この記事で分かること
- 硬化粘着剤とは:塗布時は液状ですが、UVや熱などで化学反応を起こし硬化することで接着力を発揮する材料のことです。
- 鋼材での利用用途:溶接やリベットなどの機械的接合の代替、あるいは補助として使用されることが多く見られます。
トーヨーケムの新規硬化粘着剤
トーヨーケムが鋼材対応の硬化粘着剤を開発したことを発表しています。

開発品では、耐熱性が100℃を超え、かつ無溶剤化を実現した点に特徴があるようです。
硬化粘着剤とは何か
「硬化粘着剤」とは、塗布された状態では液状または半固形状ですが、特定の条件下で化学反応を起こして硬化し、その結果として粘着性(接着力)を発現する材料のことです。通常の接着剤と異なり、硬化後も柔軟性や再剥離性を持つ場合があるのが特徴です。
主な硬化の仕組み
- UV(紫外線)硬化型: 紫外線照射によって分子が重合し、瞬時に硬化します。無溶剤化が容易で、短時間で硬化するため、生産性向上に貢献します。光を透過しない材料同士の接着にも対応できるタイプもあります。
- 熱硬化型: 熱を加えることで化学反応が促進され、硬化します。自動車部品や半導体などの耐熱性が求められる用途でよく使われます。
- 湿気硬化型: 空気中の水分と反応して硬化します。特別な設備が不要なのが特徴です。
- 嫌気硬化型: 酸素を遮断した環境と金属イオンの存在下で硬化します。金属同士の接着に適しています。
- 硬化剤混合型(2液反応型): 主剤と硬化剤を混ぜ合わせることで化学反応が起こり硬化します。硬化時間を調整できる、材料設計の自由度が高いといった特徴があります。
硬化粘着剤の主な特徴
- 硬化後に粘着性を発現: 塗布時には液状で塗布しやすく、硬化後に所望の粘着力を持つようになります。
- 様々な硬化方法: UV、熱、湿気など、用途や素材に合わせて最適な硬化方法を選択できます。
- 無溶剤化: 環境規制の強化や作業環境の改善のため、溶剤を含まない製品が増えています。VOC(揮発性有機化合物)の発生を抑えることができます。
- 柔軟性や再剥離性: 完全に固まる接着剤とは異なり、硬化後も柔軟性を保ち、場合によっては再剥離が可能なタイプもあります。これにより、仮止めや部品の取り外しが必要な用途にも対応できます。
- 高い機能性: 耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐溶剤性など、特定の環境下での使用に耐えうる高い機能を持つ製品が多く開発されています。
- 幅広い用途: 電子部品、光学部品、自動車、医療、建築など、多岐にわたる分野で使用されています。
トーヨーケムが開発した鋼材対応の硬化粘着剤は、特に「耐熱100℃超」と「無溶剤化」という点が強調されており、これにより従来の粘着剤では難しかった鋼材への適用や、より厳しい環境下での使用、そして環境負荷の低減が期待できると考えられます。

硬化粘着剤とは、塗布時は液状ですが、UVや熱などで化学反応を起こし硬化することで接着力を発揮する材料です。通常の接着剤と異なり、硬化後も柔軟性を持つ場合があり、環境負荷の少ない無溶剤タイプも増えています。様々な素材の接合に幅広く使われます。
鋼材に硬化粘着はどのように利用されるのか
鋼材用の硬化粘着剤は、その優れた接着強度、耐久性、そして近年では環境への配慮から、様々な産業分野で幅広く利用されています。溶接やリベットなどの機械的接合の代替、あるいは補助として使用されることが多く、以下のような使われ方が一般的です。
1. 自動車・車両産業
- 車体構造部品の接合: 鋼板同士の接合や、鋼材と異種材料(CFRPなどの複合材や樹脂)との接合に用いられます。軽量化や剛性向上、振動・騒音(NVH)の低減に貢献します。溶接点数を減らすことで、製造工程の簡略化や生産性向上にも繋がります。
- 内装・外装パネルの固定: ドアパネル、ルーフパネル、フロアパネルなどの接着に使用されます。特に、熱による歪みを嫌う薄板の接合に適しています。
- バッテリーパックの組立: 電気自動車のバッテリーパックにおいて、セルとパックケースの接着など、高い信頼性と耐熱性が求められる箇所に利用されます。
2. 建築・建材分野
- 鋼製建具・家具の組立: スチール製のドア、窓枠、オフィス家具などの組立接着に用いられます。溶接跡が見えず、美しい仕上がりを実現できます。
- 金属外装パネルの固定・補強: 建築物の外壁パネルの固定や、たわみ防止材の接着、劣化(腐食など)した鋼材への当て板接着などに使用されます。
- 立体駐車場の組立て: 鋼材を多用する立体駐車場の構造部分の接合にも使われることがあります。
- 床下地接着工事: フローリングやビニル床タイルなどの床材を鋼製の下地に接着する際に用いられます。
3. 電子機器・精密機械
- 筐体の組立て: 鋼板製の筐体やフレームの組立に利用されます。特に、熱に弱い電子部品を扱う場合や、振動吸収性が求められる場合に有効です。
- 配電盤・制御盤内部の部材固定: 内部の金属部材をしっかりと固定するために使われます。
- 熱対策: 発熱する部品とヒートシンク(放熱器)を鋼材の筐体に接着する際に、高い熱伝導性と耐熱性を持つ粘着剤が使われることがあります。
4. その他一般産業
- 各種金属製品の組立: ゴルフクラブ、看板、照明器具など、様々な金属製品の組立に利用されます。
- 溶接・ビスの代替: 溶接やビス打ちが難しい、あるいは美観を損ねる場合に、強力な接着力を持つ硬化粘着剤が採用されます。これにより、作業効率の向上やコスト削減にも繋がります。
- 異種材料の接合: 鋼材とプラスチック、ガラス、セラミックスなど、異なる素材を接合する際に、それぞれの素材の特性に対応した硬化粘着剤が使われます。
- 仮止め: 硬化前は一時的な固定力、硬化後は高い接着力を持つタイプもあり、組立工程での仮止めと本固定を両立できる場合があります。
鋼材用硬化粘着剤の利点
- 高い接着強度: 溶接に匹敵する、あるいはそれを超える強度を実現する製品もあります。
- 応力分散: 接着面全体で応力を分散するため、局部的な応力集中を避け、疲労破壊に強い構造が実現できます。
- 軽量化: 溶接に必要な重ね代や補強材が不要になるため、軽量化に貢献します。
- 防錆・防食性: 接着により密閉されるため、接合部の腐食を抑制できます。
- 製造工程の簡略化・自動化: 溶接やリベット打ちに比べて、工程が簡素化され、自動化しやすい場合があります。
- 美観の向上: 溶接跡やビスの頭が見えないため、製品のデザイン性を高めることができます。
- 騒音・振動の低減: 接着層が振動吸収材の役割を果たすことで、騒音や振動を抑制する効果も期待できます。
- 異種材料の接合: 鋼材と樹脂やCFRPなどの接合は溶接では不可能ですが、接着剤であれば容易に行えます。
トーヨーケムの「耐熱100℃超で無溶剤化」という新製品は、これらの利点をさらに高め、特に熱がこもりやすい鋼材の接合や、環境負荷低減が求められる用途において、その活用範囲を広げることが期待されます。

鋼材への硬化粘着剤利用は、自動車や建築で溶接・リベットの代替・補助にされます。 高い接着強度と応力分散性で、軽量化や防錆、製造効率向上、異種材料接合に貢献します。耐熱性・無溶剤化により、より厳しい環境下での利用も広がっています。
耐熱100℃で無溶剤化の意味は何か
「耐熱100℃超で無溶剤化」という表現は、トーヨーケムが開発した新しい硬化粘着剤の特に重要な2つの特性を指しています。
耐熱100℃超
これは、この粘着剤が硬化後に100℃を超える高温環境下でも、その粘着性や接着強度を安定して維持できることを意味します。
一般的な粘着剤の中には、高温にさらされると粘着力が低下したり、材料が軟化して剥がれてしまったりするものがあります。しかし、この「耐熱100℃超」という性能は、以下のような点で大きなメリットをもたらします。
- 高温環境での使用が可能:
- 自動車部品: エンジンルーム周辺や車内の高温になる部分など、耐熱性が求められる箇所での使用に適しています。
- 電子機器: 発熱する電子部品の固定や、高温での動作が想定される産業機器など。
- 建材: 夏場の直射日光などで高温になる外装パネルや、暖房器具の周辺など。
- 製造工程: 部品の焼付け塗装や乾燥工程など、一時的に高温になる製造プロセスにも対応できます。
- 長期的な信頼性: 粘着剤が熱によって劣化しにくいため、製品の寿命を通じて安定した接着性能を期待できます。これにより、製品の信頼性や安全性の向上に繋がります。
無溶剤化
これは、この粘着剤が製造・塗布・硬化の過程で、環境や人体に有害な有機溶剤を使用していないことを意味します。
従来の粘着剤の中には、粘度調整や塗布性の向上のためにトルエンやキシレンなどの有機溶剤を使用しているものがありました。しかし、これらの溶剤は以下のような問題を引き起こす可能性があります。
- 環境への負荷: 大気中に揮発し、VOC(揮発性有機化合物)として環境汚染の原因となる可能性があります。
- 作業環境の悪化: 作業者の健康に悪影響を与える可能性があり、換気設備の設置や防護具の着用など、厳重な安全対策が必要となります。
- 火災・爆発のリスク: 有機溶剤は引火性を持つものが多く、保管や使用において火災・爆発のリスクが伴います。
- 乾燥工程の必要性: 溶剤が蒸発するまでの乾燥工程が必要となり、生産ラインのスペースや時間、エネルギーコストが増加します。
「無溶剤化」を実現することで、これらの問題を解決し、以下のようなメリットが生まれます。
- 環境負荷の低減: VOC排出量を削減し、より環境に優しい製品となります。
- 作業環境の改善: 有機溶剤による健康リスクや臭気を低減し、作業者の安全性が向上します。
- 製造プロセスの効率化: 乾燥工程が不要になるか短縮されるため、生産性が向上し、省エネルギー化にも貢献します。
- コスト削減: 溶剤の購入費用、乾燥設備の維持費用、VOC対策費用などが削減できます。

トーヨーケムが開発したこの硬化粘着剤は粘着剤が硬化後、100℃を超える高温でも接着性能を保ち、かつ製造や使用時に有害な有機溶剤を含まないことを意味します。これにより、環境負荷と作業リスクを低減しつつ、幅広い高温用途での利用を可能にします。
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