この記事で分かること
・超臨界状態とは:物質が臨界温度と臨界圧力を超えたときに、液体と気体の区別がなくなる状態のことです。
・水が超酸性になる理由:水分子の水素結合が大きく弱まり、H₃O⁺(オキソニウムイオン)が大量に生成するため
・どのような応用があるのか:特定の反応において、極めて高い選択性宇や効率を発揮します。有機物の分解や触媒を使わずに高効率反応を起こすなどの応用が検討されています。
超臨界状態での水の超酸化
極度の高温、高圧下では水が超酸に変化することが注目されています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/dec634b84384c9faa58fc3bd2be0ce5e98054316
超臨界状態での水の特長を生かした様々な分野での応用が期待されています。
どのようにして、水が超酸になるのか
水(H₂O)は、通常の条件では中性に近い性質を示しますが、超高温・超高圧の状態におくと「超酸(スーパーアシッド)」のような特異な挙動を示します。これは、超臨界水(Supercritical Water, SCW)の性質によるものです。
超臨界水とは?
水は、374°C以上・22.1MPa以上の条件下で「超臨界状態」になります。この状態では、液体と気体の区別がなくなり、特異な物性を示します。
超臨界水が超酸のように振る舞う理由
- 自己イオン生成の増大
- 超臨界水では、水分子の水素結合が大きく弱まり、H₃O⁺(オキソニウムイオン)とOH⁻(水酸化物イオン)の生成が著しく増加します。
- 特に、H₃O⁺濃度が高まるため、酸性度が大幅に増します。
- 誘電率の低下
- 通常の水(25°C, 1atm)の誘電率は約78ですが、超臨界水では誘電率が大幅に低下(10以下)します。
- これは、水分子が極性溶媒としての能力を失い、酸解離が変化するため、強酸的な性質を示す要因になります。
- 高い酸化・分解能力
- 超臨界水は強い酸化性を持ち、有機物を短時間で分解できるほどの強力なプロトン供与能力(超酸的性質)を発揮します。
- 特に、酸素や過酸化水素を共存させると、OHラジカルを生成し、極めて強い酸化作用を持ちます。
超臨界水の応用
この「超酸的」な性質を利用して、さまざまな応用が進められています。
- 有機物の分解(廃棄物処理・リサイクル)
- バイオマスの分解・燃料化(セルロースの糖化反応など)
- 化学反応場の最適化(触媒を使わずに高効率反応)

超臨界水は、超高温・超高圧の条件下で、通常の水とは異なる「超酸」的性質を持つ特殊な反応場になり、その性質を活かした化学プロセスの反応が検討されています。
超臨界状態とは何か
超臨界状態(Supercritical State)とは、物質が臨界温度(Critical Temperature)と臨界圧力(Critical Pressure)を超えたときに、液体と気体の区別がなくなる状態のことを指します。
超臨界状態の特徴
- 液体と気体の中間的な性質を持つ
- 密度が液体に近い → 高い溶解力を持つ
- 粘度や拡散性が気体に近い → 物質が素早く拡散し、反応性が高い
- これにより、溶媒としての能力が大きく変化する(例:超臨界二酸化炭素の抽出能力)。
- 臨界点を超えると「液体と気体の区別が消失」
- 臨界温度以上では、いくら圧力をかけても液体にならない。
- 臨界圧力以上では、気体が圧縮されても凝縮しない。
- これにより、液体と気体の境界がなくなり「均一な相」になる。
- 溶解性や反応性の大幅な変化
- 超臨界流体は溶解性が温度や圧力によって大きく変わるため、特定の物質を選択的に溶解・分離できる(超臨界CO₂抽出など)。
- 超臨界水は酸・塩基特性が変化し、有機物の分解や特殊な化学反応が起こりやすくなる。
超臨界状態の応用
- 超臨界二酸化炭素(SC-CO₂)
- カフェイン除去(デカフェコーヒーの製造)
- 医薬品や香料の抽出(溶媒としての利用)
- 精密機器や半導体の洗浄
- 超臨界水(SCW)
- 有機物の分解(産業廃棄物処理)
- バイオマスの燃料化(セルロースの糖化)
- 高速化学反応(触媒フリー合成)
- 超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)
- 高効率な成分分離(環境に優しい分析技術)

超臨界状態とは、液体と気体の境界が消失した特殊な状態であり、溶解性や反応性が劇的に変化するため、環境に優しい化学プロセスや高効率な分離技術に広く活用されています。
なぜ液体と気体の中間の性質となるのか
超臨界状態では、液体と気体の性質が混ざり合ったような特性を示します。これは、物質の密度・粘度・拡散性・溶解性が、液体と気体の両方の特徴を持つように変化するためです。
1. 液体と気体の違いは「分子間相互作用」による
通常、液体と気体の違いは、分子間力の強さと分子の運動エネルギーによって決まります。
状態 | 分子の特徴 | 物性 |
---|---|---|
液体 | 分子間引力が強く、密集している | 高密度・低拡散性・高粘度 |
気体 | 分子間引力が弱く、自由に動く | 低密度・高拡散性・低粘度 |
通常の条件では、加熱すると分子の運動エネルギーが増し、分子間引力を打ち破って液体が気体になります(蒸発)。
逆に、冷却すると運動エネルギーが下がり、分子間力が支配的になって気体が液体になります(凝縮)。
2. 超臨界状態では「液体と気体の境界が消失する」
物質が臨界温度と臨界圧力を超えると、液体と気体の物理的な区別がなくなり、次のような変化が起こります。
密度が液体に近づく(高密度気体)
超臨界状態では、気体のように自由に動くが、密度は液体に匹敵するほど高くなる。
→ 「気体の拡散性」と「液体の溶解力」を併せ持つ。
粘度が低下する(流動性が高い)
超臨界状態では、分子が激しく動くため、粘度は液体よりも大幅に低くなる(ほぼ気体レベル)。
→ 「液体のような密度」と「気体のような低粘度」を併せ持つ。
拡散性が向上する(素早く物質を溶解・運搬)
気体のように自由に動き回れるため、拡散速度が大きくなる。
→ 「気体のような高速拡散」と「液体のような溶解力」を両立。
表面張力が消失する
通常、液体と気体の間には明確な境界(液面)があるが、超臨界状態ではその境界が消えてしまう。
→ 「液面が存在しないため、あらゆる空間に均一に広がる」。

・密度が液体並みに高い(溶解力が強い)
・粘度が低く、気体並みに動きやすい
・拡散性が高く、気体のように物質を素早く輸送できる
・液体と気体の境界が消え、均一な状態になる
上記の理由によって、、超臨界状態の物質は「液体と気体の両方の特性を併せ持つ」独特な挙動を示します。
なぜ、水酸化物イオンも増えて中性にならないのか
超臨界水のpH特性は通常の水とは異なり、酸性または塩基性が極端に変化する可能性があります。その理由を詳しく説明します。
1. 水の自己解離とイオン積の変化
通常の水(25°C, 1 atm)では、水の自己解離定数(イオン積, Kw)は以下の通りです。
Kw = [H3O+][OH–] = 1.0 × 10-14
しかし、超臨界水ではKwが大幅に増加し、H₃O⁺とOH⁻の濃度が桁違いに高くなります。
例えば、
- 300°Cでは Kw ≈ 10⁻¹²
- 400°Cでは Kw ≈ 10⁻23
- 500°Cでは Kw ≈ 10⁻20
つまり、高温・高圧になると、H₃O⁺もOH⁻も大量に存在するが、その比率次第で酸性・塩基性が決まるのです。
2. 超臨界水のpHが中性にならない理由
(1) 水の誘電率が低下するため、イオンの安定性が変わる
通常の水では、誘電率(ε)は約 78 ですが、超臨界状態では 10以下 にまで下がります。
これにより、H₃O⁺やOH⁻が安定しづらくなり、特定のイオンが偏って存在することがあります。
(2) 他の分子や溶存ガスの影響を受けやすい
超臨界水は非常に高い反応性を持ち、CO₂などの溶存ガスと反応して酸性化することがあります。例えば、
CO2 + H2O ⇌ H2CO3 ⇌ HCO3−+ H+
このため、H₃O⁺が優勢になり、結果的に酸性が強くなることがあります。
(3) pHの定義が通常の水と異なる
超臨界水ではH₃O⁺やOH⁻の濃度が高すぎるため、pHのスケール自体が通常の水と異なります。例えば、
- 常温水では pH 7 = 中性
- 超臨界水では pH 3~4 が中性に相当する場合もある
つまり、「H₃O⁺が増えたらOH⁻も増えて中性になる」とは限らないのです。

超臨界水では H₃O⁺とOH⁻の濃度がどちらも高くなるが、環境の影響(CO₂溶解、誘電率変化など)によって酸性や塩基性に偏ることがあります。
二酸化炭素の影響によって酸側に偏ることが多く見られます。
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