島津製作所のSun Metalonへの出資 どんな技術を持っているのか?電磁場を利用すメリットはなにか?

この記事で分かること

  • 出資理由:Sun Metalonが独自に開発した金属リサイクル装置に注目し、出資を決定しています。
  • どんなリサイクル装置なのか:「電磁場を利用した独自の金属加熱技術によって工場内で発生する金属屑を、CO₂排出を最小限に抑えつつ、高純度な金属資源として効率的に再生する」ことを可能にする装置です。
  • 電磁場を利用するメリットは:内部からの直接加熱による効率化、緻密な温度管理が可能、省スペースであり、安全性も高いといったメリットがあります。

島津製作所のSun Metalonへの出資

 島津製作所は、米国のスタートアップ企業であるSun Metalon(サンメタルオン)に対し、自社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンド「Shimadzu Future Innovation Fund」を通じて出資を行いました。

 https://www.shimadzu.co.jp/news/2025/eg4kdc91rkesyvfp.html

 島津製作所は、この出資を通じて、金属資源の有効利用と製造コストの削減、ひいては安定調達力の強化に貢献し、産業の脱炭素化と循環経済の実現を加速することを目的としています。

なぜ出資するのか 

 島津製作所は、Sun Metalonが独自に開発した金属リサイクル装置に注目しています。

 この装置は、従来廃棄されてきた金属屑を高付加価値な金属資源として再生できる革新的な技術で、以下の特徴を持っています。

  • 高効率な再資源化とプロセスの脱炭素化: CO₂排出量を大幅に削減し、環境負荷を低減します。
  • 低コスト・省スペース: 製造ラインへの組み込みが容易で、製造コストの削減に貢献します。

 島津製作所は、この出資を通じて、金属資源の有効利用と製造コストの削減、ひいては安定調達力の強化に貢献し、産業の脱炭素化と循環経済の実現を加速することを目的としています。

 特に、日本が金属資源のほぼ100%を海外からの輸入に依存している現状において、産業競争力や経済安全保障の観点からも重要な課題解決に寄与すると考えています。

島津製作所は、Sun Metalonが独自に開発した金属リサイクル装置に注目し、出資を決定しています。

どのような装置なのか

 Sun Metalonが開発した金属リサイクル装置は、「Venus L」と呼ばれるもので、その最大の特徴は、独自の金属加熱技術と、工場内でのオンサイト(現場)リサイクルを可能にする点です。

1. 独自の金属加熱技術

  • 非接触加熱: Sun Metalonの技術は、電磁場を利用した「非バインダー焼結技術(non-binder-based sinter technology)」を核としています。これにより、金属を直接溶融させることなく、効率的に加熱することができます。
  • 不純物の除去: 金属加工の過程で発生する金属屑(切削屑、研磨スラッジ、削りくずなど)には、油分、水分、その他の不純物が含まれています。この装置は、独自の加熱プロセスと不活性ガスを用いることで、これらの液体状の汚染物質を効率的に除去し、高純度な金属塊(パケット/ブリケット)として再資源化します。
  • CO₂排出量の最小化: 従来の金属リサイクルプロセスでは、スクラップの輸送や溶解炉での処理に多くのエネルギーとCO₂排出を伴いました。Sun Metalonの技術は、化石燃料を使用しない電気加熱方式であり、クリーンエネルギーと組み合わせることで、CO₂排出をゼロに近づけることができます。

2. オンサイト(現場)リサイクルとモジュール型装置

  • 工場内での即時リサイクル: 従来、金属屑は低価格で取引されるか、埋め立て処分されることが多く、外部の業者に委託して処理する必要がありました。Sun Metalonの装置は、工場内の金属加工ラインの近くに設置できるコンパクトなモジュール型であり、発生した金属屑をその場で、即座に高付加価値な金属資源として再生できます。
  • 省スペース・低コスト: 既存の製造ラインに組み込みやすい設計で、従来の設備と比較して約半分のスペースで同等の処理能力を実現します。これにより、廃棄物処理や原料調達にかかるコストを大幅に削減できます。
  • 合金組成の維持: リサイクルされた金属は、元の合金組成を維持したまま、高密度でクリーンな塊として再利用可能です。これにより、鋳造工場や製鉄所では、外部からの原材料購入を減らし、内部でリサイクルされた金属を再溶解して使用することができます。

3. 多様な金属への対応

  • 幅広い金属に対応: 主に鉄系金属に強みを持っていますが、要望に応じて鋼、銅、チタン、超硬合金など、約10種類の金属に対応し、実績を積んでいます。

Sun Metalonの金属リサイクル装置は、「独自の金属加熱技術によって工場内で発生する金属屑を、CO₂排出を最小限に抑えつつ、高純度な金属資源として効率的に再生する」ことを可能にし、金属資源の有効利用、製造コストの削減、安定調達、そして産業全体の脱炭素化と循環経済の実現に大きく貢献することが期待されています。

電磁場を利用するメリットはなにか

 Sun Metalonの金属リサイクル装置が電磁場を利用するメリットは、以下のように多岐にわたります。

1. 高効率かつ均一な加熱

  • 内部からの直接加熱: 電磁場は、物質の内部に直接作用してジュール熱を発生させます。これにより、従来の外部加熱(炉による加熱など)のように、熱が物質の表面から内部へと伝わるのを待つ必要がなく、金属全体を迅速かつ均一に加熱できます。金属屑の塊であっても、内部まで効率的に熱が伝わります。
  • 高速加熱: 直接加熱により、加熱速度が非常に速くなります。これにより、処理時間の短縮と生産性の向上が実現されます。

2. 環境負荷の低減

  • CO₂排出量の削減: 電磁場加熱は電気エネルギーを使用するため、化石燃料の燃焼を伴いません。再生可能エネルギーと組み合わせることで、CO₂排出量を大幅に削減し、ゼロエミッションに近いリサイクルプロセスを実現できます。
  • 不純物の効率的な除去: 加熱と同時に、不活性ガスを併用することで、金属屑に含まれる油分、水分、その他の有機不純物を効率的に揮発・分解させることができます。これにより、高純度な金属塊を生成し、後工程での品質低下を防ぎます。
  • 廃棄物の最小化: 不純物を除去した高純度な金属塊を生成できるため、最終的な廃棄物の量を減らすことができます。

3. プロセスの制御性向上と品質安定化

  • 精密な温度制御: 電磁場による加熱は、投入する電力や周波数を調整することで、温度を非常に正確に制御できます。これにより、金属の種類や目的に応じた最適な加熱条件を設定し、品質の安定したリサイクル金属を製造することが可能です。
  • 金属の酸化抑制: 密閉された環境で不活性ガスを使用することで、金属の加熱中に酸化するのを防ぐことができます。これにより、金属の特性が損なわれず、高品質なリサイクル金属を得られます。

4. 運用上のメリット

  • 省スペース・モジュール化: 電磁場加熱装置は、従来の大型溶解炉と比較して、非常にコンパクトに設計できます。これにより、工場内の金属加工ラインの近くに直接設置できる「オンサイトリサイクル」が可能となり、金属屑の運搬コストやCO₂排出量を削減できます。
  • 安全性の向上: 炎を使わない非接触加熱であるため、火災や爆発のリスクが低減され、作業環境の安全性が向上します。
  • 多様な金属への対応: 電磁誘導の原理は様々な導電性金属に適用できるため、鉄系金属だけでなく、アルミニウム、銅、チタンなど、多様な金属屑のリサイクルに対応できます。

 これらのメリットにより、Sun Metalonの電磁場加熱技術は、金属リサイクルにおける従来の課題(高コスト、高エネルギー消費、高CO₂排出、品質不安定性など)を解決し、持続可能な金属製造サプライチェーンの構築に大きく貢献すると期待されています。

Sun Metalonの電磁場加熱技術は内部からの直接加熱による効率化、緻密な温度管理が可能、省スペースであり、安全性も高いといったメリットがあります。

不活性ガスを用いる理由は

 不活性ガスを用いるのは、主に以下の二つの目的のためです。

  1. 酸素との反応を防ぐ(酸化防止)
  2. 揮発性不純物の排出を促進する(蒸気圧の低下と流れ)

1. 酸素との反応を防ぐ(酸化防止)

 金属は加熱されると、空気中の酸素と反応しやすくなります。この反応によって、金属の表面に酸化物(錆など)が形成されます。酸化物は金属の品質を低下させ、後の再利用プロセスで問題を引き起こす可能性があります。

 不活性ガス(例えば、アルゴンや窒素など)は、他の物質とほとんど反応しない性質を持っています。装置内で不活性ガスを充填することで、金属屑の周囲から酸素を排除し、加熱中の金属の酸化を効果的に抑制します。これにより、リサイクルされる金属の純度と品質が保たれます。

2. 揮発性不純物の排出を促進する(蒸気圧の低下と流れ)

 金属屑には、油分、水分、切削液、研磨剤などの有機物や揮発性物質が不純物として付着しています。これらの不純物は、金属が加熱されると蒸発し、ガス化します。

不 活性ガスは、これらのガス化した不純物の排出を促進する「キャリアガス」としての役割を果たします。

  • 分圧の低下(平衡移動の促進): 不活性ガスが充填された空間では、不純物の蒸気が占める空間の割合(分圧)が低くなります。気体は分圧の高い方から低い方へ移動する性質があるため、金属屑から蒸発した不純物ガスが、不活性ガスによって満たされた空間へと効率的に排出されやすくなります。もし不活性ガスがなければ、蒸発した不純物ガスがその場に留まり、再凝縮する可能性があります。
  • 流れによる排出: 装置内に不活性ガスを連続的に流し込むことで、不純物ガスを物理的に押し流し、装置外へ排出する流れを作り出します。これにより、揮発した不純物が装置内に滞留することを防ぎ、除去効率を高めます。

不活性ガスは、直接不純物を化学的に分解したり、吸着したりするわけではありませんが、加熱によってガス化した不純物を効率的に装置外へ運び出す金属本体を保護する(酸化防止)という役割で高純度で環境負荷の低い金属再生に必要となっています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました