この記事で分かること
- DRAMとは:パソコンやスマートフォンのメインメモリに使われる半導体メモリです。コンデンサに電気を蓄えることでデータを記憶しますが、電源が切れるとデータが消えてしまいます。安価で大容量化が容易なのが特徴です。
- 好調の理由:高帯域幅メモリ(HBM)市場での先行者優位性です。AIブームを背景に、NVIDIAとの強固な協力関係を通じて、HBM3やHBM3Eの主要サプライヤーとして市場シェアを独占し、技術力と生産体制で他社をリードしています。
- 高帯域幅メモリとは:AIや高性能コンピューティング向けに開発されたDRAMです。複数のチップを積み重ね、直接接続することで、従来のメモリよりも圧倒的に高いデータ転送速度を実現しています。
SK hynixがDRAM市場で首位を維持
2025年第2四半期(Q2)において、SK hynixはDRAM市場で首位の座を維持しています。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2509/03/news065.html
SK hynixは、高帯域幅メモリ(HBM)市場における強いリーダーシップを背景に、DRAM市場全体で優位を築きました。特に、NVIDIAとの強力なパートナーシップが、同社のHBMの売上を大きく牽引しました。
DRAMとは何か
DRAMは「Dynamic Random Access Memory(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)」の略称で、コンピュータやスマートフォンなどの電子機器で最も広く使われている半導体メモリの一種です。
仕組みと特徴
DRAMの仕組みは以下のようにシンプルです。
- 構造: データを記憶する最小単位である「メモリセル」は、1つのトランジスタと1つのコンデンサで構成されています。
- データの保持: コンデンサに電荷が蓄えられている状態を「1」、電荷がない状態を「0」としてデータを記憶します。
- 「リフレッシュ」の必要性: コンデンサの電荷は時間が経つと自然に放電されてしまうため、データが失われてしまいます。そのため、DRAMは電気が供給されている間、定期的にデータを再書き込みする「リフレッシュ」という動作が必要です。この「動的(Dynamic)」な動作が、名前の由来にもなっています。
主な用途
DRAMの最大の強みは、その構造のシンプルさから大容量かつ低コストで製造できることです。このため、主に以下の用途で利用されています。
- コンピュータのメインメモリ: パソコンやサーバーの「主記憶装置」として、CPUが処理するプログラムやデータを一時的に保存するために使われます。
- スマートフォンのメモリ: アプリケーションの実行やマルチタスクをスムーズに行うためのメモリとして欠かせません。
- AI・データセンター: 近年では、AIの学習や大規模なデータ処理に特化した高性能なDRAM(HBMなど)の需要が急増しています。
DRAMとSRAMの違い
DRAMとよく比較されるメモリにSRAM(Static Random Access Memory)があります。
- DRAM: 構造がシンプルで安価、大容量化が可能。ただし、リフレッシュが必要で、SRAMに比べてアクセス速度はやや遅い。
- SRAM: 6つのトランジスタからなる複雑な回路で、リフレッシュが不要。DRAMより高速で消費電力も少ないが、高価で大容量化には向かない。
この特性の違いから、SRAMはCPUのキャッシュメモリなど、高速アクセスが最優先される場所で使われ、DRAMはメインメモリのように大容量が求められる場所で使い分けられています。

DRAM(ディーラム)は、パソコンやスマートフォンのメインメモリに使われる半導体メモリです。コンデンサに電気を蓄えることでデータを記憶しますが、電荷が時間と共に失われるため、定期的な「リフレッシュ」が必要です。このため、電源が切れるとデータが消えますが、安価で大容量化が容易なのが特徴です。
高帯域幅メモリとは何か
高帯域幅メモリ(HBM: High Bandwidth Memory)とは、AIや高性能コンピューティング向けに開発された特殊なDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)の一種です。その名の通り、従来のDRAMよりもはるかに高いデータ転送速度(帯域幅)を実現する点が最大の特徴です。
高帯域幅を実現する技術
HBMが高い性能を発揮できるのは、従来のメモリとは異なる革新的な実装技術を使っているからです。
- 3D積層技術: 複数のDRAMチップを垂直に積み重ねて、一つのパッケージとして統合します。これにより、メモリチップ間のデータ転送距離が大幅に短縮されます。
- TSV(Through Silicon Via): 積み重ねられたチップ同士を、シリコンを貫通する微細な配線(TSV)で直接接続します。これにより、従来の基板上の配線よりも広大な接続チャネルを確保でき、データ転送のボトルネックを解消します。
これらの技術を組み合わせることで、HBMは従来のDRAMに比べて、より広いバス幅と短い信号経路を実現し、圧倒的な高速データ転送を可能にしています。
主な用途
HBMは、大量のデータを高速で処理する必要がある分野で不可欠な存在となっています。
- AIアクセラレータ・GPU: AIの学習や推論では、膨大なデータセットをGPUに高速で供給する必要があるため、HBMが不可欠です。
- スーパーコンピュータ: 大規模な科学計算やシミュレーションを行う際、CPU/GPUとメモリ間のデータ転送速度が全体の性能を左右するため、HBMが採用されています。

高帯域幅メモリ(HBM)は、AIや高性能コンピューティング向けに開発されたDRAMです。複数のチップを積み重ね、直接接続することで、従来のメモリよりも圧倒的に高いデータ転送速度を実現します。これにより、膨大なデータを高速で処理することが可能になります。
SK hynixが優位な理由は
SK hynixの優位性は、主に高帯域幅メモリ(HBM)市場における圧倒的なリーダーシップにあります。特に、AIブームによってHBMの需要が急増する中で、競合他社に先駆けて製品を市場に投入し、確固たる顧客基盤を築きました。
1. HBM市場での先行者優位性
SK hynixは、AI半導体のトップメーカーであるNVIDIAと緊密な協力関係を築き、HBM3および最新のHBM3Eの主要サプライヤーとなりました。
この強力なパートナーシップにより、同社は市場のニーズをいち早く捉え、製品開発と量産を先行させることができました。2025年第2四半期には、世界のHBM出荷量のおよそ6割以上を占めています。
2. 技術力の高さと生産体制
SK hynixは、HBMの製造に不可欠なMR-MUF(Mass Reflow-Molded Underfill)という独自の技術を確立しました。
この技術は、積み重ねたチップ間の安定性を高め、熱放散を効率的に行うことで、量産時の歩留まりを向上させる上で重要な役割を果たしています。この技術的優位性が、競合他社、特にSamsungに対する大きな差を生み出しています。
3. HBMへの戦略的集中
DRAM市場全体が価格下落のサイクルに直面する中で、SK hynixはHBMという高付加価値製品に経営資源を集中させる戦略を取りました。
これにより、HBMがDRAM売上全体の半分以上を占めるまでになり、同社の収益性と市場シェアを大きく押し上げました。これは、Samsungがより広範な半導体ポートフォリオに経営資源を分散させているのとは対照的です。

SK hynixが優位な理由は、高帯域幅メモリ(HBM)市場での先行者優位性です。AIブームを背景に、NVIDIAとの強固な協力関係を通じて、HBM3やHBM3Eの主要サプライヤーとして市場シェアを独占し、技術力と生産体制で他社をリードしています。
TSMCはDRAMの生産はしていないのか
TSMCは一般的なDRAM(ディスクリートDRAM)の生産はしていません。TSMCは世界最大の半導体ファウンドリ(受託生産専門会社)で、顧客から依頼された設計図に基づいて、ロジック半導体(CPUやGPUなど)の製造に特化しています。DRAMのようなメモリ製品は、SK hynixやSamsung、Micronといったメモリ専業メーカーが主に手掛けています。
ただし、以下の2つの点において、TSMCはDRAMと無関係ではありません。
1. 埋め込み型DRAM(eDRAM)
過去には、CPUなどのロジックチップの中にDRAM機能を組み込む「埋め込み型DRAM(eDRAM)」の生産を手掛けたことがあります。これは、ロジックチップの性能を向上させるための一つの手法でした。しかし、現在主流のディスクリートDRAM(単体のDRAMチップ)とは全く異なるものです。
2. 高帯域幅メモリ(HBM)の製造工程
TSMCは、SK hynixやSamsungが製造するHBMチップそのものではなく、そのHBMをGPUなどのロジックチップと統合する「先進パッケージング」工程で重要な役割を担っています。
具体的には、HBMスタックとロジックチップをシリコンインターポーザーと呼ばれる基板上に並べて接続する、CoWoS(Chip on Wafer on Substrate)のような技術を提供しています。これにより、TSMCはHBM市場のエコシステムにおいて、SK hynixやSamsungと協力する形で不可欠なパートナーとなっています。
TSMCはDRAMチップそのものを作るのではなく、HBMチップとロジックチップを組み合わせて高性能な最終製品に仕上げる役割を担う、後工程の技術で強みを発揮しています。
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