センダスト合金 軟磁性合金となる理由は何か?どのような用途があるのか? 

この記事で分かること

  • センダスト合金とは:鉄、ケイ素、アルミニウムを主成分とする軟磁性合金です。高い透磁率と耐摩耗性、飽和磁束密度を併せ持ち、磁気ヘッドや磁心材料として利用されました。
  • 軟磁性合金とは:外部磁場をかけるとすぐに磁化され、磁場を取り除くと磁気を失う合金です。高い透磁率と低い保磁力を持つのが特徴です。
  • 用途:優れた軟磁性特性と耐摩耗性を活かし、磁気ヘッドとして広く使われていました。また、高い透磁率と低いエネルギー損失を求められる、高周波トランスやチョークコイルなどの磁心材料としても利用されました。

センダスト合金 

 合金は、2種類以上の金属、または金属と非金属を混ぜ合わせて作られた物質です。

 この混合物は、元の成分とは異なる新しい特性を持ち元の金属にはない、より優れた強度、硬度、耐食性といった特性を持つことがあります。身近な例として、鉄に炭素を混ぜた鋼や鉄にクロムなどを混ぜたステンレス鋼があり、様々な用途で利用されています。

 今回は鉄とケイ素、アルミニウムの合金であるセンダスト合金に関する記事となります。

センダスト合金とは何か

 センダスト合金は、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)を主成分とする軟磁性合金です。高透磁率、高い飽和磁束密度、優れた耐摩耗性を持ち、ニッケルを多く含むパーマロイに代わる材料として、1930年代に日本の東北大学で開発されました。

 名称は、開発された場所が仙台(Sendai)であることと、脆くてもろいため粉末(dust)にして使用されたことに由来します。


特徴と用途

 センダスト合金は以下の特徴から、さまざまな電子部品に利用されてきました。

  • 高透磁率: 磁化しやすい性質で、磁界を効率よく集めることができます。
  • 高い飽和磁束密度: より強い磁束を扱うことができるため、機器の小型化や高性能化に貢献します。
  • 優れた耐摩耗性: 硬くて摩耗しにくいため、繰り返し接触する用途に適しています。

これらの特性を活かし、主に以下のような用途で使われています。

  • 磁気ヘッド: オーディオやビデオデッキ、ハードディスクドライブ(HDD)などの磁気記録・再生ヘッドとして広く使われていました。その硬さから、磁気テープやディスクとの接触に耐えることができました。
  • 磁心材料: 高周波トランスやチョークコイルのコア(磁心)として、電源回路や周波数選別回路などに用いられます。
  • 磁気センサー: 最近では、高感度な磁気センサーの材料としても再評価され、脳磁計などの医療機器への応用が期待されています。

センダスト合金は、鉄(Fe)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)を主成分とする軟磁性合金です。高い透磁率と耐摩耗性、飽和磁束密度を併せ持ち、磁気ヘッドや磁心材料として利用されました。ニッケルを多く含むパーマロイの代替材料として、1930年代に日本の東北大学で開発されました。

軟磁性合金とは何か

 軟磁性合金は、外部磁場をかけるとすぐに磁化され、磁場を取り除くと磁気を失う(つまり、磁力を保持しない)性質を持つ合金です。この「磁化しやすく、磁化を失いやすい」という性質は、透磁率が高いことと保磁力が低いことによって決まります。

主な特徴と用途

 軟磁性合金は、その特性から電磁気エネルギーの変換や伝送、情報処理に不可欠な材料です。

  • 高い透磁率: 弱い磁場でも強く磁化されるため、磁気を効率よく集めることができます。
  • 低い保磁力: 磁場を失うとすぐに元の状態に戻るため、交流磁場でのエネルギー損失(ヒステリシス損)が小さいです。

 これらの特性を活かし、トランスやモーターのコア(磁心)、インダクタやチョークコイル、高感度な磁気センサー、そして外部の磁気ノイズから機器を保護する磁気シールドなどに幅広く使用されています。


代表的な軟磁性合金

 軟磁性合金には、用途や求められる特性に応じて様々な種類があります。

  • 電磁純鉄: 高い飽和磁束密度を持ち、電磁石やソレノイドのコアに用いられます。
  • ケイ素鋼板: 主に鉄とケイ素の合金で、変圧器やモーターのコアとして広く使われます。
  • パーマロイ: 鉄とニッケルの合金で、非常に高い透磁率を持ち、磁気シールドや磁気ヘッドに利用されます。
  • センダスト: 鉄、ケイ素、アルミニウムの合金で、高い透磁率と優れた耐摩耗性を持ち、磁気ヘッドなどに使われました。
  • アモルファス合金・ナノ結晶合金: 非晶質構造を持つ金属で、極めて優れた軟磁性を示し、高周波対応のトランスやノイズフィルターなどに利用されます。

軟磁性合金は、外部磁場をかけるとすぐに磁化され、磁場を取り除くと磁気を失う合金です。高い透磁率と低い保磁力を持つのが特徴で、モーターや変圧器のコア、磁気ヘッド、磁気シールドなど、様々な電子部品に利用されます。

センダスト合金が磁化しやすい理由は

 センダスト合金が磁化しやすいのは、特定の組成比(鉄、ケイ素、アルミニウム)によって、磁化のしやすさを妨げる二つの要因、磁気異方性磁歪がほぼゼロになるためです。

磁気異方性

 磁性体には、磁化しやすい方向(磁化容易軸)と磁化しにくい方向があります。この性質を磁気異方性と言います。センダストは、特定の組成でこの磁気異方性が最小になるよう調整されており、どの方向からも磁化しやすくなります。

磁歪

 磁歪とは、磁場をかけたときに材料がわずかに変形する現象です。この変形が結晶の内部応力を生み出し、磁化を妨げる抵抗力になります。

 センダストは、アルミニウムやケイ素の添加量を調整することで、この磁歪がほとんどゼロになるため、磁化を妨げる内部応力がなくなり、非常に磁化しやすくなります。

 これらの要因を最適化することで、センダスト合金は高い透磁率(磁化のしやすさ)と低い保磁力(磁化を失いにくさ)という、軟磁性材料に求められる優れた特性を実現しています。

センダスト合金は、鉄、ケイ素、アルミニウムの特定の組成比によって、磁化を妨げる要因である磁気異方性磁歪がほぼゼロになるため、非常に磁化しやすいです。これにより、高い透磁率(磁化のしやすさ)を実現しています。

磁気異方性が最小になる理由は何か

 磁気異方性が最小になる理由は、合金の組成比が特定の条件を満たすことで、結晶の磁気的な特性がどの方向でも均一になるように調整されているためです。

磁気異方性とは

 磁気異方性とは、磁性体が結晶の特定の方向には磁化しやすく、他の方向には磁化しにくい性質を持つことです。これは、結晶を構成する原子の配列や、電子の軌道状態によって生じます。例えば、鉄(Fe)の結晶は、[100]方向(結晶の辺に沿った方向)が最も磁化しやすくなっています。

センダスト合金の場合

 センダスト合金(Fe-Si-Al)は、鉄(Fe)にケイ素(Si)とアルミニウム(Al)を特定の比率(Fe:約85%、Si:約9.6%、Al:約5.4%)で添加することで、磁気異方性がほぼゼロになるように設計されています。これは、以下の2つの要因が影響しています。

  • 結晶構造の変化: ケイ素とアルミニウムを添加することで、純粋な鉄の結晶構造とは異なる、磁気異方性の小さな結晶構造が形成されます。
  • 磁気異方性の打ち消し合い: 鉄、ケイ素、アルミニウムそれぞれの原子の電子的な特性が相互に作用し、結晶内部の磁気異方性を生み出す力が互いに打ち消し合うように働きます。

 この結果、センダスト合金は、外部からの磁場に対してどの方向からも抵抗なく磁化しやすくなり、高い透磁率(磁化のしやすさ)という優れた軟磁性特性を発揮します。この性質は、パーマロイなど他の軟磁性合金にも見られ、特定の組成比で磁気異方性が最小になるよう調整されています。

センダスト合金は、鉄(Fe)にケイ素(Si)とアルミニウム(Al)を特定の比率で添加することで、結晶磁気異方性をほぼゼロにしています。これにより、磁化のしやすさに方向性がなくなり、外部の磁場に対して非常に敏感に反応する高い透磁率という優れた軟磁性特性を発揮します。

低い保磁力となる理由は

 軟磁性材料が低い保磁力を持つのは、磁性体の内部で磁化の向きを揃える(磁化する)のを妨げたり、一度揃った向きを元に戻したりする力が小さいためです。この「磁化を妨げる力」は、主に磁壁の動きやすさによって決まります。

磁壁の動きやすさ

 磁性体は、内部で微小な磁石の集まりである「磁区」に分かれています。この磁区同士の境界を磁壁と呼びます。外部から磁場をかけると、磁壁が移動して、磁場の向きと同じ方向を向く磁区が拡大し、磁化が進みます。

 低い保磁力を持つ材料は、この磁壁が少しの力でもスムーズに動けるように、以下の要素が制御されています。

  • 結晶の欠陥が少ない: 結晶の格子欠陥や不純物が少ないほど、磁壁の動きを妨げる「ピン止め効果」が小さくなります。
  • 磁気異方性が小さい: 磁化のしやすさに方向性の違いが少ないため、磁壁がどの方向にも自由に動けます。
  • 内部応力が少ない: 材料内部のひずみや応力が少ないほど、磁歪(磁化による変形)が小さくなり、磁壁の動きが妨げられません。

 これらの特性を最適化することで、弱い磁場でも磁壁が簡単に動き、材料全体が磁化しやすくなります。そして、磁場を取り除くと、磁区の向きはすぐに元のランダムな状態に戻るため、磁気が残りません。これが軟磁性材料が低い保磁力を持つ理由です。

軟磁性合金が低い保磁力を持つのは、磁性体の内部で磁化の向きを揃える(磁化する)のを妨げる力が小さいからです。具体的には、磁化の向きが変わる境界面である磁壁が、結晶の欠陥や内部応力によってピン止めされることが少ないため、弱い磁場でも自由に動くことができます。そのため、磁場がなくなるとすぐに磁化がゼロに戻り、磁力を保持しません。

センダスト合金の用途は

 センダスト合金は、その優れた軟磁性特性と耐摩耗性を活かし、主に磁気ヘッド磁心材料として利用されてきました。

主要な用途

  • 磁気ヘッド: オーディオデッキやビデオデッキ、ハードディスクドライブ(HDD)などの磁気ヘッドに広く使われていました。磁気テープやディスクと繰り返し接触するため、その硬さと耐摩耗性が非常に重要でした。
  • 磁心材料: 高周波トランスやチョークコイルのコア(磁心)として利用されました。高い飽和磁束密度と低いエネルギー損失(鉄損)は、電源回路や周波数選別回路の効率向上に貢献しました。

現代における用途と研究

 技術の進化により、かつての主力製品での用途は減少しましたが、センダスト合金の特性は再評価され、新しい分野への応用が期待されています。

  • 超高感度磁気センサー: 脳磁計などの医療機器や、高性能なセンサーの材料として研究が進んでいます。微弱な磁場を高感度に検出する能力が注目されています。
  • 高周波インダクタ: 電源の小型化に伴い、高周波で動作するインダクタのコア材料として、再び使用される機会が増えています。

磁気ヘッドとは何か、なぜ軟磁性特性が必要なのか

 磁気ヘッドは、磁気テープや磁気ディスクなどの磁気記録媒体に情報の書き込み(記録)と読み出し(再生)を行うための部品です。

 磁気ヘッドの基本的な構造は、磁気をよく通す磁心(コア)にコイルが巻かれており、その一部にわずかな隙間(ギャップ)が設けられています。このギャップから磁束を発生させたり、検出したりすることで、データの記録と再生を行います。


軟磁性特性が必要な理由

 磁気ヘッドに軟磁性特性が必要なのは、以下の2つの機能を実現するためです。

  1. 効率的な情報の書き込み:書き込み時、コイルに電流を流すと、磁心はすぐに磁化され、強い磁場を発生させます。この磁場はギャップから漏れ出し、記録媒体の磁性体を特定の方向に磁化します。このとき、磁心が高い透磁率(磁化しやすさ)を持つ軟磁性体であると、弱い電流でも効率的に強い磁場を発生させることができ、鮮明な記録が可能になります。
  2. 正確な情報の読み出し:再生時、磁化された記録媒体がギャップを通過すると、記録された磁気の変化に応じて磁心の磁束が変化します。この磁束の変化がコイルに誘導電流を発生させ、信号として読み出されます。このとき、磁心は低い保磁力(磁化を保持しにくい性質)を持つ軟磁性体であるため、記録された微弱な磁気の変化に敏感に反応し、正確な信号を読み取ることができます。

 つまり、軟磁性体は「必要な時に磁気を発生・集中させ、不要な時にはすぐに磁気を消す」という磁気ヘッドの役割に不可欠な特性を持っているのです。もし硬磁性体を使ってしまうと、一度磁化された磁気ヘッドが磁気を保持してしまい、次の信号を正確に記録・再生できなくなります。

磁気ヘッドは、磁気記録媒体への情報の書き込みと読み出しを行う部品です。コイルに電流を流すと素早く磁化され、電流を切ると磁気を失う軟磁性特性があるため、記録媒体の磁気情報を効率的に操作できます。これにより、データの記録・再生が正確に行えます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました