魁半導体のプラズマ処理による表面改質 プラズマ処理でなぜ水や薬品が付着しにくくなるのか?

この記事で分かること

  • プラズマ処理でなぜ水や薬品が付着しにくくなるのか:材料表面の化学構造や微細構造を変化させ、撥水性や撥油性を付与することで、水や薬品を付着しにくくすることが可能です。
  • フッ素化合物によるプラズマ処理:四フッ化炭素(CF₄)ガスを用いることで、表面の炭素・水素・酸素とフッ素ラジカル(F·)やCFₓラジカルが結合し、表面にフッ素原子やフッ素化合物の薄い層を形成します。
  • フッ素膜が水や油をはじいたり、薬品に強い理由:CF4でC-F結合が極めて安定である、表面の分子間力が弱く、非極性なため、物質との相互作用を起こしにくいなどの理由から水や油をはじいたり、薬品に強いくすることが可能です。

魁半導体のプラズマ処理による表面改質

 プラズマ発生装置を手掛ける魁半導体は樹脂などの表面に水滴が付着しにくい新技術を発表しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF272PQ0X20C25A4000000/

 樹脂の表面を改質することで、表面状態を変え、物質の特性を変えることが可能になります。

なぜ、プラズマによって水や薬品を付着しにくくなるのか

 プラズマを用いて材料表面の化学構造や微細構造を変化させ、撥水性や撥油性を付与することで、水や薬品を付着しにくくすることが可能です。

 付与の方法には以下のようなものがあります。

表面の官能基改質
  • プラズマ中のフッ素系ガス(CF₄など)を使うことで、表面にフッ素基を導入し、低表面エネルギー化 → 撥水・撥油性が向上。
  • 逆に酸素プラズマでは親水性が高まるため、ガス種によって目的に応じた表面性質が調整可能。
表面の微細構造形成(ナノ・マイクロテクスチャ)
  • プラズマエッチングにより、蓮の葉のような微細な凹凸構造を作ることで、水滴が球状を保ちやすくなり接触角が増大 → 超撥水性を実現。
薄膜コーティング
  • プラズマ重合により撥水性ポリマー膜を形成。

プラズマを用いて材料表面の化学構造や微細構造を変化させ、撥水性や撥油性を付与することで、水や薬品を付着しにくくすることが可能です。この技術は、半導体、電子部品、医療機器、自動車部品など多くの産業分野で利用されています。

表面改質とは何か

 材料の表面の性質(化学的性質、物理的性質)を変える技術で、材料の「中身」には影響を与えず、表面だけを目的に応じて変化させます。

表面改質の目的

  • 撥水性・親水性の付与
  • 接着性の向上
  • 耐食性の向上
  • 摩擦係数の低減
  • 生体適合性の向上
  • 汚れ防止(防汚性)
    などが挙げられます。

表面改質の方法

  1. 化学的改質
    • 酸やアルカリ処理(酸洗い、エッチング)
    • シランカップリング処理
      → 化学反応で表面に官能基を導入。
  2. 物理的改質
    • プラズマ処理(低温プラズマ):ガス中で高エネルギー粒子が表面に当たる → 官能基付与、エッチング、表面クリーンアップ
    • コロナ放電処理:空気中の放電で表面改質(主にフィルムの接着性向上)
    • イオン注入:イオンを高エネルギーで表面に打ち込む → 硬化・耐摩耗性向上
    • レーザー処理:レーザーで表面を局所改質・パターン形成
  3. コーティング系改質
    • プラズマ重合:プラズマ中でモノマーを重合 → 表面に機能性薄膜形成
    • 自己組織化単分子膜(SAM):分子が自発的に整列して薄膜を作る(ナノレベルの表面制御)

■ プラズマによる表面改質の特徴

  • 常温で処理可能 → 熱に弱い材料(樹脂など)にも適用できる
  • 薄膜形成・微細構造形成が可能
  • 環境負荷が比較的小さい(薬液不要の場合もある)
  • 処理深さが浅い(数nm~数百nm)

表面改質は材料の表面の性質だけを変える技術で、撥水性・親水性の付与、接着性の向上、耐食性の向上などが可能になります。

フッ素系ガスを使用したプラズマ処理とは

 四フッ化炭素(CF₄)ガスを用いることで、プラズマ処理中に表面にフッ素原子やフッ素含有基(-CFₓ基など)を導入することができます。

CF₄プラズマによる表面改質の仕組み

 CF₄ガスに高周波電力などでエネルギーを与えると、以下のように分解されます。
CF₄ → CF₃· + F· + CF₂· + …(ラジカルやイオン生成)

 この分解によって生じたフッ素ラジカル(F·)やCFₓラジカルが、材料表面と反応します。

  1. 表面の炭素・水素・酸素と結合
  2. 表面にフッ素原子やフッ素化合物の薄い層を形成します。

 その結果

  • 表面エネルギーが低下 → 水や油を弾く(撥水性・撥油性向上)
  • 化学的に安定なフッ素被膜が形成 → 耐薬品性、耐候性の向上
    が得られます。

どんな応用があるか

 CF₄プラズマ処理は、主に以下の目的で使われます:

  • プラスチックや樹脂に撥水性・撥油性を付与
  • 電子部品・基板の耐湿性向上
  • 半導体製造におけるエッチングガスとして利用
  • 医療器具表面の防汚性付与

 例えば、電子部品のパッケージやコネクタ表面にCF₄プラズマを使うことで、湿気や薬品の浸入を防ぎ、信頼性を高めるケースがあります。

四フッ化炭素(CF₄)ガスを用いることで、表面の炭素・水素・酸素とフッ素ラジカル(F·)やCFₓラジカルが結合し、表面にフッ素原子やフッ素化合物の薄い層を形成します。

この膜によって、表面エネルギーが低下し、 水や油を弾くことができます。

なぜフッ素膜が水や油をはじいたり、薬品に強いのか

 フッ素原子やフッ素化合物を素材の表面に導入すると表面エネルギーが低下し、結果として撥水性・耐薬品性・耐候性が向上するのは、以下のような科学的理由に基づいています。

理由①:フッ素の電気陰性度と結合エネルギーによる安定性

  • フッ素(F)は全元素中で最も電気陰性度が高く(4.0)、非常に反応性が高い反面、
  • C–F結合(炭素–フッ素結合)は極めて強力(約485 kJ/mol)で切れにくく、化学的に非常に安定です。
  • これにより、フッ素原子を含む表面層は薬品や酸・アルカリ、紫外線、酸素などの外部環境に対して極めて強くなります。
  • 例:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン=テフロン)はフッ素系高分子で非常に高い耐薬品性を持ちます。

理由②:フッ素化表面の「低表面エネルギー」

  • 表面エネルギーとは、表面に分子が付着する(濡れる)しやすさに関係します。
  • フッ素化された表面では、分子同士の相互作用(分子間力)が弱く、付着しにくくなります。
  • 特にCF₃基(–CF₃)は表面エネルギーが極めて低く、一般的な表面の中で最も水や油を弾く性質があります(接触角が大きくなる)。

例:
表面エネルギー(参考値)

  • 高い:金属表面(~100 mN/m)
  • 中程度:プラスチック(30–50 mN/m)
  • 低い:フッ素化表面(<20 mN/m)

理由③:フッ素の疎水性・疎油性構造

  • フッ素原子は炭素と結合しても「非極性」のままであり、水(極性分子)や油(非極性)いずれにも相互作用しにくくなります。
  • これは「水にも油にもなじまない」という非常に珍しい性質です。
  • その結果、表面に水滴や薬品が「はじかれ」、腐食や汚れ、化学変化が起こりにくくなります。

理由④:耐候性の向上

  • 紫外線、酸素、水分などの外的要因による分解に対して、C–F結合は非常に安定。
  • そのため屋外環境や過酷な条件下でも劣化しにくく、耐候性が向上します。

C-F結合が極めて安定である、表面の分子間力が弱く、非極性なため、物質との相互作用を起こしにくいなどの理由から水や油をはじいたり、薬品に強いくすることが可能です。

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