この記事で分かること
- 東邦アセチレンとは:高圧ガス(アセチレン、酸素、窒素など)の製造・販売を主軸とする産業ガスメーカーです。溶接材料やLPガス、医療ガスも扱い、特に東北地方を地盤としています。
- 溶解アセチレンガスとは:アセチレンガスをアセトンなどの溶剤に溶解させて、特殊な容器に詰めたものです。不安定で爆発性の高いアセチレンを、溶接・切断用途で安全に輸送・使用するために利用されます。
- 減益の理由:主要顧客である製造業や建設業の生産活動が停滞し、ガスの需要が減少したためです。加えて、原材料費や物流費の上昇が収益を圧迫しています。
東邦アセチレンの減益
東邦アセチレンの2026年3月期第2四半期累計(中間期)の業績は、純利益が29.2%減の大幅減益となりました。
https://kabutan.jp/news/?b=k202511120025
東邦アセチレンは、高圧ガスや溶接関連製品を主に取り扱う企業です。業績の変動は、国内の製造業や建設業の動向、景気全体の影響を受けやすい傾向があります。
東邦アセチレンはどんな企業か
東邦アセチレン株式会社は、高圧ガスを中心とした事業を展開する産業ガス製造メーカーです。主な特徴は以下の通りです。
- 事業内容:
- 高圧ガス関連事業: 溶解アセチレンガス、酸素、窒素、アルゴンガスなどの製造・販売。
- 石油ガス関連事業: LPガス(プロパンガス)や生活関連機器の販売。
- 産業器材事業: 溶接材料、溶接切断器具、容器などを取り扱います。
- メディカル事業: 医療用ガス、医療機器など。
- エコエネルギー関連事業、ガスアプリケーション事業なども展開しています。
- 拠点: 宮城県多賀城市に本社を置き、東北地方を地盤に広範なネットワークを持っています。
- 上場: 東京証券取引所プライム市場に上場しています。
設立から70年近くの歴史を持ち、産業界の基幹となるガスや、人々の生活に不可欠なエネルギーを供給することで社会に貢献している企業です。

東邦アセチレンは、高圧ガス(アセチレン、酸素、窒素など)の製造・販売を主軸とする産業ガスメーカーです。溶接材料やLPガス、医療ガスも扱い、特に東北地方を地盤としています。
溶解アセチレンガスとは何か
溶解アセチレンガスとは、アセチレンという可燃性ガスを、安全に取り扱うために特殊な方法で容器に充填したものです。
1. アセチレンガスの特性
- アセチレン(化学式 C2H2)は、各種可燃性ガスの中で最も高い火炎温度(約 3,330℃)で燃焼します。
- この高温により、主に金属の溶接、溶断(切断)、熱処理などに非常に適しており、作業効率が高いガスとして産業界で不可欠です。
2. 「溶解」の理由(安全対策)
- アセチレンガスは、化学的に不安定なため、通常の高圧ガスのように容器にそのまま高圧で圧縮すると、衝撃や熱で分解爆発する危険性があります。
- そのため、アセチレン容器は特殊な構造になっており、内部に多孔質物質(ケイ酸カルシウムなど)が隙間なく詰められ、さらにアセトンやDMF(ジメチルホルムアミド)といった溶剤が浸透させてあります。
- この溶剤にアセチレンガスを加圧して溶解させることで、ガスが安定した状態となり、安全に貯蔵・輸送・使用できるようになります。この方法から「溶解アセチレン」と呼ばれます。
3. 主な用途
- 金属加工: 鋼板などの切断、溶接、鉄筋のガス圧接、ろう付け。
- 熱処理: 鋼材の焼き入れなど。
- その他: 有機合成品の製造原料、原子吸光分析用燃焼ガスなど。

溶解アセチレンガスは、アセチレンガスをアセトンなどの溶剤に溶解させて、特殊な容器に詰めたものです。不安定で爆発性の高いアセチレンを、溶接・切断用途で安全に輸送・使用するために利用されます。
なぜアセチレンガスは不安定なのか
アセチレンガス(C2H2)が不安定な最大の理由は、その分子構造にあります。
不安定性の主な要因
アセチレンは、2つの炭素原子(C)が三重結合で結ばれている、非常にエネルギーの高い構造をしています。
- 高エネルギーな三重結合:
- 三重結合は、二重結合や単結合に比べて多くのエネルギーを内部に保持しています。この高い内部エネルギーが、外部からのわずかな衝撃や加熱によって容易に解放され、分解反応(爆発)を引き起こす原因となります。
- 分解反応は C2H2 → 2C + H2 のように発熱的に進行します。
- 自己分解爆発の危険性:
- 特に、高圧下(約 150 kPa)になると、アセチレンは外部の酸素がなくても、自己発熱的に分解し、連鎖的な爆発(自己分解爆発)を起こす性質があります。
- このため、通常の高圧ガスボンベのように単に高圧で圧縮して貯蔵することができません。
溶解アセチレンによる安定化
この不安定性を解決し、安全に利用するために、溶解アセチレンという特殊な方法が取られています。
溶解アセチレン容器では、内部に詰めた多孔質物質とアセトン(またはDMF)などの溶剤が、アセチレンガスを「溶解」させて安定化させ、分解爆発を防いでいます。

アセチレンは、炭素原子間に三重結合を持つため、内部エネルギーが非常に高い不安定な分子です。この高エネルギーが、高圧下や加熱・衝撃で自己分解爆発を起こす主な理由です。
鋼板などの切断でアセチレンガスはどのように使用されるのか
鋼板などの切断においてアセチレンガスは、酸素と組み合わせて使用され、金属を溶融させるための高熱源として利用されます。これは一般的に酸素アセチレン切断(またはガス切断)と呼ばれます。
アセチレンガスの役割
アセチレンガスは、切断トーチから噴射される際に酸素と混合され、予熱炎(加熱炎)を形成します。
- 予熱: 切断したい鋼材の特定の部分を、アセチレン-酸素の混合炎で発火点(約 800℃~900℃)まで加熱します。
- 高温の提供: アセチレン-酸素炎は、可燃性ガスの中で最も高い火炎温度(約 3,330℃)を出すため、鋼材を迅速かつ効率的に切断開始温度まで持っていくことができます。
酸素の役割(切断の主役)
金属の切断そのものは、アセチレン炎ではなく、別のノズルから噴射される高純度の酸素によって行われます。
- 酸化反応: 予熱された鋼材に純酸素を吹き付けると、鋼材の鉄分が酸素と激しく反応し(酸化し)、酸化鉄(スラグ)となって溶融します。
- 吹き飛ばし: 溶融したスラグは、高圧の酸素ジェットによって下方に吹き飛ばされ、このプロセスが連続することで鋼板が切断されていきます。
アセチレンガスは金属を切断するための「着火」と「予熱」の役割を担い、切断のメインプロセスは酸素による酸化反応と吹き飛ばしによって行われます。

アセチレンガスは、酸素と混ぜて使用し、鋼板を発火点まで加熱する予熱炎を作ります。その後に吹き付ける高純度酸素が鉄を酸化させ溶融・切断する際に、高温熱源として不可欠な役割を果たします。
高圧ガスなど主力の売上低迷の理由は何か
高圧ガスなど東邦アセチレンの主力製品の売上低迷の背景には、主に以下の国内産業の動向や外部環境の変化が関係していると考えられます。
産業需要の減少
- 製造業・建設業の停滞:
- 高圧ガス(酸素、アセチレンなど)の主要な顧客は、金属加工、自動車、造船、そして建設業界です。国内のこれらの産業における生産活動や設備投資が減少または停滞することで、溶接・切断用途のガス需要が直接的に落ち込みます。
- 半導体・電子部品関連の低調:
- 東邦アセチレンも取り扱う窒素や特殊ガスなどは、電子部品や半導体製造プロセスで使われます。当該分野の生産調整や需要の波によって、売上が影響を受けることがあります。
コストの上昇
- 原材料費・エネルギー価格の高騰:
- ガスの製造プロセスや、ガスを顧客へ運ぶ物流コストは、原油価格や電力料金の上昇に大きく左右されます。販売価格への転嫁が十分に進まなかった場合、売上高が変わらなくても利益が圧迫され、結果として業績に悪影響を及ぼします。
競合環境と市場の変化
- 市場の成熟化:
- 産業ガス市場は既に成熟しており、新規需要の大幅な伸びが見込みにくい状況です。価格競争が激化することで、単価の下落圧力が高まり、売上高の伸長が難しくなります。
東邦アセチレンが示している「純利益29%減」という大幅減益は、売上低迷だけでなく、これらのコスト上昇が重なった結果である可能性が高いです。

売上低迷の理由は、主要顧客である製造業や建設業の生産活動が停滞し、ガスの需要が減少したためです。加えて、原材料費や物流費の上昇が収益を圧迫しています。

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