この記事で分かること
- ペロブスカイト太陽電池とは:特定結晶構造の材料を使った次世代型太陽電池です。薄くて軽く柔軟なため、建物の壁面や窓など多様な場所に設置可能。製造コストも低く抑えられ、高効率化も進んでいます。
- タンデム型のメリット:異なる波長の光を効率的に吸収し、変換効率を大幅に向上させます。これにより、限られた面積で発電量を増やし、軽量・柔軟な特性で設置場所を広げ、日本のエネルギー課題解決に貢献します。
- タンデム型の課題:ペロブスカイト層の耐久性向上、鉛フリー化、そして大量生産におけるコスト削減と品質の均一性確保です。
- 経産省が支援する理由:脱炭素化とエネルギー自給率向上を目指し、変換効率が高く設置場所を選ばないタンデム型太陽電池を「再生可能エネルギーの切り札」と位置づけています。日本が基礎研究で優位性を持つため、国際競争力強化と新産業創出も期待し、開発を支援しています。
経済産業省によるタンデム型太陽電池開発支援
経済産業省が、次世代太陽電池の開発支援の対象を広げ、特に「軽くて曲がるペロブスカイト太陽電池と既存の太陽光パネル(主にシリコン系)を重ね合わせ、発電効率を1.5倍程度に高める製品」の開発を支援する方針であることが報じられています。
この技術は「タンデム型太陽電池」と呼ばれ、ペロブスカイト層が特定の波長の光を吸収し、その下にあるシリコン層が異なる波長の光を吸収することで、単一の材料では利用しきれなかった太陽光を効率的に変換できると期待されています。
ペロブスカイト太陽電池とはなにか
ペロブスカイト太陽電池とは、「ペロブスカイト」と呼ばれる特定の結晶構造を持つ材料を発電層に用いた太陽電池のことです。従来のシリコン系太陽電池とは異なる、様々な画期的な特徴を持っています。
ペロブスカイト構造とは?
ペロブスカイトは、ロシアの鉱物学者ペロフスキーにちなんで名付けられた鉱物灰チタン石と同じ結晶構造を持つ物質の総称です。一般的には、化学式ABX3で表され、A、B、Xにはそれぞれ異なる原子や分子が配置されます。ペロブスカイト太陽電池では、この構造を持つ有機金属ハロゲン化物が主に用いられます。
仕組み
基本的な発電の仕組みは他の太陽電池と同様です。
- 光の吸収: 太陽光がペロブスカイト層に当たると、ペロブスカイト材料が光エネルギーを吸収します。
- 電荷の生成: 吸収された光エネルギーによって、電子(マイナスの電荷)と正孔(プラスの電荷、電子の抜け殻)が発生します。
- 電荷の分離・輸送: 発生した電子は電子輸送層を経てマイナス電極へ、正孔は正孔輸送層を経てプラス電極へそれぞれ分離・輸送されます。
- 電流の発生: 電子と正孔が電極に到達することで電流が流れ、電力が生み出されます。
特徴(メリット)
- 薄くて軽い、柔軟性がある: ペロブスカイト材料を薄い膜として形成できるため、非常に薄く、軽量で、さらに柔軟性を持たせることができます。これにより、従来のシリコン太陽電池では難しかった曲面や高層ビルの壁面、窓ガラス、さらには自動車やドローンなど、多様な場所への設置が可能になります。
- 低コスト化が見込める: 製造工程が比較的シンプルで、材料を塗布や印刷で成膜できるため、大量生産に適しており、低コスト化が期待されています。シリコン太陽電池に比べて製造時の温度も低く、CO2排出量も削減できます。
- 高い変換効率: 研究レベルでは、すでにシリコン太陽電池に匹敵する、あるいはそれを超える変換効率(25%以上)が報告されています。さらに、シリコン太陽電池と重ねる「タンデム型」にすることで、30%以上の変換効率も期待されています。
- 弱い光でも発電可能: 室内光や曇りの日など、弱い光でも効率的に発電できる特性を持っています。
- 材料のリサイクル性: ガラス基板を用いた場合、使用後に化学的な処理を行うことで、主要な材料(ヨウ素や鉛など)を回収し、再利用できる可能性も研究されています。
課題(デメリット)
- 耐久性: 長期間にわたる安定性や耐久性が従来のシリコン太陽電池に比べて課題とされていました。しかし、近年では研究開発が進み、20年相当の耐用年数を目指す動きも出てきています。
- 鉛の使用: 一般的に、高効率なペロブスカイト太陽電池には鉛が使われることが多く、環境負荷への懸念があります。代替材料の開発も進められています。
- 大量生産技術の確立: 研究室レベルでの成果は高いものの、安定した品質で大量生産するための技術やプロセスの確立が今後の普及には不可欠です。
今後の展望
ペロブスカイト太陽電池は、これらの課題を克服しながら実用化に向けて急速に開発が進んでいます。特に、日本は基礎研究で世界をリードしてきた歴史があり、今後はその強みを活かして、軽くて柔軟な特性を活かした新しい用途での普及が期待されています。
経済産業省が支援する「タンデム型太陽電池」の開発も、この技術の可能性を最大限に引き出すための重要な取り組みです。

ペロブスカイト太陽電池は、特定結晶構造の材料を使った次世代型太陽電池です。薄くて軽く柔軟なため、建物の壁面や窓など多様な場所に設置可能。製造コストも低く抑えられ、高効率化も進んでいます。耐久性向上や鉛使用の課題解決が実用化の鍵です。
太陽光発電とペロブスカイト太陽電池を重ねるメリットは
太陽光発電(従来のシリコン系太陽電池)とペロブスカイト太陽電池を重ね合わせる技術は「タンデム型太陽電池」と呼ばれ、これには以下のような多くのメリットがあります。
1. 変換効率の大幅な向上
これが最大のメリットです。太陽光には様々な波長の光が含まれていますが、単一の太陽電池材料では、全ての波長の光を効率的に吸収・変換することはできません。
- シリコン太陽電池:主に長波長の光(赤色光や赤外線)の吸収に優れています。
- ペロブスカイト太陽電池:主に短波長の光(青色光や緑色光)の吸収に優れています。
この両者を重ね合わせることで、ペロブスカイト層が短波長の光を吸収し、透過した長波長の光を下のシリコン層が吸収するというように、太陽光スペクトル全体をより効率的に利用できるようになります。これにより、単独の太陽電池では達成できない高い変換効率(理論上30%以上、研究レベルではすでに29.7%などの報告も)が実現可能となり、限られた面積からより多くの電力を生み出すことができます。
2. 設置場所の拡大と柔軟性
- ペロブスカイト太陽電池の特性を活かせる:ペロブスカイト太陽電池は、薄くて軽く、柔軟性があるという特徴を持っています。これを既存のシリコン太陽電池の上に重ねることで、シリコン太陽電池だけでは設置が難しかった、以下のような場所への導入が可能になります。
- 耐荷重に制限のある場所:既存の建物の屋根や壁面、特に古い木造建築など。
- 曲面を持つ場所:自動車のボディやドローン、曲面ガラスなど。
- 窓や外壁との一体化:透明性を持たせることで、窓ガラスや建物のデザインを損なわずに発電できる「建材一体型太陽電池(BIPV)」としての応用も期待されます。
3. 日本のエネルギー自給率向上への貢献
- 土地問題の解決: 日本は国土が狭く、メガソーラーのような大規模太陽光発電所の設置場所を確保するのが難しいという課題があります。タンデム型で変換効率を高めることで、同じ面積でもより多くの発電量を得られるため、限られた土地資源を有効活用し、再生可能エネルギーの導入を加速させることができます。
- 国産技術の強み: ペロブスカイト太陽電池は日本発の研究が多く、主要な原料であるヨウ素を国内で調達しやすいという利点もあります。タンデム型の開発・量産が進めば、日本のエネルギー自給率向上と産業競争力強化に貢献できます。
4. 低コスト化への期待
- ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン太陽電池に比べて製造工程がシンプルで、塗布や印刷といった手法で製造できるため、製造コストを低く抑えられる可能性があります。これを既存のシリコン太陽電池の製造プロセスと組み合わせることで、システム全体のコスト削減にもつながることが期待されます。
これらのメリットから、タンデム型太陽電池は次世代の高性能太陽電池として非常に注目されており、経済産業省が開発支援を行うのも、その高いポテンシャルに期待を寄せているためです。

太陽光発電とペロブスカイト太陽電池を重ねる「タンデム型」は、異なる波長の光を効率的に吸収し、変換効率を大幅に向上させます。これにより、限られた面積で発電量を増やし、軽量・柔軟な特性で設置場所を広げ、日本のエネルギー課題解決に貢献します。
課題は何か
太陽光発電(シリコン系)とペロブスカイト太陽電池を重ねる「タンデム型太陽電池」は多くのメリットがありますが、実用化に向けて克服すべき課題もいくつか存在します。主な課題は以下の通りです。
耐久性・長期安定性
- 劣化要因への弱さ: ペロブスカイト材料は、水分、酸素、紫外線、高温といった外部環境に対して比較的弱く、これらの要因によって劣化しやすい性質があります。従来のシリコン太陽電池が20年以上の寿命を持つ一方で、ペロブスカイト太陽電池はこれまでの研究段階では寿命が短いとされていました。
- 封止技術の確立: 長期間の屋外使用に耐えるためには、ペロブスカイト層をこれらの外部要因から保護する強固な封止技術の確立が不可欠です。現在、積水化学工業などが10年以上の耐久性を実現する技術を開発しており、改善が進んでいます。
製造コストと量産化技術
- 複雑な構造: タンデム型は複数の層を積層するため、単一の太陽電池に比べて構造が複雑になります。これに伴い、製造プロセスも複雑化し、コストが高くなる可能性があります。
- 大面積化と均一性: 研究室レベルでは高効率が達成されていますが、実際にモジュールとして大面積で製造する際に、均一な品質と性能を維持することが難しいという課題があります。大量生産に向けたプロセス最適化と歩留まりの改善が求められます。
- インジウムなどの希少金属の使用: タンデム型セルの中間層や表面電極には、インジウム系透明電極(ITOなど)が使用されることがあり、希少金属の消費削減や代替材料の開発も課題です。
環境負荷(鉛の使用)
- 鉛の毒性: 高効率なペロブスカイト太陽電池の多くには、有害物質である鉛が使用されています。廃棄時や破損時に鉛が流出するリスクがあり、環境汚染や人体への影響が懸念されます。
- 鉛フリー化の研究: 鉛を含まない「鉛フリー」のペロブスカイト材料の開発が進められていますが、現状では鉛を使用したものと同等の高い変換効率や耐久性を実現するのは難しいとされています。
リサイクル技術の確立
- 寿命を迎えた際の適切なリサイクル方法の確立も重要です。特に鉛を使用している場合、環境に配慮した回収・処理プロセスの構築が求められます。
これらの課題は、現在、多くの企業や研究機関が解決に向けて精力的に研究開発を進めている段階です。特に耐久性に関しては目覚ましい進展が見られており、量産技術やコスト削減についても今後の技術革新が期待されています。

タンデム型太陽電池の課題は、ペロブスカイト層の耐久性向上、鉛フリー化、そして大量生産におけるコスト削減と品質の均一性確保です。これらの克服が普及に不可欠であり、活発に研究が進められています。
経産省が支援する理由は何か
経済産業省がペロブスカイト太陽電池、特にタンデム型太陽電池の開発を支援する理由は、多岐にわたる日本のエネルギー政策上の課題解決と、国際競争力の強化にあります。主な理由は以下の通りです。
1. エネルギー自給率の向上とエネルギー安全保障の強化
- 化石燃料依存からの脱却: 日本はエネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っており、エネルギー自給率は低い水準にあります。国際情勢の不安定化は、エネルギー供給に大きなリスクをもたらします。再生可能エネルギーの導入拡大は、この依存度を下げ、エネルギー安全保障を強化する上で不可欠です。
- 国内での材料調達の可能性: ペロブスカイト太陽電池の主原料であるヨウ素は、日本が世界第2位の生産国であり、推定埋蔵量では圧倒的なシェアを占めています。国内で材料を調達できることは、安定供給の面で大きなメリットとなります。
2. 脱炭素社会(GX)の実現
- 温室効果ガス排出削減: 2050年カーボンニュートラル目標の達成には、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する必要があります。太陽光発電は温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギー源であり、その導入拡大はCO2排出量削減に直接貢献します。
- 「GX推進戦略」の一環: 経済産業省は、脱炭素と経済成長を両立させる「GX(グリーントランスフォーメーション)推進戦略」を掲げています。この戦略の中で、次世代太陽電池の開発は重点投資分野の一つとされており、ペロブスカイト太陽電池はその「切り札」と位置づけられています。
3. 再生可能エネルギー導入の課題解決
- 土地制約の克服: 日本は国土が狭く、大規模な太陽光発電所を設置する土地の確保が難しいという課題があります。タンデム型太陽電池による発電効率の大幅な向上は、限られた面積でもより多くの電力を生み出すことを可能にし、この土地制約の緩和に貢献します。
- 新たな設置場所の創出: ペロブスカイト太陽電池の「薄くて軽い、曲がる」という特性は、従来の太陽光パネルでは設置が難しかった建物の壁面、窓、さらには自動車やドローンなど、多様な場所への設置を可能にします。これにより、太陽光発電の導入可能量を飛躍的に拡大できる可能性があります。特に、電力消費地に近い場所での分散型電源としての活用が期待されています。
4. 国際競争力の強化と産業育成
- 次世代技術での主導権: ペロブスカイト太陽電池は、日本が基礎研究で世界をリードしてきた分野です。この強みを活かし、研究開発から量産化、社会実装までを支援することで、日本が次世代太陽電池市場で国際的な主導権を握り、新たな産業を育成することを目指しています。
- サプライチェーンの国内構築: 国内での生産体制を確立することで、サプライチェーンの強靭化にもつながり、経済安全保障の観点からも重要です。
これらの理由から、経済産業省はペロブスカイト太陽電池、特にタンデム型太陽電池の開発・実用化に大きな期待を寄せ、重点的な支援を行っているのです。

経産省は、脱炭素化とエネルギー自給率向上を目指し、変換効率が高く設置場所を選ばないタンデム型太陽電池を「再生可能エネルギーの切り札」と位置づけています。日本が基礎研究で優位性を持つため、国際競争力強化と新産業創出も期待し、開発を支援しています。
コメント