この記事で分かること
- 航空機向けプリプレグとは:炭素繊維などの強化繊維に、あらかじめ樹脂を均一に染み込ませたシート状の中間材料です。軽量・高強度で品質が安定しており、加熱・加圧して焼き固めることで、航空機の機体やエンジン部品などに成形されます。
- PFAとは:パーフルオロアルコキシアルカンの略で、最高水準の耐熱性(260℃)と耐薬品性を持つフッ素樹脂です。複雑な形状の部品加工が可能なため、半導体や航空機分野で重宝されています。
- なぜPFAが航空機向けプリプレグに使用されるのか:耐熱性と難燃性に優れるため、火災時の安全性が厳しい航空機基準に合致するためです。また、熱で溶かして固める「熱可塑性」により、短時間での成形やリサイクルが可能という利点もあります。
住友ベークライトのPFAを用いた航空機向けプリプレ
住友ベークライトのバイオマス由来のPFA(パーフルオロアルコキシフッ素樹脂)を用いた航空機向けプリプレグの開発は、航空業界の脱炭素化(サステナビリティ)と軽量化を両立させる画期的な取り組みとして注目されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC152OK0V10C26A2000000/
住友ベークライトは、このバイオマスPFAプリプレグを、航空機のエンジン周辺部材や内装、さらには将来の「空飛ぶクルマ(eVTOL)」への適用も視野に開発を進めています。
航空機向けプリプレグとは何か
航空機向けのプリプレグ(Pre-preg)とは、炭素繊維などの強化繊維に、あらかじめ樹脂を染み込ませた成形用の中間材料のことです。
英語の「Pre-impregnated(あらかじめ浸透させた)」が語源で、いわば「樹脂付きの布(シート)」のような状態を指します。
プリプレグの構造と役割
通常、プラスチック成形は「型に繊維を敷いてから樹脂を流し込む」という工程を踏みますが、航空機のような高度な品質が求められる分野では、この方法だと樹脂の量にムラができやすく、強度が安定しません。
そこで、あらかじめ工場で繊維と樹脂の比率を緻密にコントロールして作られたのがプリプレグです。
航空機用プリプレグの3つの大きな特徴
- 圧倒的な軽さと強さ(比強度)
- 航空機の機体(ボーイング787など)の重量の約50%以上は複合材料(CFRP)です。アルミニウム合金よりも軽く、強度は数倍以上あるため、燃費向上に直結します。
- 品質の均一性
- 樹脂の含有率が1%単位で管理されているため、どこを切り取っても同じ強度が得られます。これは人の命を預かる航空機において最も重要な要素の一つです。
- 設計の自由度
- シート状であるため、繊維の向きを縦・横・斜めと重ね合わせることで、「特定の方向にだけめちゃくちゃ強いパーツ」を自在に作ることができます。
航空機用プリプレグの種類:熱硬化性と熱可塑性
これまで航空機用プリプレグといえば、熱をかけると固まる「熱硬化性樹脂(エポキシなど)」が主流でした。
しかし、最近では住友ベークライトの例のように、加熱すると柔らかくなり再利用や高速成形が可能な「熱可塑性樹脂(PFA、PEEKなど)」への注目が集まっています。
| 種類 | 特徴 | 航空機での主な用途 |
| 熱硬化性 | 高温でも変形しにくいが、成形に時間がかかる(数時間)。 | 主翼、胴体、垂直尾翼など |
| 熱可塑性 | 短時間で成形でき(数分)、リサイクル可能。 | エンジン周辺部材、内装、小部品 |
どうやって製品になるのか
プリプレグはそのままでは製品ではありません。
- 積層: 設計に合わせて、シートを何層も重ねる。
- 加圧・加熱: 「オートクレーブ」という巨大な圧力釜などに入れ、熱と圧力を加えて焼き固める。
- 完成: 非常に硬く軽いカーボンパーツ(CFRP)が出来上がる。

炭素繊維などの強化繊維に、あらかじめ樹脂を均一に染み込ませたシート状の中間材料です。軽量・高強度で品質が安定しており、加熱・加圧して焼き固めることで、航空機の機体やエンジン部品などに成形されます。
PFA樹脂とは何か
PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)とは、フッ素樹脂の一種で、テフロン(PTFE)の性質を持ちながら、熱で溶かして自由に成形できるプラスチックです。フッ素樹脂の中でも「最高峰」の性能を持ち、以下の3つの大きな特徴があります。
1. 圧倒的な耐熱性と耐薬品性
- 熱に強い: 260℃という高温下でも連続で使用できます。
- 薬に強い: ほとんどすべての化学薬品や溶剤に侵されません。半導体製造装置のパイプや、化学工場のバルブなどに不可欠です。
2. 「溶かして固める」ことができる(熱可塑性)
ここが、フライパンのコーティングで有名な「テフロン(PTFE)」との最大の違いです。
- PTFE: 粉を固めて焼く(餅を焼くようなイメージ)必要があり、複雑な形を作るのが苦手。
- PFA: 高温でドロドロに溶けるため、射出成形(金型に流し込む)や押し出し成形が可能です。これにより、複雑な形状の航空機部品やチューブを効率よく作れます。
3. 非粘着性と滑り性
- 物がくっつきにくく、摩擦が極めて少ないため、汚れが付きにくく、液体の流れをスムーズにします。
住友ベークライトがPFAを選んだのは、「燃えにくい(難燃性)」「熱に強い」「成形スピードが速い」という航空機素材に必須の条件をすべて満たしているからです。さらに、これをバイオマス化することで、高性能と環境対応を両立させています。

PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)は、最高水準の耐熱性(260℃)と耐薬品性を持つフッ素樹脂です。熱で溶かして成形できる「熱可塑性」が最大の特徴で、複雑な形状の部品加工が可能なため、半導体や航空機分野で重宝されています。
なぜ耐熱性に優れるのか
PFA(フッ素樹脂)が圧倒的な耐熱性を持つのは「炭素(C)とフッ素(F)の結びつきが、全化学結合の中でもトップクラスに強いためです。
1. 強固な「C-F結合」
PFAの骨格は炭素の鎖ですが、その周りをフッ素原子ががっちりとガードしています。
- 結合エネルギーの大きさ: 炭素とフッ素の結合を切り離すには膨大なエネルギー(熱)が必要です。一般的なプラスチック(ポリエチレンなど)のC-H結合よりもはるかに強いため、高温になっても分子の鎖がバラバラになりません。
2. フッ素原子による「鉄壁のガード」
フッ素原子はサイズが絶妙で、炭素の鎖の周りを隙間なくびっしりと覆い隠すように並んでいます(らせん構造)。
- 化学的安定性: この「フッ素の鎧」があるおかげで、熱だけでなく、外部からの化学攻撃(薬品など)も炭素の主鎖まで届きません。
3. 分子同士が「滑りやすい」
PFAは分子間の引き合う力が弱いため、結晶化しやすく安定しています。
- 熱分解の抑制: 高温になっても分子内で化学反応が起きにくいため、燃えたり炭化したりしにくい性質を持っています。

PFAが耐熱性に優れるのは、炭素とフッ素の結合エネルギーが極めて大きく、熱で壊れにくいためです。また、フッ素原子が炭素の鎖を隙間なく覆う「鎧」のような構造をしており、熱分解や化学反応を物理的に防いでいます。
なぜPFAが航空機プリプレグに使用されるのか
住友ベークライトが航空機向けプリプレグにPFAを採用したのには、従来の樹脂では到達できなかった「極限環境への耐性」と「製造効率」の両立という明確な理由があります。
1. 圧倒的な「難燃性」と「低発煙性」
航空機材料において最も厳しい基準の一つが「火災への強さ」です。
- 自己消火性: PFAは酸素指数(LOI)が非常に高く、火源を離せばすぐに火が消えます。
- 有毒ガスの抑制: 万が一の火災時でも、煙の発生や有毒ガスの放出が極めて少ないため、乗客の安全確保に直結します。
2. 「熱可塑性」による製造プロセスの革新
従来の航空機プリプレグ(エポキシ樹脂等)は、一度固めると二度と溶けない「熱硬化性」でした。
- 成形時間の短縮: 樹脂を溶かして固めるだけ(冷却成形)なので、数時間かかっていた成形が数分〜数十分で終わります。
- リサイクル性: 端材や役目を終えた部品を再度溶かして再利用できるため、環境負荷を劇的に下げられます。
3. 過酷な環境に耐える「信頼性」
航空機は、氷点下からエンジン周辺の高温、さらには高度による強力な紫外線や化学物質(燃料・洗浄剤)にさらされます。
- 広い使用温度域: 260℃から極低温まで物性が安定しています。
- 非粘着・低摩擦: 汚れが付きにくく、摺動(こすれ)に強いため、可動部付近の部材にも適しています。
これまでの炭素繊維複合材料(CFRP)は、強度はあっても「作るのに時間がかかり、再利用も難しい」のが弱点でした。
PFAを使うことで、「鉄より強く、炎にびくともせず、かつプラスチックのように素早く大量生産できる」という、航空業界が長年求めていた理想の材料に近づいたのです。

PFAは260℃の耐熱性と極めて高い難燃性を備え、火災時の安全性が厳しい航空機基準に合致するためです。また、熱で溶かして固める「熱可塑性」により、短時間での成形やリサイクルが可能という利点もあります。

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