この記事で分かること
- 実証都市を作る理由:未来技術を現実の都市で検証するため、実証都市を建設します。これにより、実社会での課題を発見し解決策を開発し、「モビリティ・カンパニー」への変革と持続可能な社会の実現を目指します。
- 行われる実証実験:自動運転EV「e-Palette」による住民の移動や物流の自動化、AIを活用した街の最適化など、未来の技術を実生活で検証します。多種多様な企業が参加し、様々なサービスを実験する「共創の場」として、持続可能な社会の実現を目指します。
トヨタの実証都市ウーブン・シティ
トヨタは、静岡県裾野市に建設している実証都市「ウーブン・シティ」において、自動運転の実装を進めています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-09-25/T2RR1UGOYMU100
ウーブン・シティは、自動運転技術やロボット、AIなど、未来のテクノロジーを実生活の中でテストし、社会実装していくための実験場として位置づけられています。
なぜ、実証都市を建設するのか
トヨタが実証都市「ウーブン・シティ」を建設する目的は、主に以下の3点に集約されます。
1. 「モビリティ・カンパニー」への変革と実証
トヨタは、これまでの自動車メーカーから、あらゆる人の移動を支援する「モビリティ・カンパニー」への変革を掲げています。ウーブン・シティは、この変革を加速させるための「生きた実験場」です。
- 実生活での技術検証: 自動運転車やロボット、AIといった最先端の技術は、閉鎖されたテストコースでは検証しきれません。人々が実際に生活し、働き、交流する現実の都市環境で技術を試すことで、より多くの社会課題やニーズを発見し、解決策を開発することを目指しています。
- 新たなビジネスモデルの創出: 自動運転だけでなく、物流、エネルギー、医療、教育など、人々の生活全体にモビリティを拡張したサービスを検証することで、これまでにないビジネスモデルを生み出すことを目指しています。
2. 多様な企業・人々との「共創」の場
ウーブン・シティは、トヨタ単独のプロジェクトではありません。世界中の様々な企業、研究者、住民が参加し、アイデアを持ち寄って共に未来を創る「共創の場」として設計されています。
- 異業種との連携: 自動車産業の枠を超え、IT、住宅、食品、エネルギーなど、様々な分野の企業やスタートアップが参加することで、より革新的なソリューションを創出します。
- 「掛け算による発明」: この共創を通じて、一人や一社では成し得ない「掛け算による発明」が生まれることを期待しています。
3. 社会課題の解決と持続可能な社会の実現
ウーブン・シティは、単なる技術検証の場ではなく、地球規模の社会課題の解決を目指しています。
- 環境負荷の低減: 水素エネルギーの活用、再生可能エネルギーの導入、環境に配慮した街づくりを通じて、持続可能な都市モデルを構築することを目指しています。
- 高齢化社会への対応: 高齢者や体の不自由な人々の移動を支援するモビリティやサービスを開発し、誰もが自由に移動できる社会の実現を目指しています。
ウーブン・シティは、トヨタが目指す未来の社会を「絵に描いた餅」で終わらせず、現実の世界で実際に形にし、検証し、改善していくための壮大なプロジェクトと言えるでしょう。

トヨタは、自動運転やAI、ロボットなどの未来技術を現実の都市で検証するため、実証都市を建設します。これにより、実社会での課題を発見し解決策を開発することで、「モビリティ・カンパニー」への変革と持続可能な社会の実現を目指します。
どんな実証実験を行うのか
トヨタの「ウーブン・シティ」では、自動運転技術をはじめとする様々な未来のテクノロジーを実生活の中でテストするための多岐にわたる実証実験が行われています。
1. 自動運転・モビリティに関する実証実験
- e-Paletteの活用: 自動運転レベル4を目指すバッテリーEV「e-Palette」は、ウーブン・シティ内の専用道で運行されます。住民の移動手段としてだけでなく、移動型の店舗やサービス提供のプラットフォームとしての活用も検証されます。
- パーソナルモビリティの導入: 電動小型三輪モビリティによるシェアサービスが実証されます。歩行者との共存を想定した専用道路も整備されます。
- 物流の自動化: 地下空間を活用した自動運転ロボットによる荷物の宅配や、ゴミの自動収集システムの実証が行われます。これにより、地上を走る車の量を減らし、歩行者が安全に過ごせる空間を確保することを目指します。
- 交通インフラの最適化: 人や車の流れをセンサーなどで感知し、それに合わせて信号の切り替え時間を自動で調整するシステムが導入されます。モビリティとインフラが連携することで、交通安全の向上を目指します。
2. 人と街が連携するシステムの検証
- デジタルツイン: 仮想空間にウーブン・シティを再現する「デジタルツイン」を構築し、自動運転のシミュレーションなどを効率的に行います。
- スマートポール: 街路灯や信号柱としての機能に加えて、センサーやカメラを搭載した「スマートポール」が設置され、街全体のデータを収集・分析します。
- 顔認証システム: 子どもや車いす利用者でもスムーズに利用できるように工夫された顔認証システムが、施設のゲートなどに設置され、実証が行われます。
3. 多様な企業との連携による新たなサービス実証
ウーブン・シティは、トヨタグループだけでなく、ダイキンやダイドードリンコ、日清食品といった多様なパートナー企業が参加する「共創の場」として位置づけられています。
- 新たな自動販売機: 周囲の雰囲気に合わせてディスプレイが変化する自動販売機が設置され、新たな価値創造に向けた実証が行われます。
- 食文化の検証: 新しい食環境の構築や、それが人々の暮らしに与える影響の検証も計画されています。
- 水素エネルギー: ENEOSとの共同開発により、CO2フリー水素の製造・利用に関する実証も進められます。
これらの実証実験は、人々が実際に生活する環境で行われることが大きな特徴です。技術的な検証だけでなく、住民のフィードバックも取り入れながら、未来の都市やサービスのあるべき姿を探っていくことを目指しています。

ウーブン・シティでは、自動運転EV「e-Palette」による住民の移動や物流の自動化、AIを活用した街の最適化など、未来の技術を実生活で検証します。多種多様な企業が参加し、センサーや顔認証システム、新たな自動販売機など、様々なサービスを実験する「共創の場」として、持続可能な社会の実現を目指します。
自動運転レベル4とは何か
自動運転レベル4とは、特定の走行環境条件(ODD: Operational Design Domain)を満たす限定された領域において、システムが全ての運転操作を自動で行う状態を指します。
レベル3との違い
レ ベル3(条件付き自動運転)では、システムが運転操作を行いますが、緊急時やシステムからの要求があった際には、ドライバーが運転を引き継ぐ必要があります。
これに対し、レベル4では、システムが運転継続困難な状況に陥った場合でも、ドライバーの介入を必要とせず、システム自身が安全な場所に停止するといった対応を行います。これにより、ドライバーは運転から完全に解放され、車内で別の活動に集中することができます。
実用化の現状
現在、日本の公道でレベル4の自動運転サービスが始まっています。例えば、福井県永平寺町では、限られたルート内での自動運転移動サービスが国内で初めて許可されました。
また、トヨタのウーブン・シティのような実証都市は、このような限定された領域での自動運転技術を実用化・拡大するための「テストベッド」として機能しています。
レベル5との違い
レベル5は、いかなる場所や条件(天候、道路状況など)でも、システムが常に全ての運転操作を自動で行う「完全自動運転」です。レベル4が「限定領域での完全自動運転」であるのに対し、レベル5はODDが存在しない、究極の自動運転と言えます。

特定の条件下(限定された区域や天候など)において、システムが全ての運転操作を自動で行うことです。緊急時にもドライバーの介入は不要で、システムが安全に停止するなどの対応をします。
自動運転レベル4実現の問題点は
自動運転レベル4の実現には、技術的課題、法的・倫理的課題、社会的課題など、多岐にわたる問題点があります。
技術的課題
自動運転は、センサーやAIを用いて周囲の状況を認識・判断しますが、複雑な状況への対応が依然として課題です。
- 不測の事態への対応: 予期せぬ事故や自然災害、工事現場、緊急車両の通過など、AIが学習していないようなイレギュラーな状況への対応は非常に困難です。
- センサーの限界: カメラやLiDARなどのセンサーは、悪天候(豪雨、濃霧、降雪)や夜間など、視界が悪い状況で性能が低下することがあります。
- 通信の安定性: V2X(車車間・路車間通信)技術の活用が前提となるため、通信の途絶や遅延が発生した場合の安全確保が重要です。
法的・倫理的課題
レベル4では運転者が存在しないため、事故発生時の責任の所在を明確にする必要があります。
- 事故の責任問題: 事故が起きた際、責任は誰にあるのかが大きな問題です。製造者、システム開発者、サービス提供者など、複数の関係者の間で責任をどのように分担するかを明確にする必要があります。
- トロッコ問題: 自動運転車が避けられない事故に直面したとき、AIがどのような倫理的判断を下すべきかというトロッコ問題は、未解決の倫理的課題です。例えば、乗員と歩行者のどちらの命を優先すべきか、といった難しい問いが議論されています。
社会的課題
- 社会インフラの整備: 自動運転車が安全に走行するためには、高精度なデジタル地図や通信インフラの整備が不可欠です。また、歩行者や他の車との協調を促すための交通インフラの整備も必要となります。
- 社会受容性の向上: 自動運転車に対する人々の不安や不信感を払拭し、社会全体で受け入れられるようにするためには、安全性の証明と透明性の確保が不可欠です。
- 雇用への影響: ドライバーなど、自動車に関連する職業の雇用が失われる可能性があり、新たな労働市場や社会システムの構築が必要となります。

自動運転レベル4の実現には、AIが対応できない不測の事態や悪天候時のセンサーの限界といった技術的課題があります。また、事故発生時の責任の所在や、人々の受け入れ体制の整備といった法的・社会的課題も大きな問題です。
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