この記事で分かること
- なぜ上方修正できたのか:生成AI市場の急拡大により、高性能メモリ(HBM)や次世代DRAM向けの製造装置需要が想定を上回ったためです。懸念されたロジック向け投資の停滞をAI特需がカバーし、中国市場の底堅さも寄与して上方修正に至りました。
- シェアの高い装置:コータ・デベロッパーのように、TELの装置がなければ最先端チップ(HBMを含む)が作れないという「替えのきかない」地位を築いています。また、半導体製造の主要工程のすべてで高いシェアを持っています。
- どのように競合との差別化しているのか:世界シェア90%の塗布現像装置を軸に、前後のエッチングや洗浄工程を自社装置で一括最適化できる総合力が強みです。
東京エレクトロン、2026年3月期の業績上方修正
東京エレクトロンは、2026年2月6日の第3四半期決算発表において、2026年3月期の通期連結業績予想を上方修正しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL090GG0Z00C26A2000000/
今回の修正は、2025年半ばに見られた「ロジック半導体向けの慎重姿勢」を、AI関連の力強い需要がカバーした形になっています。
なぜ上方修正出来たのか
東京エレクトロン(TEL)が2026年3月期の業績予想を上方修正できた理由は、「生成AIブームに伴う、想定以上のメモリ(DRAM)投資の加速した」ためです。
特に2025年後半から2026年にかけて、以下の3つのポジティブな要因が重なりました。
1. AIサーバー向け「HBM」の爆発的需要
生成AIの計算には、通常のメモリよりも圧倒的に高速なHBM(高帯域幅メモリ)が不可欠です。
- HBMは、DRAMを何層にも積み上げる複雑な構造をしており、製造工程でTELの得意とする「ボンディング(接合)」や「エッチング(削る)」の装置が大量に必要になります。
- 主要なメモリメーカー(SKハイニックスやサムスン、マイクロンなど)が、このHBMの増産に向けて投資を大幅に積み増したことが、TELの売上を押し上げました。
2. 一般的なDRAMの在庫解消と世代交代
2024年まで続いていたメモリ市場の停滞(在庫過剰)が解消され、顧客企業の投資意欲が回復しました。
- 単なる在庫補充だけでなく、AIサーバーや最新PC・スマホに向けた「DDR5」などの次世代DRAMへの切り替え需要が発生しています。
- これに伴い、既存の製造ラインのアップグレードや新規装置の導入が、TELの期初予想を上回るペースで進みました。
3. 中国市場の「想定外の粘り」
米中対立による輸出規制が懸念されていましたが、実際には中国の半導体メーカーからの引き合いが依然として非常に強い状態が続きました。
- 先端プロセス(2nmや3nmなど)だけでなく、中国国内で需要が高い「レガシー(旧世代)半導体」向けの製造装置の販売が、業績の下支えとして大きく貢献しました。
当初(2025年夏頃)は「ロジック半導体の投資が少し慎重になるかも」という懸念から一度は下方修正も検討されていましたが、結果として「AIメモリ需要がそれを遥かに上回るスピードで成長した」ことが、今回の上方修正の決め手となりました。

生成AI市場の急拡大により、高性能メモリ(HBM)や次世代DRAM向けの製造装置需要が想定を上回ったためです。懸念されたロジック向け投資の停滞をAI特需がカバーし、中国市場の底堅さも寄与して上方修正に至りました。
HBMの需要増加で、需要の増加する装置は何か
HBM(高帯域幅メモリ)の需要増加により、東京エレクトロン(TEL)で特に需要が伸びている装置は、主に「積層(重ねる)」と「微細加工」に関わる以下の4種類です。
HBMはDRAMを縦に8層、12層と積み上げる特殊な構造をしているため、従来の前工程装置に加え、「後工程(パッケージング)」に近い領域の装置が鍵となります。
1. ボンディング装置(接合装置)
HBM製造における最重要装置の一つです。
- 役割: 複数のDRAMチップを垂直に積み重ね、正確に接合します。
- 理由: HBMはチップ同士を「密に、かつ正確に」つなぐ必要があるため、TELが得意とする「ハイブリッドボンディング」(金属と絶縁体を同時に接合する技術)などの高度な接合技術への需要が爆発しています。
2. エッチング装置(プラズマエッチング)
- 役割: チップを垂直に貫通する電極の穴(TSV:シリコン貫通電極)を掘る工程で使用されます。
- 理由: HBMは数千個の穴を通して上下のチップを接続します。非常に深く、かつ均一な穴を高速に掘る技術が求められ、TELの主力製品であるエッチング装置の出番が増えています。
3. 洗浄装置
- 役割: 製造工程で発生する微細なゴミや残留物を取り除きます。
- 理由: チップを重ねる際、わずかなゴミでも接続不良(不具合)の原因になります。HBMは工程数が多く、洗浄の回数も増えるため、枚葉式(1枚ずつ洗う)やバッチ式(まとめて洗う)の洗浄装置の需要が底上げされています。
4. 塗布現像装置(コータ・デベロッパー)
- 役割: ウェーハに感光剤(レジスト)を塗り、回路のパターンを作る準備をします。
- 理由: TSVの形成や、チップを接続するための小さな突起(バンプ)を作るリソグラフィー工程で不可欠です。TELはこの分野で世界シェア約90%という圧倒的な強みを持っており、HBMの増産がそのまま受注増に直結します。
| 装置カテゴリー | HBMにおける主な用途 |
| ボンディング装置 | チップ同士を垂直に積み重ねて接合する(3Dスタック) |
| エッチング装置 | チップを貫通する無数の電極穴(TSV)を掘る |
| 洗浄装置 | 積層工程の各段階で不純物を除去し、歩留まりを高める |
| 塗布現像装置 | 貫通電極や接続端子を作るためのパターン形成を行う |
「チップを高く積み上げるほど、1枚あたりの製造難易度と装置の使用回数が増える」ため、HBMが8段から12段、16段と高層化するほど、東京エレクトロンにとっては1台あたりの利益率や受注台数が向上する好循環が生まれています。

HBMはDRAMを垂直に積み上げる構造のため、チップを精密に接合する「ボンディング装置」や、積層用の貫通穴を掘る「エッチング装置」の需要が急増しています。また、不純物を除く「洗浄装置」も工程増に伴い不可欠で、これらが収益を牽引しています。
これらの装置の世界シェアはどうなっているのか
東京エレクトロン(TEL)の主要装置における世界シェアは、多くの分野で世界1位または2位を誇っています。HBM関連で注目される装置のシェア状況をまとめました。
| 装置名 | 世界シェア | 市場ポジション・特徴 |
| 塗布現像装置(コータ・デベロッパー) | 約90% | 世界1位。 EUV露光向けではシェア100%と圧倒的。 |
| エッチング装置 | 約25〜30% | 世界2位。 米ラムリサーチに次ぐ規模。ガス化学エッチングでは1位。 |
| 洗浄装置 | 約25%前後 | 世界2位。 SCREEN(1位)と市場を二分する強さ。 |
| ボンディング装置 | 非公表(高い成長性) | トップクラス。 EVG等と競合するが、HBM向けの先端接合技術に強み。 |
シェアから見るTELの強み
- 圧倒的な独占力: コータ・デベロッパーのように、TELの装置がなければ最先端チップ(HBMを含む)が作れないという「替えのきかない」地位を築いています。
- 総合力: 半導体製造の主要工程(パターン形成、エッチング、洗浄、接合)のすべてで高いシェアを持っているため、工程間をまたいだ技術最適化を顧客に提案できるのが最大の武器です。
これらの高いシェアを背景に、次世代のHBM製造で標準となる技術の共同開発を、主要メーカー(サムスン、SKハイニックス等)と進めています。
どのように競合と差別化しているのか
東京エレクトロン(TEL)が、米アプライドマテリアルズ(AMAT)やラムリサーチなどの強力な競合と差別化しているポイントは、主に以下の3点です。
1. 「連続する工程」をセットで最適化できる総合力
半導体製造は「塗布 → 露光 → 現像 → エッチング → 洗浄」といった工程の繰り返しです。
- 差別化: TELは、世界シェア90%の「塗布現像装置」を起点に、その後の「エッチング」や「洗浄」まで一貫して自社装置でカバーできます。
- メリット: 隣り合う工程の装置を連携させることで、顧客(メーカー)の歩留まり(良品率)を劇的に向上させる「プロセス・インテグレーション」の提案が可能です。これは単一分野に強い競合には真似しにくい強みです。
2. HBM向けの「ハイブリッドボンディング」技術
次世代メモリ(HBM)の製造では、チップを重ねる際の「接合」が最重要です。
- 差別化: TELは、オーストリアのEVG社などと並び、金属と絶縁体を同時に接合する「ハイブリッドボンディング」の量産技術で先行しています。
- メリット: 従来の「ハンダ」を使わない接合により、メモリのさらなる高層化と高速化を可能にしました。この先端パッケージング領域での優位性が、AI特需での受注に直結しています。
3. 世界最大級の「インストールベース」を活用した保守サービス
- 差別化: 世界中で稼働しているTELの装置は約9万6,000台を超え、業界最大級です。
- メリット: 装置を売って終わりではなく、稼働データを用いた「予兆診断」や「リモート保守」などのサービスビジネスが収益の約3割(フィールドソリューション事業)を占めています。これにより、景気変動に強い安定した高収益体質(営業利益率30%超)を維持しています。

世界シェア90%の塗布現像装置を軸に、前後のエッチングや洗浄工程を自社装置で一括最適化できる総合力が強みです。さらに、HBMに不可欠な先端接合技術や、業界最大級の稼働台数を活かした保守サービスにより、高い顧客満足度と参入障壁を築いています。

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