この記事で分かること
- 温調樹脂とは:温度の急激な変化を防ぎ、快適または安定した温度環境を維持するための機能性樹脂です。
- なぜ固体のまま温調出来るのか:分子レベルの結晶構造の変化を利用して、見た目は固体でも内部で熱のやりとりが行われているため、固体のままで温調可能です。
- 温調樹脂を持つ高分子はどのようなものがあるか:パラフィン誘導体、ブロック共重合体、熱可逆性結晶性高分子などがあります。
住友化学の温調樹脂
住友化学は、温調樹脂に関して、企業向けユニフォームを展開するハイドサイン株式会社とのコラボレーションを開始することを発表しています。
https://www.sumitomo-chem.co.jp/news/detail/20250501.html
温度調節材料である温調樹脂の機能性をさらに広めるためのコラボレーションとなっています。
温調樹脂とは何か
温調樹脂は、「温度調節機能を持つ樹脂(ポリマー)」のことです。具体的には以下のような特性を持つ材料を指します。
温調樹脂の基本的な仕組み
- 相変化による熱の吸収・放出
一般的な温調樹脂は、特定の温度で相変化(固体⇔液体)や結晶構造の変化を起こし、そのときに潜熱を吸収・放出します。
→ これにより周囲の温度変化を緩やかにする効果が生まれます。 - 固体状態で機能するタイプもある
住友化学の「コンフォーマ®」のように、液体にならず固体のままで熱を制御する樹脂も開発されています。
→ 液漏れのリスクがない、安定性が高いというメリット。
どんな用途があるのか
温調樹脂は、次のような用途で使われます:
- 建築材料:壁材・断熱材として、室温の安定化
- 衣類・寝具:衣服内の温度調節、快眠サポート
- 電子機器:デバイス内部の熱マネジメント
- 物流:温度管理が必要な梱包材

温調樹脂とは、温度の急激な変化を防ぎ、快適または安定した温度環境を維持するための機能性樹脂です。
なぜ固体のままで温調できるのか
以下のように、「結晶構造の相転移(solid–solid phase transition)」という現象を利用しているためです。
固体状態で温度調節できる理由
従来の温調材料(PCM:潜熱蓄熱材)は固体⇔液体の相変化で熱を吸収・放出しますが、住友化学の「コンフォーマ®」のような温調樹脂は
→ 「固体の結晶構造がある温度で別の結晶構造に変化(相転移)」する
→ このときに潜熱(相転移潜熱)を吸収・放出する
という仕組みです。
イメージとしては:
- 固体A(ある結晶構造)
- 一定温度になると、固体B(別の結晶構造)に変わる
※見た目も状態も固体のままですが、内部の分子配列が変わっています。
この相転移の際にエネルギー(熱)を出し入れすることで、周囲の温度変化を和らげる「温調」効果が生まれるわけです。
メリット
- 液漏れしない:液体にならないので形状保持性が高い
- 繰り返し使用可能:結晶構造の相転移は可逆的なので何度も使える
- 成形自由度が高い:固体加工技術が使える(シート、フィルム、繊維など)

分子レベルの結晶構造の変化を利用して、見た目は固体でも内部で熱のやりとりが行われているため、固体のままで温調可能です。
温調樹脂にはどんな物質があるのか
温調樹脂「コンフォーマ®」に使用される物質は、特殊なポリマー(高分子)であり、主に以下の特徴を持っています。
使用される主な物質の特徴
- 高分子樹脂(ポリマー)
コンフォーマ®は、特定の温度範囲で相転移を起こし、熱を吸収・放出する特性を持つ高分子樹脂で構成されています。 - 相転移による熱吸収・放出
これらのポリマーは、固体の結晶構造が特定の温度で変化する際に潜熱を吸収・放出し、周囲の温度変化を緩和します。 - 液化しない温調機能
従来の温調材料は相変化に伴い液化することがありますが、コンフォーマ®は固体のままで温度調節を行うため、液漏れの心配がありません。
応用例と素材の特性
- 繊維用グレード(コンフォーマ®)
このグレードは、衣服や寝具などの繊維製品に応用され、暑い時は熱を吸収し、寒い時は放出することで快適な温度環境を提供します。 - シート用グレード(ヒートレージ®)
建材や自動車部品などに使用され、温度変化を緩和することで、省エネルギー効果や快適性の向上に寄与します。

特定の温度範囲で相転移を起こし、熱を吸収・放出する特性を持つ高分子樹脂が温調樹脂として利用されています。
どのような高分子樹脂が相転移を起こすのか
相転移(特に固体–固体相転移)を起こす高分子樹脂には、特定の結晶性と分子構造を持つものが必要です。
温調樹脂に用いられる代表的な「相転移性高分子(phase-change polymers, PCPs)」や、その機構を備えた高分子には以下のようなものがあります。
1. パラフィン誘導体(線状アルカン系高分子)
- 例:ポリエチレン(PE)、パラフィンワックスをベースにした高分子複合体
- 相転移機構:結晶–非晶の可逆的転移
- 特徴:融点近くで熱を吸収・放出。ただし一般には液体化するので、他材料と複合化する必要あり。
🔸温調樹脂として使用する場合は、ナノカプセル化やポリマーグラフト化で漏洩を防ぎます。
2. ブロック共重合体(Block Copolymers)
- 例:ポリスチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、PEO-PPO-PEO など
- 相転移機構:ミクロ相分離による構造秩序の変化
- 特徴:温度で配列構造が変化し、比熱・熱伝導率などが変わる
🔸分子レベルで秩序構造が変化することで、温調機能が生まれる。
3. 熱可逆性結晶性高分子(Reversible crystalline polymers)
- 例:ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリウレタン系結晶性高分子、ポリエステル変性体など
- 相転移機構:結晶-非晶構造の転移(固体–固体)
- 特徴:相転移温度を分子設計により調整できる。形状を保持しつつ、潜熱のやり取りが可能。
4. 液晶性高分子(Liquid crystalline polymers, LCPs)
- 例:ポリフェニレン系液晶ポリマーなど
- 相転移機構:ネマティック相⇔スメクティック相などの秩序相転移
- 特徴:微細な秩序の変化により熱的・光学的性質が変わる
🔸構造が複雑だが、精密な温度制御が可能。
重要な性質と選定のポイント
- 相転移温度(例:25~35℃)を狙って分子設計
- 繰り返しの相転移に耐える安定性(耐熱サイクル性)
- 成形性:フィルム・繊維・フォームなどへの加工性
- 固体状態を維持しながら潜熱を活用できること

温調樹脂に用いられる代表的な相転移性高分子には、パラフィン誘導体、ブロック共重合体、熱可逆性結晶性高分子などがあります。
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