東芝の2四半期の純利益が前年同期比で約3倍 純利益拡大の理由は何か?今後の展望はどうか?

この記事で分かること

  • 利益拡大の理由:主にキオクシアHDの株式売却益や持分法投資利益の計上によるもので、これにインフラ事業の堅調な収益が加わったためです。
  • インフラ事業の概要:発電システム(原子力、火力、再生可能エネルギー)や送変電などのエネルギーソリューションと、鉄道・上下水道などのインフラシステムソリューションを提供し、社会の基盤を支えています。
  • 今後の展望:東芝はMBOによる非上場化後、中長期的な視点でインフラやパワー半導体への投資や事業構造改革を加速させ、安定した収益基盤の再構築を目指します。

東芝の2四半期の純利益が前年同期比で約3倍

 東芝の2025年3月期第2四半期(4~9月)の純利益が前年同期比で約3倍となり、キオクシア(旧東芝メモリ)の独立後として最高益を達成しています。

東芝、純利益3倍3160億円 - 日本経済新聞
東芝が14日発表した2025年4~9月期の連結純利益は前年同期比約3倍の3160億円だった。半導体メモリー事業分離後の19年度以降の4~9月期として最高益を更新した。送配電設備やハードディスクドライ

 この決算は、東芝が非上場化(MBO)を目指す中で発表されたものであり、再建に向けた重要な節目の一つとなります。

好調の理由は何か

 東芝の2025年3月期第2四半期(4~9月)の純利益が大幅に伸び、キオクシア独立後で最高益となった主な理由は、以下の通りです。

1. キオクシア関連の利益の計上(最大の要因)

 最も大きく純利益を押し上げたのは、半導体メモリー子会社であるキオクシアホールディングス関連の利益です。

  • キオクシアの株式売却益や、
  • キオクシアの業績回復に伴う持分法投資利益の増加

 などが、特別利益として計上され、純利益を大幅に押し上げました。この要因は、本業の営業活動による利益とは異なり、一過性の側面が強いです。

2. 本業インフラ事業の安定した収益

 東芝の本業の柱であるインフラサービスの各事業が安定して収益を上げています。

  • エネルギー・インフラ事業: 原子力・火力発電や送変電システムなどにおける、保守・リニューアル案件が順調に推移しました。
  • ビル・交通システム事業: 昇降機(エレベーター・エスカレーター)や鉄道システムなどのサービス、リニューアル需要が増加しました。

 これらの事業は景気に左右されにくい安定的な収益源であり、利益を下支えしました。

3. デバイス・ストレージ事業の回復

 電子デバイスやHDD(ハードディスクドライブ)などのデバイス関連事業も、市場の底打ちと需要回復の恩恵を受け、利益に貢献した可能性があります。

 東芝は現在、非上場化(MBO)に向けた手続きを進めており、この好決算は再建計画の追い風になると見られています。

純利益が約3倍と最高になった理由は、主にキオクシアHDの株式売却益や持分法投資利益の計上によるもので、これにインフラ事業の堅調な収益が加わったためです。

エネルギー・インフラ事業の内容は何か

 東芝のエネルギー・インフラ事業は、社会の重要なライフラインを支える非常に幅広い分野をカバーしており、主に「エネルギーソリューション」と「インフラシステムソリューション」の2つの柱で構成されています。

エネルギーソリューション

 「電気をつくる、おくる、ためる、かしこくつかう」ためのシステムとサービスを提供し、カーボンニュートラル電力の安定供給に貢献しています。

  • 発電システム:
    • 原子力: 沸騰水型原子炉(BWR)などの建設・保守・サービス。
    • サーマルエナジー(火力): ガスタービン、蒸気タービン、発電機、コンバインドサイクル発電プラントの建設・サービス。
    • 再生可能エネルギー: 水力、地熱、太陽光、風力などの発電システム、およびそれらの運転・改良保全サービス。
  • 電力流通システム:
    • つくられた電気を届けるための送変電システム(開閉装置、変圧器、系統保護システムなど)。
    • 蓄電池システムやVPP(仮想発電所)などの分散型エネルギー資源の活用。
  • 水素エネルギー:
    • 水素製造装置や純水素燃料電池システム(H2Rex™)、水素エネルギーマネジメントシステムの開発・提供。

インフラシステムソリューション

 社会インフラの整備と運用を支えるシステムを提供し、安全・安心で快適な社会づくりに貢献しています。

  • 公共・交通システム:
    • 鉄道システム: 車両システム、電力システム、情報システム。
    • 上下水道システム、道路システム、放送システム。
  • セキュリティ・自動化システム:
    • 物流・郵便機器システム、駅務機器システム(自動改札機など)、カード・セキュリティシステム。
  • 産業システム:
    • 受変電システム、産業用コンピューター、モーター/ドライブなどの産業用機器。
  • 防衛・電波システム:
    • 防衛関連システム、防災・通信システム。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

 これらの事業全体で、IoTやAI技術を活用し、発電所の故障予知、性能監視サービス、インフラオペレーションの最適化といったデジタルサービスの提供も強化しています。これにより、既存インフラの高度化と効率化を図っています。

発電システム(原子力、火力、再生可能エネルギー)や送変電などのエネルギーソリューションと、鉄道・上下水道などのインフラシステムソリューションを提供し、社会の基盤を支えています。

デバイス・ストレージ事業の内容とキオクシアとの違いは

 東芝のデバイス・ストレージ事業キオクシアは、どちらも「半導体」や「記憶装置」に関わりますが、取り扱う製品の種類が明確に分かれています。


デバイス・ストレージ事業の内容(東芝本体)

 東芝の「デバイス・ストレージ事業」は、キオクシアが独立した後の東芝グループに残った事業で、主に以下の製品を扱っています。

製品カテゴリー具体的な製品例特徴・用途
半導体デバイスパワー半導体 (IGBT, MOSFET)、小信号半導体、フォトカプラー、マイコン (MCU)、アナログIC、車載用ICなど電気の制御・変換、省エネ化、自動車、産業機器、家電製品などに必須のデバイス
ストレージプロダクツHDD (ハードディスクドライブ)データセンター向けの大容量HDD、企業サーバー、監視カメラ用など。(※メモリー半導体は含まない)
先端半導体製造装置電子ビームマスク描画装置など半導体回路を製造するための精密な装置。

 電力制御や効率化に使われるパワー半導体と、大容量データの保管に使われるHDD(ハードディスク)が主要な柱です。


キオクシアとの違い

 東芝とキオクシアは、かつて一体でしたが、現在では取り扱う「記憶装置」の種類が完全に分離されています。

項目東芝(デバイス・ストレージ事業)キオクシアホールディングス(Kioxia)
主要な記憶製品HDD (ハードディスクドライブ)NAND型フラッシュメモリ(チップ)
半導体パワー半導体、システムLSIなど (電気の制御)メモリー半導体(NANDメモリ) (データの記憶)
関係性主要株主(株式を約30%保有)だが、事業上の親会社ではない2018年に東芝から独立した別会社
製品用途データセンター、産業機器、自動車、家電の電力制御・大容量保管スマートフォン、PC(SSD)、データセンターの高速データ記憶
決定的な違い

 キオクシアは、スマートフォンやSSDに使われる「NAND型フラッシュメモリ」というメモリー半導体のパイオニアです。

 一方、東芝のデバイス・ストレージ事業は、メモリー半導体ではない「パワー半導体」や、磁気でデータを記録する「HDD」を扱っています。

東芝のデバイス事業はパワー半導体HDD(ハードディスク)を扱い、電力制御や大容量保管が中心です。一方、キオクシアはNAND型フラッシュメモリ(メモリー半導体)を扱い、スマホやSSDの高速記憶が主軸です。

今後の見通しはどうか

 東芝の今後の見通しは、主にMBO(マネジメント・バイアウト)による非上場化と、それに伴う事業構造の再構築の2つの側面に集約されます。

今後の大きな方向性:非上場化(MBO) 

 東芝は、すでにMBO(経営陣による自社買収)が完了し、非上場企業となっています(2023年12月に上場廃止)。

非上場化の目的と影響:

  1. 短期的な株主の圧力からの解放: 上場廃止により、短期的な業績目標や株価に捉われずに、中長期的な視点で大胆な事業改革や投資を実行しやすくなります。
  2. 抜本的な改革の実行: 経営戦略の機密性を高めつつ、不採算事業の売却・撤退や、成長分野への大規模投資といった抜本的な構造改革を進めることが期待されます。
  3. キオクシア株式の処理: 引き続き保有するキオクシア株式の処分(売却など)のタイミングや手法について、上場企業としての制約を受けずに柔軟に決定できるようになります。今回の好決算の一因もこの株式売却益です。

事業ごとの見通し

 非上場化後の焦点は、中核事業である「エネルギー・インフラ」と「デバイス」の強化です。

  • エネルギー・インフラ事業:
    • 電力の安定供給や脱炭素化に向けたニーズが高まる中で、保守・サービスリニューアル案件といった安定収益源をさらに強化する見込みです。
    • 原子力や再生可能エネルギー関連技術、送変電システムへのDX(デジタルトランスフォーメーション)投資を通じて、収益力を高めることが課題となります。
  • デバイス・ストレージ事業:
    • 電気自動車(EV)や産業機器の省エネ化に不可欠なパワー半導体は、今後の成長ドライバーとして生産能力増強技術開発が加速される見通しです。
    • HDD事業は、データセンター向け大容量製品に注力し、高付加価値化を進めます。

リスク要因

  • 世界経済の不確実性: 物価上昇や地政学的リスクは、インフラやデバイスの需要に影響を与える可能性があります。
  • キオクシアの業績: 東芝は依然としてキオクシアの株式を保有しているため、メモリ市場の動向やキオクシアの業績低迷は、東芝の財務に影響を及ぼし続けます。

 総じて、東芝は非上場化をテコに、インフラとパワー半導体を柱とした企業として再建を加速する局面にあると言えます。

東芝はMBOによる非上場化後、中長期的な視点インフラやパワー半導体への投資事業構造改革を加速させ、安定した収益基盤の再構築を目指します。

コメント

タイトルとURLをコピーしました