この記事で分かること
・スペースデブリはなぜ発生するのか:地球の周囲を回る不要な人工物のことで、使われなくなった人工衛星やロケットの破片、宇宙ミッションで発生した小さな部品などが含まれる。
・スペースデブリはどんな悪影響があるのか:人工衛星や宇宙ステーションの破損、地表への落下などの問題が発生する可能性がある。
・水素はどのように除去されるのか:レーザーを当て、デブリを減速させ大気圏に突入させる、プラズマ噴射でデブリの軌道を変える、ロボットアームで物理的に接触するなどの方法がある
スペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去を行う企業の成果発表がニュースになっています。https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00134/022800425/
人工衛星の急激な増加によって、生じるスペースデブリの除去には大きな注目があつまり、ビジネスチャンスとなっています。
宇宙ごみ(スペースデブリ)とは何か
宇宙ごみ(スペースデブリ)とは、地球の周囲を回る不要な人工物のことです。使われなくなった人工衛星やロケットの破片、宇宙ミッションで発生した小さな部品などが含まれます。
宇宙ごみの現状
- 量の増加: 2025年現在、地球周回軌道には約3万個の大きな宇宙ごみが存在し、1cm未満の微小なものを含めると1億個以上あると推定されています。
- 危険性: 宇宙ごみは秒速約7~8km(時速2万8000km)という高速で飛んでおり、現役の人工衛星や国際宇宙ステーション(ISS)に衝突すると大きな被害を与える可能性があります。
宇宙ごみの主な原因
- 使用済みの人工衛星: 任務を終えた後、制御不能のまま軌道を漂う。
- ロケットの部品: 打ち上げ時に切り離された部品が残る。
- 衝突事故: 例えば、2009年にロシアの衛星とアメリカの通信衛星が衝突し、大量のデブリを生んだ。
- 爆発: 燃料が残ったままの機器が爆発し、破片が発生する。
宇宙ごみの影響
- 人工衛星や宇宙ステーションの破損: 直径10cm程度のデブリでも、現役の衛星に衝突すれば機能停止する可能性がある。
- ケスラーシンドローム: 衝突によってデブリが増え続け、連鎖的に宇宙の活動が難しくなる現象。
- 地球への影響: 大気圏に落下するデブリの一部は燃え尽きず、地表に到達する可能性がある。
宇宙ごみの対策
デブリを生まないロケット設計: 再利用可能なロケット技術(例:SpaceXのFalcon 9)。
デブリ除去技術の開発
レーザー照射: 地上や宇宙からレーザーを当て、デブリを減速させて地球に落とす。
捕獲衛星: 網やアームでデブリを回収する技術。
電磁的な方法: イオンビームを利用してデブリの軌道を変える研究も進行中。
デブリの発生を減らす取り組み
使用済み衛星の制御落下: 役目を終えた衛星を安全に大気圏で燃やす。

宇宙ごみの問題は、今後の宇宙開発にとって大きな課題ですが、各国の宇宙機関や民間企業が協力して解決に取り組んでいます。
国際的な機関や枠組みは検討されているのか
宇宙ごみ(スペースデブリ)問題に対応するため、いくつかの国際機関や枠組みが設けられていますが、現状では、宇宙ゴミの回収や管理を定めた法律等はありません。
1. 国際機関
① 国際連合宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)
- 概要: 国連の下にある宇宙活動を監督する委員会。
- 役割: 宇宙ごみのガイドライン策定や宇宙の持続可能な利用に関する議論を行う。
- 主な成果: 「長期的持続可能性ガイドライン」の採択(2019年)。
② 国際電気通信連合(ITU)
- 概要: 国連の専門機関で、人工衛星の周波数と軌道の管理を担当。
- 役割: 衛星の軌道使用を調整し、デブリの増加を防ぐ。
③ 欧州宇宙機関(ESA)
- 概要: 欧州の宇宙開発機関で、デブリ対策の研究を進める。
- 主な取り組み:
- ClearSpace-1(2026年打ち上げ予定): 世界初の宇宙ごみ除去ミッション。
- Active Debris Removal(ADR)計画: 捕獲技術の開発。
④ 米国航空宇宙局(NASA)
- 概要: 宇宙ごみの監視や除去技術の研究を行う。
- 主な取り組み:
- Orbital Debris Program Office(ODPO): 宇宙ごみのデータ収集・分析を行う専門部署。
- レーザーやドラッグセイル(減速装置)によるデブリ削減の研究。
2. 国際的な枠組み・ルール
① 宇宙デブリ低減ガイドライン(IADCガイドライン)
- 策定機関: IADC(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee、宇宙機関間デブリ調整委員会)。
- 内容:
- 衛星やロケットは任務終了後、25年以内に軌道を離脱すること。
- 衝突リスクを減らすため、制御不能な物体の発生を抑制する。
② 国連宇宙空間条約(Outer Space Treaty, 1967年)
- 目的: 宇宙の平和利用を促進。
- デブリ対策の関連性: 各国に宇宙環境の保護義務を課すが、具体的なデブリ除去義務はない。
③ 長期的持続可能性ガイドライン(LTSガイドライン, 2019年)
- 策定機関: COPUOS。
- 内容: 宇宙ごみの発生防止や国際協力を推奨。
3. 民間企業の取り組み
最近では民間企業もデブリ除去技術を開発しています。
SpaceX(米国): 軌道上のデブリを減らすため、再利用可能なロケットを開発。
Astroscale(日本): 宇宙ごみ回収衛星を開発。
ClearSpace(スイス): ESAと協力し、デブリ除去ミッションを計画。

国際的な機関や枠組みは存在するものの、宇宙ごみの回収や管理を義務化する強制力のある法律はまだありません。
人工衛星の寿命はどれくらいなのか
人工衛星の寿命は種類や目的によって異なりますが、一般的には5~15年が目安です。ただし今後、技術の進歩により人工衛星の寿命はさらに長くなる可能性があります。
1. 人工衛星の種類ごとの寿命
種類 | 寿命の目安 | 例 |
---|---|---|
通信衛星 | 10~15年 | ひまわり(日本)、Starlink(SpaceX) |
地球観測衛星 | 5~10年 | ランドサット(NASA)、しずく(JAXA) |
気象衛星 | 5~15年 | ひまわり(日本)、GOES(米国) |
測位衛星(GPSなど) | 10~15年 | GPS(米国)、みちびき(日本) |
科学探査衛星 | 数年~数十年 | ハッブル宇宙望遠鏡(NASA: 30年以上)、すざく(JAXA: 10年) |
軍事衛星 | 5~10年 | KH-11(米国)、ラクロス(米国) |
小型衛星(キューブサットなど) | 1~5年 | 超小型衛星OPUSAT(日本) |
2. 人工衛星の寿命を決める要因
- 燃料の枯渇: 軌道維持や姿勢制御に必要な燃料(化学燃料や電気推進)がなくなると、寿命を迎える。
- 機器の劣化: 太陽光や宇宙放射線の影響で、太陽電池や電子機器が劣化する。
- 衝突リスク: 宇宙ごみとの衝突で故障することもある。
- 設計上の耐久性: 高性能な衛星は長寿命になることが多いが、小型衛星は寿命が短いことが多い。
3. 人工衛星の寿命延長の取り組み
- 燃料補給技術: NASAやノースロップ・グラマン社が、軌道上で燃料補給できる技術を開発中。
- デブリ回避技術: 自動で宇宙ごみを回避するAIシステムを搭載する衛星も登場。
- 修理ミッション: ハッブル宇宙望遠鏡はスペースシャトルによる修理で寿命が延びた。

人工衛星の寿命は種類や目的によって異なりますが、一般的には5~15年が目安です。
人工衛星の数はどれくらい増えているのか
人工衛星の数は以下のように急速に増加しています。
過去と現在の人工衛星の数(運用中)
- 2000年: 約1,000基
- 2010年: 約1,300基
- 2020年: 約3,300基
- 2025年(予測): 1万基以上
小型衛星の大量打ち上げ(メガコンステレーション)が増加の主な要因となり急増しており、今後も大幅な増加が見込まれており、今後10年で数万基の人工衛星が打ち上げられる見込みです。

人工衛星の数は急速に増加しており、今後10年で数万基の人工衛星が打ち上げられる見込みです。
デブリ除去にはどんな方法があるのか
デブリの除去は以下のような方法で行われています。
1. レーザー技術
- 原理: 地上または宇宙のレーザー装置から高出力のレーザーをデブリに照射し、デブリの表面を加熱します。加熱された部分が蒸発し、反作用でデブリの速度が低下し、軌道が下降します。これにより、デブリが大気圏に再突入し、燃え尽きます。
- メリット: 遠隔操作でデブリを処理でき、物理的な接触なしに除去できる点。
- 課題: 高出力レーザーを正確にターゲットに照射するための精度が必要です。
2. プラズマ噴射技術
- 原理: 小型衛星やデブリに接近し、プラズマを噴射することでデブリの軌道を変えます。軌道が変わることで、最終的に大気圏に突入させて燃焼させることができます。
- メリット: 物理的な接触なしでデブリを動かせるため、衛星や他の機器に損傷を与えるリスクが低い。
- 課題: プラズマ噴射の効果的な制御が必要です。
3. 捕獲装置(ロボットアーム)
- 原理: デブリにロボットアームやネットで物理的に接触し、デブリを捕まえて地球の大気圏に向けて誘導します。人工衛星や専用の捕獲衛星を使って行います。
- メリット: デブリを物理的に捕えるため、非常に確実に除去できます。
- 課題: 精密な操作が要求されるため、技術的に難易度が高いです。
4. 自動軌道変更装置(推進システム)
- 原理: 小型衛星や既存の衛星に推進装置を搭載し、軌道を変えることでデブリを大気圏に誘導します。
- メリット: 精度の高い操作が可能で、既存の衛星にも適用できる。
- 課題: 推進装置の寿命やコストが問題となることがあります。
5. メガコンステレーションの設計改善
- 原理: 新たに打ち上げられる衛星がデブリを出さないように、運用後に自動的に軌道を離脱できる設計にする。例えば、Starlinkの衛星には自動的に大気圏に落ちる機能が搭載されています。
- メリット: 衛星が運用を終えた後にデブリを作らずに軌道を離脱できる。
- 課題: 新たな衛星設計が広く採用されるまでの時間が必要です。
6. 小型衛星による監視と除去
- 原理: 小型衛星(キューブサットなど)を利用して、デブリを監視し、捕獲や除去のタイミングを決定します。また、デブリの動きを正確に把握することで衝突リスクを予測し、事前に回避することができます。
- メリット: 小型衛星は低コストで打ち上げられ、柔軟な運用が可能です。
- 課題: 大規模な監視ネットワークを作るための協力が必要です。

デブリ除去にはさまざまなアプローチがあり、それぞれにメリットと課題があります。技術の進歩とともに、今後はより効率的かつ低コストで宇宙ごみを処理する方法が登場することが期待されています。
日本ではどのようなデブリ対策があるのか
日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や民間企業がデブリの監視・除去技術の開発を進めています。
1. JAXAの取り組み
① デブリ除去実験「CRD2(商業デブリ除去実証)」
- 目的: 軌道上のデブリを人工衛星で除去する技術を実証。
- 方法: 使用済みロケット部品(H-IIAロケット上段)をターゲットにし、磁力やロボットアームで捕獲。
- 進捗: 2023年に実証開始、2026年に捕獲実験予定。
② 「KOSEN-1」プロジェクト(高専・JAXA共同開発)
- 目的: 小型衛星によるデブリの監視。
- 特徴: 全国の高等専門学校が協力し、監視用衛星を開発。
③ 超低高度衛星技術(「つばめ」プロジェクト)
- 目的: 大気の抵抗を活用し、使用後に自動的に軌道を離脱する技術を開発。
- 実績: 2017年に打ち上げた「つばめ(SLATS)」が成功。
2. 日本の民間企業の取り組み
① Astroscale(アストロスケール)
- 概要: 宇宙ごみ回収専門の日本企業。
- 主なプロジェクト:
- 「ELSA-d」ミッション(2021年): 実験用デブリを磁力で捕獲。
- 「Active Debris Removal(ADR)」計画: 大型デブリの除去技術を開発中。
- JAXAのCRD2にも参加。
② ALE(株式会社ALE)
- 概要: 人工流れ星を作る技術を応用し、宇宙ごみの制御技術を研究。
- 目標: 大気圏再突入をコントロールし、デブリの無害化。
3. 日本の政策・ルール
① 「宇宙活動法」(2018年施行)
- 内容: 人工衛星の打ち上げ事業者にデブリ対策を義務付け。
- 例: 運用終了後、25年以内に軌道を離脱させる。
② 国際協力(IADC・COPUOS)
- IADC(宇宙機関間デブリ調整委員会)に加盟し、国際的なデブリ低減策を策定。
- COPUOS(国連宇宙空間委員会)でのルール作りに参加。

JAXAがデブリ除去技術を開発中(CRD2, KOSEN-1など)であり、 Astroscaleなどの日本企業もデブリ回収ビジネスを推進しており、日本の技術が世界のデブリ問題解決に貢献する可能性が高くなっています。
宇宙自体が広大なのに、なぜデブリが影響するのか
宇宙は非常に広いため、一見するとデブリの密度は低く、衝突の可能性も低いように思えます。
しかし、実際には地球の周囲、特に低軌道(LEO: Low Earth Orbit, 500~1200km)には多くの人工衛星やデブリが集中しており、衝突リスクは高まっています
① 低軌道に人工物が集中している
- 衛星やデブリの数は急増しており、密集した軌道では衝突のリスクが高い。
- SpaceXのStarlinkやOneWebなどのメガコンステレーション計画により、特定の高度(500~600km)に大量の衛星が投入されている。
② デブリは高速で移動している
- 秒速7~8km(時速2万8000km)のスピードで飛行しており、1cmの破片でも人工衛星に大きな損傷を与える。
- 例えば、国際宇宙ステーション(ISS)は数cmのデブリでも衝突回避を行う。
③ ケスラーシンドロームのリスク
- デブリ同士が衝突すると、新たなデブリが発生し、連鎖的に衝突が続く可能性(ケスラーシンドローム)。
- 一度この状態になると、宇宙開発が困難になる。
④ 高高度のデブリは自然には消えない
低軌道(500km以下)のデブリは数年~数十年で大気圏に落ちるが、1200km以上のデブリは数百年以上、静止軌道(36000km)は半永久的に残る。

宇宙は広大だが、実際に利用する軌道は限られており、デブリが集中しているため、宇宙が広いからデブリは問題にならない」という考え方は楽観過ぎるといえます。
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