ユニチカの繊維事業譲渡 譲渡の背景は?ユニチカは他にどんな事業があるのか?

この記事で分かること

  • 譲渡の背景:国際競争の激化による低価格化、原料費高騰、国内市場縮小や労働力不足などで繊維業は厳しい局面になっています。
  • 繊維業界の今後:高機能素材や産業資材など、差別化できる高付加価値分野に特化したり、海外市場への積極的な展開、サステナビリティへの対応などが日本の繊維産業の生き残りに必要と考えられます。
  • ユニチカの繊維以外の事業:高分子事業と機能資材事業という、より高付加価値で将来性のある分野の事業があり、それらに力を入れています。

ユニチカの繊維事業譲渡

 ユニチカは、祖業である繊維事業から撤退し、事業譲渡を進める方針を固めています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF209TE0Q5A520C2000000/

 これは、長年の繊維事業における営業赤字と、原材料高騰や海外市場での価格競争激化など、厳しい事業環境が背景にあります。

なぜ撤退するのか

 ユニチカは、祖業である繊維事業から撤退し、事業譲渡を進める方針を固めています。これは、長年の繊維事業における営業赤字と、原材料高騰や海外市場での価格競争激化など、厳しい事業環境が背景にあります。

譲渡の背景と理由

  • 慢性的な赤字: 繊維事業は長らく赤字が続き、抜本的な収益改善が困難と判断されました。
  • 事業環境の悪化: 原材料価格の高騰、燃料費の上昇、国内外での競争激化、特に東南アジアを中心とした海外市場での価格競争激化、需要の減少などが収益悪化に拍車をかけました。
  • 経営資源の集中: 繊維事業から撤退することで、高収益事業である高分子事業や機能資材事業など、将来性のある分野に経営資源を集中させる狙いがあります。

繊維事業はなぜ厳しいのか

 ユニチカをはじめとする日本の繊維事業が厳しい状況に置かれている主な要因は多岐にわたります。以下にその主要な点を挙げます。

1. 国際競争の激化と低価格製品の流入

  • 新興国の台頭: 中国や東南アジア(ベトナム、バングラデシュなど)といった新興国が、安価な労働力と大規模な生産設備を背景に、低価格な繊維製品を大量に供給しています。これにより、日本国内で生産される製品は価格競争で不利な状況に置かれています。
  • 輸入依存度の高さ: 日本のアパレル市場は、衣料品の98%以上が海外で生産された製品で占められているとも言われ、国内生産は大幅に減少しています。これにより、国内の繊維メーカーは生産量の確保が困難になっています。

2. 原材料価格・燃料費の高騰

  • 世界的な資源価格の上昇: 原油高や綿花などの天然繊維の価格変動は、化学繊維の原料や染色・加工に必要なエネルギーコストに直結します。これらの高騰は、製品の製造コストを押し上げ、収益を圧迫します。
  • 物流コストの増加: 国際的な物流費の上昇も、原材料の輸入や製品の輸出入に影響を与え、コスト増の要因となります。

3. 国内市場の縮小と消費者ニーズの変化

  • 人口減少と高齢化: 日本の人口減少と高齢化は、国内のアパレル市場全体の縮小に直結しています。
  • ファストファッションの台頭: 低価格で流行を取り入れたファストファッションが普及したことで、消費者はより安価な商品を求める傾向が強まりました。これにより、品質重視の国内製品は価格面で苦戦を強いられています。
  • 消費者ニーズの多様化と二極化: 安価なものを頻繁に購入する層と、長く着用できる高品質なものを求める層に二極化が進んでいます。これにより、中価格帯の製品が売れにくくなる傾向が見られます。
  • ファッションサイクルの見直し: SDGsへの関心の高まりなどから、大量生産・大量廃棄の見直しが進み、在庫を抱えるリスクが高まっています。

4. 労働力不足と後継者問題

  • 職人の高齢化: 長年の経験と技術を持つ熟練の職人の高齢化が進み、後継者不足が深刻化しています。これにより、技術継承が困難になり、高品質な製品を安定して生産することが難しくなっています。
  • 若手人材の確保難: 繊維産業は「斜陽産業」というイメージが根強く、若年層の入職者が減少しています。
  • 労働賃金の上昇: 日本国内での人件費の上昇は、生産コストを押し上げ、海外生産との価格差をさらに広げる要因となります。

5. サプライチェーンの複雑化と分業体制

  • 海外シフト: 日本の繊維産業は、原糸製造、生地製造、染色加工、縫製といった各段階が分業化されています。しかし、縫製などの最終工程が海外にシフトしたことで、国内の素材メーカーとの結びつきが希薄化し、サプライチェーン全体での競争力維持が困難になっています。

国際競争の激化による低価格化、原料費高騰、国内市場縮小や労働力不足などで繊維業は厳しい状況に立たされています。今後は、高機能素材や産業資材など、差別化できる高付加価値分野に特化したり、海外市場への積極的な展開、サステナビリティへの対応などが日本の繊維産業の生き残りに必要と考えられます。

ユニチカは繊維以外のどんな事業があるのか

 ユニチカは祖業である繊維事業から撤退する一方で、以前から高収益事業として注力してきた以下の事業を今後も展開していきます。

1. 高分子事業 (Polymers)

ユニチカの現在の主力事業であり、収益の柱となっています。

  • フィルム:
    • ナイロンフィルム「エンブレム」: 食品包装材として国内トップクラスのシェアを誇り、世界でもトップクラスの品質・シェアを誇ります。バリア性の高い複合フィルムや蒸着フィルムなど、高機能な製品を展開しています。
    • ポリエステルフィルム (PETフィルム): 産業用フィルムとして幅広い用途で使用されています。
    • その他: 離型フィルム、高耐熱ポリアミドフィルムなど、特殊な機能を持つフィルムも手掛けています。
  • 樹脂:
    • ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂: 自動車部品、電気・電子部品、産業資材など、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)として幅広い分野で使用されています。特に、世界で唯一エンプラ用途に展開しているポリアリレートの重合技術はユニチカの強みです。
    • 生分解性ポリマー「テラマック」: 植物由来のポリ乳酸をベースとしたバイオマスプラスチックで、環境負荷低減に貢献する素材として注目されています。農業用資材、土木資材、不織布、繊維など、様々な用途に展開されています。

2. 機能資材事業 (Performance Materials)

 独自の技術を活かした、付加価値の高い製品群を展開しています。

  • 不織布:
    • スパンボンド不織布「エルベス」: 独自の芯鞘複合長繊維不織布で、衛生材料、医療材料、産業資材などに幅広く利用されています。
    • スパンレース不織布「コットエース」: 綿100%の製品で、衛生・医療分野などで使用されています。
    • その他: 農業用シート、土木工事用シートなど、特殊な機能を持つ不織布も展開しています。
  • 活性炭繊維 (ACF): 独自の溶融紡糸技術で製造され、高い吸着性能と加工性を持ち、各種フィルター製品(浄水器、空気清浄機、自動車用など)に幅広く活用されています。
  • ガラス繊維: ガラスクロス、ガラスビーズなどを製造しており、建築材料(不燃透明シート「ユークリアーシート」など)、照明カバー、路面標示塗料、フィラーなど、多様な用途に貢献しています。
  • 産業繊維(一部): 繊維事業からの撤退は広範囲に及びますが、一部の高機能な産業繊維(例えば中空糸など)については継続する可能性があります。
  • 高機能多孔板: 特定の用途向けに開発された高機能な多孔性材料も手掛けています。

ユニチカは祖業の繊維事業を整理し、高分子事業と機能資材事業という、より高付加価値で将来性のある分野に経営資源を集中させることで、企業としての再生と成長を目指しています。

ナイロンフィルムとは何か

 ナイロンフィルムは、ジアミンとジカルボン酸を縮合重合して得られるナイロンを原料にして作られたフィルムの総称です。特にナイロン6とナイロン66が一般的によく使われています。

主な特徴

ナイロンフィルムは、その優れた特性から様々な分野で広く利用されています。

  • 高い耐久性と耐引裂強度: 非常に強靭な素材であり、破れにくく、長期間の保存に適しています。
  • 優れた防湿性(ガスバリア性): 湿気や酸素の侵入を防ぐ特性があり、食品や医薬品の鮮度保持に役立ちます。特に酸素透過度が低いため、食品の酸化防止に効果的です。
  • 透明性と光沢: 透明度が高く、美しい光沢を持つため、商品の魅力を引き立てるパッケージングにも適しています。
  • 耐熱性と耐油性: 高温下でも形状を維持でき(融点は約230℃)、油脂に強いため、揚げ物や調理済み食品のパッケージにも最適です。レトルト食品やボイル食品の包装にも使用されます。
  • 耐薬品性: 酸やアルカリなど、多くの薬品に対して安定しています。
  • 耐ピンホール性: 穴が開きにくい特性があります。
  • 印刷適性: 様々な印刷方法に対応し、デザイン性の高い製品を製造できます。

用途

上記の優れた特徴から、ナイロンフィルムは主に以下のような用途で利用されています。

  • 食品パッケージ: 真空パック、冷凍食品、レトルト食品、肉製品、チーズ、漬物などの包装に広く用いられます。特に、酸素や湿気の侵入を防ぎたい食品に適しています。
  • 医薬品包装: 敏感な医薬品や化粧品の包装材として、製品の劣化を防ぐために使用されます。
  • 工業用: 電子部品の保護や化学薬品容器などに利用されます。
  • 印刷: 耐久性が求められる屋外用のポスターやバナー、ラベル、カードなどにも使用されます。

製造方法

ナイロンフィルムは、溶融押出し法により製膜されます。大きく分けて、無延伸フィルムと延伸フィルム(二軸延伸)があります。

  • 無延伸フィルム: 引張強度・引裂き強度が強く、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、耐油性、ガスバリア性などが優れています。食肉などの包装に使われます。
  • 延伸フィルム(二軸延伸): 透明性、光沢、機械的強度、耐熱性、ガスバリア性などがさらに向上します。レトルト食品や機械部品包装に広く使用されています。

 ナイロンフィルム単体ではヒートシール(熱で袋を閉じること)が難しいため、多くの場合、ポリエチレン(PE)などの他の素材と組み合わせてラミネートフィルムとして使用されます。

 ナイロンの強度やバリア性と、ポリエチレンのヒートシール性・防湿性を組み合わせることで、それぞれの長所を活かした高機能な包装材が作られています。共押出し、ドライラミネート、押出ラミネートなどの製造方法があります。

ナイロンを原料にして作られたフィルムの総称で、高い耐久性と耐引裂強度、優れた防湿性、透明性などを持つことから、食品パッケージなどに利用されています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました