この記事で分かること
- 放熱絶縁シートとは:「熱を逃がす力(放熱)」と「電気を遮断する力(絶縁)」を兼ね備えた電子部品用素材です。熱源と冷却板の隙間を埋めて効率よく熱を逃がしつつ、ショートを防ぐ重要な役割を担っています。
- BLA-6051の特徴:樹脂ながらセラミックス(窒化ケイ素)に匹敵する放熱性を持つ絶縁シートです。超低熱抵抗によって、EVインバーター等の小型・軽量化、低コスト化、高信頼性を両立します。
- 放熱性を高めた方法:熱を伝える粒子の向きを厚み方向に整列させたのが鍵です。これに自社開発の高放熱樹脂を組み合わせることで、熱の通り道を効率化し、セラミックス並みの放熱性を実現しました。
住友ベークライト放熱絶縁シート BLA-6051
住友ベークライトが開発した放熱絶縁シート「BLA-6051」は、電気自動車(EV)や産業機器のパワーモジュールにおいて、従来のセラミックス基板を代替することを目的に開発された次世代の熱管理材料です。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2601/21/news034.html
デンソーの新型車載インバーターに採用された日本発条(ニッパツ)製の樹脂絶縁金属基板に、このシートが使用されていることが発表され、大きな注目を集めています。
放熱絶縁シートとは何か
放熱絶縁シートとは、「電気は通さない(絶縁)が、熱はよく通す(放熱)」という、相反する2つの性質を併せ持った特殊なシートのことです。
主にスマートフォン、パソコン、電気自動車(EV)などの電子機器内部で、熱を逃がすための「架け橋」として使われています。
1. なぜ必要なのか
電子機器の中にあるCPUやパワー半導体などの部品は、動かすと非常に熱くなります。この熱を逃がすために「ヒートシンク(放熱板)」などを密着させますが、実はそこには2つの問題があります。
- 目に見えない隙間: 金属同士を重ねても、表面の微細な凹凸により「空気の層」ができてしまいます。空気は熱を伝えにくいため、これが壁となって熱がこもってしまいます。
- ショートの危険: 熱を逃がしたいけれど、部品と金属板が直接触れると電気が流れてショートしてしまう場合があります。
放熱絶縁シートを間に挟むことで、隙間の空気を追い出して熱をスムーズに逃がしつつ、電気的な絶縁も確保できるのです。
2. シートの構造
一般的に、以下のような構成になっています。
- ベース素材(マトリクス): シリコーンゴムやアクリル樹脂など、柔軟性のある素材。これにより部品にぴったり密着します。
- フィラー(充填剤): 熱を伝える役割を持つ微細な粒子。セラミックス(窒化ホウ素、アルミナなど)が多く使われます。樹脂の中にこの粒子をぎっしり詰め込むことで、熱の通り道を作ります。
3. 主な種類と特徴
用途に合わせて、さまざまなタイプがあります。
| 種類 | 特徴 | 主な用途 |
| シリコーン系 | 非常に柔らかく、耐熱性が高い。密着性に優れる。 | パソコン(CPU)、LED照明、家電 |
| 非シリコーン系 | シリコーン特有のガス(シロキサン)が出ない。 | 精密な接点がある光学機器、ハードディスク |
| 高硬度/薄膜タイプ | 非常に薄く、絶縁性が極めて高い。 | EV用パワーモジュール、車載インバーター |
| 相変化(フェーズチェンジ)型 | 熱くなると少し溶けて、グリスのように隙間を埋める。 | 高出力なサーバー、ゲーミングPC |
4. 選び方のポイント
- 熱伝導率 (W/m ・K): 数値が高いほど、熱をよく通します。
- 絶縁破壊電圧 (kV): どれくらいの電圧まで耐えられるか(絶縁を保てるか)の指標です。
- 硬さ(柔軟性): 凹凸がある場合は柔らかいものを、安定性を求めるなら硬いものを選びます。

放熱絶縁シートとは、「熱を逃がす力(放熱)」と「電気を遮断する力(絶縁)」を兼ね備えた電子部品用素材です。熱源と冷却板の隙間を埋めて効率よく熱を逃がしつつ、ショートを防ぐ重要な役割を担っています。
BLA-6051の特徴は何か
住友ベークライトが開発した「BLA-6051」の最大の特徴は、「樹脂でありながらセラミックス基板(窒化ケイ素)に匹敵する放熱性能を持つ」点にあります。
2026年1月にデンソーの新型インバーターへの採用が発表された際、特に評価されたポイントは以下の4点です。
1. 業界トップクラスの「超低熱抵抗」
- 技術: 自社開発の「高放熱樹脂」と、熱を伝える粒子(BNフィラー)の向きを揃える「配向制御技術」を組み合わせています。
- 効果: これまで樹脂では難しいとされていた、窒化ケイ素(AMB基板)相当の放熱性を実現しました。これにより、SiC(シリコンカーバイド)などの次世代パワー半導体が発生させる激しい熱を効率よく逃がせます。
2. 高い「耐電圧性能」と「薄膜化」
- 高電圧対応: EVの800Vシステムなど、厳しい絶縁環境下でも耐えられる高い絶縁破壊電圧を備えています。
- 薄さ: 樹脂の強みを活かして非常に薄く作れるため、モジュール全体の小型化・軽量化に直結します。
3. 「反り」が少なく、製造コストを低減
- 安定性: 硬いセラミックス基板は熱による「反り」が発生しやすく、故障の原因になります。BLA-6051は150℃以上の高温下でも寸法が安定しており、実装工程での不良(歩留まり低下)を抑えられます。
- コスト: セラミックスからこの樹脂シート(樹脂絶縁基板)へ置き換えることで、部材コストの削減が期待されています。
4. 信頼性の向上
- パワーモジュールの設計自由度が高まるため、より複雑で高密度な配置が可能になり、結果として電子機器(EVのインバーターなど)の寿命や信頼性が向上します。
従来のパワーモジュールは「熱に耐えるにはセラミックスの板を使うしかない」というのが常識でしたが、BLA-6051はその常識を覆し、「安くて・軽くて・よく冷える樹脂」を実現した画期的な製品です。

BLA-6051は、樹脂ながらセラミックス(窒化ケイ素)に匹敵する放熱性を持つ絶縁シートです。独自の配向制御技術で超低熱抵抗を実現し、EVインバーター等の小型・軽量化、低コスト化、高信頼性を両立します。
どのように放熱性を向上させたのか
「BLA-6051」が樹脂でありながらセラミックス並みの高い放熱性を実現した理由は、大きく分けて「素材の進化」と「構造の工夫」の2点に集約されます。
1. BNフィラーの「配向制御技術」
これが最も重要な技術です。
- 仕組み: シートの中に「窒化ホウ素(BN)」という、熱をよく通す粒(フィラー)をぎっしり詰め込んでいます。
- 工夫: 窒化ホウ素は「向き」によって熱の伝わり方が変わる性質があります。住友ベークライトは、この粒子の向きをシートの厚み方向(熱を逃がしたい方向)にきれいに揃える(配向させる)技術を開発しました。
- 効果: 熱の「通り道」が垂直に整うため、バラバラな向きに入っている場合よりも劇的に熱が伝わりやすくなります。
2. 自社設計の「高放熱樹脂」
- 仕組み: ベースとなる樹脂(接着剤の役割をする部分)そのものも、分子レベルで熱を伝えやすいように独自設計されています。
- 効果: 粒子(フィラー)と粒子の間のわずかな隙間にある樹脂も熱を遮断せず、シート全体として効率的な熱伝導を可能にしています。
「素材」と「並べ方」のダブルの工夫により、「樹脂の熱抵抗を極限まで下げる」ことに成功し、高価なセラミックス板の代わりを務められるまでになりました。

独自の「BNフィラー配向制御技術」により、熱を伝える粒子の向きを厚み方向に整列させたのが鍵です。これに自社開発の高放熱樹脂を組み合わせることで、熱の通り道を効率化し、セラミックス並みの放熱性を実現しました。
向きによって熱の伝わり方が変わる理由は
「BLA-6051」に使用されている窒化ホウ素(BN)という素材が、向きによって熱の伝わり方が変わる(異方性がある)理由は、その「結晶構造」にあります。
理由は「結合の強さ」の違い
窒化ホウ素は「白い黒鉛(グラファイト)」とも呼ばれ、黒鉛と非常によく似た層状の構造をしています。
- 横方向(面内方向)は「高速道路」層の中(水平方向)では、原子同士が強い共有結合でガッチリつながっています。このため、熱の振動(フォノン)が非常に速く伝わりやすく、熱伝導率が高くなります。
- 縦方向(層間方向)は「砂利道」一方で、重なった層と層の間は、弱い力(ファンデルワールス力)でふんわり重なっているだけです。熱の振動が隣の層へ移る際に大きな壁となるため、熱が非常に伝わりにくくなります。
どのくらい違うのか
一般的な窒化ホウ素の結晶では、その差は圧倒的です。
- 水平方向: 100~200 W/m ・ K (熱が非常によく通る)
- 垂直方向: 2 ~3 W/m ・ K (熱がほとんど通らない)
このように、「向きによって性能が100倍近く違う」という性質を持っています。
住友ベークライトの凄さ
普通の作り方をすると、この平らな粒子はシートに対して「寝た状態(水平)」になってしまいます。これでは肝心の「厚み方向」に熱が逃げません。
住友ベークライトは、この粒子を「無理やり立たせる(垂直に並べる)」技術を開発しました。本来は熱を通しにくい「樹脂シートの厚み方向」に、粒子の「熱をよく通す向き」を揃えて並べることで、驚異的な放熱性を実現したのです。

窒化ホウ素は、原子が強く繋がる「面方向」は熱をよく通しますが、層が重なる「厚み方向」は結合が弱く熱を遮断します。このため向きで性能が激変しますが、BLA-6051は粒子を垂直に立てることで弱点を克服しています。
粒子を立たせる方法は
「BLA-6051」において、鱗片状(薄い板状)の窒化ホウ素(BN)粒子を垂直に立たせる(配向させる)具体的な方法は、住友ベークライト独自の「プロセス技術(成形プロセス)」に秘密があります。
一般的に、こうした放熱シートで粒子を垂直に並べるには、主に以下の3つのアプローチが取られます。
1. 磁場や電場による制御(有力な手法)
これが最もスマートな方法の一つです。
- 仕組み: 窒化ホウ素は通常、磁石に反応しませんが、粒子に特殊な処理を施したり、非常に強力な磁力(磁場)をかけたりすることで、特定の向きに回転させることができます。
- BLA-6051の場合: 樹脂が固まる前の柔らかい状態で外部から強力な力(磁場や電場)を加え、粒子を一斉に「気をつけ!」の姿勢で立たせてから、熱を加えて固めます。
2. 「積層・スライス」による物理的な配向
粒子を立たせるのではなく、「寝かせたものを後から立てる」という逆転の発想です。
- 手順: 1. まず、粒子が「寝た」状態の薄いシートをたくさん作ります。 2. それをバウムクーヘンのように何層も積み重ねてブロックにします。 3. そのブロックを、積層面に対して垂直に薄くスライスします。
- 結果: 切り出された新しいシートの中では、もともと横に寝ていた粒子が、すべて「垂直」に向いていることになります。
3. 流動(圧力)による制御
- 仕組み: 樹脂を狭いノズルから押し出す際にかかる圧力(剪断力)を利用します。
- 工夫: 特殊な形の金型やノズルを通すことで、樹脂の流れとともに粒子を無理やり特定の方向に向けさせます。

主に「強力な磁場や電場による外部制御」や、シートを積層して垂直に切り出す「積層スライス法」などの技術が用いられます。樹脂が固まる前に粒子の向きを物理的に揃え、熱の通り道を垂直に作ることで放熱性を高めています。

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