この記事で分かること
- EDSとは:電子線が試料に当たった際に放出される、元素固有の「特性X線」を検出して成分を調べる手法です。SEMで形を見ながら、その場所に含まれる元素の種類や含有量を特定可能です。
- 特性X線とは:電子線によって原子の内側の電子が弾き出された際、外側の電子がその空席を埋めるために移動します。この時に放出される余剰エネルギーが特性X線です。
- 反射電子との使い分け:どちらも「物質の重さ(原子番号)」に関係する情報を出しますが、役割が異なります。反射電子は「スピードと位置の特定」に優れ、「正確な元素の特定」はEDSが優れます。
SEM-EDS
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回はEDSに関する記事となります。
EDSとはなにか
EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:エネルギー分散型X線分光法)とは、SEMで試料を観察しながら、「そこにどんな元素が、どれくらい含まれているか」を調べる元素分析手法のことです。
SEMの画像が「形」を見せるのに対し、EDSは「中身(成分)」を教えてくれます。
EDSの仕組み:なぜ元素がわかるのか
- 電子線がぶつかる: 電子ビームが試料の原子に当たると、原子の内側にある電子が弾き飛ばされます。
- 電子の移動: 空いた穴を埋めるために、外側の電子が内側へ移動します。
- X線の放出: この移動の際、余ったエネルギーが「特性X線」として外に放出されます。
- 元素の特定: このX線のエネルギー量は元素ごとに決まっている(固有)ため、放出されたX線を測れば「これは鉄のX線だ」「これは金のX線だ」と判別できるのです。
EDSでできること
- 定性分析: 「この異物は何でできているか?(例:鉄とクロムが含まれている)」を特定する。
- 定量分析: 「成分の比率はどれくらいか?(例:鉄70%、クロム30%)」を算出する。
- 元素マッピング: 各元素がどこに分布しているかを、色分けした地図のように表示する。

電子線が試料に当たった際に放出される、元素固有の「特性X線」を検出して成分を調べる手法です。SEMで形を見ながら、その場所に含まれる元素の種類や含有量を特定でき、異物分析や材料開発に欠かせません。
特性X線とは何か
特性X線(とくせいエックスせん)とは、元素ごとに固有のエネルギー(色のようなもの)を持ったX線のことです。
SEMにおいて、電子線が試料にぶつかった時に発生する「元素の指紋」のような役割を果たします。
特性X線が発生する仕組み
特性X線は、原子の内部で起こる「電子の席替え」によって生まれます。
- 内側の電子が弾き飛ばされる: 電子ビームが原子に当たると、中心に近い「内殻(ないかく)」にいた電子が外へ弾き出され、そこに空席ができます。
- 外側の電子が穴埋めをする: 原子は不安定な状態を嫌うため、外側の軌道にいた電子が、空いた内側の席へと飛び込みます。
- 余ったエネルギーを放出: 外側の軌道はエネルギーが高く、内側は低いため、移動した際にエネルギーが余ります。この余分なエネルギーが「X線」として外に放出されます。
なぜ「特性」と呼ばれるのか
原子内の各軌道(K殻、L殻など)のエネルギーの差は、元素の種類(原子番号)によって厳密に決まっています。
そのため、放出されるX線のエネルギーを測ることで、「このX線は鉄から出たものだ」「これは金からだ」と100%特定できるのです。

電子線によって原子の内側の電子が弾き出された際、外側の電子がその空席を埋めるために移動します。この時に放出される余剰エネルギーが特性X線です。エネルギー量は元素ごとに固有であるため、成分を特定する「指紋」として利用されます。
なぜ元素の種類によってエネルギー差が決まっているのか
原子の種類(元素)によってエネルギー差が厳密に決まっているのは、「原子核に含まれるプラス(陽子)の数」が元素ごとに異なるからです。
1. 原子核が電子を引っ張る力
原子の中心にある原子核はプラスの電気を帯びており、周りの電子を磁石のように強く引きつけています。
- 原子番号が小さい元素(例:炭素): 陽子が少なく、引きつける力が比較的弱い。
- 原子番号が大きい元素(例:金): 陽子が多く、電子を猛烈に強い力で引きつける。
2. 軌道のエネルギーレベルが変わる
電子が回る「軌道(K殻、L殻など)」のエネルギーの高さは、この原子核の引きつける強さによって決まります。
原子核の力が強ければ強いほど、電子を内側の軌道に留めておくために必要なエネルギー状態(束縛エネルギー)は大きくなります。
3. 「差額」が固有の値になる
「外側の軌道」と「内側の軌道」のエネルギーの高さが元素ごとにバラバラなので、その引き算の結果(エネルギー差)も、当然その元素にしかない固有の値になります。
この「差額」がそのまま特性X線のエネルギーとして放出されるため、X線を調べれば元素が特定できるのです。

元素ごとに原子核内の陽子の数が異なり、電子を جهきつける引力の強さが違うためです。これにより各軌道のエネルギーレベルに元素特有の「高さ」が生まれ、その軌道間の差額(X線)も元素固有の値となります。
特性X線はどのように検出されるか
特性X線の検出は、主に「シリコン半導体検出器」という装置で行われます。
1. X線を「電気」に変える
試料から飛び出した特性X線が、検出器の先端にあるシリコン(Si)半導体に当たります。すると、X線のエネルギーによって半導体内部の電子が弾き飛ばされ、「電子」と「正孔(穴)」のペアが発生します。
2. エネルギーの大きさを測る
発生する電子ペアの数は、当たったX線のエネルギーが強ければ多いほど、弱ければ少なくなります。
- 高エネルギーのX線: 電子ペアがたくさんできる。
- 低エネルギーのX線: 電子ペアが少しだけできる。
3. 電気信号をカウントする
この電子の数を瞬時に計測し、「今、〇〇の強さ(エネルギー)のX線が1個来た」とデータ化します。これを繰り返すことで、横軸がエネルギー、縦軸が検出回数のグラフ(スペクトル)ができあがり、ピークの位置から元素を特定します。

シリコン半導体検出器(SDD)を用います。X線が半導体に当たった際に発生する「電子の数」が、X線のエネルギー量に比例する性質を利用します。この電子の数を測定・集計することで、元素の種類と含有量を特定します。
反射電子とEDSの使い分けはどうか
反射電子(BSE)とEDSの使い分けは、「スピードと位置の特定」か、それとも「正確な元素の特定」か、という目的の違いで決まります。どちらも「物質の重さ(原子番号)」に関係する情報を出しますが、役割が異なります。
反射電子とEDSの比較
| 特徴 | 反射電子(BSE) | EDS(元素分析) |
| わかること | 重いか軽いか(分布) | 何の元素か(種類と量) |
| 表示方法 | 白黒の濃淡画像 | 元素ごとの色分けマップ・グラフ |
| スピード | 非常に速い(リアルタイム) | 遅い(スキャンに数分かかる) |
| 得意なこと | 異物や境目の「見当」をつける | 異物の「正体」を突き止める |
具体的な使い分けのステップ
実際の測定では、この2つを「リレー」のように組み合わせて使います。
- まず「反射電子」で探す(下見)広い範囲を白黒画像で眺めます。周りより明るく(白く)光っている場所があれば、「そこに周りとは違う重い物質(金属など)がある」と瞬時にわかります。
- 次に「EDS」で調べる(確定判定)反射電子で見つけた「白い点」に電子線をじっと当てます。出てきた特性X線を分析して、「この白い点は鉄(Fe)ではなく金(Au)だった」とはっきり特定します。

まず「反射電子」を使い、リアルタイムの白黒画像で物質の重さの違い(分布)を素早く把握します。次に、気になる箇所を「EDS」で精密に測定し、それが具体的な何の元素(鉄や金など)であるかを特定します。

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