住友金属鉱山の20度涼しく感じられる作業服 どんな素材が使用されるのか?なぜ冷却できるのか?

この記事で分かること

  • 使用される素材:、住友金属鉱山が開発した近赤外線吸収ナノ微粒子を利用した素材技術SOLAMENT®(ソラメント)が使用されています。
  • 近赤外線吸収ナノ微粒子で冷却できる理由:熱源となる太陽光の近赤外線を効率良く吸収します。これにより、光が素材の奥や作業服の内側へ侵入するのを防ぐ(遮熱)ため、結果的に涼しく感じられます。
  • どのようなナノ粒子なのか:ソラメントの主な金属微粒タングステン酸化物をベースにセシウムなどを加えた複合タングステン酸化物のナノ微粒子です。

住友金属鉱山の20度涼しく感じられる作業服

 住友金属鉱山は同社の近赤外線吸収材「SOLAMENT®(ソラメント)」の技術を活用した最大で20度涼しく感じられる作業服を発表しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC221350S5A920C2000000/

 熱を遮る粉末とも言われる技術が作業服に応用され、「最大20度涼しい」という効果を実現しているようです。

ソラメントとは何か

 SOLAMENT®(ソラメント)は、住友金属鉱山株式会社が開発した、太陽光などに含まれる近赤外線をコントロールする素材テクノロジーです。

 これは、同社が独自開発した近赤外線吸収ナノ微粒子(ベースとなる素材は「CWO®」)を応用したもので、この微粒子が太陽光の約42%を占める近赤外線を効率良く吸収する特性を持ちます。

ソラメントの仕組みと機能

 ソラメントは、近赤外線を吸収する能力を応用することで、単一の素材で「発熱」と「遮熱」という相反する機能を発揮できます。

1. 発熱(保温)機能

  • 素材に含まれるナノ微粒子が近赤外線を吸収し、効率良く熱に変換します。
  • この発熱効果により、薄い生地でもダウンジャケットに匹敵する暖かさを持たせることが可能になります。

2. 遮熱(冷却)機能

  • 近赤外線を吸収して熱を発生させた面とは反対側には熱が届きにくくなるため、空間として涼しく感じられます。
  • この仕組みで、日傘やタープに使用すれば遮熱効果を発揮したり、作業服に応用することで、最大で20度涼しく感じられる製品開発に繋がっています。

主な用途

 その高い機能性と、可視光線(人の目に明るさとして見える光)は透過するため透明性が高いという特徴から、幅広い分野での活用が期待されています。

  • アパレル・アウトドア:発熱による防寒着、遮熱による冷却作業服、日傘やタープなど。
  • ウィンドウフィルム:自動車や建築物の窓材に適用し、視認性を保ちながら室内の温度上昇を抑制。
  • 農業:ビニールハウスや農業用ネットに使用し、光合成に必要な可視光線を通しつつ、ハウス内の温度上昇の原因となる近赤外線をカット。
  • ライフソリューション:赤外線カメラによる盗撮防止、肌の光老化の原因となる近赤外線の保護など。

ソラメント(SOLAMENT®)は、住友金属鉱山が開発した素材技術です。太陽光の近赤外線を効率良く吸収することで、発熱(保温)遮熱(冷却)という二つの機能を発揮します。衣料品から窓材まで幅広く応用されます。

ナノ微粒子はなぜ効率良く熱に変換できるのか

 ナノ微粒子が近赤外線を吸収し、効率良く熱に変換できる主なメカニズムは、微粒子が持つ高い電子伝導性と光エネルギー変換の特性にあります。

1. 近赤外線の強力な吸収

 ソラメント(SOLAMENT®)のベースとなっている微粒子(CWO®など)は、金属などから合成された無機材料です。

  • この材料は、人の目に見える可視光線は透過させる一方で、熱の原因となる波長域(約800 nm∼1200 nm)の近赤外線を非常に強力に吸収するように設計されています。

2. 高効率な光熱変換(無放射遷移)

 微粒子が近赤外線エネルギーを吸収すると、内部の電子が励起状態になります。

  • この励起された電子は、光を放出して元の安定な状態に戻る(発光)のではなく、熱エネルギーとしてそのエネルギーを放出する「無放射遷移」という過程をとります。
  • この無放射遷移による熱への変換効率が非常に高いため、光エネルギーを無駄なく熱に変えることができます。

3. ナノサイズによる効率の向上

 微粒子がナノサイズ(非常に小さいサイズ)であることも効率に寄与しています。

  • ナノ粒子は、通常の大きな物質に比べて表面積が非常に大きく、光との相互作用が強くなります。
  • また、吸収した熱が微粒子全体に素早く広がり、熱として効率的に外部へ放出されるため、高い変換効率が実現します。

 簡単に言えば、この特殊なナノ微粒子は「近赤外線だけを選んで吸収し、そのエネルギーを無駄なく熱に換える」という機能に特化しているため、極めて高い効率で熱を発生させられるのです。

特殊なナノ微粒子は、可視光線を透過しつつ、熱の原因となる近赤外線を選択的に吸収します。このエネルギーを内部の電子が高効率に熱(振動)へ変換(無放射遷移)することで、極めて効率よく発熱します。

冷却にも使える理由は何か

 ソラメント(SOLAMENT®)が冷却に使える理由は、その核となる機能である「近赤外線の強力な遮断(熱源のカット)」と、その結果として生じる「熱の侵入防止」にあります。

 これは、熱を奪う(冷やす)のではなく、熱が対象空間に入り込むのを防ぐ(遮熱する)ことによって、結果的に涼しく感じる環境を作り出すメカニズムです。

1. 太陽光の主要な熱源をカットする

 太陽光がもたらす熱の主な原因は、波長の長い近赤外線です(太陽光エネルギーの約42%を占めます)。

  • ソラメントに含まれるナノ微粒子は、人の目には見えないこの近赤外線を$94%$以上という高い効率で吸収・遮断するように設計されています。

2. 熱が対象の空間に届かないようにする

 素材が近赤外線を吸収し、熱に変換する際、その熱は基本的に素材の表面層で留まるか、外部に放出されます。

  • 作業服やタープの場合: 生地が近赤外線を受け取って熱に変換しますが、その熱は生地の表面(太陽側)に集中し、その熱が服の内側やタープの下の空間まで届きにくくなります。その結果、熱源(近赤外線)がカットされた空間は涼しく感じられるのです。
  • 窓ガラスの場合: 窓ガラスにソラメントを塗布すると、近赤外線を吸収して車内や室内への侵入を防ぐため、室温の上昇を抑制できます。

3. 「発熱」が「冷却」を生む

 ソラメントの技術は、表面で「発熱」することで、その「奥側の空間を冷却(遮熱)」するという、一見矛盾した効果を同時に実現しています。

ソラメントは、熱源となる太陽光の近赤外線を効率良く吸収します。これにより、光が素材の奥や作業服の内側へ侵入するのを防ぐ(遮熱)ため、結果的に涼しく感じられます。

どんな金属微粒子が使われているのか

 住友金属鉱山の「ソラメント(SOLAMENT®)」に使われている主要な金属微粒子は、同社が独自開発した「CWO®」という近赤外線吸収材料です。

CWO®の主な成分

 CWO®の主成分は、酸化タングステンをベースとした複合タングステン酸化物です。

  • 化学名: セシウムドープタングステン酸化物(Cesium-doped tungsten oxide)などの複合酸化物です。
  • 元素: 主にタングステン(W)とセシウム(Cs)、酸素(O)といった元素から構成されています。

特徴

  1. ナノ微粒子: 極めて微細なナノサイズの粉体材料(無機材料)です。
  2. 高い選択性: 人の目に見える可視光線を高い透過率で通しながら、熱の元である近赤外線を強力に吸収します。
  3. 導電性: 高い電子導電性を持ち、この特性が近赤外線エネルギーを効率良く熱エネルギーに変換する(光熱変換)メカニズムに寄与しています。

 CWO®は、元々自動車や建築物の遮熱ガラスなどに使用されてきた技術で、その後にアパレル分野にも展開するために「SOLAMENT®」としてブランド化されました。

ソラメントの主な金属微粒子は、住友金属鉱山が独自開発した「CWO®」です。これは、タングステン酸化物をベースにセシウムなどを加えた複合タングステン酸化物のナノ微粒子で、高い近赤外線吸収能力を持ちます。

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