ニコンのウエハー接合技術のSCREENへの譲渡 ウエハー接合技術とは何か?ニコンの技術の特徴は何か?

この記事で分かること

  • ウエハー接合技術とは:半導体やMEMS製造で、2枚以上のウエハーを超高精度に一体化させる技術です。チップの3D積層やアドバンスドパッケージングに不可欠で、高性能化・小型化に貢献します。
  • ニコンの技術の特徴:露光装置で培ったナノメートル級の精密な機構設計・制御ノウハウがによる超高精度な位置合わせ(アライメント)と接合を可能とする点です。
  • 譲渡を行う理由:経営資源を中核事業へ集中させるため、ウエハー接合の研究開発事業を譲渡しました。SCREENとの協業で技術の実用化を加速し、半導体市場への貢献を最適化する狙いです。

ニコンのウエハー接合技術のSCREENへの譲渡

 SCREENホールディングスは、株式会社ニコンが保有していたウエハー接合技術に関する研究開発事業を譲り受けたことが報道されています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP698917_R31C25A0000000/

 SCREENとニコンは、今後も協業体制を強化しながら、譲受した技術のさらなる深化と、早期の半導体製造への実装を目指す方針です。

ウエハー接合技術とは何か

 ウエハー接合技術(Wafer Bonding Technology)とは、半導体やMEMS(微小電気機械システム)などの製造プロセスにおいて、2枚以上のウエハー(基板)を一体化させる技術のことです。

 半導体の高性能化、小型化、多機能化を実現するための重要な基盤技術であり、特に近年注目されている3D積層技術先端(アドバンスド)パッケージングに不可欠な技術となっています。


1. 目的

 主に以下の目的でウエハーが接合されます。

  • 3D積層(3D-IC): 複数の半導体チップを垂直に積み重ねることで、配線距離を短縮し、処理能力の向上と小型化を実現します。
  • MEMSデバイスの製造: センサーやアクチュエーターなどの可動部を保護するための気密封止(パッケージング)や、異なる機能を持つ回路の集積に使われます。
  • SOI(Silicon On Insulator)基板の製造: シリコン層とシリコン酸化膜層を接合し、高性能なトランジスタを形成するための基板を作ります。
  • ヘテロジニアス・インテグレーション(異種材料の集積): シリコンと化合物半導体などの異なる材料のウエハーを接合し、複合的な機能を持つデバイスを作ります。

2. 接合の方式

 接合は、中間層の有無によって大きく2種類に分けられます。

直接接合(Direct Bonding / Fusion Bonding)

 中間層(接着剤など)を介さずに、ウエハー表面の原子同士を化学的・物理的に結合させる方式です。

  • フュージョンボンディング: ウエハー表面を親水性にして密着させ、その後の熱処理で水分子を除去し、強固な共有結合を形成します。
  • 常温接合(表面活性化接合): 高真空下でウエハー表面の自然酸化膜などを除去し活性化させた後、常温で密着させることで、加熱なしに強固な接合を実現します。

中間層接合(Non-Direct Bonding)

金属や絶縁体などの層を間に挟んで接合する方式です。

  • ハイブリッドボンディング: 金属(主にCu:銅)の配線と誘電体(SiO₂:二酸化ケイ素など)の絶縁層を同時に接合する技術で、3D積層の主要技術として特に注目されています。
  • 陽極接合(Anodic Bonding): ガラスとシリコンを重ねて加熱し、高電圧を印加することで静電引力により接合します。
  • 共晶接合(Eutectic Bonding): 2種類以上の金属が混ざることで個々の融点よりも低い温度で溶融する共晶反応を利用して接合します。

技術の重要性

 半導体における微細化の物理的限界が近づく中で、ウエハー接合技術はチップを立体的に積み重ねる「積層(スタッキング)」の鍵となり、ムーアの法則の延命を担う技術としてその重要性を増しています。特に高密度な接続を可能にするハイブリッドボンディングは、AIや高性能計算(HPC)向け半導体の進化を支える上で欠かせません。

ウエハー接合技術は、半導体やMEMS製造で、2枚以上のウエハーを超高精度に一体化させる技術です。チップの3D積層アドバンスドパッケージングに不可欠で、高性能化・小型化に貢献します。

ニコンのウエハー接合技術の特徴は何か

 ニコンが長年培ってきたウエハー接合技術の最大の特徴は、超高精度な接合を可能にする技術とノウハウです。

 ニコンは、半導体製造の核となる露光装置などで、極めて微細な回路パターンを高い精度で形成する技術を保有しており、この精密技術がウエハー接合分野にも活かされていました。


ニコンの接合技術の主な特徴

 ニコンのウエハー接合技術は、特に以下の点で強みがあるとされています。

  • 超高精度な位置合わせ技術:
    • 複数のウエハーを重ねる際、nm(ナノメートル)レベルの微細なずれも許されない超高精度な位置合わせ(アライメント)を実現する技術に優れていました。
    • この精度は、3D積層先端(アドバンスド)パッケージングにおいて、チップ間の電気的な接続の信頼性を確保する上で非常に重要となります。
  • 精密な機構設計と制御技術:
    • 長年の精密機械開発で培われた振動・熱変動を最小限に抑える機構設計と、ウエハーを正確に保持・搬送・接合するための高度な制御ノウハウを持っています。

SCREENへの技術譲渡の意義

 SCREENホールディングスがニコンからこの技術を譲り受けたのは、まさにこの「超高精度」な部分を、自社が持つ「低温接合」技術と融合させるためです。

 これにより、低温かつ超高精度という、先端半導体デバイスに求められる世界最高水準の接合技術を確立し、アドバンスドパッケージング市場での競争力を高めることを目指しています。

ニコンの技術の特徴は、超高精度な位置合わせ(アライメント)と接合を可能とする点です。露光装置で培ったナノメートル級の精密な機構設計・制御ノウハウが、先端パッケージングの信頼性を高めます。

譲渡する理由は何か

 ニコンがウエハー接合技術の研究開発事業をSCREENホールディングスに譲渡した主な理由は、以下に示すように経営資源の選択と集中、および技術の早期実用化の最適化を図るためです。


1. 経営資源の集中と最適化

 ニコンは、事業構造改革の一環として、成長が見込める中核事業に経営資源を集中させる戦略を進めています。

  • 半導体露光装置事業(特に液浸・EUV)など、ニコンが競争優位性を持つ事業にリソースを集中投下するため、ウエハー接合技術の研究開発事業を譲渡するという戦略的な判断が行われました。

2. 技術の実装と事業化の加速

 ニコンは、ウエハー接合技術の実用化と市場展開を加速させるためには、半導体製造装置市場で強力なプレゼンスを持つSCREENホールディングスに事業を委ねることが最善の策だと判断しました。

  • シナジー効果の追求: SCREENはウエハープロセス装置(洗浄、塗布、乾燥など)で高いシェアを持ち、アドバンスドパッケージングを新規事業領域として注力しています。ニコンの超高精度接合技術とSCREENの低温接合技術を組み合わせることで、技術の深化と市場への早期実装が可能になると見込まれました。

3. 今後の協業体制の強化

 ニコンは、この技術を完全に手放すのではなく、譲渡後もSCREENとの協業体制を強化し、技術の発展と実際の半導体製造プロセスへの導入を引き続き支援していく方針を示しています。

ニコンは、経営資源を中核事業へ集中させるため、ウエハー接合の研究開発事業を譲渡しました。SCREENとの協業で技術の実用化を加速し、半導体市場への貢献を最適化する狙いです。

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