この記事で分かること
- ラジエックスの特徴:高熱伝導フィラーを使用し、高い放熱性能を発揮します。また、高耐熱樹脂により、高温下での高い密着性と耐久性能を兼ね備える放熱塗料です。
- 用途:電子機器や車載部品などの発熱する部品や筐体に塗布し、放熱性を高めます。これにより、機器の性能低下抑制や長寿命化、および熱対策の合理化に貢献します。
- グラフェンが放熱に優れる理由:グラフェンは炭素原子が強固なsp2結合で結びついた欠陥の少ない二次元構造を持ちます。この構造により、熱を伝えるフォノンが効率的に高速で伝播するためです。
帝人フロンティアの放熱塗料ラジエックス
帝人フロンティアが開発した放熱塗料「ラジエックス (RADIREX)」は、高い放熱性能に加え、塗布面への密着性と耐久性能兼ね備えているのが特徴です。
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ラジエックスは電子機器などの熱制御が重要となる製品の放熱対策として開発されました。
ラジエックスの特徴は何か
「ラジエックス」の主な特徴は以下の通りです。
1. 高い放熱性能
- グラフェンなどの高熱伝導フィラー(充填剤)と高耐熱樹脂を使用しています。
- グラフェン粒子を含む複数の高熱伝導フィラーを塗料内に均一に分散させることで、高い熱伝導性を実現しています。
- 形状の異なるフィラーを混合させることで生じる塗膜表面の微細構造が赤外線放射を促進し、放射率を高めることで放熱性能を向上させています。
2. 高い密着性と耐久性能
- 非シリコーンの高耐熱樹脂を使用しており、-40℃から200℃の温度環境や高湿度条件でも剥離せず、高い密着性と耐久性能を発揮します。
- 塗膜形成が容易で、部品の形状に左右されず、安定した塗膜性能が得られます。
3. 熱対策の合理化への貢献
- 高い放熱性を発揮することで、本製品を使用する電子機器や部品の熱対策を合理化することが可能です。
- これにより、回路パターンや電子部品の簡素化・小型化、設計の合理化、電子部品の温度低減による消費電力削減などが期待されます。

グラフェンなどの高熱伝導フィラーを使用し、高い放熱性能を発揮します。また、高耐熱樹脂により、高温下での高い密着性と耐久性能を兼ね備える放熱塗料です。
どのように利用されるのか
帝人フロンティアの放熱塗料「ラジエックス (RADIREX)」は、主に熱を発生する部品や筐体に塗布することで、その放熱性を高めるために利用されます。具体的には、以下のような製品や用途で利用されることが想定されています。
1. 電子機器および搭載製品
半導体などの電子部品の温度上昇を抑制し、製品の性能低下を防ぎ、寿命を延長させることが主な目的です。
- 電子機器全般:高性能化・小型化に伴い、熱対策が重要となる電子機器に利用されます。
- 一部の家電や産業機器:内部に電子部品が多く搭載されている製品の熱制御に使用されます。
- 自動車部品:特に電動化(EVなど)の進展により、発熱が増加している電子制御ユニット(ECU)やバッテリー関連部品などへの利用が期待されます。
2. 熱対策の合理化
「ラジエックス」の高い放熱性を利用することで、製品設計における熱対策の簡素化・合理化が可能になります。
- 設計の合理化:放熱性が向上することで、熱対策部品(ヒートシンクなど)の設計をよりシンプルにしたり、小型化したりできるようになります。
- 部品の簡素化・小型化:回路パターンや電子部品の配置などの仕様変更を可能にし、製品全体の小型化や省電力化に貢献します。
3. 具体的な利用方法
ヒートシンクも容易に塗膜を形成でき、安定した放熱性能を発揮します。
- 当初の対象:アルミニウムや銅などの金属への塗装が想定されています。
- 今後の展開:将来的には樹脂部品への塗装も可能な製品開発が進められています。

電子機器や車載部品などの発熱する部品や筐体に塗布し、放熱性を高めます。これにより、機器の性能低下抑制や長寿命化、および熱対策の合理化に貢献します。
温度上昇を抑制の重要な理由は何か
電子部品の温度上昇を抑制することの重要性が増加している主な理由は、近年の電子機器の傾向である「高性能化・小型化」と、それによって生じる「発熱量の増大と放熱の困難さ」にあります。
1. 高性能化に伴う発熱量の増大
現代の電子部品、特に半導体(CPUやパワーデバイスなど)は、以下のような理由で単位面積あたりの発熱量が劇的に増加しています。
- 処理速度の高速化/大容量化:
- コンピュータの処理能力向上に伴い、半導体の動作周波数が上がり、消費電力が増加するため、発熱量が比例して増大します。
- 集積度の向上(微細化):
- トランジスタなどの素子をより小さな面積に高密度に集積することで、同じ面積内での発熱が集中し、「熱の高密度化」が進んでいます。
2. 小型化・高密度実装による放熱の困難さ
電子機器が小型化し、部品の実装密度が高くなることで、熱を外部に逃がすことが難しくなっています。
- 筐体の小型化:
- スマートフォンやウェアラブル機器、小型産業機器などの普及により、筐体の容積や表面積が縮小し、自然冷却が難しくなりました。
- 高密度実装:
- 基板上の部品間隔が狭くなり、熱を逃がすための放熱経路が縮小するため、熱がこもりやすくなります。
3. 熱が機器に与える深刻な影響
電子部品は熱に非常に弱く、温度上昇は以下の点で製品の信頼性や性能に直結します。
- 寿命の短縮と故障率の増加:
- 一般的に、電子部品(特に半導体やアルミ電解コンデンサなど)は、動作温度が10℃上昇するごとに寿命が半分になると言われています。高温は部品の劣化を加速し、故障率を飛躍的に高めます。
- 性能の低下・誤動作:
- 温度が変化することで、半導体素子の電気的特性(抵抗値、電圧など)が変わり、設計通りの性能を発揮できなくなったり、誤動作や熱暴走(温度上昇がさらに発熱を誘発する現象)を引き起こすリスクが高まります。
- 安全性への懸念:
- 過度な温度上昇は、ユーザーの低温やけどや、最悪の場合の発火につながる可能性があるため、安全性を確保する上で熱制御は不可欠です。
これらの背景から、熱対策は電気設計や機械設計と同等、あるいはそれ以上に重要な課題となっており、その重要性が高まっています。

電子部品の高性能化と小型高密度実装により発熱量が増大し、温度上昇は寿命短縮や誤動作、性能低下に直結するため、熱制御の重要性が増しています。
なぜグラフェン粒子は高い熱伝導性を示すのか
グラフェン粒子が高い熱伝導性を示す主な理由は、その独自の構造と、熱を伝える媒体であるフォノンの効率的な挙動にあります。
1. 結晶構造と結合の強さ
- 単原子層構造: グラフェンは炭素原子が六角形のハチの巣状に並んだ単原子のシートであり、非常に薄く欠陥が少ない理想的な二次元結晶構造を持っています。
- 強力なsp2結合: 炭素原子同士は非常に強いsp2混成軌道によって強固に結合しています。この強力な結合により、原子の振動(熱を伝えるフォノン)の伝播速度が非常に速くなります。
2. 熱伝導の媒体(フォノン)の挙動
熱は主に結晶格子の振動の量子であるフォノンによって伝えられます。グラフェンでは、このフォノンが以下のように非常に効率的に働きます。
- 散乱の少なさ: グラフェンは欠陥が非常に少ない理想的な構造を持つため、熱を運ぶフォノンが散乱(妨げられること)しにくい状態にあります。これにより、熱が失われずに長距離を高速で移動できます。
- ユニークなフォノン分散: グラフェンの二次元構造に由来する独自のフォノン分散関係により、熱輸送に寄与するフォノンが非常に効率的に機能します。
これらの要因が組み合わさることで、グラフェンは理論上、ダイヤモンドをも超える非常に高い熱伝導率(約 5000 W}/mK 程度)を示すとされています。
ただし、実際に塗料(ラジエックスなど)に使用されるグラフェン粒子の場合、単層ではなく多層や酸化グラフェンなどを含むことが多く、また樹脂中に分散されるため、実際の製品としての熱伝導率は純粋な単層グラフェンの理論値よりも低くなりますが、それでも従来の材料に比べて高い放熱性能を発揮します。

グラフェンは炭素原子が強固なsp2結合で結びついた欠陥の少ない二次元構造を持ちます。この構造により、熱を伝えるフォノンが効率的に高速で伝播するためです。

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