この記事で分かること
- 自己修復性フィルムとは:傷やへこみが自然に修復するという機能を持つフィルムです。自己修復性の方法には、形状記憶型、可逆結合型、マイクロカプセル型があります。
- 形状記憶型:熱を加えることで分子の動きが活発になり、記憶された架橋構造に基づいて元の形状に戻る形状記憶ポリマーや元の安定した結晶構造に戻ろうとする力が働き、変形した形状が回復する形状記憶合金があります。
- 可逆結合型:化学結合や物理的な相互作用が、傷によって分離した分子同士を再び引き寄せ、結合させることで、傷を消しています。
- マイクロカプセル型:フィルムの内部に非常に小さなカプセルが分散されており、そのカプセルの中に修復材が封入されており、傷が発生すると内部の修復材が漏れ出し、傷口を埋めることで傷を消しています。
自己修復性フィルム
富士キメラ総研によると、機能性フィルム市場は堅調な成長を見せる予想とされています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00746076
2023年の市場規模は約282億4,000万米ドルで、2030年には476億4,000万米ドルに達すると見込まれており、年平均成長率(CAGR)は7.75%とする予想もあります。
今回は機能性フィルムの中でも自己修復性を持つフィルムの解説となります。
自己修復性フィルムとは
自己修復性フィルムは、傷やへこみが自然に修復するという画期的な機能を持つフィルムです。この特性により、様々な分野で製品の寿命延長や美観維持に貢献しています。
自己修復のメカニズム
- 形状記憶型: 外部からの力で変形しても、特定の温度や刺激を与えることで元の形状に戻る高分子を利用しています。
- 可逆的結合型: 分子同士の結合が壊れても、再び結合する性質を持つ素材を利用しています。熱などのエネルギーを加えることで、切断された部分が再結合し、修復されます。
- マイクロカプセル型: 傷がつくと内部の修復剤が染み出し、傷口を埋める仕組みです。
自己修復性フィルムの利点
- メンテナンスの手間を軽減: 小さな傷であれば自然に修復するため、頻繁なメンテナンスや修理の必要がありません。
- 製品寿命の向上: 傷による劣化を防ぎ、製品を長く使用できます。
- 美観の維持: 常にきれいな状態を保ち、製品の価値を高めます。
- 保護機能の維持: 傷が原因で保護機能が低下するのを防ぎます。
自己修復性フィルムの応用分野
- 自動車の paint protection film (PPF)
- スマートフォンの画面保護フィルム、
- 建材、衣料品、電子機器など、
特に自動車分野では、飛び石などによる傷から車体を守り、美しい状態を長期間維持するために広く利用されています。

自己修復性フィルムは、傷やへこみが自然に修復するという機能を持つフィルムです
形状記憶性とは何か
形状記憶性を示す材料には、形状記憶ポリマーや形状記憶合金などがあり、使用されている素材の分子構造によって以下のようなメカニズムをもっています。
1. 形状記憶ポリマーの場合
- ガラス転移温度(Tg)の利用: 形状記憶ポリマーは、特定の温度(ガラス転移温度)を境に、ゴムのように柔らかい状態とガラスのように硬い状態を可逆的に変化します。
- ネットワーク構造: ポリマー内部には、網目状の架橋構造が存在します。この架橋構造が、元の形状を記憶させる役割を果たします。
- 形状の記憶と固定:
- 高温(Tg以上)でポリマーを柔らかくし、目的の形状に変形させます。
- その状態で冷却すると、架橋構造によって変形した形状が固定されます。
- 再び高温(Tg以上)に加熱すると、分子の運動が活発になり、架橋構造が記憶している元の安定な形状に戻ろうとします。
2. 形状記憶合金
- 結晶構造の相変態: 形状記憶合金は、温度や応力によってマルテンサイト相とオーステナイト相という異なる結晶構造の間で相変態を起こします。
- 形状記憶効果:
- 低温のマルテンサイト相では変形しやすい状態にあります。この状態で変形させても、原子間の結合は切断されずにわずかにずれるだけです。
- 加熱して高温のオーステナイト相に変化させると、元の安定した結晶構造に戻ろうとする力が働き、変形した形状が回復します。
- 超弾性: 特定の合金では、マルテンサイト相でも力を取り除くと瞬時に元の形状に戻る超弾性という性質を示すものもあります。

形状記憶ポリマーの場合は、熱を加えることで分子の動きが活発になり、記憶された架橋構造に基づいて元の形状に戻ります。
形状記憶合金では、元の安定した結晶構造に戻ろうとする力が働き、変形した形状が回復します。
可逆的結合が可能な理由
可逆的結合型の自己修復性フィルムはフィルムを構成する分子間に可逆的な化学結合や物理的な相互作用が働いています。
これらの結合や相互作用は、外部からの刺激(主に熱)によって一時的に切断されたり弱まったりしても、その刺激がなくなると再び形成される性質を持っています。
1. 可逆的な化学結合
- ディールス・アルダー反応: 特定の官能基を持つ分子同士が、熱などの刺激によって結合したり解離したりする可逆的な反応を利用します。傷によって結合が切断されても、再び熱を加えることで元の結合が再形成され、修復が起こります。
- 水素結合: 水素原子を介した分子間の弱い結合ですが、多数存在することで比較的強い相互作用となります。温度変化などによって結合と解離が繰り返されることで、修復機能を発揮します。
- 金属錯体: 金属イオンと有機分子が形成する錯体は、外部刺激によって結合状態が変化する場合があります。この性質を利用して、自己修復機能を付与することができます。
2. 可逆的な物理的相互作用
- ファンデルワールス力: 分子間に働く弱い引力ですが、分子同士が近づくことで再び作用し、切断された面を繋ぎ合わせる役割を果たします。
- イオン結合: 正と負に帯電したイオン間の静電気的な引力も、条件によっては可逆的に形成・解離します。
- 疎水性相互作用: 水を避ける性質を持つ分子同士が集まろうとする力も、自己修復に利用されることがあります。

化学結合や物理的な相互作用が、傷によって分離した分子同士を再び引き寄せ、結合させることで、マクロに見ると傷が修復されたように見えるのです。多くの場合、熱などの外部エネルギーが、分子の運動性を高め、再結合を促進する役割を果たします。
マイクロカプセル型の仕組みはどのようなものか
マイクロカプセル型の自己修復性フィルムの仕組みは、フィルムの内部に非常に小さなカプセルが分散されており、そのカプセルの中に修復材が封入されているという点にあります。
傷が発生すると、その衝撃でカプセルが破壊され、内部の修復材が漏れ出し、傷口を埋めることで自己修復が行われます。
修復材とは
マイクロカプセルに封入される修復材は、傷の種類やフィルムの用途によって様々なものが用いられますが、一般的には以下のような性質を持つ化合物が利用されます。
- 液状または半液状: カプセルからの放出と傷口への浸透を容易にするため。
- 硬化性: 放出後に適切な刺激(空気、光、熱、触媒など)によって固体状に硬化し、傷口を塞ぐことができる。
- 接着性: フィルム基材や傷口の表面にしっかりと接着し、修復効果を持続させる。
- 透明性または類似の色: 修復後の外観を損なわないように、透明またはフィルム基材に近い色のものが多い。
具体的な修復材の例
- モノマーと硬化剤の組み合わせ: 傷によってカプセルが壊れると、内包されていたモノマーと硬化剤が混ざり合い、重合反応を起こして硬化するタイプ。
- 紫外線硬化性樹脂: 紫外線が照射されることで硬化する液体樹脂を封入したタイプ。傷によって露出した部分に紫外線が当たることで硬化します。
- エポキシ樹脂: 主剤と硬化剤を別々のマイクロカプセルに封入し、傷によって両方のカプセルが壊れることで混合・硬化するタイプ。

マイクロカプセル型の自己修復性フィルムには、フィルムの内部に非常に小さなカプセルが分散されており、そのカプセルの中に修復材が封入されています。傷が発生すると、その衝撃でカプセルが破壊され、内部の修復材が漏れ出し、傷口を埋めることで自己修復が行われます。
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