この記事で分かること
- 復元力と耐久性を持たせた手法:長年培った独自の高分子材料設計技術と精密な架橋構造制御によってゴムの化学的特徴である「架橋」を3Dプリンティングプロセスで再現・最適化できたことで復元力と耐久性を実現しています。
- 用いられる材料:従来の「ゴムライク」材料は、熱可塑性樹脂をベースとした一時的な柔軟性を持つのみでした。対して住友ゴムの新材料は、光硬化性の液体ゴムで、ゴム本来の架橋構造により、本物のゴムに匹敵する高い復元性と耐久性を実現可能です。
- 用途:ロボットの指先(高グリップ)、医療訓練用臓器モデル(柔軟性)、自動車・スポーツ用品の高性能部品など、高い復元性や耐久性が求められる分野での利用が見込まれています。
住友ゴム工業の3Dプリンター用ゴム材料の開発
住友ゴム工業は、3Dプリンターで加工可能な新しいゴム材料の開発に成功したと発表しています。
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20250623-3361328/
これは、従来の3Dプリンターで主流だった樹脂材料では難しかった、ゴム本来の「復元性」と「耐久性」を兼ね備えている点が大きな特徴です。
復元力と耐久性を実現できた理由は
住友ゴムが3Dプリンター用ゴムで復元力と耐久性を実現できた主な理由は、以下の2点に集約されます。
ゴム本来の「化学的なネットワーク(架橋構造)」の形成
- 従来の3Dプリンター用「ゴムライク」材料は、多くが熱可塑性樹脂であり、分子間の結合が弱く、力を加えると変形しやすく、元の形に戻りにくい(永久変形しやすい)という課題がありました。
- 一方、住友ゴムは、液体の光硬化性材料に、光(紫外線)照射によって強固で均一な三次元的な網目構造(化学的なネットワーク、すなわち「架橋構造」)を形成させる技術を確立しました。この架橋構造こそが、ゴムが力を加えても伸び縮みし、力を除けば瞬時に元の形に戻る「弾性」と、繰り返しの変形にも耐える「耐久性」の源となります。
長年のゴム・解析技術力の活用
- 住友ゴムは、タイヤ開発などで培った膨大なゴムの材料設計ノウハウと高分子解析技術を持っています。これを3Dプリンター用材料に応用し、ポリマーの種類、架橋密度、添加剤の最適化などを分子レベルで精密に制御することで、「復元力」と「耐久性」を両立させることに成功しました。特に、2000万回という高い繰り返し圧縮試験に耐える耐久性は、この高度な技術力によって実現されたものです。
要するに、単に柔らかい樹脂を作るのではなく、ゴムの化学的特徴である「架橋」を3Dプリンティングプロセスで再現・最適化できたことが、復元力と耐久性実現の核心です。

住友ゴムは、長年培った独自の高分子材料設計技術と精密な架橋構造制御によってゴムの化学的特徴である「架橋」を3Dプリンティングプロセスで再現・最適化できたことで復元力と耐久性を実現しています。
どんな用途があるのか
住友ゴムが開発した3Dプリンター用ゴム材料は、従来の3Dプリンターでは難しかったゴム本来の復元性と耐久性を兼ね備えているため、幅広い分野での応用が期待されています。
想定される主な用途
ロボット分野
- ロボットハンドの指先など: 人の指先のような高いグリップ力と滑りにくさが求められる部分に活用できます。これにより、より繊細で確実な作業が可能なロボットの開発に貢献します。
医療分野
- 医療訓練用の臓器モデル: 人の臓器に近い弾力性や柔軟性を持つ立体模型の作成が可能です。これにより、外科手術などの訓練の質を高め、医療従事者のスキル向上に役立ちます。
自動車分野
- 自動車のゴム部品: これまで3Dプリンターでの製造が難しかった複雑な形状や高性能が求められるゴム部品の製造が可能になります。例えば、特定の振動吸収性を必要とする部品や、シール材などが考えられます。
スポーツ分野
- 高性能なスポーツ用品の部品: ゴムの特性が活かされるスポーツ用品において、軽量化や特定の反発性、耐久性を持つカスタマイズされた部品の製造に貢献します。例えば、シューズのソールやグリップ部分などです。
その他の可能性
この技術は、少量多品種生産や試作品開発の迅速化にも大きなメリットをもたらします。特定の用途に特化したカスタマイズ部品や、開発段階での迅速なフィードバックループの構築が可能になり、製品開発全体の効率化が期待されます。
このような特性を持つ3Dプリンター用ゴムは、既存の製品の性能向上だけでなく、これまでゴムの特性が制約となり実現できなかった新たな製品やサービスの創出にも繋がる可能性を秘めています。

ロボットの指先(高グリップ)、医療訓練用臓器モデル(柔軟性)、自動車・スポーツ用品の高性能部品など、高い復元性や耐久性が求められる分野で、複雑な形状やカスタマイズされた部品の製造に貢献します。
どんな原料が3Dプリンター用にもちいられるのか
住友ゴム工業が開発した3Dプリンター用ゴム材料は、従来の「ゴムライク」と呼ばれる樹脂材料とは異なり、ゴム本来の特性(復元性、耐久性、弾性)を持つことが大きな特徴です。
具体的な原料やその化学構造については、企業秘密の部分が多いため詳細な開示はありませんが、公開されている情報や一般的な3Dプリンター用ゴム材料の傾向から、以下の要素が考えられます。
- ポリマー(高分子化合物)
- 光硬化性樹脂をベースとしていると考えられます。住友ゴムの発表では「紫外線を照射することで短時間で硬化する液体のゴム材料」とされているため、アクリル系樹脂やエポキシ系樹脂、あるいはこれらをベースにした特殊なウレタン系樹脂などが考えられます。
- これらの樹脂に、ゴムの主成分となるエラストマー(弾性体)の特性を付与する高分子鎖が組み込まれていると推測されます。
- 架橋剤(硬化剤)
- 液体材料に紫外線を照射することで、ポリマー鎖同士を結合させ、三次元的な網目構造(架橋構造)を形成させるための成分です。この架橋の度合いが、ゴムの弾性や硬度に大きく影響します。
- 光重合開始剤と呼ばれる、光エネルギーを吸収して重合反応を開始させる物質も含まれます。
- 各種添加剤
- 充填剤: ゴムの強度や耐久性を向上させるために、カーボンブラックやシリカなどの微粒子が配合されることがあります。これにより、物理的特性を調整します。
- 軟化剤: 材料の粘度や加工性を調整し、最終的なゴムの柔軟性に関与する場合があります。
- 安定剤: 紫外線による劣化や酸化を防ぎ、製品の寿命を延ばすために配合されます。
- 顔料: 必要に応じて色を付けるための顔料も加えられます。
これまでの「ゴムライク」材料との違い
一般的な3Dプリンターで使われてきた「ゴムライク」材料は、主に熱可塑性ポリウレタン(TPU)や熱可塑性エラストマー(TPE)といった、熱を加えることで溶融し、冷却することで固まるタイプの樹脂が主流でした。これらは柔軟性や弾性を持つものの、本物のゴムのような復元性や耐久性、特に繰り返しの応力に対する強さには限界がありました。
住友ゴムが開発した材料は、これらの熱可塑性樹脂とは異なり、液体の状態で光硬化させるタイプであり、かつ従来のゴム製造で培ってきた「架橋」の技術を応用することで、本物のゴムに近い特性を実現している点が革新的です。つまり、単に「柔らかい樹脂」を作るのではなく、ゴム本来の化学構造と物理特性を3Dプリンティングで再現することに成功したと言えます。
彼らの「独自のゴム・解析技術力」は、これらの原料の選定、配合比率、分子レベルでの構造制御に活かされており、それが高機能な3Dプリンター用ゴムの実現につながっています。

従来の「ゴムライク」材料は、熱可塑性樹脂をベースとした一時的な柔軟性を持つのみでした。対して住友ゴムの新材料は、光硬化性の液体ゴムで、ゴム本来の架橋構造により、本物のゴムに匹敵する高い復元性と耐久性を実現し、用途が大幅に広がります。
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