トランプ政権の医薬品課税 なぜ高い関税を課すのか?米EU間の貿易合意とは何か?

この記事で分かること

  • 医薬品に高い関税をかける理由:国内での生産を促し、雇用を増やすためです。また、外国への依存を減らし、安全保障上のリスクを排除する狙いもあります。
  • 米EU間の貿易合意とは:貿易摩擦回避のため、米国がEU製品(自動車等含む)への関税上限を15%と設定した枠組みです。
  • 今後の見通し:トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策により、合意は常に一方的に覆されるリスクを抱えます。EU側の合意履行状況次第で、関税が再引き上げされるなど、貿易関係の不確実性が高い状態が続く見通しです。

トランプ政権の医薬品課税

 アメリカのトランプ大統領が、医薬品に関税を最大100%(またはそれ以上)まで引き上げる可能性を示唆しています。

 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-09-25/T363XRGOYMTH00

 EUはアメリカとの貿易協定後の共同声明に基づき、医薬品、半導体、木材などの品目の関税は15%を超えないという取り決めを強調しています。

トランプ政権が医薬品の関税を上げたい理由は何か

 トランプ政権が医薬品の関税を引き上げたい主な理由は、以下の2点に集約されます。

  1. 医薬品の国内生産(国産化)の促進:
    • サプライチェーンの安全保障: トランプ大統領は、医薬品やその原材料(原薬)の多くを外国に依存している現状を、国の安全保障上の「弱点」と見なしています。特にパンデミックなどで海外からの供給が途絶した場合のリスクを懸念しており、国内生産基盤を強化したい考えです。
    • 雇用創出と産業活性化: 高関税を課すことで、外国の製薬企業にアメリカ国内での工場建設や生産拠点の移転を促し、アメリカ国内の製造業の雇用を増やすことを目指しています。実際、関税措置が発表される中で、複数のグローバル製薬企業がアメリカへの大型投資や生産能力増強を表明しています。
  2. 貿易不均衡の是正と薬価交渉の圧力:
    • 通商上の圧力: 関税は、トランプ政権の通商政策における主要な交渉手段の一つです。高関税をちらつかせることで、貿易相手国にアメリカ製品の市場開放や貿易不均衡の是正を促す狙いがあります。
    • 薬価問題: アメリカの新薬の価格は、他の先進国と比べて著しく高いことが問題視されています。トランプ政権は、関税を交渉材料に使うことで、諸外国に対して薬価を引き上げるよう圧力をかけ、同時にアメリカ国内の薬価引き下げ(例えば、他国で最も安い価格を参照する「最恵国待遇薬価」の導入)を目指す意図も示しています。これは、外国がアメリカの創薬イノベーションに「ただ乗り」しているという不満の裏返しでもあります。

 要するに、医薬品関税の引き上げは、国内の製造基盤を強化し、雇用を守るという経済ナショナリズムの側面と、貿易相手国への圧力と国内の薬価問題の解決という通商・医療政策的な側面の、両方の目的を持っていると言えます。

トランプ政権が医薬品の関税を上げたい理由は、国内での生産を促し、雇用を増やすためです。また、外国への依存を減らし、安全保障上のリスクを排除する狙いもあります。

米EU間の貿易合意とは何か

 米EU間の貿易合意(正式には「互恵的、公正かつ均衡の取れた貿易に関する合意の枠組み」などと呼ばれる)は、主に以下の点を骨子とする枠組み合意です。

これは、米トランプ政権とEUが、貿易摩擦の激化を避けるために合意したもので、全面的な自由貿易協定(FTA)ではなく、関税の引き下げ・上限設定特定の分野での協力に焦点を当てています。

主な内容:

  1. 関税の上限設定(米国からEU製品へ):
    • 大半のEU製品に対する米国の関税率を一律15%に設定します(相互関税や追加関税などを含めた上限)。
    • 特に自動車および自動車部品に対する関税率を、既存の税率から15%に引き下げます。
    • 航空機・部品ジェネリック医薬品などは、この15%の上限の例外とされ、従来の最恵国待遇(MFN)関税率が適用されます(実質的な非課税または低関税の維持)。
  2. EU側の譲歩(米国製品へ):
    • 全ての米国製工業製品に対するEU側の関税を撤廃する方針を示しました。
    • 米国産の農産品やシーフードに対して特恵的な市場アクセスを提供します。
  3. エネルギー・経済安全保障:
    • EUは米国からの液化天然ガス(LNG)や原子力エネルギー製品などの購入拡大を約束し、エネルギー安全保障面での連携を強化します。

 この合意は、特に自動車や医薬品といった重要産業に対する高率関税の適用を回避し、貿易の不確実性を低下させることを最大の目的としています。

米EU間の貿易合意は、貿易摩擦回避のため、米国がEU製品(自動車等含む)への関税上限を15%と設定した枠組みです。EUは米国製工業製品の関税撤廃やエネルギー購入拡大を約束し、経済安全保障での連携も図ります。

トランプ政権が貿易合意を覆すことはないのか

 トランプ政権が締結した、あるいは交渉中の貿易合意を将来的に覆す(破棄または条件を再交渉する)可能性は、常に存在します。

 これは、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」の通商政策の基本的な特徴であり、以下の理由に基づいています。

  1. 「ディールメーカー」としての交渉スタイル:
    • トランプ大統領は、既存の協定を一方的または高圧的に見直し、自国に有利な条件を引き出すことを得意とする「ディールメーカー(交渉人)」としての姿勢を一貫して示しています。彼にとって、合意は永続的なものではなく、いつでもより良い条件を求めて再交渉の材料になり得ます。
  2. 既存の協定の破棄実績:
    • 過去に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)をUSMCA(米・メキシコ・カナダ協定)へと作り替えた実績があります。これは、彼が既存の枠組みを破棄・変更することを躊躇しないことの証拠です。
  3. 「相互関税」の導入と「不満」による再引き上げの示唆:
    • 現在の貿易合意(日米や米EUなど)の多くは、トランプ大統領が導入した「相互関税」を、一定の条件(例:関税率を15%に抑える、EU側の関税撤廃など)と引き換えに一時的に優遇する形をとっています。
    • しかし、米国側は、相手国が合意内容を履行しなかった場合や、トランプ大統領が「不満」を感じた場合には、関税率を元の高い水準(25%など)に戻す可能性を公に示唆しています。
  4. 国内法の活用:
    • トランプ大統領は、WTO(世界貿易機関)のルールよりも、自国の法律(特に「通商拡大法232条」など)を優先して一方的な関税措置を発動する傾向があり、国際的な枠組みがその行動を完全に阻止することは難しいと見られています。

 したがって、米EU間の貿易合意を含むトランプ政権下の合意は、常にトランプ大統領の判断や国内政治の状況によって見直しや破棄の危機にさらされる「薄氷の合意」であると国際的に認識されています。

トランプ大統領は「ディールメーカー」として、過去に協定を破棄・再交渉した実績があるため、米EU合意なども常に一方的に覆されるリスクがあります。不満があれば高関税に戻す可能性を示唆しています。

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