スズキの軽自動車軽量化計画 軽量化の利点と方法は?

この記事で分かること

  • 軽量化の利点:燃費向上とCO2排出量削減と加速やブレーキ、ハンドリングといった走行性能を改善し、軽快で安定した走りを実現することが可能です。
  • 軽量化の方法:材料の置き換え(高強度鋼板やアルミ、樹脂など)、構造の最適化(部品の一体成形や肉抜き)、そして部品の簡素化・集約(ワイヤーハーネスの短縮など)の3つのアプローチで行われます。
  • 高強度鋼板とは:一般的な鋼材よりも高い引張強度を持つ鋼板で、「ハイテン鋼」とも呼ばれます。同じ強度を保ちつつ、板厚を薄くできます。

スズキの軽自動車軽量化計画

 スズキが2030年をメドに軽自動車「アルト」の構造や仕様を見直し、現行モデルから100kgの軽量化を目指すという技術戦略を発表しました。

 https://www.suzuki.co.jp/ir/library/forinvestor/pdf/tsb_2025.pdf

 この目標が達成されれば、現行モデルの最軽量グレード(680kg)から約15%も軽くなり、580kg台という驚異的な軽さになります。この大胆な目標の背景には、スズキの長年にわたる「小・少・軽・短・美」という行動理念があり、特に「軽」を追求する姿勢が強く表れています。 

 自動車の軽量化は、燃費向上とCO2排出量削減に直結し、環境負荷を低減します。また、加速やブレーキ、ハンドリングといった走行性能も改善され、軽快で安定した走りを実現することが可能です。

自動車の軽量化の方法は

 自動車の軽量化は、燃費向上、走行性能改善、環境負荷低減など多くのメリットをもたらすため、自動車メーカー各社にとって重要な課題となっています。その方法は多岐にわたり、主に以下の3つのアプローチに分類できます。

  1. 材料の置き換え
  2. 構造・設計の最適化
  3. 部品の簡素化・集約

1. 材料の置き換え

 車体を構成する材料そのものを、より軽量な素材に変更するアプローチです。

  • 鉄から高強度鋼板(ハイテン)へ: 鉄の比重は重いですが、高い強度を持つハイテン鋼を使用することで、板厚を薄くしても安全性を確保でき、軽量化が図れます。
  • 金属から軽量金属へ: 鉄よりも軽いアルミニウム合金やマグネシウム合金の使用を増やします。特にアルミニウムは、ボンネット、ドア、車体骨格など幅広い部分で利用が拡大しています。
  • 金属から樹脂や複合材へ: 軽くて加工しやすいプラスチックや、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材料を、内装部品だけでなく、車体の一部や外装パネルにも積極的に採用します。CFRPは非常に軽量で高強度ですが、コストが高いことが課題です。

2. 構造・設計の最適化

 素材を変えるだけでなく、部品の形状や配置、製造方法を見直すことで軽量化を図るアプローチです。

  • 薄肉化・肉抜き: 部品を薄くしたり、強度に影響のない部分に穴を開けたりして、材料の使用量を減らします。
  • トポロジー最適化: コンピュータシミュレーションを活用し、必要な強度を保ちつつ、最も効率的な形状や骨格を設計する技術です。これにより、無駄な部分をなくし、大幅な軽量化を実現します。
  • 一体成形: 複数の部品を溶接やネジで組み合わせるのではなく、最初から一つの部品として成形することで、部品点数を減らすとともに、接合部の重量をなくします。
  • 接着剤の活用: 異種素材を組み合わせる場合、溶接やボルト・ナットを使用するよりも軽量な構造用接着剤を積極的に使用します。

3. 部品の簡素化・集約

 車を構成する部品そのものを見直し、無駄をなくすアプローチです。

  • ワイヤーハーネスの集約: 車内の各電子部品をつなぐワイヤーは、その総延長が長くなるほど重量が増します。これを集約・簡素化することで軽量化につなげます。
  • 装備の見直し: 必要な機能に絞り込み、使用頻度の低いスイッチ類や部品を削減します。
  • バッテリー・モーターの小型化・軽量化: 電気自動車(EV)においては、最も重い部品であるバッテリーやモーターの小型・軽量化が航続距離延伸のための重要な課題です。

 これらの技術は単独で使われるだけでなく、複数のアプローチを組み合わせる「マルチマテリアル化」が主流になっています。

 例えば、車体の骨格には高強度鋼板を、ボンネットにはアルミニウムを、内装には樹脂を使うなど、それぞれの部品の役割に応じて最適な材料と構造を選ぶことで、高い安全性と軽量化を両立させています。

自動車の軽量化は、材料の置き換え(高強度鋼板やアルミ、樹脂など)、構造の最適化(部品の一体成形や肉抜き)、そして部品の簡素化・集約(ワイヤーハーネスの短縮など)の3つのアプローチで行われます。これらを組み合わせて車全体の重量を減らし、燃費向上や走行性能改善を目指します。

高強度鋼板とは何か

 高強度鋼板(別名:ハイテン鋼)は、一般的な鋼材よりも高い強度を持つ鋼板です。これにより、同じ強度を保ちながら板厚を薄くできるため、製品の軽量化が可能になります。

特徴とメリット

  • 高い引張強度:外部から引っ張る力に対して非常に強い抵抗力を持ちます。
  • 軽量化:通常の鋼板の約3倍の強度を持つものもあり、同じ強度を確保するために必要な量を減らせるため、大幅な軽量化に貢献します。
  • コスト効率:アルミニウムや炭素繊維複合材(CFRP)などの軽量素材よりも安価に製造できるため、コストを抑えつつ軽量化を図るのに適しています。
  • 優れた加工性と溶接性:技術の進歩により、高い強度を保ちながらも加工や溶接がしやすくなっており、自動車の複雑なボディ形状にも対応できます。

強度に優れる理由

 高強度鋼板が強度に優れるのは、鋼の内部構造を緻密かつ強固にしているためです。その主な理由は、化学成分の調整特殊な熱処理の組み合わせにあります。

化学成分の調整

 通常の鋼に比べて、高強度鋼板は炭素やマンガン、ケイ素などの成分が最適に調整されています。特に、炭素は鋼の強度を大きく左右する重要な元素です。高強度鋼板では、これらの元素を適切な量で添加することで、鉄の結晶構造を強化し、硬さを高めています。

特殊な熱処理

 高強度鋼板は、製造工程で通常の鋼とは異なる特殊な熱処理が施されます。これには、以下の2つの方法が代表的です。

  1. 焼入れ・焼戻し (Quenching and Tempering): 鋼を高温に加熱した後、急激に冷却(焼入れ)することで、鋼の結晶構造をマルテンサイトという非常に硬い組織に変化させます。その後、適切な温度で再加熱(焼戻し)することで、硬さを保ちつつ、もろさを取り除き、靭性(粘り強さ)を付与します。このプロセスにより、高い強度とじん性を両立させることができます。
  2. 熱間圧延時の制御冷却 (TMCP: Thermo-Mechanical Control Process): 鋼を熱い状態で圧延する際に、冷却速度を厳密に制御する技術です。これにより、鋼の結晶粒を非常に細かくすることができます。結晶粒が細かくなるほど、鋼は強度を増す性質があるため、この制御された冷却プロセスが高強度化に貢献します。

 これらの技術を駆使することで、高強度鋼板は単に硬いだけでなく、自動車のボディのように複雑な形状に加工する際に必要な延性(伸びやすさ)や、衝突時に衝撃を吸収するじん性も併せ持つようになっています。

主な用途

 主に、車体の骨格やドア、ボンネットなどに使われ、衝突時の乗員保護性能を高めつつ、車体の軽量化と燃費向上に貢献します。また、自動車以外にも、建築物の構造材、橋梁、船舶、建設機械など、軽さと強度が求められる様々な分野で幅広く利用されています。

高強度鋼板は、一般的な鋼材よりも高い引張強度を持つ鋼板で、「ハイテン鋼」とも呼ばれます。同じ強度を保ちつつ、板厚を薄くできるため、自動車の車体や建物の構造材などの軽量化に大きく貢献します。また、衝突安全性の向上にも役立ちます。

部品点数を減らす方法は

 部品点数を減らす主な方法は、一体成形モジュール化の2つです。これらを活用することで、製造コスト削減や生産効率向上、さらには軽量化といった多くのメリットが生まれます。

1. 一体成形

 一体成形は、複数の部品を1つの部品として成形する技術です。これにより、部品点数を物理的に減らすことができます。

  • 金属部品から一体部品へ: 複数のプレス部品を溶接で組み立てる代わりに、金型で一度に成形することで部品を一体化します。これにより、溶接箇所やボルト・ナットの数を減らすことができ、強度も向上します。
  • 樹脂部品と金属部品の一体化: 「インサート成形」と呼ばれる技術で、金型内に金属部品などをあらかじめセットし、その上から樹脂を流し込んで一体化させる方法です。これにより、組み立て工程が不要になり、コストと時間を大幅に削減できます。

2. モジュール化

 モジュール化は、複数の部品を機能ごとにひとまとまりのユニット(モジュール)として設計・製造する方法です。

  • 機能単位での部品集約: 従来は個別の部品として扱われていたものを、特定の機能を持つ1つのモジュールとして設計します。例えば、ダッシュボード周辺の部品(メーター、スイッチ、ナビなど)を「コックピットモジュール」として一体化することで、部品点数が減り、組み立て工程も簡素化されます。
  • 共通プラットフォームの活用: 異なる車種間で共通のモジュールやプラットフォームを使用することで、部品開発の効率化とコスト削減を図ります。これにより、部品点数を削減しつつも、車種ごとの独自性を保つことが可能になります。

 これらの方法を組み合わせることで、部品の在庫管理がシンプルになり、生産ラインでの組み立て作業が効率化され、品質の安定にもつながります。

部品点数を減らす主な方法は、複数の部品を1つの部品として成形する「一体成形」や、複数の機能を一つのユニットにまとめる「モジュール化」です。これにより、組み立ての手間やコストを削減し、生産効率の向上と軽量化を実現します。

モジュール化する難しさはどこにあるのか

 モジュール化は効率的ですが、多くの課題も伴います。特に難しいのは、設計段階での複雑性独自性の低下、そして部門間の連携です。

1. 設計の複雑性

 モジュール化の成功は、どの部品を1つのモジュールとしてまとめるかという初期設計にかかっています。この初期設計が不十分だと、以下のような問題が生じます。

  • インターフェースの設計: 各モジュールが他のモジュールとどのように情報をやりとりするか(インターフェース)を厳密に定める必要があります。これが曖昧だと、モジュール同士の接続がうまくいかず、かえって開発が複雑になります。
  • 汎用性と最適化の両立: 多くの車種やモデルで使える汎用的なモジュールにするほど、特定の車種にとっての最適な性能やサイズを犠牲にする可能性があります。例えば、全車種に共通のエアコンモジュールを開発すると、軽自動車には大きすぎたり、大型車には性能が不十分だったりすることがあります。
  • 不具合発生時の影響範囲: 一つのモジュールに不具合が発生した場合、そのモジュールを使っているすべての製品に影響が及ぶ可能性があります。

2. 独自性の低下

 モジュール化が進むと、多くの製品で共通の部品やユニットが使われるため、ブランドごとのデザインや機能の独自性が失われがちです。

  • 製品の差別化が困難に: 主要な部品が共通化されると、他社製品との差別化が難しくなります。これにより、価格競争に陥りやすくなるリスクがあります。
  • 顧客の多様なニーズへの対応: 標準化されたモジュールでは、特定の顧客が求める特別な機能やカスタム仕様に対応するのが難しくなる場合があります。

3. 部門間の連携

 モジュール化は、設計部門だけでなく、製造、購買、品質管理など、多くの部門に影響を与えます。

  • 部門間の考え方の不一致: 設計部門が考えたモジュールが、製造ラインの都合に合わないなど、部門ごとにモジュールに対する考え方が異なることがあります。
  • ノウハウの属人化: 経験豊富な技術者のノウハウがモジュールに集約されることで、若手技術者が個々の部品の設計を学ぶ機会が減り、技術継承が難しくなるリスクもあります。

モジュール化は、設計の初期段階で厳密なインターフェースを定める必要があり、これが複雑な課題となります。また、部品が共通化されることで製品の独自性が薄れ、ブランドごとの差別化が難しくなることも大きな難しさです。

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