この記事で分かること
- 純利益低下の理由:主な要因は、石油化学製品の需要低迷による販売減少です。特に主力のクロル・アルカリ事業で、中国の不動産不況などが影響し、主要製品の海外市況が想定以上に下落しました。
- クロル・アルカリ事業の内容:クロル・アルカリ事業は、食塩水を電気分解して、産業の基礎原料となる苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と塩素を生産する事業です。これらは製紙、アルミ、塩化ビニル樹脂などの製造に不可欠です。
東ソーの純利益予想を下方修正
東ソーは2026年3月期通期の純利益予想を下方修正し、前年比34.5%減の380億円になると発表しました。

主な要因は、石油化学製品の需要低迷による販売減少です。
東ソーの石油化学製品にはどんなものがあるのか
東ソーの「石油化学事業」には、非常に幅広い製品がありますが、主にオレフィンと呼ばれる基礎化学品とその誘導品であるポリマー(樹脂・ゴム)などが中心となっています。
東ソーの主な石油化学製品
東ソーの石油化学事業は、ナフサ(原油を精製して得られる油分)を分解するナフサクラッカーを核に展開されています。
1. 基礎原料(オレフィン・芳香族)
ナフサの分解で得られる、様々な化学製品の原料となるものです。
- エチレン (Ethylene):ポリエチレン、塩ビモノマーなどの原料。
- プロピレン (Propylene):ポリプロピレン、キュメンなどの原料。
- ベンゼン、トルエン、混合キシレン (BTX):合成樹脂や溶剤などの原料。
- キュメン (Cumene):アセトンやフェノールの原料。
2. ポリマー(樹脂・ゴム)
基礎原料を重合させて作られる、最終製品に広く使われる素材です。
| 製品カテゴリー | 具体的な製品名(商品名) | 主な用途 |
| ポリエチレン | 高密度ポリエチレン(ニポロンハード®) 低密度ポリエチレン(ペトロセン®) | フィルム、容器(輸液バッグ、点眼容器、半導体薬液容器など) |
| 接着性ポリマー | エチレン酢ビコポリマー(ウルトラセン®) ポリオレフィン系接着性ポリマー(メルセン®) | 包装フィルムのシール材、太陽電池パネル用封止材 |
| 特殊合成ゴム | クロロプレンゴム(スカイプレン®) クロロスルフォン化ポリエチレン(TOSO‐CSM®) | 自動車用ホース、救命用ゴムボート、医療用手袋など |
| エンジニアリングプラスチック | PPS(サスティール®) | 自動車部品、電子部品 |
| 石油樹脂 | C9系石油樹脂(ペトコール®) C5-C9系石油樹脂(ペトロタック®) | 粘着テープ、ゴム配合剤(エコタイヤ、自動車部品) |
関連する主要事業
石油化学事業と並んで、東ソーの柱となっているのが「クロル・アルカリ事業」です。
| 事業名 | 主要製品 | 特徴・関連性 |
| クロル・アルカリ事業 | 苛性ソーダ、塩素、塩ビモノマー、MDI(ウレタン原料)、ペースト塩ビ | 塩の電気分解が起点。苛性ソーダは国内トップシェア。ここで生産される塩素は、石化事業のエチレンと結びつき塩化ビニル樹脂の原料(塩ビモノマー)となります。 |
先に触れた「市況低迷」の影響は、特にこの石油化学製品やクロル・アルカリ事業の製品の国際的な需要(特にアジア圏)の落ち込みによるものです。
東ソーは、これらのコモディティ製品(汎用品)に加え、医療・電子材料など競争力の高い機能商品にも注力することで、事業の安定化を図っています。

東ソーの主な石油化学製品は、ナフサを原料とするエチレンやプロピレンなどの基礎原料と、それらを重合させたポリエチレンや特殊な合成ゴムなどのポリマー(樹脂)です。また、クロル・アルカリ事業と連携し塩ビモノマーなども生産しています。
石油化学製品の需要低迷の理由は何か
石油化学製品の需要低迷は、以下に示すように主に中国における供給過剰と世界的な景気減速という二つの大きな要因によって引き起こされています。
1. 中国の供給過剰と内需の低迷
石油化学製品の最大の需要地である中国で、以下の問題が複合的に発生しています。
- 大規模な設備増強: 中国は過去10年で大規模なエチレン生産プラントを新増設し、石油化学製品の内製化率が大幅に上昇しました。これにより、海外からの輸入依存度が低下し、日本やアジア諸国からの輸出先が減少しました。
- 景気減速と不動産不況の影響: 中国経済の減速、特に不動産市場の低迷は、建設資材や家電、家具など、石油化学製品を大量に使用する最終製品の需要を大きく冷え込ませました。
- 製品の「物余り感」: 国内の生産能力が需要を上回り、製品の供給過剰(オーバーハング)が発生。これが国際的な市況を押し下げ、価格競争を激化させています。
2. 世界的な景気減速と消費の停滞
高インフレと金利上昇を受けた世界的な景気減速が、幅広い分野で需要を抑制しています。
- 消費者の購買意欲低下: インフレ進行に伴い、住宅、日用品、雑貨など、幅広い分野で消費者の購買意欲が低下し、最終製品の生産量が減少しました。
- 在庫調整の長期化: 世界的なサプライチェーンの混乱後、川下(最終製品メーカー)で抱えていた在庫の調整が長期化し、化学メーカーへの発注量が絞られています。
3. 代替材料へのシフトや環境対応
- 環境規制と代替材料: 環境意識の高まりやプラスチック規制などにより、一部の用途でプラスチックから紙などの代替材料へのシフトが進んでいることも、需要減少の一因となっています。
これらの要因により、石油化学製品の基礎原料であるエチレンプラントの稼働率が低迷し、多くの化学メーカーで業績悪化につながっています。

石油化学製品の需要低迷は、中国の生産能力増強による供給過剰と、世界的な景気減速や不動産不況による最終製品(家電・建設材)の消費停滞が主な理由です。
クロル・アルカリ事業とは何か
クロル・アルカリ事業とは、主に食塩水を電気分解することで、基礎化学品である苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と塩素を生産する事業です。
東ソーをはじめとする化学メーカーの基幹事業の一つであり、生産される苛性ソーダと塩素は、様々な産業の原料として不可欠なものです。
事業の仕組みと主要製品
1. 基礎原理
原料である食塩(塩化ナトリウム、NaCl)を水に溶かし、電気を通すことで以下の化学反応を起こさせます。
2NaCl + 2H2O → 2NaOH + Cl2 + H2
この反応により、3つの重要な製品が生まれます。
| 製品名 | 化学式 | 主な用途と特徴 |
| 苛性ソーダ | NaOH(水酸化ナトリウム) | アルミナ(アルミニウム原料)、製紙、化学繊維、洗剤、水処理など、非常に幅広い分野で使用されるアルカリ性の基礎原料。 |
| 塩素 | Cl2 | 塩化ビニル樹脂(塩ビ)、ウレタン原料(MDI)、漂白剤、合成ゴム、医農薬原料など、主に有機化学製品の原料。 |
| 水素 | H2 | アンモニア、メタノールの合成原料、燃料電池など。 |
2. 東ソーとクロル・アルカリ事業
東ソーは、このクロル・アルカリ事業において国内でトップクラスのシェアを持っています。
- 特に、生産される塩素は、東ソーのもう一つの柱である石油化学事業で製造されるエチレンと結びつき、塩化ビニルモノマー(塩ビ樹脂の原料)を生み出すなど、事業間の連携が非常に強固です。
- 前回、東ソーの業績予想の文脈で触れた「市況低迷」は、このクロル・アルカリ製品(特に苛性ソーダや塩化ビニル関連)の海外、特にアジア市場での需要減と価格下落が大きく影響しています。
クロル・アルカリ事業は、現代社会のあらゆる製品の製造を支える「産業の米」の一つと言えます。

クロル・アルカリ事業は、食塩水を電気分解して、産業の基礎原料となる苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と塩素を生産する事業です。これらは製紙、アルミ、塩化ビニル樹脂などの製造に不可欠です。

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