東ソーの新規研究棟 どんな開発を行うのか?免疫診断とは何か?

この記事で分かること

  • 予定している研究内容:新研究棟でバイオサイエンス製品の開発を強化します。具体的には、診断薬・装置や、バイオ医薬品製造プロセスに必須の分離精製剤などのライフサイエンス向け先端材料・技術を創出します。
  • 免疫診断とは:抗原(病原体や腫瘍マーカーなど)とそれに対応する抗体が特異的に結合する免疫反応を利用し、体内の特定の物質の有無や量を測定することで、病気の診断や病態を調べる検査です。

東ソーの新規研究棟

 東ソーは、研究開発の重点3分野の一つである「ライフサイエンス」、特にバイオサイエンス製品の開発体制を拡充するため、東京研究センターに新研究棟を新設する計画を発表しています。 

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC212IN0R21C25A1000000/

 東ソーは、中期経営計画において、「ライフサイエンス」のほか「電子材料」「環境・エネルギー」を重点分野とし、スペシャリティ事業の拡大を通じて、社会課題解決に貢献する製品・技術の創出を目指しています。

どんな開発を行うのか

 東ソーの医療関連事業の新研究棟(東京研究センターに新設)で主に行われる開発は、同社の重点分野である「ライフサイエンス」に関する先端的な製品・技術の創出です。

 新研究棟の整備は、以下の3つの主要な開発領域における体制強化を目的としています。


1. バイオサイエンス製品の開発・事業領域の拡大

 最も重要な開発テーマは、診断分野バイオ医薬品製造分野に貢献する製品の創出と、それに伴う事業領域の拡大です。

分野具体的な開発テーマ関連する製品例
新規診断・検査製品病気の早期発見を促す臨床検査システム新規検査技術の開発。各種がん、糖尿病、心疾患、感染症(例:新型コロナウイルス抗原キット、RNA検出試薬)、不妊治療などの検査項目に対応。免疫診断、グリコヘモグロビン分析、遺伝子検査を中心とした計測・診断装置および試薬
バイオプロセス製品バイオ医薬品(抗体医薬品、核酸医薬品など)の製造・品質管理に不可欠な分離精製剤(TOYOPEARL、TSKgelなど)や関連技術の開発。高品質なカラム充填剤、精製用プレパックカラム(SkillPak™)、連続クロマトグラフィー装置
創薬・再生医療関連iPS細胞などの万能細胞の培養関連周辺製品の研究開発。均一な細胞塊を大量かつ簡便に形成する技術など、創薬や再生医療の産業化に貢献する新技術・新材料の創出。

2. マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用した材料開発

 MI(データ科学とAIを活用した材料開発)を基幹技術として導入・加速させることで、新研究棟で取り組む新製品や新材料の開発を高度化・効率化します。

  • 化学メーカーとしての強みである材料開発技術デジタル技術を融合させ、ライフサイエンス分野のニーズに応える先進的な新材料をスピーディーに創出することを目指します。

3. その他の先端技術・応用研究

 新研究棟は、東京研究センターが中核拠点としている「ライフサイエンス」「電子材料」「環境・エネルギー」の重点3分野における先端技術創出の拠点としての役割を担います。

 アドバンストマテリアル研究所ライフサイエンス研究所が連携し、バイオサイエンス以外の分野で培った分子構造設計や機能設計の技術を応用し、生体機能を有する新規材料の開発なども推進します。

東ソーは、新研究棟でバイオサイエンス製品の開発を強化します。具体的には、診断薬・装置や、バイオ医薬品製造プロセスに必須の分離精製剤などのライフサイエンス向け先端材料・技術を創出します。

免疫診断とは何か

 免疫診断(Immunodiagnosis)とは、体内の免疫反応を利用して、血液やその他の検体中に存在する特定の物質(抗原や抗体など)の有無や量を測定することで、病気の診断や病態の把握を行う検査のことです。

 簡単に言えば、「体が異物と戦った痕跡」や「免疫の異常」を調べる検査です。


免疫診断の基本的な原理:抗原抗体反応

 免疫診断の根幹にあるのは、体内に備わっている免疫の仕組み、特に抗原抗体反応です。

  1. 抗原 (Antigen):体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物、または体内で異常に増えた腫瘍マーカーなどの物質です。
  2. 抗体 (Antibody):抗原を異物と認識し、それを排除するために体内で作られるタンパク質(免疫グロブリン)です。
  3. 抗原抗体反応鍵と鍵穴の関係のように、特定の抗原とそれに対応する特定の抗体が特異的に強く結合する現象です。

 免疫診断では、この特異的な結合反応を試薬や装置を用いて検体内で起こさせ、結合した抗原や抗体の量を測定することで、現在の感染状況や体の状態を判断します。


免疫診断でわかること

 免疫診断は、非常に多岐にわたる疾患の診断・経過観察に利用されています。

検査対象目的具体的な病気・項目
感染症の診断ウイルスや細菌に対する抗体の有無や量、またはウイルスそのもの(抗原)を検出します。肝炎ウイルス、梅毒、HIV、インフルエンザ、新型コロナウイルス(COVID-19)など
腫瘍マーカーがん細胞などが増殖した際に血液中に増加する特定のタンパク質を測定します。各種がん(CEA、CA19-9、PSAなど)の早期発見、治療効果判定
ホルモン・代謝体内のホルモンビタミン、特定のタンパク質などの微量成分を測定します。甲状腺機能(TSH、T3、T4)、インスリン、ビタミンDなど
自己免疫疾患自分の体内の成分を誤って攻撃してしまう自己抗体を測定します。関節リウマチ、膠原病(全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など)

測定方法(東ソーの関連技術)

 免疫診断には様々な測定方法がありますが、東ソーが強みを持つのは、全自動の測定システムです。

  • 全自動化学発光酵素免疫測定装置 (AIA-CLシリーズ)
    •  東ソー独自の「モノテストカップ」という凍結乾燥試薬を使用することで、簡便で安定した高スループット(大量処理)の検査を実現しています。
    • 高感度化学発光(CL:Chemiluminescence)という光の技術を利用して、微量の抗原や抗体を正確に測定します。

免疫診断は、抗原(病原体や腫瘍マーカーなど)とそれに対応する抗体が特異的に結合する免疫反応を利用し、体内の特定の物質の有無や量を測定することで、病気の診断や病態を調べる検査です。

グリコヘモグロビン分析とは何か

 グリコヘモグロビン分析とは、血液中のグリコヘモグロビン(主にHbA1c:ヘモグロビン・エーワンシー)の割合を測定する検査です。

 この検査は、過去1〜2か月にわたる平均的な血糖値の状態を知るために用いられ、糖尿病の診断血糖コントロールの指標として最も重要視されています。


グリコヘモグロビン(HbA1c)とは

1. 結合の仕組み

 ヘモグロビン(Hb)は赤血球に含まれるタンパク質で、酸素を運ぶ役割を担っています。血液中のブドウ糖(グルコース)は、このヘモグロビンとゆっくりと結合します。

 この結合によって、糖化されたヘモグロビンができますが、これをグリコヘモグロビンと総称し、そのうち特に重要なものがHbA1cです。

2. 過去の血糖値の反映

  • 一度ブドウ糖と結合したHbA1cは、赤血球の寿命(約120日、4か月)が尽きるまで、元には戻りません。
  • 血糖値が高く、血液中のブドウ糖が多い状態が続くと、より多くのHbA1cが作られます。
  • そのため、HbA1cの測定値は、検査時点だけでなく、赤血球が入れ替わるまでの過去1〜2か月間の血糖値の平均を反映します。

検査の重要性

 通常の血糖値検査は、採血時点の一時的な血糖値(前日の食事や運動の影響を受ける)を示しますが、グリコヘモグロビン分析(HbA1c)は長期的な血糖コントロールの状態を評価できるため、以下の点で非常に有用です。

特徴検査の目的
評価期間の長さ過去1〜2か月の平均的な血糖値の指標として、糖尿病の治療効果判定や管理状態の確認に必須。
糖尿病の診断2010年以降、HbA1c値は血糖値と並んで糖尿病の診断基準に取り入れられています。
合併症の予防HbA1cを目標値以下に保つことが、糖尿病の三大合併症(網膜症、腎症、神経障害)の予防に繋がります。

主な測定方法

 HbA1cを正確に測定する方法はいくつかありますが、代表的なものとして、東ソーなどのメーカーが提供する分析装置で広く用いられている方法があります。

  • HPLC法(高速液体クロマトグラフィー法)
    • 高精度な測定が可能であり、日本の標準的測定法として広く普及しています。
    • 血液中の様々なヘモグロビン成分(HbA1c、異常ヘモグロビンなど)を分離し、そのうちのHbA1cの割合を正確に定量します。
  • 酵素法・免疫法
    • HPLC法に比べると小型の装置で測定でき、迅速性に優れているため、診療所(クリニック)やPOCT(ポイント・オブ・ケア・テスティング)で用いられることがあります。

グリコヘモグロビン分析は、赤血球内のヘモグロビンに結合したブドウ糖の割合(主にHbA1c)を測定する検査です。これにより、採血前の約1〜2か月の平均的な血糖値を把握でき、糖尿病の診断や管理に不可欠です。

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