この記事で分かること
- 車載向け液晶ディスプレイとは:車載向け液晶ディスプレイは、自動車のダッシュボード等に組み込まれる表示装置です。メーターやナビ、操作パネルとして使われ、高温・低温、強い振動、太陽光にも耐える高い耐久性や視認性が求められます。スマートフォン向けとは異なる、高信頼性の特殊な技術が必要です。
- 注力する理由:シャープが車載向けパネルに注力する理由は、成長市場であること、そして高い収益性があるためです。自動車のデジタル化で需要が拡大しており、高温・振動に耐える高い信頼性が求められるため、価格競争に巻き込まれにくく、利益率が高い事業と見込まれているからです。
- 車載向けが有機ELに置き換えられない理由:車載向けで液晶パネルが有機ELに完全に置き換えられない理由は、コスト、耐久性、そして信頼性です。有機ELは製造コストが高く、長時間の同一表示による「焼き付き」や寿命の問題があります。一方、液晶パネルは低温や高温といった厳しい環境下でも安定して動作し、コストパフォーマンスに優れるため、特に大衆車やメーターパネルなど、高い信頼性が求められる部分で引き続き採用されています。
シャープ、車載向け液晶ディスプレイへの注力
シャープが2026年8月までにスマートフォン用液晶パネルの生産から撤退するとニュースになっています。液晶パネル事業全体としては大きな転換期を迎えていると言えます。
車載用のパネル製造に力を入れるものをされています。
車載向けのパネルとは何か
「車載向けのパネル」とは、自動車のダッシュボードやインパネ(インストルメントパネル)に組み込まれる各種ディスプレイの総称です。かつてはアナログのメーターが主流でしたが、近年は液晶や有機ELなどのデジタルディスプレイが急速に普及し、その用途は多岐にわたります。
主な用途と種類
- インストルメントクラスター(メーターパネル): 速度、エンジン回転数、燃料計、警告灯などを表示するディスプレイ。従来のメーターをデジタル化することで、表示内容をカスタマイズしたり、ナビゲーション情報と連携させたりすることが可能です。
- センターインフォメーションディスプレイ(CID): ダッシュボードの中央に位置する大型ディスプレイで、カーナビゲーション、オーディオ、エアコン、車両設定などの情報を統合的に操作・表示します。
- リアシートエンターテイメント: 後部座席の乗員が映画やゲームなどを楽しめるように設置されたディスプレイ。
- ヘッドアップディスプレイ(HUD): 運転席のフロントガラスに、速度やナビの指示などを投影する技術。運転者の視線移動を最小限に抑え、安全性を向上させます。
- デジタルミラー: サイドミラーやルームミラーをカメラとディスプレイに置き換えたもの。視野角が広がり、夜間でも鮮明な視界を確保できます。
車載パネルに求められる特殊な要件
スマートフォンやテレビ向けのパネルとは異なり、車載パネルは非常に厳しい環境下で使用されるため、以下のような特別な要件が求められます。
- 耐環境性: 自動車の車内は、夏は高温(85℃以上)、冬は低温(-30℃以下)になることがあり、温度変化に耐えうる耐久性が必要です。また、振動や衝撃にも強い構造が求められます。
- 高輝度・低反射: 強い太陽光の下でも情報を視認できるように、非常に高い輝度と低反射性能が不可欠です。
- 長寿命と高信頼性: 自動車は長期間にわたって使用されるため、パネルも長期間にわたって安定して動作することが求められます。
- 広い視野角: 運転席だけでなく、助手席や後部座席の乗員も快適に画面を共有できるように、広い視野角が重要となります。
- 安全性: 運転中に運転者の注意をそらさないようなデザインや表示内容の工夫が必要です。
今後の技術動向
- 大型化・一体化: 複数のディスプレイを1枚の大型パネルでシームレスに表示する「統合型ディスプレイ」が増加しています。
- 有機EL(OLED)の採用: コントラストが高く、応答速度が速い有機ELパネルは、特に高級車を中心に採用が進んでいます。
- 曲面ディスプレイ: 車内のデザインに合わせた曲面ディスプレイや、特殊な形状のディスプレイの開発も進んでいます。
- 拡張現実(AR)との融合: ヘッドアップディスプレイに、現実の道路上にナビゲーション情報や警告を表示するAR技術の導入が進んでいます。

車載向けのパネルとは、自動車のダッシュボード等に組み込まれるディスプレイの総称です。メーターやナビ、エアコン操作等に用いられ、高温・低温、振動、強い太陽光にも耐えうる高い耐久性と視認性が求められます。スマートフォン向けとは異なる、特殊な技術と信頼性が不可欠な分野です。
車載向けのパネルに力を入れる理由は何か
シャープをはじめとするディスプレイメーカーが車載向けパネルに力を入れる理由は、主に以下の3点に集約されます。
高成長市場であること
- 自動車のデジタル化、電動化(EV化)が進むにつれて、車内の情報表示はアナログメーターから大型で多機能なディスプレイへと急速に移行しています。
- ナビ、メーター、エアコン操作、リアシートのエンターテインメントなど、1台の車に複数のディスプレイが搭載される「マルチディスプレイ化」が進んでおり、市場規模は今後も大きく拡大すると予測されています。
- 矢野経済研究所の調査などでも、車載ディスプレイ市場は金額ベースで高い成長が期待されています。
高付加価値で、収益性が高いこと
- 車載パネルには、スマートフォンやテレビ向けとは異なり、高温・低温、振動、太陽光下での視認性など、非常に厳しい品質基準が求められます。
- これらの厳しい要件を満たすためには、高度な技術力と信頼性が不可欠であり、価格競争に陥りやすい汎用品とは一線を画すことができます。
- 特に、大型の一体型ディスプレイや有機EL(OLED)パネル、ヘッドアップディスプレイ(HUD)などは、より高い付加価値と利益率が見込めます。
事業ポートフォリオの転換
- シャープは、これまで主力であった大型液晶パネル事業で、中国や韓国メーカーとの熾烈な価格競争に直面し、採算が悪化しました。
- この反省から、価格競争に巻き込まれにくい、技術力が活かせる分野へと事業の軸足を移す必要がありました。
- 車載パネル事業は、シャープが長年培ってきた中小型液晶パネルの技術や、高輝度・低反射といった独自技術を活かせる最適な領域であり、収益性の改善に向けた戦略的な事業転換と位置付けられています。
シャープは実際に、三重県の亀山工場の一部を車載パネル専用工場として活用し、この分野での事業強化を明確に打ち出しています。これは、液晶パネル事業全体の構造改革において、車載事業が今後の成長の柱になると見込んでいるためです。

シャープが車載向けパネルに注力するのは、以下の理由によります。
事業転換: 収益が悪化した大型液晶パネル事業から、強みの中小型技術を活かせる分野へと軸足を移す戦略であるため。
成長市場: 自動車のデジタル化に伴い、ディスプレイ搭載数や大型化が進み、今後も市場の拡大が見込めるため。
高付加価値: 高温・低温や振動に耐える高い信頼性が求められ、価格競争に巻き込まれにくく、収益性が高い事業であるため。
車載向けも有機ELの採用が進むのではないのか
車載向けパネル市場においても、有機EL(OLED)の採用は進んでいますが、だからといって液晶パネルが完全に厳しくなるわけではありません。両者にはそれぞれ強みと弱みがあり、用途や車種のクラスによって使い分けられていく可能性が高いです。
液晶パネルが厳しい状況に陥る可能性
- 性能面での優位性: 有機ELは、自発光方式のため、バックライトが不要で薄型・軽量化が可能です。また、圧倒的な高コントラスト比や深い黒の表現、そして高速な応答速度に優れています。高級車や最新のEVでは、これらの美しい映像表現やデザインの自由度が重視されるため、有機ELの採用が進んでいます。
- デザイン性: 有機ELはフレキシブル(曲がる)パネルの製造も可能で、コックピットの曲面デザインに合わせたディスプレイを実現しやすいです。これにより、液晶では難しい斬新なインパネデザインが可能になります。
液晶パネルが今後も生き残る理由
それでも、液晶パネルが車載市場から消えることは考えにくいです。その理由は、有機ELが抱える課題と、液晶パネルの持つ強みがあるからです。
- コスト: 有機ELパネルは、液晶パネルに比べて製造コストがまだ高く、特に大型パネルではその差が顕著です。コストが重視される大衆車や、一部の商用車などでは、コストパフォーマンスに優れた液晶パネルが引き続き主流となるでしょう。
- 耐久性と寿命: 有機ELは、長時間の静止画表示による焼き付きのリスクや、液晶パネルに比べて寿命が短いという課題があります。常時表示される車のメーターパネルなどには、この点が大きなデメリットとなり得ます。
- 技術の進化: 液晶パネルも進化を続けており、ミニLEDバックライトを搭載した高精細・高輝度な「mini LED LCD」などが開発されています。これにより、有機ELに匹敵するコントラストと輝度を実現できるようになってきました。
- 生産体制: 多くのパネルメーカーは、長年にわたって液晶パネルの生産技術とノウハウを蓄積しており、安定した供給体制を構築しています。
まとめ
今後の車載向けパネル市場は、有機ELが高級車やデザイン性を重視した車種で存在感を増す一方で、コストと信頼性が重視されるメインストリームの車種では、依然として液晶パネルが中心的な役割を担うという「棲み分け」が進むと予想されます。
シャープのように、中小型の液晶パネルに強みを持つメーカーは、コスト効率の高い製品や、特定の用途に特化した高付加価値な液晶パネルを提供することで、この市場での競争力を維持していく戦略をとっていくと考えられます。
車載向け液晶パネルの有力メーカーは
車載用液晶パネルの有力メーカーは、グローバルな市場において競争が激化しており、特定の分野に強みを持つ企業が複数存在します。以下に主な企業を挙げます。
日本のメーカー
- シャープ: 中小型液晶パネルで長年の実績があり、車載向けにも積極的に注力しています。特に、高輝度・低反射といった車載特有の要求を満たす技術に強みを持っています。
- ジャパンディスプレイ(JDI): スマートフォン向けで苦戦した時期もありましたが、車載向けを成長戦略の柱の一つとしています。高い技術力を活かし、高精細・自由な形状の液晶パネルを提供しています。
- 京セラ: 産業用や車載用といった特殊な用途に強みがあり、高い信頼性と耐久性を要求される車載市場で存在感を示しています。
- スタンレー電気: 自動車用照明製品を主力としながら、液晶表示デバイスも手掛けており、特にヘッドアップディスプレイ(HUD)などの分野で実績があります。
韓国・台湾・中国のメーカー
- LGディスプレイ(韓国): テレビ向けの大型有機ELで世界をリードしていますが、車載向けにも有機ELパネルの供給を拡大しています。
- サムスンディスプレイ(韓国): 有機EL技術で世界的なシェアを持ち、車載向けでも高性能な有機ELパネルの供給を強化しています。
- AUO(友達光電、台湾): ノートPCやモニター向けで実績があり、車載向け液晶パネルでも主要プレイヤーの一つです。
- BOE(京東方、中国): 中国政府の後押しを受け、急速にシェアを拡大している世界最大のディスプレイメーカー。車載向けにも積極的な投資を行っています。
- 天馬微電子(Tianma、中国): 中小型液晶パネルに強みがあり、車載向けではグローバルで高いシェアを誇る有力メーカーの一つです。
これらのメーカーは、それぞれ得意な技術やコスト、そして生産規模が異なります。今後は、特に高級車向けでは有機EL、大衆車や一部の商用車向けではコストパフォーマンスに優れた液晶といった形で、技術と市場の「棲み分け」が進むと見られています。
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