島津製作所によるTescan社の子会社化 Tescan社はどんな企業か?島津製作所が子会社化する理由は?

この記事で分かること

  • Tescan社とは:ナノレベルの「観察・加工・分析」に強みを持つ世界有数の電子顕微鏡メーカーです。走査型電子顕微鏡(SEM)やFIB-SEMを主力とし、半導体やライフサイエンス分野で高い技術力を誇ります。
  • 島津製作所が子会社化する理由:自社の「成分分析技術」とテスカン社の「ナノレベルの観察・加工技術」を統合し、異なる手法のデータを重ね合わせる相関解析を簡便に行うことを目指しています。

島津製作所によるTescan社の子会社化

 島津製作所は、2025年12月25日、チェコを本拠とする電子顕微鏡(EM)のリーディングカンパニーであるTescan Group a.s.(テスカン社)を完全子会社化することを発表しました。

 https://jp.reuters.com/markets/global-markets/LY7ZR53QINMYXG4FKRLOUEOWSY-2025-12-25/

 この買収は、島津製作所がこれまで培ってきた「成分分析」の強みに、テスカン社の「表面観察・ナノレベル加工」の技術を統合し、半導体やライフサイエンス分野での競争力を飛躍的に高める戦略的な一手です。

Tescan社はどんな企業か

 テスカン社(Tescan Group a.s.)は、チェコのブルノに本社を置く、世界トップクラスの電子顕微鏡メーカーです。

 1991年に設立された比較的新しい企業でありながら、旧チェコスロバキア時代の国営企業「Tesla(テスラ)」から受け継いだ高度な光学技術を武器に、革新的な装置を次々と開発してきました。


1. 「見る」だけじゃない、独自の技術力

 テスカン社は、単に高倍率で観察するだけのメーカーではありません。以下の「マルチモーダル(多機能)」な技術が世界的に高く評価されています。

  • FIB-SEM(集束イオンビーム試料作製・観察): イオンビームでサンプルをナノ単位で削りながら、その断面をリアルタイムで観察する技術。半導体の故障解析には欠かせません。
  • 世界初の技術: 「ラマン分光器」や「ToF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析計)」を電子顕微鏡に統合するなど、1台の装置で形も成分も同時に分析できるユニークな製品を世界に先駆けて開発しています。
  • 4D-STEM: 2022年には、ナノレベルの構造・化学情報を同時に取得できる世界初の専用プラットフォーム「TENSOR」を発表しました。

2. 注目の主要ターゲット市場

 テスカン社の装置は、特に以下の最先端分野で大きなシェアを持っています。

分野主な用途
半導体回路の微細な欠陥チェック、故障箇所の特定、ナノレベルの加工。
蓄電池(EV等)リチウムイオン電池の内部構造の3D解析、劣化メカニズムの解明。
ライフサイエンス細胞や組織の3D構造解析(Cryo-FIB技術などを用いたバイオ研究)。
材料科学金属、ポリマー、地質サンプル(鉱物)などの新素材開発。

3. チェコ・ブルノという「顕微鏡の聖地」

 本社のあるチェコのブルノは、「世界の電子顕微鏡の約3台に1台が生産されている」と言われるほどの集積地です。

 テスカン社はこの地で培われた精密機械と光学の伝統をバックボーンに持ち、現在では世界80カ国以上に4,000台以上の納入実績を誇るグローバル企業へと成長しました。


島津製作所との関係

 これまでは日本の東陽テクニカが国内代理店として販売してきましたが、今回の買収により島津製作所の直販・サービス網に組み込まれます。

 これにより、「島津の分析技術(化学的アプローチ)」と「テスカンの顕微鏡技術(物理的アプローチ)」が合体することになり、ユーザーにとっては「これ1台で何でもわかる」ような画期的な装置の登場が期待されています。

テスカン社(チェコ)は、ナノレベルの「観察・加工・分析」に強みを持つ世界有数の電子顕微鏡メーカーです。走査型電子顕微鏡(SEM)やFIB-SEMを主力とし、半導体やライフサイエンス分野で高い技術力を誇ります。

島津製作所が子会社化する理由は

 島津製作所が約1,058億円を投じてテスカン(Tescan)社を完全子会社化する最大の理由は、以下に示すような「分析機器の総合メーカー」から、ナノレベルの解析までを一貫して提供できる「トータルソリューションプロバイダー」へと進化するためです。


1. 「分析」と「観察」の融合によるシナジー

 島津製作所は「何が含まれているか(成分分析)」を調べる技術に強いですが、テスカン社は「どんな形か(表面観察)」をナノレベルで見る技術に長けています。

  • メリット: これまで別々に行っていた「形を見る」ことと「成分を分析する」ことを、1台の装置や共通のソフトウェアでシームレスに行えるようになります。これにより、研究開発のスピードが劇的に向上します。

2. 急成長する半導体・蓄電池市場への攻勢

 テスカン社が持つ「FIB-SEM(集束イオンビーム試料作製・観察)」技術は、半導体の故障解析やリチウムイオン電池の内部構造解析に不可欠です。

  • 狙い: 微細化が進む半導体や、高性能化が求められるEV用電池などの成長市場において、欠かせないプレイヤーになることを目指しています。

3. グローバルな販売・製造網の相互補完

 両社は得意とする地域が異なるため、互いのネットワークを最大限に活用できます。

  • 島津の強み(アジア): テスカン製品を、島津が強いアジア市場(中国、東南アジア、日本)へ一気に浸透させます。
  • テスカンの強み(欧米): 島津はテスカンの拠点を通じて、欧州や北米での存在感を高めます。
  • 製造効率: テスカン製品を島津の工場で生産することで、コスト削減と利益率の向上も図ります。

4. 成長の「ミッシングピース」を埋める

 島津製作所の中期経営計画では、M&A(合併・買収)による非連続な成長(インオーガニック成長)を掲げてきました。

  • 背景: 電子顕微鏡市場は年率5%以上の成長が見込まれる高収益分野ですが、島津はこの分野の自社製品が手薄でした。テスカン社を買収することで、自社に足りなかった「電子顕微鏡」という強力な武器を手に入れたことになります。

 「島津の化学的な分析力」と「テスカンの物理的な観察力」を合体させ、世界最先端の研究・製造現場で選ばれる唯一無二のメーカーになることが、今回の子会社化の狙いです。

自社の「成分分析技術」とテスカン社の「ナノレベルの観察・加工技術」を統合し、半導体や蓄電池、ライフサイエンスなどの最先端分野で包括的なソリューションを提供し、グローバルシェアを拡大するためです。

分析と観察の融合の具体例は

 「分析(成分を知る)」と「観察(形を見る)」を融合させると、これまでの研究・開発プロセスが根本から変わります。島津製作所とテスカン社の技術が合体することで実現する、具体的な活用例としては以下のようなものがあります。


1. リチウムイオン電池の「劣化メカニズム」解析

 電池が劣化する際、内部で何が起きているかを解明するプロセスです。

  • これまでの課題: 電子顕微鏡で「ひび割れ(形)」を見つけた後、別の装置にサンプルを移動させて「そこに何の成分が溜まっているか」を分析する必要があり、位置合わせが困難でした。
  • 融合のメリット: テスカンのFIB-SEMで電池をナノ単位で削りながら断面を観察し、その場で島津の質量分析技術を適用します。
  • 結果: 「どの場所(観察)」に「どの元素が、どんな化学状態で(分析)」存在するかを、数ナノメートルの精度で一致させた3Dマップが作れます。

2. 次世代半導体の「異物・欠陥」特定

 回路の微細化が進む半導体製造において、数ナノメートルのゴミ(異物)は致命的です。

  • 具体的な流れ: まず電子顕微鏡で回路上の異常箇所を特定(観察)し、そのまま同じ装置内でイオンビームを用いて異物を露出させます。
  • 融合のメリット: 露出した異物に対して、島津の分析センサーを連動させることで、それが「製造装置の部品の破片」なのか「外部からの有機物」なのかを瞬時に特定します。
  • 結果: 汚染源の特定が早まり、工場の歩留まり(良品率)を劇的に改善できます。

3. がん細胞や創薬における「薬剤分布」の可視化

 薬が細胞内のどこに届いているかを確認するバイオ分野の例です。

  • 具体的な流れ: 電子顕微鏡で細胞内の小器官(ミトコンドリアなど)の構造を精緻に捉えます(観察)。
  • 融合のメリット: そこに島津の「イメージング質量分析」を組み合わせることで、投薬した成分が「細胞のどの器官に、どれくらいの濃度で蓄積しているか」を画像化します。
  • 結果: 薬の効果や副作用の予測精度が上がり、新薬開発の期間短縮につながります。

 このように、異なる手法のデータを重ね合わせる手法を「相関解析」と呼びます。島津製作所は、この工程を「誰でも、1台で、簡単に」行えるようにすることを目指しています。

具体例として、リチウムイオン電池や半導体の解析が挙げられます。テスカンの顕微鏡でナノレベルの「形」を捉えながら、島津の技術でその場の「成分」を特定することで、異常箇所の原因究明や新素材開発を一台の装置で迅速かつ精密に行えるようになります。

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