この記事で分かること
- 減益の理由:主力製品の販売価格の下落や円高などによって、減益となっています。
- ナフサの価格下落理由:世界的な景気減速による需要の低迷、原油供給の増加、そして円高による輸入コストの減少が要因です。
- 塩化ビニル樹脂の下落理由:世界経済の減速とそれに伴う建設需要の減少が、塩化ビニル樹脂の需要を低迷させています。
東ソーの4-6月期の連結決算
東ソーが2025年8月5日に発表した2025年4-6月期の連結決算によると、純利益は65億2900万円で、前年同期比で59.8%減となりました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00756870
営業利益は18.9%減、経常利益は48.5%減となっており、全体的に厳しい業績となりました。
減益の理由は何か
東ソーの2025年4-6月期の減益の主な理由は、以下の点が挙げられます。
- クロル・アルカリ事業の市況悪化: 主要製品である苛性ソーダや塩化ビニル樹脂の販売価格が下落し、市況が悪化したことが大きな要因です。これにより、この事業セグメント全体が赤字に転落しました。
- 石油化学製品の価格下落: ナフサ価格の下落に伴い、石油化学製品の販売価格も下落しました。また、ナフサ価格の下落により、以前に仕入れた高価な在庫の評価損が発生し、利益を圧迫しました。
- ウレタン事業の販売減: ウレタン事業においても、需要の低迷により販売数量が減少しました。
これらの要因が複合的に作用し、営業利益、経常利益、そして純利益の大幅な減少につながったと考えられます。
ナフサはなぜ下落しているのか
ナフサ価格は、原油価格と密接に連動しており、その下落の背景には、主に以下のような要因が考えられます。
1. 世界経済の減速懸念
ナフサはプラスチックや合成繊維など、さまざまな石油化学製品の原料として使われます。世界的に景気が減速すると、これらの製品の需要が低下し、それに伴いナフサの需要も減少します。特に、世界最大の石油化学製品消費国である中国の景気動向は、ナフサ価格に大きな影響を与えます。中国の景気低迷が続くと、ナフサの需要が減少し、価格下落の要因となります。
2. 原油供給の増加
ナフサは原油から精製されるため、原油の供給過剰はナフサ価格を押し下げる要因となります。OPEC(石油輸出国機構)プラスの協調減産が縮小される見込みや、非加盟国が原油を増産する場合、供給が増えて原油価格が下落し、ナフサ価格も連動して下落する可能性があります。また、アメリカのシェールオイル増産方針なども、供給過剰につながる要因として挙げられます。
3. 為替の変動
ナフサは主に海外から輸入されるため、為替レートも価格に影響を与えます。円高に振れると、輸入コストが下がるため、国内のナフサ価格は下落する傾向にあります。

ナフサ価格の下落は、主に世界的な景気減速による需要の低迷、原油供給の増加、そして円高による輸入コストの減少が要因です。特に、主要消費国である中国の景気低迷が大きく影響していると考えられます。
東ソーはどんな製品をあつかっているのか
東ソーは、多岐にわたる製品を取り扱う総合化学メーカーであり、「クロル・アルカリ事業」「石油化学事業」「機能商品事業」を3つの柱としています。
1. クロル・アルカリ事業
「塩」の電気分解を起点として、様々な基礎化学品を製造しています。
- 苛性ソーダ(水酸化ナトリウム): 国内トップシェアを誇り、紙・パルプ、アルミ、洗剤などの製造に使われます。
- 塩化ビニル樹脂: パイプ、窓サッシ、床材などの建築資材や、壁紙、消しゴムなどに使われます。
- セメント: 建設資材として使われます。
- ウレタン原料(MDI): 自動車部品や住宅外装材、断熱材などに使われるウレタンの原料です。
2. 石油化学事業
ナフサを原料として、さまざまな基礎原料や合成樹脂を製造しています。
- エチレン、プロピレン: ポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチック原料となります。
- ポリエチレン: 輸液バッグ、点眼容器、フィルム、自動車部品、スタジアムの座席などに使われます。
- 合成ゴム(クロロプレンゴム、CSM): 自動車用ホース、エスカレーターの手すり、ウェットスーツ、医療用手袋などに使われます。
3. 機能商品事業
付加価値の高いスペシャリティ製品を扱っています。
- バイオサイエンス製品: 糖尿病検査機器、免疫測定装置、遺伝子検査装置などの医療機器や、高速液体クロマトグラフィー用カラムなど、医療・研究分野に貢献しています。
- 高機能材料: 半導体製造に使われる石英ガラス、セラミックス用ジルコニア粉末(歯科用材料や時計の装飾部品に使われる)、排ガス除去触媒に使われる合成ゼオライトなどがあります。
- 有機化成品: エチレンアミン、臭素、難燃剤、電子材料、医農薬中間体など、幅広い分野の製品を提供しています。
東ソーは基礎的な化学品から、医療・半導体といった先端分野の製品まで、非常に幅広い製品を扱っており、私たちの生活や産業の様々な場面で不可欠な役割を担っています。

東ソーは、苛性ソーダや塩化ビニル樹脂などの基礎化学品、ポリエチレンや合成ゴムなどの石油化学製品、そして医療・半導体向けの高機能材料や検査機器まで、幅広い製品を製造・販売する総合化学メーカーです。
苛性ソーダや塩化ビニル樹脂の販売価格が下落している理由は何か
苛性ソーダと塩化ビニル樹脂の販売価格が下落している主な理由は、以下の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
1. 世界経済の減速と需要の低迷
- 建設需要の減少: 塩化ビニル樹脂は、パイプや窓枠、床材などの建築資材に広く使われています。世界的な景気減速により、建設投資が抑制される傾向にあり、これが塩化ビニル樹脂の需要を直接的に減少させています。
- 下流産業の需要低迷: 苛性ソーダは、アルミナ(アルミニウムの原料)、繊維、洗剤など幅広い産業で使われています。これらの下流産業の需要が世界的に低迷しているため、苛性ソーダの需要も減少しています。特に、中国の経済成長の鈍化は、これらの製品の需要に大きな影響を与えています。
2. 供給過剰
- 需要が低迷している一方で、供給能力は比較的高い水準を維持している場合があります。これにより、市場が供給過剰となり、価格競争が激化し、販売価格が下落する圧力が高まります。
3. ナフサ価格の変動
- 塩化ビニル樹脂はナフサを原料とするため、ナフサ価格の下落は、製品価格の下落にもつながりやすいです。原料コストが下がると、メーカーは製品価格を下げて販売量を確保しようとするため、価格下落の要因となります。
苛性ソーダや塩化ビニル樹脂の市場全体が軟調な市況となっていることが、東ソーの減益の背景にあると考えられます。

世界経済の減速とそれに伴う建設需要の減少が、塩化ビニル樹脂の需要を低迷させています。また、苛性ソーダも下流のアルミナや繊維産業の需要減に直面しています。こうした需要の低迷に対し、供給が過剰気味となり、価格競争が激化したことが下落の主な原因です。
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