衛生分野で最も広く使用されます。他に、ガソリンに混合するバイオ燃料としての利用や、化粧品・インク・塗料などの工業原料・溶剤としても不可欠です。

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