この記事で分かること
- バイオメタンとは:廃棄物(家畜糞尿、食品、埋立地ごみ等)が発酵する際に生じるバイオガスを精製した燃料です。主成分は天然ガスと同じメタンですが、燃焼しても大気中のCO2を増やさないカーボンニュートラルな特性を持ちます。
- どのように製造されるのか;微生物の力で有機物を分解する「嫌気性消化」によりガスを発生させます。その後、膜分離や吸着技術を用いて不純物やCO2を除去し、メタン濃度を97%以上に高めることで、既存のガス管に注入可能となります。
- なぜ双日が投資するのか:中期経営計画の柱であるGX戦略の一環です。埋立地ガスの知見と開発権を持つ米Fidem社と組み、急成長する米国のバイオ燃料市場で収益基盤を築くとともに、日本やアジアへの供給体制構築を見据えています。
双日のバイオメタン製造事業への投資
双日は米国の事業会社 Fidem Energy(フィデム・エナジー) に出資し、持分法適用会社としました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC315830R30C26A3000000/
同社は米国東南部を拠点に、廃棄物埋立地から発生するガス(LFG)を回収・精製してバイオメタンを製造・販売する事業を展開しています。バイオメタンは既存の化石燃料インフラをそのまま活用できる「ドロップイン燃料」として、エネルギーセキュリティーと脱炭素の両立を図る現実的なソリューションと位置付けられています。
バイオメタンとは何か
バイオメタンとは、家畜の糞尿、食品廃棄物、下水汚泥、または埋立地のごみなどの「バイオマス(生物資源)」が発酵する際に発生するガス(バイオガス)を精製したものです。
主成分は化石燃料の天然ガスと同じメタン(CH4)ですが、以下の2つの大きな特徴があります。
- カーボンニュートラル: 植物などが吸収したCO2が循環しているとみなされるため、燃焼しても大気中のCO2を実質的に増やしません。
- インフラの互換性: 純度を97%以上に高めることで都市ガスや天然ガス車両の燃料としてそのまま利用でき、既存のパイプラインを活用可能です。
製造プロセス
バイオメタンは、主に「メタン発酵」という工程を経て作られます。
- 原料収集: 廃棄物(有機物)を集める。
- 発酵(メタン生成): 酸素のない状態(嫌気性)で微生物に分解させ、バイオガス(メタン約60%、CO2約40%)を取り出す。
- 精製(アップグレーディング): 不純物やCO2を取り除き、メタン濃度を極限まで高める。
- 利用: ガスグリッド(導管網)への注入や、CNG車への充填を行う。

バイオメタンは、廃棄物由来のバイオガスを精製し、メタン濃度を高めた燃料です。都市ガス等の既存インフラをそのまま転用できるため、低コストかつ即効性の高い脱炭素手段として、世界的に導入が加速しています。
どんな微生物が利用されるのか
バイオメタン(バイオガス)の製造には、一つの菌ではなく、多様な微生物がリレー形式で働く「嫌気性消化」というプロセスが利用されます。
4段階の微生物リレー
| 段階 | 役割 | 主な微生物の例 |
| 1. 加水分解 | タンパク質や脂質などの高分子を分解 | Bacteroides(バクテロイデス属)など |
| 2. 酸生成 | 糖やアミノ酸を低級脂肪酸やアルコールに変える | Clostridium(クロストリジウム属)など |
| 3. 酢酸生成 | 有機酸をメタンの原料となる酢酸や水素、CO2に変える | Syntrophomonas(シントロフォモナス属)など |
| 4. メタン生成 | 最終的にメタンガス(CH4)を合成する | メタン生成アーキア(古細菌) |
主役は「メタン生成アーキア」
最終段階でメタンを作るのは、厳密には細菌(バクテリア)ではなく、古細菌(アーキア)と呼ばれるグループです。
- 酸素を嫌う: わずかな酸素でも死滅してしまう「絶対嫌気性菌」です。
- 代謝経路: 酢酸を分解してメタンを作る「酢酸分解系」と、水素とCO2からメタンを作る「水素資化系」が代表的です。
- 環境への適応: 種類によって、常温(37℃前後)を好むものから、高温(55℃前後)で活発に働くものまで存在します。

バイオメタン製造は、複数の微生物によるリレーで行われます。バクテリアが廃棄物を酢酸や水素に分解し、最終的に「メタン生成アーキア(古細菌)」がそれらをメタンへと変換します。この連携には緻密な温度管理が不可欠です。
精製はどのように行うのか
埋立地から回収されたガス(LFG)をバイオメタンにするための精製(アップグレーディング)は、主に不純物の除去と二酸化炭素(CO2)の分離という2つのステップで行われます。
1. 前処理(不純物の除去)
まず、ガスに含まれる水分、硫化水素(腐食の原因)、シロキサン(エンジン故障の原因)などを取り除きます。これには活性炭フィルターや冷却装置が使われます。
2. CO2の分離(濃縮)
メタン(CH4)の純度を天然ガス同等まで高めるため、以下のいずれかの技術でCO2を除去します。
- 膜分離法(メンブレン): 特殊な膜を使い、CO2分子だけを透過させてメタンを残す方法。小〜中規模で主流です。
- PSA法(圧力変動吸着): 圧力変化を利用して吸着剤にCO2をくっつけ、メタンだけを通過させる方法。
- 水洗浄法(ウォーター・スクラビング): CO2が水に溶けやすい性質を利用し、高圧水でガスを洗ってCO2を溶かし出す方法。
物理・化学的な仕組み
埋立地ガスは元々メタン50%前後ですが、これらの工程を経て97%以上まで高められます。これにより、天然ガスのパイプラインに混ぜても問題ない品質(インターチェンジアビリティ)を確保します。

精製はまず脱硫や乾燥で不純物を除き、次に膜分離や吸着(PSA)技術を用いてCO2を分離・除去します。これによりメタン濃度を97%以上に高め、既存の天然ガスインフラに注入可能な品質まで磨き上げます。
なぜアメリカで行うのか
双日が日本ではなく米国でバイオメタン事業を展開する理由は、主に「原料の確保」「既存インフラ」「強力な支援制度」の3点に集約されます。
圧倒的な原料供給力(巨大な埋立地)
米国は広大な土地を背景に、廃棄物の処理を「埋立(ランドフィル)」に依存しています。日本の焼却処理とは異なり、埋立地は巨大な「バイオガス発生源」となるため、効率的に大量の原料ガスを回収できます。
既存の天然ガスパイプライン網
米国全土には網の目のように天然ガスパイプラインが張り巡らされています。精製したバイオメタンをそのまま既存の導管に注入して長距離輸送できるため、新たな物流インフラを構築する必要がありません。
手厚い政策支援(クレジット制度)
米国にはバイオ燃料の製造・使用に対して、RFS(再生可能燃料基準)やカリフォルニア州のLCFS(低炭素燃料基準)など、環境価値を売買できるクレジット制度が確立されています。これにより、通常の天然ガスより高い収益性を確保できます。

米国は埋立処分が主流で原料ガスが豊富な上、既存の広大なガス導管網を活用できる利点があります。さらに環境価値を取引するクレジット制度が確立されており、収益性と安定性の両面で事業環境が整っているためです。
双日が投資する理由は何か
双日が米国バイオメタン事業会社「Fidem Energy(フィデム・エナジー)」への投資を決めた主な理由は、「収益基盤の強化」「専門知見の獲得」「グローバル展開の足掛かり」の3点に集約されます。
1. 中期経営計画2026の柱(GX戦略)
双日は現在推進中の中期経営計画において、グリーントランスフォーメーション(GX)を最重点領域の一つに掲げています。
- バイオ燃料の柱: 既にインドで農業廃棄物由来のバイオメタン事業(2025年発表)を進めていますが、米国での「埋立地ガス」事業を加えることで、バイオ燃料分野の収益ポートフォリオを厚くする狙いがあります。
2. 相手方の強力な専門性と資産
出資先のFidem社は、単なるスタートアップではなく、非常に強力な基盤を持っています。
- 30年の実績: 経営陣は廃棄物管理業界で30年以上の経験があり、埋立地の運用やガス回収の深い知見を持っています。
- 開発権利の保有: 同社はテネシー州での既存事業に加え、米国東南部を中心に将来のプラント開発に向けたガス採取権(ポートフォリオ)を多数保持しており、双日はこれを利用して事業を迅速に拡大できます。
3. グローバルな市場戦略
双日は自社の強みである「商社としての機能」とFidem社の「技術・現場力」を掛け合わせようとしています。
- 日米・アジアへの展開: 米国国内での販売だけでなく、将来的には日本やアジア諸国へバイオ燃料を供給するサプライチェーンの構築を見据えています。
- 高成長市場への参入: 米国のバイオメタン需要は2025年に前年比24%増を記録するなど急成長しており、この波を捉えるための戦略的投資です。

中期経営計画の柱であるGX戦略の一環です。埋立地ガスの知見と開発権を持つ米Fidem社と組み、急成長する米国のバイオ燃料市場で収益基盤を築くとともに、将来的には日本やアジアへの供給体制構築を目指しています。

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