この記事で分かること
- X線回折法の種類:粉末状の試料を平均的に調べる粉末XRD、1粒の結晶から原子配置を精密に決める単結晶XRD、表面の層だけを狙う薄膜XRDの3種があります。目的に応じて、汎用的な粉末用か、構造決定用の単結晶用かを選びます。
- 粉末X線回折とは:微細な結晶がランダムに並んだ粉末試料にX線を照射し、物質特有の回折パターンを得る装置です。単結晶を育てる手間がなく、粉末やバルク状のまま成分特定や結晶性の評価が素早く行えるため、最も広く普及しています。
- 粉末X線回折の欠点:ピークが重なりやすく複雑な構造の解析が難しいこと、数%以下の微量成分は見逃しやすいこと、そして試料の詰め方で結果が歪む「配向」の影響を受けやすいことです。未知の構造を一から決める精度では単結晶XRDに劣ります。
X線回折法の種類
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
X線回折法の種類
X線回折法(XRD:X-ray Diffraction)は、物質にX線を照射した際の「回折現象」を利用して、内部の原子配列や結晶構造を調べる手法です。
物質固有の回折パターンを照合することで、成分の特定や結晶の状態を非破壊で解析できます。
X線回折装置にはどんな種類があるのか
X線回折装置(XRD)は、測定したい試料の形や分析の目的に応じて、主に以下の3つのタイプに分けられます。
1. 粉末X線回折装置(PXRD)
最も一般的に普及しているタイプです。
- 特徴: 試料を細かく砕いた「粉末」を測定します。あらゆる方向を向いた小さな結晶が混ざっているため、一度の測定で物質全体の情報を平均的に得られます。
- 用途: 物質の同定(成分特定)、結晶化度の算出、混合物の定量分析など。
2. 単結晶X線回折装置(SCXRD)
0.1mm程度の「1粒の綺麗な結晶」を精密に調べる装置です。
- 特徴: 試料を回転させながら、全方向の回折スポットを測定します。粉末よりも圧倒的に情報量が多く、原子がどこに配置されているかを立体的に決定できます。
- 用途: 新物質の分子構造決定、タンパク質の構造解析など。
3. 薄膜X線回折装置
半導体やコーティング膜など、基板の上に乗った「非常に薄い層」を測るための専用装置です。
- 特徴: X線を表面スレスレに入射させる特殊な工夫(入射角固定法など)が施されており、基板の影響を抑えて表面の膜だけを解析できます。
- 用途: 半導体膜の厚み測定、膜の結晶の向き(配向性)の調査。

主に、粉末状の試料を平均的に調べる粉末XRD、1粒の結晶から原子配置を精密に決める単結晶XRD、表面の層だけを狙う薄膜XRDの3種があります。目的に応じて、汎用的な粉末用か、構造決定用の単結晶用かを選びます。
粉末X線回折装置とは何か
粉末X線回折装置(PXRD)とは、多結晶体(小さな結晶の粒が集まったもの)にX線を当て、その回折パターンを測定する最も一般的な装置です。
大きな1粒の結晶(単結晶)を用意しなくても、粉末や塊の状態のまま手軽に分析できるのが最大の特徴です。
1. なぜ「粉末」なのか?
結晶には向きがありますが、粉末にすると、数えきれないほどの小さな粒があらゆる方向を向いて混ざり合います。
- X線を当てると、統計的に「ブラッグの法則」を満たす向きにある結晶が必ず存在するため、一度にすべての結晶面からの情報を得ることができます。
- これにより、特定の方向だけでなく、物質全体の平均的な構造を「指紋(パターン)」として捉えられます。
2. 装置の仕組み(ディフラクトメータ)
主に以下の3つのユニットが連動して動きます。
- X線源: 特定の波長のX線を発生させ、試料に当てます。
- 試料台: 粉末を平らに詰めたホルダーを設置します。
- 検出器: 跳ね返ってきたX線の強さを測ります。
測定の動き:
試料に当たるX線の角度(θ)を変えながら、連動して検出器を動かし(2θ方向)、どの角度でどれだけ強い回折光が出たかをグラフ化します。
3. 主な用途
- 物質の同定: 未知の粉末が何であるか、データベースと照合して特定する。
- 混合比の調査: 数種類の物質が混ざっているとき、それぞれの割合(%)を算出する。
- 結晶のサイズの推定: ピークの「太さ」から、目に見えないほど小さな結晶粒の大きさを計算する。

微細な結晶がランダムに並んだ粉末試料にX線を照射し、物質特有の回折パターンを得る装置です。単結晶を育てる手間がなく、粉末やバルク状のまま成分特定や結晶性の評価が素早く行えるため、最も広く普及しています。
なぜ最も普及しているのか
粉末X線回折(PXRD)が最も普及している理由は、一言で言えば「準備が簡単で、かつ情報量が多い」というコストパフォーマンスの高さにあります。具体的には、以下の3つの利便性が大きな要因です。
1. 試料調製が圧倒的に楽
「単結晶X線回折」では、分析のために0.1mm程度の高品質で純粋な「単一の結晶」を育てる必要があります。これは数週間から数ヶ月かかることもあり、非常に困難な作業です。
一方、粉末XRDは材料を細かく砕くだけでよいため、金属、セラミックス、医薬品、ポリマーなど、あらゆる固体材料をすぐに測定できます。
2. 「平均的な姿」を即座に把握できる
単結晶分析はその1粒の情報しか得られませんが、粉末XRDは無数の粒の集合体を測定するため、「材料全体として何が含まれているか」という平均的な統計データが得られます。
これにより、不純物の混入や、製品の品質のバラつきをチェックする現場(工場や検品)で非常に役立ちます。
3. 多彩な情報の「一括取得」
1回の測定(通常10〜30分程度)で、以下の情報を同時に得ることができます。
- 同定: 「これは何か?」
- 定量: 「何%ずつ混ざっているか?」
- 結晶化度: 「どれくらい綺麗に並んでいるか?」
- 結晶サイズ: 「粒はどれくらい細かいか?」

試料を砕くだけで即測定できる手軽さと、物質の特定から混合比、結晶のサイズまで多彩な情報を一度に得られる汎用性があるからです。単結晶を育てる手間が不要で、製品の平均的な状態を非破壊で素早く評価できるため、産業界で必須となっています。
粉末XRDの欠点は何か
粉末X線回折(PXRD)は非常に便利な手法ですが、主に「情報の重なり」と「微量成分の検出限界」に由来するいくつかの欠点があります。
1. ピークの重なり(オーバーラップ)
最大の欠点は、3次元の結晶情報を1次元のグラフに凝縮するため、複数のピークが重なってしまうことです。
- 問題点: 複雑な構造の物質や、似た構造の物質が混ざっている場合、ピークが重なってしまい、正確な正体を判別したり、詳細な原子位置を特定したりするのが難しくなります。
2. 構造決定の難しさ
「この物質は何か」を当てるのは得意ですが、「未知の物質の構造を一から突き止める」のは苦手です。
- 単結晶XRDとの比較: 単結晶なら原子の位置を精密にプロットできますが、粉末では情報が不足しがちです。新しい化合物を発見した際、その正確な3Dモデルを作るには粉末データだけでは不十分なことが多いです。
3. 低い感度(微量成分の限界)
混合物の中に、ごく少量の不純物が含まれている場合、見逃してしまうことがあります。
- 限界: 一般的な装置では、含まれている割合が約1〜5%以下になると、ピークが背景ノイズに埋もれてしまい、存在に気づけないことがあります。
4. 配向(並び方の偏り)の影響
粉末は「ランダムな向き」であることが前提ですが、試料によっては特定の向きに並びやすい性質があります。
- 例: 板状や針状の結晶をホルダーに詰めると、魚の鱗のように決まった方向を向いてしまいます。これにより、特定のピークだけが異常に強く出てしまい、正しい分析結果を妨げることがあります。

主な欠点は、ピークが重なりやすく複雑な構造の解析が難しいこと、数%以下の微量成分は見逃しやすいこと、そして試料の詰め方で結果が歪む「配向」の影響を受けやすいことです。未知の構造を一から決める精度では単結晶XRDに劣ります。

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