この記事で分かること
- クロロピレンゴムとは:ネオプレンとも呼ばれる合成ゴムです。耐候性、耐オゾン性、耐熱性、耐油性、難燃性に優れ、自動車部品、電線被覆、接着剤、ウェットスーツなど、幅広い用途で活躍します。
- 対候性に優れる理由:分子構造中の塩素原子が二重結合の電子密度を低下させるため、大気中のオゾンによる攻撃を受けにくくなります。この化学的安定性により、紫外線や酸素による劣化も抑制され、優れた耐候性を示します。
- 強度に優れる理由:クロロピレンゴムには引っ張ると分子鎖が規則的に並び結晶化する性質があります。これにより分子間の凝集力が増し、高い引張強さや引裂き強さを発揮します。
東ソーのクロロプレンゴム増産
東ソーは、山口県周南市の南陽事業所において、合成ゴムの一種であるクロロプレンゴム(CR)の生産能力増強を決定しました。
https://www.tosoh.co.jp/news/release/2025/20250612.html
この投資は、世界的なクロロプレンゴムの需要拡大に対応するためのもので、東ソーのCR事業における市場地位のさらなる向上が期待されています。
クロロプレンゴムとは何か
クロロプレンゴム(CR)は、1930年代にアメリカのデュポン社によって開発された、非常に歴史のある合成ゴムです。商品名としては「ネオプレン(Neoprene®)」としても広く知られています。
特徴
クロロプレンゴムは、以下の優れた特性をバランス良く備えているため、幅広い用途で利用されています。
- 耐候性・耐オゾン性: 屋外での使用に適しており、紫外線やオゾンによる劣化に強いです。
- 耐熱性: 比較的高温環境下でも性能を維持します(約120℃まで)。
- 耐油性・耐薬品性: 天然ゴムの弱点である耐油性を改良した代替品として開発された経緯があり、油や多くの化学薬品に対して優れた耐性を示します。
- 難燃性: 自己消火性があり、火災の危険がある場所での使用に適しています。
- 機械的強度: 引張強さや弾性など、物理的な強度に優れています。
- 接着性: ゴム糊にした際の接着力が強いという特徴もあります。
- ガス透過率が小さい: ガスを通しにくい性質があります。
化学構造
クロロプレンゴムは、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)を重合させて得られるポリマーです。その化学構造中に塩素原子を含むことが特徴です。
特に、重合によって得られるポリマー鎖のほとんどがトランス結合をとっており、これが優れた耐候性や耐薬品性、耐熱性などの特性に寄与しています。
主な用途
そのバランスの取れた優れた特性から、クロロプレンゴムは様々な分野で広く使用されています。
- 自動車部品: ホース、ベルト(Vベルト、伝動ベルトなど)、シール材(ガスケット、パッキン)、防振ゴム、ブーツ類(等速ジョイントブーツなど)
- 建設資材: 防水シール材、橋梁やトンネルのジョイントシール、防振ゴム
- 電線・ケーブル: 被覆材
- 接着剤: ゴム、金属、硬質プラスチックなど様々な素材の接着剤
- スポーツ用品: ウェットスーツ、ダイビングギア、シューズの底
- 一般工業用品: コンベヤベルト、ゴムロール、Oリング、緩衝材、スポンジ製品
- その他: 消防士用保護衣、救命ボート、コンテナバッグなど
ただし、耐水性や電気絶縁性にはやや劣る点、また低温時に結晶化しやすい傾向があるため、極低温環境下での使用には注意が必要です。

クロロプレンゴム(CR)は、ネオプレンとも呼ばれる合成ゴムです。耐候性、耐オゾン性、耐熱性、耐油性、難燃性に優れ、自動車部品、電線被覆、接着剤、ウェットスーツなど、幅広い用途で活躍します。塩素原子を含む化学構造が、これらの優れた特性をもたらします。
耐候性に優れる理由は
クロロプレンゴム(CR)が優れた耐候性を持つ主な理由は、その独特な化学構造にあります。特に、以下の点が重要です。
塩素原子の存在と影響
- クロロプレンゴムは、分子鎖の主鎖に二重結合を持っていますが、その二重結合のすぐ隣に塩素原子(Cl)が結合しています。
- この塩素原子は「電子吸引性」の性質を持っています。つまり、二重結合から電子を少し引き寄せる働きがあります。
- 大気中のオゾン(O₃)は、ゴムの二重結合を攻撃して分子鎖を切断し、劣化(オゾンクラック)を引き起こします。しかし、クロロプレンゴムの場合、塩素原子が電子を引き寄せることで、二重結合の電子密度が低下します。
- これにより、オゾンが二重結合を攻撃しにくくなり、オゾンに対する反応性が低下します。結果として、オゾンによる分子鎖の切断が抑制され、オゾン劣化に強いという特性を発揮します。
- 天然ゴム(NR)など、他の二重結合を持つゴムは、電子供与性基を持つためオゾンとの反応性が高く、オゾン劣化しやすい傾向があるのと対照的です。
化学構造の安定性
- クロロプレンゴムの分子構造は全体的に安定しており、紫外線や酸素などの要因による化学変化が起こりにくいです。
- 特に、重合によって得られるポリマー鎖のほとんどがトランス結合をとっていることも、分子構造の安定性に寄与し、耐熱性や耐候性を高める要因となります。
- これらの要因により、クロロプレンゴムは屋外での使用や、オゾンが生成されやすい環境(例:モーター周辺、高電圧機器周辺)において、長期間にわたって性能を維持できる高い耐候性を示すのです。

クロロプレンゴムは、分子構造中の塩素原子が二重結合の電子密度を低下させるため、大気中のオゾンによる攻撃を受けにくいです。この化学的安定性により、紫外線や酸素による劣化も抑制され、優れた耐候性を示します。
強度に優れる理由は
クロロプレンゴム(CR)が強度に優れる主な理由は、以下の2点に集約されます。
応力誘起結晶化
- 天然ゴム(NR)と同様に、クロロプレンゴムも「結晶性ゴム」に分類されます。これは、普段はアモルファス(非晶質)な状態であるものの、引っ張る(伸長する)と、分子鎖が規則的に並び、一時的に結晶構造を形成する性質を持つことを指します。
- この結晶化は、引っ張った際に分子鎖同士の間に働く分子間力(凝集力)を増大させ、ゴムの抵抗力を高めます。結果として、引張強さや引裂き強さなどの機械的強度が飛躍的に向上します。
- 伸長を解除すれば、結晶は融けて元のゴムらしい弾性を取り戻します。
分子構造の安定性とトランス結合
- クロロプレンゴムの主鎖に含まれる1,4-トランス結合がその大部分を占めることも、分子鎖の規則性を高め、結晶化を促進する要因となります。
- また、既に述べたように、塩素原子の存在による分子構造の安定性も、ゴム全体の耐久性や長期的な性能維持に寄与し、結果的に「強度が高い」という特性に繋がります。
- これらの理由により、クロロプレンゴムは、補強剤(カーボンブラックなど)をあまり配合しなくても、比較的高い機械的強度を発揮できるという特徴を持っています。

クロロプレンゴムは、引っ張ると分子鎖が規則的に並び結晶化する性質があります。これにより分子間の凝集力が増し、高い引張強さや引裂き強さを発揮します。
増産の理由は何か
東ソーがクロロプレンゴム(CR)の生産能力を増強する主な理由は、世界的な需要の拡大に対応するためです。
CRは、耐候性、耐油性、耐熱性、難燃性など優れた特性をバランス良く備えているため、幅広い産業分野で必要とされています。特に、近年では以下のような分野での需要が伸長しています。
- 自動車産業: EV化の進展や高機能化に伴い、より高性能なゴム部品の需要が増加しています。CRは振動吸収性や耐久性に優れるため、防振ゴムや各種ホース、シール材などに引き続き多く使用されます。
- 建築・土木分野: 耐久性や耐候性が求められる建築材料やインフラ向けの需要が堅調です。
- 工業用途: 各種工業用ゴム製品、接着剤、電線被覆材など、広範な産業でCRの特性が活用されています。
東ソーは、CRの主要メーカーの一つとして、これらの高まる需要に応え、供給責任を果たすと共に、CR事業における国際競争力をさらに強化していく戦略です。

自動車、建築などでの需要増加に対応するために増産を決めています。
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