信越化学工業の第2四半期営業利益減少 営業利益減少の理由は何か?塩ビは何に使用されるのか?

この記事で分かること

  • 営業利益減少の理由:塩化ビニル(塩ビ)市況の軟化が主要因です。生活環境基盤材料事業の収益が大きく落ち込み、電子材料事業の利益減少も加わり、連結営業利益は17.7%減となりました。
  • 塩ビの用途:主に上下水道管や窓枠などの建築・インフラ資材、壁紙・床材、農業用フィルム、電線被覆、ビニールレザーなどに広く使われる汎用性の高いプラスチックです。
  • 中国の輸出強化理由:国内の建設需要低迷による過剰な生産能力を解消するためです。安価な石炭ベースの製造法でコスト優位性を持ち、国際市場へ大量に輸出し、在庫圧力を分散させています。

信越化学工業の第2四半期営業利益減少

 信越化学工業の2025年4月〜9月期(第2四半期)の連結決算が発表され、営業利益は、前年同期比で17.7%の減益となっています。

 https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/dd5b9da852d542c2bf85578eda4d70c2db65beb7

 要因として、、「売上高が微増したものの、利益面では減少傾向が見られた」とされており、特に「生活環境基盤材料事業電子材料事業の利益減少が目立つ」ことが報告されています。

減益の理由は何か

 信越化学工業の2025年4月〜9月期(2026年3月期第2四半期)の減益の主な理由は、特定の主力事業における市況の軟化と利益率の低下にあります。具体的には、以下の点が要因として挙げられています。

1. 生活環境基盤材料事業の不振

  • 塩化ビニル(塩ビ)の市況軟化:
    • このセグメントの主力製品である塩化ビニル(塩ビ)において、市況の軟化が続き、収益を圧迫しました。
    • 特に、中国メーカーによる輸出圧力が収まらない状況が影響し、価格水準の維持に努めたものの、利益は大きく減少しました。
  • この事業の利益減少が、連結全体の減益の主要因の一つとなっています。

2. 電子材料事業の利益減少

  • 半導体材料の調整局面の影響:
    • シリコンウエハーなどの半導体材料を含む電子材料事業では、前年の半導体市場の調整局面の影響が残りました。
    • ただし、報道によると、半導体材料自体の出荷は計画通りに進んでいるものの、利益面では減少傾向が見られたとされています。

 塩化ビニルを中心とする生活環境基盤材料事業の収益悪化が、17.7%の営業減益という結果に最も大きく影響したと考えられます。

塩化ビニル(塩ビ)市況の軟化が主要因です。生活環境基盤材料事業の収益が大きく落ち込み、電子材料事業の利益減少も加わり、連結営業利益は17.7%減となりました。

塩化ビニルは何に使われるのか

 信越化学工業の主力事業である塩化ビニル樹脂(PVC:ポリ塩化ビニル)は、その優れた特性から、私たちの生活や産業において非常に幅広い分野で使われています。主な用途は、その特性(硬質か軟質か)によって分類されます。

1. 建築・インフラ関連(硬質塩ビの主な用途)

 耐久性、耐候性、耐薬品性、難燃性が求められる分野で特に重要です。

用途具体的な製品例
配管上下水道管、排水管、ガス管、農業用水管
建材窓枠・サッシ(樹脂サッシ)、雨どい、壁紙、床材(クッションフロア)、外壁材(サイディング)
電線電線・ケーブルの被覆材(高い絶縁性と難燃性)

2. 日用品・一般製品(軟質塩ビの主な用途)

 可塑剤(柔軟剤)を加えて柔軟性を持たせたもので、加工のしやすさや防水性が活かされます。

用途具体的な製品例
フィルム・シート農業用ビニールハウスのフィルム、ビニールシート、ラップフィルム、ビニール傘
衣料・雑貨合成皮革(塩ビレザー)(バッグ、靴、ソファ)、レインコート、長靴
その他消しゴム、ホース、医療用チューブや点滴バッグ、クレジットカード

 塩ビは、安価でありながら耐久性・加工性に優れているため、「生活環境基盤材料」として欠かせない素材となっています。

塩化ビニルは、主に上下水道管や窓枠などの建築・インフラ資材壁紙・床材農業用フィルム電線被覆ビニールレザーなどに広く使われる汎用性の高いプラスチックです。

中国はなぜ塩化ビニルの輸出に力を入れるのか

 中国が塩化ビニル(塩ビ)の輸出に力を入れる主な理由は、国内の過剰な生産能力を解消し、国際市場での競争力を維持・拡大するためです。

 これは、信越化学工業の減益要因にもなった「中国メーカーによる輸出圧力」の背景にある構造的な問題です。

1. 国内の過剰生産能力の解消

 中国はインフラ整備や建設需要の高まりに合わせて、塩ビを含む化学品の生産能力を大幅に拡大してきました。

 しかし、国内の需要の伸びが鈍化した結果、生産能力が国内消費を大きく上回る「過剰生産」の状態になっています。この過剰分を海外に輸出することで、国内の在庫圧力を緩和し、工場の稼働率を維持しようとしています。

2. 国際的な価格競争力

  • 安価な石炭ベースの製造: 中国は塩ビの主要な製造方法の一つとして、安価な石炭を原料とする製造法(カーバイド法)を広く採用しています。
  • このコスト優位性により、原油を原料とする製造法が主流の他国メーカー(日本、欧米など)と比べて、低価格での輸出が可能となっています。

3. 世界的な供給拠点としての地位確立

 中国はパイプや建材向けの硬質塩ビだけでなく、フィルム・シートなどの軟質塩ビ製品の世界最大の輸出国でもあります。輸出を強化することで、「世界の工場」としての地位を維持し、関連産業(加工品製造など)の雇用と経済成長を支える狙いもあります。

 これらの理由から、中国メーカーは輸出に積極的に取り組み、その結果、世界の塩ビ市場で供給過剰と価格競争を引き起こしています。

中国が塩化ビニル(塩ビ)の輸出を強化するのは、国内の建設需要低迷による過剰な生産能力を解消するためです。安価な石炭ベースの製造法でコスト優位性を持ち、国際市場へ大量に輸出し、在庫圧力を分散させています。

今後の見通しはどうか

 信越化学工業の今後の見通しは、主に生活環境基盤材料(塩ビ)の回復時期電子材料(半導体)市場の本格的な回復にかかっており、会社は2026年3月期の通期業績予想で減益を見込んでいます。


2026年3月期(通期)の業績予想

 会社が公表している2026年3月期(2025年4月~2026年3月)の通期業績予想は、以下の通り、減収減益の見通しです。

項目2026年3月期(予想)対前期増減率
売上高2兆4,000億円6%減
営業利益6,350億円14%減
当期純利益4,700億円12%減

予想の主な前提

  • 減益の要因: 会社は、この減益のすべてが生活環境基盤材料セグメント(塩ビ)の収益減少によるものだと見ています。
  • 為替レート: 7月以降の想定為替レートは、1ドル=140円程度、1ユーロ=160円程度としています。

セグメントごとの見通し

1. 生活環境基盤材料事業(塩ビなど)

  • 現在の状況: 収益悪化の主因であり、中国からの輸出圧力や米国の住宅市場の低迷により市況が軟化しています。
  • 今後の見通し:
    • 北米市場(中核子会社シンテック)では、需要の回復の兆しが見られます。米国の住宅着工の強い地合いや、ハリケーンなどの災害からの復興需要などが塩ビ需要につながる要素として期待されています。
    • 会社は、このセグメントの収益の切り返しを目指すとしています。

2. 電子材料事業(半導体シリコンウエハーなど)

  • 現在の状況: 前期の半導体市場の調整局面の影響が残ったものの、底打ちの兆しは出ています。
  • 今後の見通し:
    • 300ミリ口径のシリコンウエハーなど、半導体市場の需要は4月以降に回復が期待されています。
    • 半導体関連の在庫調整は徐々に収束に向かうと見られており、電子材料事業は再び収益を牽引する役割が期待されています。

 総合的に見ると、2026年3月期は塩ビ事業の不振による減益を乗り越えるための移行期間と位置づけられ、主要な市場の回復を待つ展開となりそうです。

今後の見通しは、2026年3月期の通期で12%の最終減益を見込みます。減益は主に塩化ビニル市況の軟化が原因ですが、米国の塩ビ需要回復の兆し半導体市場の本格回復に期待し、収益の切り返しを目指します。

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