この記事で分かること
- アクリル樹脂高効率再生技術とは:アクリル樹脂を分子レベルまで熱分解し、原料のMMAモノマーに戻すケミカルリサイクル技術です。独自装置により不純物を効率よく除去し、新品同等の品質で再生可能。化石資源由来よりCO2を約50%削減します。
- なぜライセンス供与を行うのか:自社のみでの生産には限界があるため、世界中の工場に技術を広めてアクリル再資源化を加速させるのが狙いです。自社技術を世界標準(デファクトスタンダード)にすることで、市場主導権を握る戦略です。
住友化学、アクリル樹脂高効率再生技術のライセンス供与
住友化学は2026年2月5日、米国の大手技術ライセンサーであるルーマス・テクノロジー(Lummus Technology)社と共同で、アクリル樹脂(PMMA)の高効率ケミカルリサイクル技術の商業ライセンス提供を開始したと発表しました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00773897
この技術供与は、世界中の企業が住友化学の高度なリサイクル技術を自社設備で導入できるようにするもので、アクリル樹脂の資源循環を世界規模で加速させる大きな一歩となります。
アクリル樹脂高効率再生技術とは何か
アクリル樹脂(PMMA)の高効率再生技術とは「使い終わったアクリルを、化学反応を使って新品と全く同じ状態の原料にまで戻す技術」のことです。
住友化学が確立したこの技術は、従来の「溶かして固めるだけ(マテリアルリサイクル)」の限界を突破した、ケミカルリサイクルという手法に基づいています。
1. 仕組み:分子レベルでの「解体」
通常のリサイクルは、プラスチックを細かく砕いて熱で溶かすため、不純物が混じったり強度が落ちたりして、品質が劣化(ダウンサイクル)してしまいます。
住友化学の技術では、以下のステップを踏みます。
- 熱分解: 廃アクリル樹脂を高温で加熱し、分子の繋がりをバラバラにします。
- モノマー化: 樹脂の最小単位である「MMA(メチルメタクリレート)モノマー」という液体に戻します。
- 精製: 蒸留などの工程を経て、付着していた塗料や汚れなどの不純物を完全に取り除きます。
2. この技術が「高効率」と言われる理由
住友化学は、日本製鋼所と共同開発した「二軸混練押出機」を熱分解炉として採用しています。これが「高効率」の鍵です。
- 連続運転が可能: 従来の方式では、装置の中に焦げ付き(カーボン)が溜まると運転を止めて掃除する必要がありました。この技術では、スクリューが回転しながら汚れを自動で掻き出すため、長期間止まらずに動かせます。
- 高い回収率: 投入した廃アクリルを、極めて高い割合で高品質な原料(MMA)として回収できます。
- 低コスト・低負荷: 大規模なプラントだけでなく、中規模な設備でも効率よく動かせるため、輸送コストやエネルギー消費を抑えられます。
3. なぜ画期的なのか
この技術が注目されている理由は、以下の3つのメリットがあるからです。
- 品質の「無限ループ」: 劣化がないため、何度でも「廃材→新品→廃材→新品」という循環が可能です。
- 透明度の維持: アクリルの最大の特徴である「高い透明性」を損なわないため、ヘッドランプや液晶板などの高度な用途に再利用できます。
- 環境への貢献: 石油から新しい原料を作る場合に比べ、CO2排出量を約50%以上削減できるとされています。
主な活用例
この技術で再生された樹脂は、すでに実用化の段階に入っています。
- 自動車: テールランプやバイザー。
- 家電・看板: 大型看板やディスプレイ部材。
- インテリア: 透明なパーテーションや家具。

廃アクリル樹脂を分子レベルまで熱分解し、原料のMMAモノマーに戻すケミカルリサイクル技術です。独自装置により不純物を効率よく除去し、新品同等の品質で再生可能。化石資源由来よりCO2を約50%削減します。
二軸混練押出機とは何か
二軸混練押出機(にじくこんれんおしだしき)とは、筒(シリンダー)の中に2本のスクリューが並んで回転し、材料を混ぜ合わせながら先へ送り出す機械のことです。
アクリル樹脂の再生においては、この機械が「熱分解炉」の役割を果たします。
主な特徴と仕組み
通常、プラスチックを溶かすには1本のスクリュー(単軸)を使いますが、二軸にすることで圧倒的に高い「混練(まぜ合わせる)力」を発揮します。
- 強力な撹拌(かくはん): 2本のスクリューが噛み合いながら回ることで、廃プラスチックを均一に加熱・溶融します。
- 自己掃除機能(セルフクリーニング): スクリュー同士が互いの表面に付着した汚れ(焦げ付きなど)を削ぎ落としながら回転します。
- 効率的なガス排出: 樹脂が熱分解されて発生したガス(MMAモノマー)を、効率よく回収口へと導きます。
アクリル再生におけるメリット
住友化学がこの装置を採用した理由は、リサイクル特有の課題を解決できるからです。
- 連続運転: 汚れが溜まりにくいため、装置を止めずに24時間連続でリサイクルが可能です。
- 高品質な原料回収: 均一に熱が伝わるため、分解ムラが抑えられ、純度の高い原料に戻せます。
- 省スペース: 巨大な炉を作らなくても、この機械一台で「溶融・分解・脱ガス」を完結させられるため、設備をコンパクトにできます。
「2本の棒が複雑に回転して、汚れを落としながら効率よく材料を分解するイメージです。

筒の中で2本のスクリューが噛み合いながら回転し、材料を強力に混ぜて送り出す機械です。自己掃除機能で汚れを防ぎつつ、加熱・溶融・混練を均一に行えるため、アクリル樹脂を効率よく熱分解するのに適しています。
なぜライセンス供与を行うのか
住友化学が自社で独占せず、あえて世界中にライセンス供与(技術の切り売り)を行うのには、戦略的な理由が3つあります。
1. デファクトスタンダード(世界標準)の確立
リサイクル技術は、使われる場所が多いほど「標準」になります。世界中の工場にこの技術を広めることで、「アクリルリサイクルと言えば住友化学の方式」という地位を固め、関連する装置や触媒、メンテナンスなどの市場を主導できます。
2. 社会実装のスピードアップ
気候変動対策は一刻を争う課題です。住友化学一社が工場を建てるペースでは、世界中で排出される膨大な廃アクリルを処理しきれません。
他社に技術を使ってもらうことで、地球規模でのCO2削減と資源循環を圧倒的なスピードで実現できます。
3. 「持続可能な収益」の構築
自社で製品を製造・販売するビジネスに加え、技術提供によるライセンス料(ロイヤリティ)を得るビジネスモデルへの転換です。これにより、巨額の設備投資リスクを抑えつつ、安定的な収益基盤を築くことができます。
ライセンス供与のビジネスモデル
| 項目 | 従来のモデル | ライセンスモデル |
| 役割 | メーカー(作る) | 移転者(教える・貸す) |
| 利益源 | 製品の販売利益 | 契約金・技術使用料 |
| 拡大速度 | 自社工場の建設ペース | 提携先の数だけ急拡大 |
自分たちだけで作るよりも、作り方を広めた方が世界が早く変わり、ビジネスとしても合理的」だと判断しています。

自社のみでの生産には限界があるため、世界中の工場に技術を広めてアクリル再資源化を加速させるのが狙いです。ライセンス料による収益確保に加え、自社技術を世界標準(デファクトスタンダード)にすることで、市場主導権を握る戦略です。
再生化の問題点はなにか
アクリル樹脂の高効率再生技術(ケミカルリサイクル)は非常に優れていますが、社会全体で普及させるにはいくつかの「壁」が存在します。
1. 回収システムの構築(物流の壁)
技術がいくら優れていても、原料となる「廃アクリル」が集まらなければ稼働できません。
- 分散した廃棄物: 看板、水槽、自動車部品などは各地に散らばっており、これらを効率よく回収し、リサイクル工場まで運ぶ物流コストが大きな負担となります。
- 分別の徹底: 他のプラスチック(ポリ塩化ビニルなど)が混ざると、熱分解の効率が落ちたり、装置を傷めたりするため、高度な分別作業が必要です。
2. 再生コストと価格競争力(経済の壁)
現在は、石油から新しく作る(バージン材)方が安く済む場合があります。
- エネルギー消費: 分解に熱を使うため、エネルギー費用がかかります。
- 市場価格: 石油価格が下がると、リサイクル樹脂の価格的な魅力が相対的に薄れてしまいます。環境価値(カーボンクレジット等)をどう価格に上乗せできるかが課題です。
3. 再生回数による微細な劣化(品質の壁)
「無限にループできる」とは言いつつも、実際には回収・加工の過程でわずかな不純物が混入したり、分子鎖が想定外に切れたりすることがあります。
- 添加剤の影響: 元の製品に含まれていた着色剤や紫外線吸収剤などの「添加剤」を、どれだけ完璧に取り除けるかが、再生品の透明度を左右します。
まとめ:再生化の課題
| 課題の分類 | 具体的な内容 |
| 供給面 | 廃材を安く、大量に、きれいに集める仕組みが未整備。 |
| コスト面 | バージン材(新品)との価格競争に勝つのが難しい。 |
| 技術面 | 特殊な添加剤を含む廃材の処理や、極限の純度の追求。 |
これらの課題を解決するためにも、ライセンス供与によって拠点を増やし、物流距離を短縮しようとしています。

最大の課題は効率的な回収システムの構築です。各地に分散した廃材を集める物流コストや、不純物の混入を防ぐ分別の徹底が不可欠です。また、新品(バージン材)との価格競争力や、添加剤の完全除去も重要な課題です。

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