この記事で分かること
・発酵食品とは:微生物が持つ酵素の働きによって、有機物が分解されて生み出された食品のことです。
・なぜ、みそが選ばれたのか:味覚や嗅覚が鈍る宇宙空間で好まれる塩味やうまみの強い食品ということでみそが選ばれています。
・宇宙での発行の難しさ:重力や放射線など宇宙と地上の環境の違いや宇宙ステーションという限られた状況が発酵食品つくりを難しくしています。
国際宇宙ステーションでのみそ造りに成功
米マサチューセッツ工科大などのチームが国際宇宙ステーション(ISS)でみそ造りに成功したと、科学誌に発表しました。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6534291
宇宙での発酵食品作りはこれが初めてのこととなります。味覚や嗅覚が鈍る宇宙空間で好まれる塩味やうまみの強い食品ということでみそが選ばれています。
宇宙で作られたみそは、地球で作られたものと比べて、ナッツのような風味が強いという特徴があります。
発酵とは何か
発酵とは、微生物が持つ酵素の働きによって、有機物が分解され、人間にとって有益な物質が生成される現象です。発酵の種類によって、起こる反応や生成される物質は異なります。代表的な発酵の種類と、そこで起こる反応について解説します。
1. アルコール発酵
- 酵母などの微生物が、糖を分解してアルコール(エタノール)と二酸化炭素を生成する反応です。
- この反応は、日本酒、ビール、ワインなど、さまざまなお酒の製造に利用されます。
- パンを膨らませる際にも、アルコール発酵によって発生する二酸化炭素が利用されます。
2. 乳酸発酵
- 乳酸菌が糖を分解して乳酸を生成する反応です。
- ヨーグルト、チーズ、漬物など、乳製品や発酵食品の製造に利用されます。
- 乳酸は酸味を与え、食品の保存性を高める効果もあります。
3. 酢酸発酵
- 酢酸菌がアルコールを酸化させて酢酸を生成する反応です。
- 食酢の製造に利用されます。
- 酢酸は、独特の酸味と香りを持ち、食品の風味付けや保存に役立ちます。
4. 麹発酵
- 麹菌がデンプンやタンパク質を分解し、糖やアミノ酸を生成する反応です。
- 日本酒、味噌、醤油など、日本の伝統的な発酵食品の製造に利用されます。
- 麹菌の酵素によって生み出されるアミノ酸が、うま味成分となります。
発酵の過程
発酵の過程では、微生物が酵素を分泌し、有機物を分解します。この分解によって、以下のような変化が起こります。
- 成分の変化:
- 糖がアルコールや乳酸などの有機酸に変化します。
- タンパク質がアミノ酸に分解されます。
- でんぷんが糖に分解されます。
- 風味の変化:
- 微生物が生成するさまざまな物質によって、独特の風味や香りが生まれます。
- 保存性の向上:
- 生成された有機酸やアルコールが、食品のpHを下げ、腐敗の原因となる微生物の増殖を抑制します。
発酵は、微生物の働きを利用した、非常に複雑で奥深い化学反応です。

発酵とは、微生物が持つ酵素の働きによって、有機物が分解され、人間にとって有益な物質が生成される現象です。
発酵食品を宇宙で作るのはなぜ、難しいのか
宇宙で発酵食品を作ることは、地球上とは異なる環境要因が複雑に絡み合うため、非常に難しい挑戦です。主な困難な点は以下の通りです。
微小重力の影響
地球上での発酵は、重力による対流や沈殿が重要な役割を果たしますが、宇宙ではこれらの現象が起こりにくいため、発酵の進行が予測不能になる可能性があります。
微生物の活動も重力の影響を受ける可能性があり、発酵の速度や生成物の品質に影響を与えるかもしれません。
放射線の影響
宇宙空間は地球よりも強い放射線に晒されており、微生物の遺伝子に影響を与え、発酵に悪影響を及ぼす可能性があります。
放射線に強い微生物を選別したり、放射線を遮蔽する設備が必要になります。
温度と湿度の管理
宇宙ステーション内であっても、温度や湿度の変化は地球上よりも大きくなる可能性があります。発酵に最適な温度と湿度を維持するための高度な制御システムが必要です。
限られた資源
宇宙ステーションに持ち込める資源は限られており、発酵に必要な材料や設備を最小限に抑える必要があります。廃棄物の処理やリサイクルも重要な課題となります。
安全性の確保
宇宙空間での微生物の挙動は未知の部分が多く、食品の安全性を確保するための厳格な管理が必要です。万が一、有害な微生物が発生した場合の対策も検討しておく必要があります。
これらの課題を克服するために、科学者たちは様々な研究を行っています。例えば、放射線に強い微生物の選別、微小重力下での発酵を制御する技術、閉鎖環境での食料生産システムなどが開発されています。
また、これらの違いが地球で作られたものと比べて、ナッツのような風味が強いという特徴をもたらした可能性もあります。

重力や放射線など宇宙と地上の環境の違いや宇宙ステーションという限られた状況が発酵食品つくりを難しくしています。
微生物はなぜ重力の影響を受けるのか
微生物が重力の影響を受ける理由は、主に以下の要因が関係しています。
細胞の構造とサイズ
微生物の細胞内には、さまざまな分子や細胞小器官が存在します。これらの構成要素は、密度が異なるため、重力によって沈降する可能性があります。
特に、細胞サイズが大きい微生物や、細胞内に重い構造体を持つ微生物は、重力の影響を受けやすいと考えられます。一方で、細菌のように小さく単純な構造の微生物は、重力の影響を受けにくい傾向があります。
流体中の挙動
微生物は、液体や気体などの流体中で生活しています。重力は、流体の対流や沈殿を引き起こし、微生物の分布や移動に影響を与える可能性があります。
例えば、重力によって栄養分が沈殿し、微生物の生育環境が変化することが考えられます。
細胞内プロセス
微生物の細胞内では、さまざまな化学反応や物質輸送が行われています。重力は、これらのプロセスに関わる分子の移動や反応速度に影響を与える可能性があります。
特に、重力によって細胞内の物質分布が変化し、細胞機能に影響を与えることが考えられます。

微生物は重力の大きさや方向によって、生育速度、代謝活性、細胞形態などの特性が変化することがあります。
宇宙ではなぜ味覚や嗅覚が鈍るのか
宇宙空間で味覚や嗅覚が鈍くなる原因は、主に以下の点が考えられています。
体液の移動
宇宙空間では、重力がほとんどないため、体液が地球上のように下半身に溜まらず、上半身に移動します。これにより、鼻腔内の粘膜が腫れ、鼻づまりのような状態になり、嗅覚が鈍くなることがあります。
また、嗅覚が鈍ると、味覚も影響を受け、食べ物の味が感じにくくなります。
ストレスと環境
宇宙空間は、放射線、閉鎖された空間、騒音など、地球上とは大きく異なる過酷な環境です。これらの環境によるストレスが、味覚や嗅覚に影響を与える可能性があります。
心理的な要因
宇宙空間での生活は、地球上とは大きく異なるため、心理的なストレスを感じることがあります。この心理的なストレスも、味覚や嗅覚に影響を与える可能性があります。

体液の移動の違いによる鼻腔内の粘膜の腫れやストレスが嗅覚や味覚に影響する可能性があります。そのため、宇宙食は、地上よりも濃い味付けや、スパイスを効かせたものが好まれる傾向にあります。
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