この記事で分かること
- なぜエタンへシフトしているのか:主な理由はコスト競争力と収率の高さです。シェール革命で安価になった米国産エタンは、原油由来のナフサより低価格で、主産物エチレンの収率も約8割と極めて高いため、アジア各社が利益確保へ舵を切っています。
- すべてがエタンにシフトするのか:エタンはエチレンの収率が高い一方、プロピレンやブタジエンなどの重要な副産物がほとんど得られません。そのため、製品バランスを保つべくナフサとの併用が続きます。
- エタンが石油にあまり含まれない理由:常温常圧では気体であるためです。原油は主に液体の炭化水素で構成されており、採掘時にエタンなどの軽い成分はガスとして分離してしまいます。そのため、液体の石油成分にはほとんど残りません。
石油業界のエタンシフト
アジアの石油化学業界において、原料を従来のナフサ(原油由来)からエタン(天然ガス由来)へシフトさせようとする動きが注目されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0392E0T00C26A2000000/
以前はエタンはガス状で輸送が困難だったため、産地(米国や中東)での利用が中心でした。しかし、超大型エタン運搬船(VLEC)の技術確立により、米国からアジアへの大量輸送が可能になりました。
特に、中国では、ナフサ依存度を下げるために米国産エタンを輸入して利用する大型エタンクラッカーが相次いで稼働しています。これにより、石油依存の低減とコスト競争力の強化を図っています。
ナフサとは何か
ナフサ(Naphtha)とは、原油を加熱・蒸留して最初に取り出される、沸点が低い(30℃〜180℃程度)液体の炭化水素の混合物です。ガソリンと成分が非常に近いため「粗製ガソリン」とも呼ばれますが、用途が大きく異なります。
ナフサの主な特徴
- 「石油化学の米」: あらゆるプラスチック、合成ゴム、合成繊維の基礎原料となるため、産業に欠かせない存在です。
- 熱分解の主役: 巨大な炉(エチレンプラント)で1,000℃近くまで加熱することで、エチレンやプロピレンといった化学製品の「部品」に姿を変えます。
- 多様な副産物: エタン(ガス)からはエチレンしかほぼ取れませんが、ナフサ(液体)からはプロピレンやベンゼンなど、多様な化学原料がバランスよく得られます。

原油を蒸留して得られる、沸点の低い液体の炭化水素です。「粗製ガソリン」とも呼ばれ、熱分解することでエチレンやプロピレンなど、プラスチックや合成繊維の基礎原料となるため、石油化学の米と称されます。
なぜナフサからエタンへシフトしているのか
ナフサからエタンへのシフトが進んでいる理由は、「圧倒的なコスト競争力」と「製造効率の高さ」、そして「環境負荷の低減」という3つの大きなメリットがあるからです。
特にアジアにおいては、近年の市況変化がこの動きを加速させています。
1. コストの圧倒的な優位性
- 原料価格の安さ: エタンは天然ガスやシェールガスの随伴ガスとして生産されます。米国のシェールガス革命以降、エタンは原油由来のナフサに比べて極めて安価に供給されるようになりました。
- 原油価格への依存脱却: ナフサは原油から作られるため、中東情勢や産油国の動向で価格が激しく上下します。エタンシフトは、原油高のリスクを回避する戦略でもあります。
2. 製造効率(収率)の違い
同じ量の原料からどれだけ主産物の「エチレン」を作れるかという「収率」に大きな差があります。
- エタン: 原料の約80%がエチレンになります。
- ナフサ: エチレンになるのは原料の約30%程度です。
ポイント: エチレンを効率よく大量に作りたい企業にとって、エタンは非常に「筋の良い」原料です。
3. 環境対応(脱炭素)への貢献
- CO2排出量の削減: エタンクラッカーは、ナフサクラッカーに比べて製造工程におけるCO2排出量が少ない(30〜50%程度低いという試算もあります)ことが知られています。
- エネルギー効率: エタンは分子構造が単純なため、分解に必要なエネルギーがナフサよりも少なくて済みます。
4. アジアにおける「供給網」の変化
これまでアジアでエタンが使われにくかったのは「運ぶのが難しかったから」ですが、状況が変わりました。
- VLEC(超大型エタン運搬船)の登場: 零下90度以下で冷却・液化して運ぶ技術と大型船が普及したことで、米国産エタンをアジア(中国、韓国、インド、タイなど)へ安く大量に運べるようになりました。
- 中国の猛追: 中国では最新の巨大なエタン専用設備が次々と稼働しており、コスト負けしている旧来のナフサ設備(日本、韓国などに多い)は淘汰される危機感に直面しています。
ナフサの役割もなくならない
エタンシフトには弱点もあります。エタンからはエチレンしかほとんど取れないため、プラスチック原料として重要なプロピレンやブタジエン、ベンゼンといった副産物が不足します。
そのため、現在は「全てエタンにする」のではなく、「ナフサとエタンを賢く使い分ける(原料の柔軟化)」ことが、アジアの石化メーカーの最重要課題となっています。
日本の石化コンビナートも、この「エタンの波」にどう対抗するか、あるいはどう取り入れるかの瀬戸際に立たされています。

主な理由はコスト競争力と収率の高さです。シェール革命で安価になった米国産エタンは、原油由来のナフサより低価格で、主産物エチレンの収率も約8割と極めて高いため、アジア各社が利益確保へ舵を切っています。
なぜエタンは天然ガスなどの随伴ガスとなるのか
天然ガスやシェールガスは、太古のプランクトンなどの死骸が堆積し、地熱や圧力で分解されてできた炭化水素の混合物だからです。天然ガスは単一の物質ではなく、主に以下の成分で構成されています。
- メタン (CH4): 主成分(約80〜90%)
- エタン (C2H6): 次に多い成分(数%〜15%程度)
- プロパン・ブタンなど: 少量の重い成分
随伴ガスとして出てくる理由
- 生成過程が同じ: 地下で有機物が分解される際、炭素鎖の短いガス(メタン、エタン、プロパン等)が同時に生成されます。これらが地下の岩盤に閉じ込められているのがガス田やシェール層です。
- 物理的な共存: エタンはメタンと性質が近く、ガス状態で一緒に存在しています。採掘の際、主目的であるメタン(都市ガスの原料)を取り出すと、必ず「おまけ」としてエタンも一緒に地上に出てきます。これが「随伴(付随してくる)」と呼ばれる理由です。
シェールガスの特徴
特に米国のシェールガスは、従来型のガス田に比べてエタンの含有率が高い「ウェットガス」が多く含まれていたため、エタンが大量かつ安価に供給されるようになりました。
この「天然のセット商品」からエタンだけを分離して化学原料に転用するのが、現在のエタンシフトの正体です。

地下の有機物が熱分解される際、主成分のメタン(CH4)と同時に、炭素数が2つのエタン(C2H6)なども生成され、同じ岩層に閉じ込められるからです。採掘時にこれらが混合状態で噴出するため、随伴ガスとして得られます。
なぜエタンは石油にはあまり含まれないのか
石油(原油)にもエタンは含まれていますが、「液体として存在しにくい」という物理的な性質が、ガス田に比べて目立たない大きな理由です。
1. 分子の大きさと状態の違い
石油は主に炭素数が5つ以上の重い分子(液体)の集まりです。
- エタン (C2H6): 炭素が2つ。常温常圧では気体です。
- 原油: 炭素が5つ以上の成分(液体)がメインです。
原油が地下の高温高圧下にあるときはエタンも溶け込んでいますが、地上に掘り出した瞬間にガスとして分離してしまいます。そのため、「液体の石油」そのものの中にはあまり残りません。
2. 生成プロセスの違い
地下での有機物の分解が進むほど、分子は細かくなります。
- 「未熟」な段階: 重い液体(原油)が多い。
- 「成熟」した段階: 分解が進み、軽いガス(メタン・エタン)が多くなる。
シェールガス田などは、この分解が進んだ「ガス主体の層」を掘り当てているため、エタンの含有率が相対的に非常に高くなるのです。

エタンは炭素数が少なく、常温常圧では気体であるためです。原油は主に液体の炭化水素で構成されており、採掘時にエタンなどの軽い成分はガスとして分離してしまいます。そのため、液体の石油成分にはほとんど残りません。

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