この記事で分かること
- 承認された装置:主に既存工場の稼働を支える「メンテナンス・補修用」の装置や部品です。具体的には、旧世代(レガシー)のDRAMやNAND型フラッシュメモリを製造し続けるためのスペアパーツや、既存ラインの維持に不可欠な装置が中心となります。
- 承認した理由:世界的なメモリ供給網の崩壊とそれに伴うインフレを防ぐためです。両社の中国工場が止まればスマホやサーバーの生産が滞るため、稼働維持に必要な装置に限り、毎年リストを審査して管理を強化する「年次枠」の形で妥協を図りました。
アメリカ政府の半導体製造装置の出荷承認
米国政府が、韓国のサムスン電子とSKハイニックスの中国工場に対し、2026年分の半導体製造装置の出荷を承認したと報道されています。

これは、米中対立の中で韓国企業が直面していた大きな不確実性が、少なくとも1年分は解消されたことを意味しています。
どんな装置を輸出するのか
2026年分の承認において「具体的にどの装置か」という詳細なリストは、企業の営業秘密や米国の安全保障上の理由から公開されていません。
しかし、報道や業界の分析(Reuters、Seeking Alphaなど)から、輸出が許可される装置の「性質」や「範囲」については以下の3つのポイントが判明しています。
1. 「維持・補修」のための装置と部品
今回の承認の主な目的は、中国にある既存工場の「稼働継続(オペレーションの維持)」です。
- スペアパーツ(消耗品・交換部品): 露光装置、エッチング装置、成膜装置などのメンテナンスに必要な部品。
- 既存ラインの補完装置: 故障した装置の入れ替えや、生産ラインのボトルネックを解消するための追加装置。
2. 「レガシー(汎用)製品」向けの装置
米国は、AI(人工知能)などに使われる「最先端チップ」の製造は阻止したい一方で、家電や自動車に使われる「レガシーチップ」の供給網が壊れることは避けたがっています。
- サムスン(西安工場): NAND型フラッシュメモリ(データ保存用)の製造装置。
- SKハイニックス(無錫・大連工場): DRAM(一時記憶用)およびNANDの製造装置。これらは、数世代前の技術(レガシープロセス)に基づく製造ラインを維持するための装置が中心になると見られています。
3. 「最先端」は厳格に制限
逆に、以下のような「先端技術」に関わる装置の搬入は、今回の1年承認があっても引き続き厳しく制限、または禁止されている可能性が高いです。
- EUV露光装置: 7ナノ以下の最先端プロセスに不可欠な装置(オランダASML製ですが米国の意向が強く反映されます)。
- 最新世代の微細化装置: 1b(10nm台後半)クラス以降の最新DRAMや、200層を大きく超える超高積層NANDを製造するための最新鋭ツール。
- 生産能力の「拡張」目的: 単なる維持ではなく、生産量を大幅に増やすための新規ライン用装置。
今回の仕組みの変化
これまでは「VEU(検証済みエンドユーザー)」という資格により、品目を細かく申請しなくても自由に搬入できていました。しかし2026年からは、「あらかじめ1年間に必要な装置の種類と数量をリストアップして米国の事前承認を得る」という方式に変わりました。
つまり、「米国が認めたリストに載っている装置だけ」を輸出できるという、より厳しい管理下での運用になります。
「工場の火を消さないためのメンテナンス用装置や、旧世代チップの製造装置」は送れるようになりますが、「中国工場を最新鋭にアップデートするための装置」は許可されない、という「現状維持」のラインで引き直されたと言えます。

主に既存工場の稼働を支える「メンテナンス・補修用」の装置や部品です。具体的には、旧世代(レガシー)のDRAMやNAND型フラッシュメモリを製造し続けるためのスペアパーツや、既存ラインの維持に不可欠な装置が中心となります。
承認した理由は何か
米国がサムスン電子とSKハイニックスの中国工場向け装置出荷を承認した(2026年分)主な理由は、「世界的なサプライチェーンの混乱回避」と「実効性のある管理体制への移行」の2点に集約されます。
1. サプライチェーンの崩壊を防ぐ(インフレ・供給不足対策)
サムスンとSKハイニックスは、世界のメモリ半導体(DRAMやNAND)の大きなシェアを占めており、その多くを中国工場で生産しています。
- 供給ショックの回避: もし装置が完全に遮断され工場の稼働が止まれば、スマホやPC、サーバー、AIデータセンター向けのメモリが深刻な供給不足に陥ります。
- 価格高騰の抑制: 供給不足は価格の急騰を招き、米国を含む世界経済のインフレを悪化させるリスクがあるため、一定の配慮が必要と判断されました。
2. 「無期限」から「1年更新」による管理強化
これまでは「VEU(検証済みエンドユーザー)」という制度で、個別の許可なしに装置を送れる「例外的な優遇措置」が取られていました。
- 生殺与奪の権を握る: 米国は2025年末でこの優遇を打ち切る一方、今回の「2026年分」という期間限定の承認を与えました。
- 監視の厳格化: これにより、米国は毎年「どの装置を何台送るのか」というリストをチェックできるようになり、中国工場が先端化・拡張されないよう、より短いサイクルで監視する体制を整えたことになります。
3. 同盟国(韓国)との関係維持
米国にとって韓国は重要な同盟国であり、サムスンやSKハイニックスは米国内でも巨額の投資(テキサス州やインディアナ州など)を行っています。
- 企業の死活問題への配慮: 中国工場の完全停止は韓国経済に致命的な打撃を与えるため、同盟関係を維持しつつ、対中規制の足並みを揃えさせるための「妥協点」としての承認でもあります。
「中国工場の息の根を止めて世界経済を混乱させるのは困るが、自由にはさせない(毎年許可を取らせて監視する)」という、米国の「小規模な庭、高い柵(スモール・ヤード、ハイ・フェンス)」戦略の実践といえます。

米国が承認した理由は、世界的なメモリ供給網の崩壊とそれに伴うインフレを防ぐためです。両社の中国工場が止まればスマホやサーバーの生産が滞るため、稼働維持に必要な装置に限り、毎年リストを審査して管理を強化する「年次枠」の形で妥協を図りました。また、韓国との同盟関係を維持する政治的判断も背景にあります。
中国側の最先端装置なしでのどう対応するのか
最先端の半導体製造装置(特にEUV露光装置など)が使えない状況に対し、中国側は主に「既存技術の限界までの活用」と「技術の自国化」という2つの方向で対応しています。
具体的には以下のような策を講じています。
- マルチパターニング技術の活用: 最先端のEUV装置がなくても、一世代前のDUV(深紫外)露光装置を用いて、何度も回路を焼き付ける「マルチパターニング」という手法を駆使することで、7ナノクラスなどの微細なチップを製造しています。ただし、工程が増えるため歩留まり(良品率)の低下やコスト増が課題です。
- 回路設計とパッケージングでの補完: 製造プロセスの微細化だけに頼らず、複数のチップを組み合わせて一つの高性能チップに見せる「チプレット」技術や、高度なパッケージング技術によって、システム全体としての性能を底上げしようとしています。
- 装置・素材の国産化の加速: 露光装置、エッチング装置、成膜装置、さらにはレジストなどの化学素材に至るまで、中国国内メーカー(SMICや上海微電子など)への巨額投資を行い、米国や日本、オランダへの依存を減らす自給自足体制の構築を急いでいます。
このように、効率やコストを犠牲にしつつも、現在手元にある技術を最大限に引き出すことで、制裁下での先端製品の開発・維持を試みている状態です。

中国は、最先端のEUV露光装置が使えない中、旧世代のDUV装置で何度も回路を焼き付ける「マルチパターニング」技術を駆使して7ナノ等の先端品を製造しています。また、装置の50%以上を国産化する目標を掲げ、自国メーカーへの巨額支援や代替技術の開発、中古市場を通じた調達で制裁の回避と自給自足を図っています。

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