この記事で分かること
- 逆浸透膜とは:水分子より小さな孔を持つ特殊な膜です。不純物を含む水に高い圧力をかけ、浸透圧と逆の力を利用することで、水分子だけを透過させて純水を取り出します。
- 耐性向上の方法:RO膜の主要素材であるポリアミド系ポリマーの構造を改良し、薬品と反応しやすいアミド結合への影響を抑制しました。これにより、膜の酸化や加水分解を防ぎ、耐久性を従来の2倍に向上させました。
東レが開発した耐薬性2倍の逆浸透膜
東レが開発した耐薬性2倍の逆浸透膜(RO膜)は、工場廃水の再利用や下水処理など、過酷な水処理条件下で長期にわたって安定した水質を維持することを目的としています。この技術は、従来の製品と比較して耐薬品性が約2倍に向上しているのが大きな特徴です。
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2510/10/news035.html
世界的な水不足と水質の悪化が課題となる中、RO膜は海水淡水化や廃水再利用において不可欠な技術です。特に、廃水再利用の分野は、政府の規制強化や水需要の増加に伴い、今後高い成長が予測されています。この耐薬品性を向上させたRO膜は、水処理の安定性とコスト効率を高めることで、水資源問題の解決に大きく貢献すると期待されています。
逆浸透膜とは何か
逆浸透膜(RO膜)は、水分子より小さな孔を持つ特殊な膜で、水に含まれる不純物を取り除き、純水を作り出すろ過技術です。
仕組み(原理)
通常、濃度の異なる2つの溶液を「半透膜」で仕切ると、濃度を均一にしようとして、濃度の低い方から高い方へ水が移動します。この現象を「浸透」と呼び、この時に発生する圧力を「浸透圧」と呼びます。
これに対し、逆浸透膜は、不純物を含む高濃度の溶液側に、浸透圧よりも高い圧力を人工的に加えることで、水分子だけを低濃度側へ押し出します。これにより、水中の不純物や塩分、ウイルス、農薬などを除去し、純粋な水だけを取り出すことがで
構造
逆浸透膜は、高い圧力に耐えるように様々な構造が考案されています。主なものには、筒状の中空になっている中空糸膜や、シート状の膜をロールケーキのように巻いたスパイラル膜などがあります。
用途
逆浸透膜は、その高いろ過能力から、以下のような幅広い分野で利用されています。
- 海水淡水化: 海水から塩分を除去し、飲料水にする。
- 工場廃水の再利用: 工場から排出される廃水から有害物質を取り除き、再利用可能な水にする。
- 家庭用浄水器: 飲料水中の不純物を取り除く高性能な浄水器として使われる。
- 医療・研究: 純粋な水が必要とされるバイオ医薬品や研究室での使用。
- 災害対策: 地下水や汚染水を浄化し、飲料水や生活用水を確保する。

逆浸透膜(RO膜)は、水分子より小さな孔を持つ特殊な膜です。不純物を含む水に高い圧力をかけ、浸透圧と逆の力を利用することで、水分子だけを透過させて純水を取り出します。海水淡水化や工場廃水の浄化などに用いられます。
どんな薬品に対する耐久性があがったのか
東レが開発した耐薬性2倍の逆浸透膜(RO膜)は、主に膜の洗浄に使用される薬品に対する耐久性が向上しています。
従来のRO膜(ポリアミド系)は、水処理の運転中に付着する汚れ(ファウリング)を除去するために行う薬品洗浄によって劣化しやすいという課題がありました。
一般的なRO膜の薬品洗浄に使われる主な薬品は以下の通りで、これらに対する耐性が強化されています。
- 塩素: 膜の表面を酸化させ、性能を低下させる原因となります。
- アルカリ(水酸化ナトリウムなど): 膜を加水分解させ、性能を低下させる原因となります。
この耐薬性の向上により、より強力な薬品洗浄が可能になり、また洗浄頻度も削減できるため、膜の長寿命化と安定した水処理運転に貢献します。

耐性向上の対象は、膜の洗浄に使われる塩素やアルカリ(水酸化ナトリウムなど)といった薬品です。これらの薬品による酸化や加水分解を防ぐことで、膜の劣化を抑制し、長寿命化を実現しました。
どのように耐薬性を向上したのか
東レは、RO膜の化学的耐久性を向上させるために、膜の素材と表面構造を根本から見直しました。
技術的なアプローチ
従来のRO膜の主流であるポリアミド系複合膜は、塩素による酸化や、アルカリによる加水分解で劣化しやすいという弱点がありました。東レは、この課題を解決するため、以下の技術的アプローチをとりました。
- ポリマー構造の改善: 膜の主成分であるポリアミド系ポリマーの構造を改良しました。特に、薬品と反応しやすいアミド結合に工夫を凝らし、薬品が膜の内部に浸透して劣化させるのを防ぎます。
- 表面構造の最適化: 膜表面の凹凸(微細なシワ)を最適化し、薬品の付着や浸透を抑制しました。この表面構造の工夫により、膜の性能を維持しつつ、薬品耐性を高めることに成功しました。
これらの技術によって、薬品洗浄による劣化を大幅に抑制し、耐久性を従来の2倍に向上させるとともに、高い除去性能と透過水量を両立させています。

東レは、RO膜の主要素材であるポリアミド系ポリマーの構造を改良し、薬品と反応しやすいアミド結合への影響を抑制しました。これにより、膜の酸化や加水分解を防ぎ、耐久性を従来の2倍に向上させました。
ポリアミド系複合膜はなぜ逆浸透膜になるのか
ポリアミド系複合膜が逆浸透膜(RO膜)として機能する理由は、その特殊なナノレベルの構造と、素材(ポリアミド)が持つ水を選択的に透過させる性質にあります。
簡単に言えば、水分子だけを通し、水に溶けた塩分やその他の不純物を効果的に遮断できるため、RO膜として最適な性能を発揮します。
1. ポリアミド膜の構造的特徴
ポ リアミド系RO膜は、単一の膜ではなく、主に以下の3層からなる複合膜構造をしています。
層の名称 | 主な役割 |
極薄のポリアミド層 (半透膜層) | 逆浸透の分離機能を担う主役。水分子を通し、塩類などのイオンを遮断する。膜の厚さは数十ナノメートルと非常に薄い。 |
多孔質の支持層 (ポリスルホンなど) | 極薄のポリアミド層を支え、高い圧力に耐える機械的強度を与える。 |
基材 (ポリエステルなどの不織布) | 膜全体を補強する土台となる。 |
仕組みの核心:ナノレベルの緻密さ
ポリアミド層の孔(あな)は極めて小さく、1ナノメートル以下です。これは、ウイルスや細菌はもちろん、水に溶けている塩(Na+、Clーなど)のイオンや、微細な有機物分子をも通さないサイズです。
2. ポリアミド素材の選択的透過性
ポリアミドがRO膜に選ばれる最大の理由は、水分子に対する高い親和性と、イオンに対する強い反発力の両方を備えているからです。
- 水分子の溶解・拡散: ポリアミドの化学構造には、水分子と親和性の高い部分があります。加圧されると、水分子は膜表面に吸着(溶解)し、膜内のポリマー間の非常に小さなすき間を通り抜けて(拡散)反対側へ移動します。
- 塩分・不純物の排除(サイズ排除と電荷反発):
- サイズ排除: 塩類や有機物は、水分子よりも大きいため、単純に膜の極小のすき間を通ることができません。
- 電荷反発: ポリアミド膜表面は微かに電荷を帯びており、水に溶けた塩分のイオンを電気的に反発し、透過を妨げます。
この「水分子の透過を許容し、イオンや不純物を拒否する」という特性により、ポリアミド系複合膜は、海水淡水化などで要求される99%以上の高い脱塩率を実現できるのです。

ポリアミド系複合膜は、水分子より小さな1nm以下の極小孔を持つ極薄のポリアミド層が主役です。この層が、水は透過させる一方で、加圧により塩分や不純物を効果的に遮断するため、逆浸透膜として機能します。
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