シーメンス・エナジーのPEM電解装置 PEM電解装置とは何か? プロトン交換膜に使用される化合物は何か?

この記事で分かること

  • PEM電解装置とは:固体高分子膜を使い水を電気分解して水素と酸素を生成する装置です。再生可能エネルギーの変動に素早く対応でき、高純度の水素を製造できるのが特長ですが、貴金属触媒を使用するためコストが高い傾向があります。
  • プロトン交換膜に使用される化合物:主にパーフルオロスルホン酸系高分子(PFSA)が使われ、代表例はNafion®です。高いプロトン伝導性と安定性が特長ですが、高コスト。近年は低コストで環境負荷の低い炭化水素系電解質膜の研究開発も進められています。

シーメンス・エナジーのPEM電解装置

 シーメンス・エナジーは、福島県田村市で実施されるグリーン水素プロジェクトに水電解システムを提供することを発表しました。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00753956

 シーメンス・エナジーは、このプロジェクトを通じて日本の水素市場への参入を果たし、クリーンエネルギーソリューションの推進に貢献していく姿勢を示しています。PEM電解装置は、柔軟な制御性、高速な応答時間、コンパクトな設置面積といった特徴を持ち、再生可能エネルギーとの統合に最適な技術とされています。

水電解装置とは何か

 水電解装置(すいでんかいそうち)とは、水を電気分解することで水素(H₂)と酸素(O₂)を生成する装置のことです。「エレクトロライザー (electrolyzer)」とも呼ばれます。

仕組みの概要

 基本的な原理は以下の通りです。

  1. 水に電気を流す: 装置内の電解槽に水(H₂O)を供給し、電気を流します。純粋な水は電気を通しにくいため、通常は電気を通しやすくするための電解質(アルカリ溶液や特殊な膜など)が加えられます。
  2. 分解反応の発生: 電気エネルギーによって水分子が分解され、陽極(アノード)では酸素が、陰極(カソード)では水素が発生します。
    • 陰極:2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻ (水素が発生)
    • 陽極:2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻ (酸素が発生)
  3. 水素と酸素の分離・回収: 発生した水素と酸素は、それぞれ別々に分離・回収されます。

主な種類

現在、実用化されている水電解装置は、主に以下の2種類があります。

  1. アルカリ水電解 (AWE: Alkaline Water Electrolysis) 方式
    • 特徴:
      • 水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ溶液を電解質として使用します。
      • 最も歴史が長く、技術が成熟しており、比較的安価で大規模な水素製造に適しています。
      • 運転開始に時間がかかり、再生可能エネルギーのような変動する電力への追従性が低いという課題があります。
      • 高純度の水素を得るためには、追加の精製プロセスが必要となる場合があります。
    • メリット: コストが比較的低い、大規模化しやすい。
    • デメリット: 起動・停止に時間がかかる、負荷変動への追従性が低い、水素純度がやや劣る場合がある。
  2. 固体高分子型水電解 (PEM: Proton Exchange Membrane Water Electrolysis) 方式
    • 特徴:
      • プロトン(水素イオン)だけを通す固体高分子膜を電解質として使用します。
      • 応答性が非常に高く、電力の変動に迅速に対応できるため、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーとの組み合わせに適しています。
      • 高純度の水素を直接生成できます。
      • 電極に白金やイリジウムなどの貴金属触媒を使用するため、アルカリ型に比べてコストが高い傾向があります。
    • メリット: 起動・停止が速い、負荷変動への追従性が高い、高純度水素が得られる、コンパクト。
    • デメリット: コストが高い(貴金属を使用するため)。

 この他にも、研究開発が進められているものとして、高温の水蒸気を電気分解する固体酸化物型水電解 (SOEC: Solid Oxide Electrolysis Cell) 方式や、アルカリ水電解とPEM水電解の利点を組み合わせた陰イオン交換膜型水電解 (AEM: Anion Exchange Membrane Water Electrolysis) 方式などがあります。

水電解装置の重要性

 水電解装置は、CO₂を排出しない「グリーン水素」を製造する上で不可欠な技術として注目されています。再生可能エネルギー由来の電力を用いて水を分解することで、環境負荷の低い水素を供給し、脱炭素社会の実現に大きく貢献することが期待されています。

水電解装置は、電気エネルギーを使って水を水素と酸素に分解する装置です。特に再生可能エネルギー由来の電力を使用することで、CO₂を排出しない「グリーン水素」を製造でき、脱炭素社会実現の鍵となる技術です。アルカリ型とPEM型が主流で、それぞれ特徴があります。

プロトン交換膜電解装置とは何か

 プロトン交換膜(PEM)電解装置は、水を電気分解して水素と酸素を生成する水電解装置の一種で、特に「固体高分子膜」を電解質として使用することが最大の特徴です。

仕組み

  1. 固体高分子膜(プロトン交換膜): PEM電解装置の中心となるのが、水素イオン(プロトン)のみを選択的に透過させる固体高分子膜です。この膜が陽極と陰極を隔てています。
  2. 電極と触媒: 膜の両側には、それぞれ電極(陽極と陰極)があり、効率的な反応を促すために白金やイリジウムなどの貴金属触媒が塗布されています。
  3. 電気分解のプロセス:
    • 陽極 (アノード) 側: 水(H₂O)が供給されると、電気エネルギーによって水分子が酸化され、酸素ガス(O₂)、電子(e⁻)、そしてプロトン(H⁺、水素イオン)に分解されます。
      • 2H2​O→O2​+4H++4e−
    • プロトンと電子の移動: 発生したプロトンは固体高分子膜を透過して陰極側へ移動します。一方、電子は外部回路を通って陰極へ流れます。
    • 陰極 (カソード) 側: 陰極に到達したプロトンは、外部回路から流れてきた電子と結合し、水素ガス(H₂)が生成されます。
      • 4H++4e−→2H2​
  4. 水素と酸素の分離: 固体高分子膜が酸素の透過を防ぐため、陰極側では高純度の水素が、陽極側では酸素がそれぞれ分離されて回収されます。

特徴・メリット

  • 高い応答性: 電力供給の変動に非常に迅速に対応できます。これは、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーと組み合わせる際に非常に有利です。電力が豊富にある時にすぐに稼働し、電力が不足すれば素早く停止できます。
  • 高純度水素の生成: 固体高分子膜がプロトンのみを透過させるため、生成される水素の純度が非常に高いです。これにより、追加の精製プロセスが不要となる場合が多く、燃料電池など高純度が求められる用途に適しています。
  • コンパクト性: 電極と膜が密着しているため、電解槽をコンパクトに設計できます。
  • 高い電流密度: 高い電流を流して運転できるため、効率的な水素製造が可能です。
  • 加圧運転への適応: 高圧で水素を生成できるため、後段の圧縮プロセスにかかるエネルギーを削減できる可能性があります。

デメリット

  • 高コスト: 電極に白金やイリジウムといった貴金属触媒を使用するため、アルカリ水電解方式に比べて製造コストが高い傾向があります。
  • 膜の耐久性: 固体高分子膜の耐久性や寿命が課題となることがあります。

 PEM電解装置は、特に変動性の高い再生可能エネルギーとの連携において非常に有望な技術であり、グリーン水素製造の主力技術として期待されています。

プロトン交換膜(PEM)電解装置は、固体高分子膜を使い水を電気分解して水素と酸素を生成します。再生可能エネルギーの変動に素早く対応でき、高純度の水素を製造できるのが特長ですが、貴金属触媒を使用するためコストが高い傾向があります。

プロトン交換膜にはどんな物質が使われるのか

 プロトン交換膜(PEM)電解装置において、核となるプロトン交換膜には主に以下の物質が使われます。

  1. パーフルオロスルホン酸系高分子 (PFSA):
    • 現在、最も広く使われているプロトン交換膜の材料です。
    • 代表的な製品として、米国のケマーズ社(旧デュポン社)が開発したNafion®(ナフィオン)があります。
    • 特徴:
      • 高いプロトン伝導性(水素イオンを効率的に通す能力)
      • 優れた化学的安定性(強酸性環境や酸化雰囲気下でも分解されにくい)
      • 高い耐熱性
      • 高い機械的強度
    • 構造: 主にフッ素原子で覆われたポリマー骨格(テフロン™に似た構造)に、スルホン酸基(-SO₃H)という酸性の官能基が結合した構造をしています。このスルホン酸基が水と結合してプロトン(H⁺)を伝導する役割を担います。
  2. 炭化水素系電解質膜:
    • PFSA系膜は性能が高い一方で、製造コストや環境負荷(PFAS規制など)が課題となることがあります。
    • そのため、近年では炭化水素系の材料を用いたプロトン交換膜の研究開発も活発に行われています。
    • 特徴:
      • PFSA系膜に比べてコストを抑えられる可能性がある。
      • 環境負荷が低い。
      • 例として、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン類、ポリイミドなどの芳香族縮合系ポリマーにスルホン酸基を導入したものが検討されています。
    • 日本企業もこの分野で開発を進めており、東レなどが低コストで高効率な炭化水素系電解質膜を開発し、世界最高レベルの性能を示していると報じられています。

 このように、プロトン交換膜の材料は、高いプロトン伝導性と化学的・機械的安定性を両立させるために、特にフッ素系高分子が主流でしたが、コストや環境面からの要請で、炭化水素系高分子の開発も進められています。

プロトン交換膜には、主にパーフルオロスルホン酸系高分子(PFSA)が使われ、代表例はNafion®です。高いプロトン伝導性と安定性が特長ですが、高コスト。近年は低コストで環境負荷の低い炭化水素系電解質膜の研究開発も進められています。

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