この記事で分かること
- SkyWater Technologyとは:顧客から依頼された半導体を製造する米国資本のファウンドリ企業です。特に、米国国防総省向けに耐放射線半導体などを製造しており、安全保障上重要な役割を担っています。
- 耐放射線半導体とは:宇宙空間や原子力施設など、放射線に強い環境でも安定して動作するように特殊な設計が施された半導体です。放射線による誤作動や性能劣化を防ぎ、高い信頼性が求められる機器に不可欠な部品です。
- 買収の理由:SkyWaterは生産能力を4倍に拡大し、国内の半導体需要に応え、米国サプライチェーンを強化しています。同時にInfineonとの長期供給契約も締結し、安定した収益基盤も確保しました。
SkyWater TechnologyのInfineon Technologies工場の買収
SkyWater Technology社は、Infineon Technologies社からテキサス州オースティンにある200mmウェハの半導体工場を買収しました。この買収は2025年6月30日に完了し、SkyWater社の生産能力を大幅に拡大するものです。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2508/14/news047.html
SkyWater社は、この工場をオープンアクセスなファウンドリとして運営し、Infineon社だけでなく、新規顧客にもサービスを提供していく予定です。
SkyWater Technologyはどんな製品を作っているのか
SkyWater Technology社は、特定の製品を自社で開発・販売するのではなく、顧客の依頼に応じて半導体を製造する「ファウンドリ」と呼ばれるビジネスモデルを展開しています。同社は特に、以下の分野に強みを持っています。
- 受託製造(ファウンドリサービス):
- デジタル、アナログ、ミックスドシグナルICの製造。
- 特に、軍事・航空宇宙分野で重要な、放射線に強い耐放射線半導体の製造。
- IoT機器などに使われるMEMSセンサーなどの製造。
- 技術開発サービス:
- 単に製造するだけでなく、顧客と協力して半導体技術の開発や試作品の製造も行っています。これを「アドバンスド・テクノロジー・サービス(ATS)」と呼んでいます。
- 注力分野:
- 米国国防総省向け: 米国唯一の米国資本ファウンドリであり、国防総省(DoD)の認定サプライヤーとして、安全保障上重要な半導体の製造を担っています。
- 高度なパッケージング: 3次元集積回路(3D-IC)などの先端的なパッケージング技術にも取り組んでいます。
- バイオヘルス: バイオテクノロジーやヘルスケア分野向けの半導体製造も手掛けています。
SkyWater社は、微細化競争の激しい先端プロセスだけでなく、90nmや130nmなどの成熟したプロセス技術にも強みを持っており、これらのプロセスを必要とする多種多様な顧客のニーズに対応しています。

SkyWater Technologyは、顧客から依頼された半導体を製造する米国資本のファウンドリ企業です。特に、米国国防総省向けに耐放射線半導体などを製造しており、安全保障上重要な役割を担っています。また、アナログ、ミックスドシグナル、MEMSなどの技術に強みを持ち、多様な顧客のニーズに応えています。
耐放射線半導体とは何か
耐放射線半導体(Radiation-Hardened Semiconductor)とは、宇宙空間や原子力施設など、放射線が飛び交う過酷な環境でも安定して動作するように設計・製造された半導体のことです。
通常の半導体は、放射線が当たると内部の電子回路にエラーが発生したり、長期間の被曝によって性能が劣化したりします。これにより、機器が誤動作したり故障したりするリスクがあります。耐放射線半導体は、このような放射線の影響を最小限に抑えるための特別な対策が施されています。
放射線による半導体への影響
半導体が放射線にさらされると、主に2つの影響が発生します。
- トータルドーズ効果(Total Dose Effect): 長期間にわたって累積的に放射線を浴びることで、半導体素子の絶縁膜に電荷が蓄積され、素子の特性が劣化します。
- シングルイベント効果(Single Event Effect, SEE): 高エネルギーの粒子が半導体素子に衝突することで、瞬間的な誤動作(フリップフロップの値が反転するなど)や素子の破壊を引き起こします。
耐放射線半導体の主な用途
耐放射線半導体は、その高い信頼性から、以下のような特殊な分野で不可欠な部品となっています。
- 人工衛星・宇宙探査機: 宇宙空間では、太陽からの高エネルギー粒子や宇宙線が常に飛び交っています。衛星の姿勢制御、通信、観測機器など、宇宙ミッションを成功させるために、全ての電子機器に耐放射線半導体が使用されます。
- 原子力発電所・核関連施設: 原子炉周辺や放射性廃棄物処理施設では、電子機器が強い放射線にさらされます。遠隔操作ロボットや監視システムなどに耐放射線半導体が利用されます。
- 軍事・防衛: 軍事用の航空機、ミサイル、レーダーシステムなど、高い信頼性が要求される電子機器にも使用されます。

耐放射線半導体は、宇宙空間や原子力施設など、放射線に強い環境でも安定して動作するように特殊な設計が施された半導体です。放射線による誤作動や性能劣化を防ぎ、高い信頼性が求められる機器に不可欠な部品です。
どうやって放射線に耐性を持たせるのか
放射線に耐性を持たせるには、主に以下の3つのアプローチが組み合わせて使われます。
1. 設計による対策 (Radiation-Hardened by Design, RHBD)
これは、半導体の回路設計そのものに工夫を凝らす方法です。
- 冗長回路(Triple Modular Redundancy, TMR): 複数の同一回路を用意し、多数決で正しい出力信号を選ぶ方法。仮に1つの回路が放射線で誤動作しても、残りの回路が正常に動作していればシステム全体は止まりません。
- エラー訂正符号(Error Correcting Code, ECC): メモリにデータを書き込む際に、エラーを検出・訂正するための符号を付加します。放射線によってデータがビット反転しても、この符号を使って元のデータを復元できます。
- レイアウトの工夫: トランジスタなどの素子を放射線の影響を受けにくいように配置したり、ゲートの構造を特殊な形状にしたりします。
2. 製造プロセスによる対策 (Radiation-Hardened by Process, RHBP)
特別な製造プロセスや材料を用いることで、半導体素子自体の耐性を高めます。
- 絶縁基板の利用: 通常のシリコン基板の代わりに、絶縁体の上にシリコン層を形成した SOI (Silicon-on-Insulator) や SOS (Silicon-on-Sapphire) といった特殊な基板を使用します。これにより、放射線によって発生した電荷が素子間を流れて誤作動を引き起こす「ラッチアップ」という現象を防ぎます。
- 材料の変更: シリコンよりも放射線耐性が高いワイドバンドギャップ半導体(例えば、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN))を使用します。
- 特別なドーピング技術: 半導体の特性を調整するドーピングプロセスに工夫を凝らし、放射線による影響を受けにくくします。
3. パッケージングとシールドによる対策
半導体チップを外部から物理的に保護する方法です。
- シールド(遮蔽): 鉛やタングステンなどの重い金属でできたカバーやケースで、半導体パッケージを覆い、放射線を物理的に遮断します。
- 特殊なパッケージ: セラミック製など、高い信頼性と耐環境性を持つパッケージを使用します。
これらの技術を組み合わせることで、放射線が飛び交う過酷な環境でも、半導体は高い信頼性をもって動作し続けることができるのです。

放射線耐性を持たせるには、主に3つの方法があります。複数の回路で多数決を取るなど設計上の工夫、特殊な基板を用いるなど製造プロセスの改良、そして鉛などで半導体を覆う物理的なシールドです。これらの技術を組み合わせて耐性を高めます。
買収の理由は
SkyWater TechnologyがInfineon Technologiesの工場を買収した主な理由は以下の通りです。
製造能力の大幅な拡大
- この買収により、SkyWater社の半導体生産能力は4倍に増加し、年間約40万枚のウェハを製造できるようになります。
- この増強された能力は、国防総省(DoD)や自動車産業など、国内製造への強い需要に対応するためのものです。
米国のサプライチェーン強化
- 米国の半導体サプライチェーンは、特定の種類のチップ、特に産業用、自動車用、防衛用などに使われる「成熟したノード」の製造能力が不足しています。
- この買収は、米国内での半導体生産を強化し、海外への依存度を減らすことで、経済と国家安全保障上のリスクを低減することを目的としています。
戦略的な顧客基盤の拡大
- 買収と同時に、Infineon社との間で10億ドル以上の長期供給契約を締結しました。これにより、SkyWater社は安定した収益源を確保しつつ、空いた生産能力を新規顧客に提供できるようになります。
- この工場が持つ技術(例:銅配線や高電圧技術)は、SkyWater社の既存技術を補完し、自動車や産業分野の顧客へのサービスを強化します。
「ファブライト」戦略のトレンドへの対応
Infineon社のようなIDM(垂直統合型デバイスメーカー)は、自社工場(ファブ)の維持コストを抑えるため、製造を外部ファウンドリに委託する「ファブライト」戦略に移行する傾向にあります。

SkyWaterはInfineonの工場買収により、生産能力を4倍に拡大しました。これは、国内の半導体需要に応え、米国サプライチェーンを強化するためです。同時にInfineonとの長期供給契約も締結し、安定した収益基盤も確保しました。
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