この記事で分かること
- 事業内容:主にナフサを原料として、エチレンやプロピレンといった基礎的な石油化学製品を製造し、そこから派生する多様な製品群を供給する事業を行っています。
- 分社化の理由:低迷する事業環境下で、単独では生き残りが難しい状況があります。他社との連携・再編を容易にすることで、生き残るために分社化を検討しています。
三井化学の石油事業分社化
三井化学は、現在、石油化学事業を主体とする「ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業(B&GM)」について、分社化の検討を進めています。
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/release/2025/2025_0530_1/index.htm
これは、事業環境の低迷や国際競争力の強化を目指すための、より強靭な事業構造への転換とグリーン化推進を目的としたものです。
三井化学の石油事業の内容は何か
三井化学の「石油事業」は、同社が「ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業(B&GM)」と呼ぶ事業領域の中核をなすものです。
これは、主にナフサを原料として、エチレンやプロピレンといった基礎的な石油化学製品を製造し、そこから派生する多様な製品群を供給する事業です。
1. エチレン・プロピレンの製造
石油化学産業の最も川上の工程であり、ナフサクラッカーと呼ばれる設備でナフサを熱分解し、エチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、キシレン(BTX)などの基礎的な化成品を製造します。
三井化学は、千葉と大阪に主要なエチレンプラントを保有しており、これらの製品を自社で利用するほか、他社へも供給しています。
2. ポリマー製品
エチレンやプロピレンを重合して作られる、汎用性の高いプラスチック製品群です。
- ポリエチレン(PE): 高密度ポリエチレン、メタロセン直鎖状低密度ポリエチレン(エボリュー®)、直鎖状低密度ポリエチレンなど。フィルム、容器、各種包装材などに幅広く使用されます。子会社のプライムポリマー(出光興産との合弁)でも生産しています。
- ポリプロピレン(PP): 自動車部品(バンパーなど)、各種成形品、繊維などに使用されます。プライムポリマーでも生産しています。
- エラストマー: ゴムのような弾力性を持つ素材で、自動車部品(ドアトリムなど)に利用されます。
3. 基礎化学品
石油化学の川上で得られる中間製品や、そこからさらに加工された多様な基礎化学品を製造しています。
- フェノール、ビスフェノールA、アセトン: ポリカーボネート樹脂(DVD、パソコン、自動車部品などに使用)やエポキシ樹脂などの原料となります。
- イソプロピルアルコール (IPA)、メチルイソブチルケトン (MIBK) など。
- アンモニア、尿素、メラミン: 肥料や化学繊維、染料などの原料となります。
- 高純度テレフタル酸、PET樹脂: ポリエステル繊維やペットボトルの原料となります。
- エチレンオキサイド、エチレングリコール: ポリエステル繊維、不凍液、洗剤などの原料となります。
4. ポリウレタン原料
ポリウレタンの原料となるイソシアネート(TDI、MDI)やポリオール(PPGなど)も生産しています。特に、環境負荷低減の観点からひまし油をベースとした植物由来ポリオール「エコニコール®」なども開発・提供しています。
5. その他の関連事業
- ライセンス事業: 自社の技術やプラントを他社に供与する事業。
- サステナブル・フィードストックス事業: 循環型社会の実現に向け、リサイクル原料の活用やバイオマス由来の原料への転換などを推進する事業。
- インダストリアルケミカルズ事業: 多岐にわたる産業分野向けの基礎化学品を供給する事業。
三井化学の石油事業は、日本の基幹産業を支えるエッセンシャルな素材を供給する重要な役割を担っています。
しかし、海外での大型プラント増設による供給過剰や、国内需要の減少といった厳しい事業環境に直面しているため、分社化や他社との連携を通じて、事業構造の転換とグリーン化を加速しようとしています。

三井化学の石油事業は、主にナフサを原料として、エチレンやプロピレンといった基礎的な石油化学製品を製造し、そこから派生する多様な製品群を供給する事業を展開しています。
分社化する理由はなにか
三井化学がベーシック&グリーン・マテリアルズ事業(B&GM)、つまり石油化学事業を分社化する理由は多岐にわたりますが、主な目的は事業の再構築と競争力の強化に集約されます。
1. 厳しい事業環境への対応
- 中国などアジアでの生産能力増強: 近年、中国やその他のアジア地域で大規模な石油化学プラントが次々に稼働しており、世界的な供給過剰の状態にあります。これにより、製品市況が低迷し、採算性が悪化しています。
- 国内需要の減少: 日本国内では少子高齢化や産業構造の変化により、石油化学製品の需要が伸び悩んでいます。
- エネルギー価格の変動: 原材料であるナフサの価格が原油価格に連動して変動するため、事業収益が不安定になりやすい特性があります。
これらの要因により、現状のままでは収益性を維持し、成長していくことが困難になっています。
2. 国際競争力の強化と事業再編の加速
- 規模の追求と効率化: 分社化により、単独での事業運営の枠を超え、他社との連携や統合・再編を柔軟かつ迅速に進めやすくすることが狙いです。統合により、生産規模を拡大し、コスト競争力を高めることができます。
- ポートフォリオの最適化: 三井化学全体としては、高機能材料やヘルスケア分野など、成長性の高い非石油化学分野に経営資源を集中したいと考えています。石油化学事業を切り離すことで、それぞれの事業の特性に応じた経営戦略を実行しやすくなります。
- 自立した事業体への転換: 分社化することで、B&GM事業が三井化学本体の事業の一部ではなく、独立した「顔」を持つ事業体として、より自律的な経営判断と意思決定が可能になります。これにより、市場の変化に迅速に対応し、他社との提携や事業再編の交渉を円滑に進めることができます。
3. グリーン化・カーボンニュートラルへの対応
- 環境規制の強化と脱炭素化の要請: 世界的にカーボンニュートラルへの動きが加速しており、石油化学産業も例外ではありません。CO2排出量の多い石油化学プラントの効率化や、バイオマス由来原料、ケミカルリサイクルなどの導入が求められています。
- グリーンケミカルへのシフト: 分社化した事業体で、サステナブルな素材開発やリサイクル技術の導入など、グリーン化への投資と戦略をより明確に進めることができます。
4. 経済安全保障への貢献
- サプライチェーン強靭化: 国内での基盤化学品の安定供給は、日本の産業全体のサプライチェーンにとって極めて重要です。海外依存度が高まる中で、国内に競争力のある基盤化学産業を維持することは、経済安全保障の観点からも重要視されています。分社化と再編を通じて、このレジリエンス(強靭性)を高める狙いもあります。

三井化学が石油化学事業を分社化するのは、低迷する事業環境下で、単独では生き残りが難しい状況があります。他社との連携・再編を容易にすることで、より強靭で競争力のある事業体へと変革し、最終的には国内の石油化学産業全体の再編を加速させることを目的としています。
ナフサとは何か
「ナフサ」とは、原油を蒸留して得られる石油製品の一つで、主に石油化学製品の基礎原料として使われる透明な液体です。別名「粗製ガソリン」とも呼ばれます。
1. 原油からの精製過程
油田から採掘されたままの原油は、真っ黒でドロドロとした混合物です。
これを石油精製工場に運び、加熱して蒸留塔と呼ばれる装置で沸点の違いを利用して分離します。原油を熱すると様々な成分が蒸気になり、それぞれの沸点(気体から液体に戻る温度)に応じて、異なる高さで液体として取り出されます。
ナフサは、この蒸留過程で得られる、ガソリンに近い比較的沸点の低い(約30℃〜180℃程度)軽質な成分です。上から順に、LPガス、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油、アスファルトなどが分離されていきます。
2. 石油化学における役割
ナフサの最も重要な用途は、石油化学工業の主要な原料となることです。これを「ナフサクラッカー」や「スチームクラッカー」と呼ばれる設備で、高温のスチーム(水蒸気)とともに熱分解します。
この熱分解によって、ナフサに含まれる炭素と水素の結合が切断され、より小さく反応性の高い分子に変化します。
主な生成物は以下の通りです。
- エチレン: 最も重要な石油化学基礎製品で、ポリエチレン、塩化ビニル、エタノールなどの原料になります。
- プロピレン: ポリプロピレン、アクリル繊維、アセトンなどの原料になります。
- ブタジエン: 合成ゴム(タイヤなど)の原料になります。
- ベンゼン、トルエン、キシレン(BTX): 各種合成樹脂、合成繊維、合成洗剤などの原料となる芳香族化合物です。
これらの基礎的な化成品(これを「オレフィン」や「芳香族」と総称することもあります)が、さらに化学工場で加工されることで、私たちが日々の生活で利用する様々なプラスチック製品(ペットボトル、食品容器、自動車部品)、合成繊維(衣類)、洗剤、医薬品、塗料など、あらゆる化学製品の源となっています。
3. その他の用途
石油化学原料としての用途が最も大きいですが、その他にも以下のような使われ方があります。
- 燃料用ナフサ: 一部のボイラー燃料などに使われることもあります。
- 都市ガス原料: 一部の都市ガス製造にも利用されます。
- ガソリン: 未精製のガソリン(粗製ガソリン)としての性質も持っており、さらに精製することで自動車用ガソリンになります。
日本においては、石油化学製品のほとんどがナフサを原料として製造されており、その大部分は海外(特に中東)からの輸入ナフサに頼っています。
ナフサは、現代社会を支えるプラスチック製品や化学工業の基盤を形成する、非常に重要な資源と言えます。

ナフサは、原油を蒸留して得られる石油製品の一つで、主に石油化学製品の基礎原料として、利用されます。
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